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支流からの眺め

共産主義(2):その欠陥と魔力

 共産主義が何を起こしたか。共産主義国では、まず例外なく、言論・表現・報道の自由が侵害され、暴力・拷問・殺害、強制収容・強制労働、民族的・宗教的迫害などが組織的かつ大規模に行われた(独裁制、全体主義、恐怖政治)。内戦、粛清、共産革命の強行などによる犠牲者は1億人を超えるとされている。今もその強硬な姿勢で周囲の国を恐怖させている。これが「人類を襲った共産主義の災厄」(6/26のBlog)である。これだけでも、共産主義に欠陥があることは明らかである。

 なぜそのような行為が正当化されたのか。共産主義の持つ独善性と暴力性に原因があろう。即ち、「労働者階級は絶対的に正しく、権力は暴力で掌握せよ」という強い主張である。これに基づき、ブルジョアを悪魔化して敵視し、反論する者を亡きものにするのである。理想の実現が困難な時は、共産主義の誤りではなく徹底さの不足が理由と考える。その結果、陰惨な内部批判(内ゲバ)や過激な暴力行為に走ることになる。この異様な独善性と暴力性を支えるのは何か。それは、独自の無神論、唯物論、歴史観であろう。

 共産主義の無神論とは、「自分は神を信仰しない(他人の信仰には無関心)」ではなく「神の存在を否定する(信仰する人を許さない)」である。唯物論では「生命活動はすべて物質に還元でき、生命や人格の尊厳は空想だ」とする。歴史観では「歴史は階級闘争により進化し(階級闘争論)、暴力革命は歴史の必然だ」としている。これらを前提とした世界観を持てば、超越的な存在(神や霊など)への畏れや自省の念は麻痺し、独善性を高め、生命や人権を無視した暴力行為を働くことになるだろう。

 人間観の誤りもある。想定される労働者・革命家の人間性が無批判に高潔である。自主性に基づく労働(やりたいことだけやる)で報酬が同じなら、労働者の無責任や怠慢、モラルハザード(やる気低下の蔓延)を招くだろう。その結果、生産性や効率の低下から十分な配給に与ることもできなくなる。また、公正な分配を行うはずの清廉な革命家も、富を目の前にすれば私利私欲を抑えられない。しかも、批判には非情な暴力で応じてよいのである。修正の利かない構造を持つ組織は自壊する運命にある。

 では、なぜ人は共産主義に引き寄せられたのか。まず貧困と格差という悲惨な現実がある。これに怒りを抱く人々には、共産主義が提示する解決策は輝きを放ち、その大義に沿うのは究極の自己実現に見える。これが魔力なのであろう。しかし、そこで特定の思考様式に固まり、人々を支配する快感を知り、嫉妬や怨念を晴らす機会を得、果ては違法行為にも手を染めれば、組織の蟻地獄から抜け出せなくなる(脱出すれば粛清される)。この点は、狂信的な宗教やカルトの持つ集団特性と似ている。

 このような集団に嵌るのは若く真面目な人である。初めは軽く、現状の問題と理想的な解決の話を聞かされる。やがて徐々に周囲から遮断され、新たな仲間からの同調圧力や心理操作でその思想を妄信するようになる。迷う自分には、これが正義であり自己実現だと言い聞かせる。更に、暴力や犯罪に加担させられ、組織のためと称して違法行為を厭わなくなる(むしろ重罪を侵す方が忠誠の証となる)。思考が固定化し、家族の言葉も耳に入らず、社会常識も失い、組織の内でしか生きられなくなるのである。(続く)

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