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支流からの眺め

武漢コロナウイルス感染症と医療者のストレス(2)

 ストレス反応は一般に、身体不調(睡眠障害、頭痛、胃痛、食欲低下)、情緒不安(うつ気分、孤独感、集中力低下、甦り体験)、行動異常(攻撃的言動、過度の飲酒、欠勤)などとされる。武漢コロナウイルス感染症(WARS)診療のストレスでは、これらに加えて過緊張、高揚感、心身消耗、燃え尽きなども起こりうる。

 この根本的な解決には、WARS流行が終息すればよい。しかし、それは難しい。それどころか密になって飲酒する連中もいる。彼らが感染すれば、診療に当るのは自分たちなのである。個人的な根本的解決ならば、WARS診療から逃避すれよい。しかし、それは潔くない。これらは、医療者にとって現実的な解決にならない。

 世の書によれば、ストレス緩和の原則は、緊張を取り日常生活のリズムを保ち、脳を休めることである。良好な睡眠、同僚との会話、感情の表現、家族との雑談、軽い飲酒、趣味への集中、瞑想やマッサージなどである。逆に、緊張を上げる行動は避けるべきである。WARSのストレスでは、不安を煽る情報を流すテレビやSNSが問題となる。

 とはいえ現実は、休暇が取れない、緊張が取れず眠れない、話を聞いてもらう機会がない、飲み会は自粛中、家族も忙しそう、集中できる趣味もない、瞑想すれば雑念が湧くばかり、となる。テレビをつければWARSの話題に耳が立ち、時間があればスマホを開いて不安に駆られる記事ばかりを探してしまう。

 認知行動的に勧められることは、関連事項を科学的に理解し自己管理や感染予防に取り入れる、根拠のない風評は初めから耳目にしない、自己評価を甘めにして自己を否定しないで肯定する、同僚と称賛もしくは尊重しあう言葉を交わしあう、他人への批判は最小限にし少なくとも攻撃の対象にしない、などである。

 組織としては、特別手当の支給、勤務時間の短縮化や長期間の休暇付与(人的余裕が前提だが)、医学知識の普及と最新化(定時・随時の勉強会やカンファなど)、心理的な支援(心理ケアチームの介入やヒアリングなど)、定期的な対策会議の開催(問題の共有・意識化とその解決を図る)、などが有効であろう。

 組織的対策には強度の調整も必要である。勉強会、心理的サポート、ストレス調査は、頻回だと管理強化に見える。手当や休暇も優遇が過ぎると、職員間に不公平感が生じる。できるだけ多くの職員に、少しでもいいから関与してもらえば、業務量の平準化や実態に関する理解が進み、お互いの不公平感も薄まるだろう。

 規則や申し合わせを明確にして緩和できるストレスもある。例えば、勤務体制(役割分担や勤務時間)、入院要請への応需方針、治療方法などについて、各自の判断や努力に任せるのではなく、規則や基準を明示しておく。そうすれば、判断の揺らぎは最小化され、判断に伴う個人の心理的負荷は軽減される。

 雰囲気作りも重要である。お互いを大切に尊重し合う姿勢が基本である。職場内での支持的な声掛けは良い雰囲気を育む。上司からの言葉は、感謝と承認を基調とし、話しの結末は常に前向きにする。命令口調や使命感に訴えた叱咤激励は、長期的には逆効果となる。不平不満に聞く耳を持ち、細かい問題も丁寧に扱う。

 WARS流行は医療職のストレスを高め病院内に緊張を生んだ。特に流行初期は強い不安と恐怖で、急性ストレス反応や惨事ストレス反応も見られた。今や何度もの流行波を凌いで業務に慣れ、ワクチン接種も進んで緊張感は緩みつつある。この危機を乗り越えたことで院内の一体感が強まれば、災い転じて福となすとなろう。

 WARS危機への対応の要諦は、立ち向かう覚悟と前向きの姿勢、仲間への敬意と信頼感である。逆に、これらを失わしめる雑音やしたり顔の批評に注意することである。危機が訪れると、頭ごなしの全否定、慎重という名の悲観論、神がかりの楽観論、内部分裂を誘う怨嗟の声などが闊歩する。国家の危機の際も、これと同じと心得るべきであろう。



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