「戦力外」通告選手の一軍復帰

可採年数200年超　用途なかった石炭を夢の燃料に変えるＩＨＩ
日本経済新聞 Ｗｅｂ刊　2012/11/26 7:00


詳しくは元記事を御覧頂きたいが、要は原料は褐炭に限らず粉砕されたバイオマス燃料でも水素や一酸化炭素と云ったガスタービンやガスエンジンの燃料として使用可能な燃料ガスを取り出す事が可能な事だ。原発を凍結してガスタービン発電を増やして急場を凌いでいる我が国では、（過去記事にも書いた通り）ロシアから割高に天然ガスを買う契約をしている関係で、昭和５４年以降最大級の貿易赤字が目下継続中である。そして、エネルギー問題が解決するまで永年に亘って、この貿易赤字が継続してしまいそうである。

単にゴミ焼却炉で燃やして僅かな自家発電にしか使われていなかった食品廃材や紙等の廃棄物や、家畜糞尿や下水汚泥や稲藁や麦藁や籾殻等々からも天然ガスに代わる燃料が取り出せる事に期待が集まっている。凡そ次世代エネルギーとは言い難い古くから有効活用されていない廃棄物でも、乾留ガス化発電が実用化すれば、含水率８０％以上で尚かつ乾燥させても灯油の半分以下の熱量しかない廃棄物がガス化した際のエネルギー効率が７０％と高いので充分に採算ベースに載せられ、且つ、既存の天然ガスタービン発電のインフラを利用可能なのだ。

我が国でも充分な埋蔵量は有りながら、石油へのエネルギーシフトで採炭自体がほぼ止まっている。唯一、北海道の釧路コールマインで我が国の採炭技術継続進歩の為とベトナムや中国向けの採炭技術指導の為に年間７０万トンの営業採炭を継続している。

褐炭は、炭素含有量70～78%で石炭化度は低く水分酸素の多い低品位な石炭であり、脱水すれば自然発火しやすくなるという扱いにくい石炭なので価格は最安価で、輸送コストの関係で鉱山周辺で発電などに使われる場合が多いのだが、そこに二塔式ガス化炉を設置し発電用燃料ガスを製造すれば良いのだ。

先端技術で次世代のエネルギーを担う・・・と云うダケではなく、「戦力外」とされた過去のエネルギー源をブラッシュアップして現役復帰させる事も我が国が国際競争力を競うべき先端技術だと思う。石炭発電も過去には大気汚染の元凶とされ「戦力外」とされたが、過去記事「ポスト原発・・・ 2012-01-30 20:28:30 | Innocent joke」で書いた様な三菱重工の高効率無公害型・石炭火力発電では天然ガス発電並みのクリーンさを約半分の燃料コスト（石油の１／４）で実現可能だし、燃料の石炭は安定的な調達も容易いだろう。原発が休止中の今後は、石炭火力はベース電源の最有力候補となる筈だ。そして、廃棄物としてエネルギー源として見なしていなかったバイオマス資源のガス化だろう。

エネルギー効率で考えれば太陽光発電よりも太陽熱発電だと過去記事「枯れた技術 2010-03-09 22:26:52 | 独り言」にも書いたが、我が国では不得手な分野なのだろうが・・・今後は「戦力外」通告した過去の技術を「『枯れた技術』のブラッシュアップと現代的パッケージング化」で復活させ、我が国企業が国際競争力を獲得していく事に期待したい。イノベーションとは、『一般には新しい技術の発明と誤解されているが、それだけでなく新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革を意味する。』

近い将来は、こうして高効率無公害型・石炭火力発電では原子力発電よりも安いコストで電力の安定供給が可能となるだろうし、こうして日の丸資本で製造されたガスタービン発電用燃料をインドネシアから輸入する事が出来る様になるのだろう。だが、原発に代替できる燃料コスト実現だけでは、脱原発は完了しない。数十年か十数年使用し続ける事を前提に建造された原発施設を償却して解体する事と、３万トンの使用済み核燃料を再処理し最終処分する事を置き去りにして軽々しく脱原発の掛け声を挙げて欲しくない。こうして考えると次世代エネルギーに繋ぐ間は、安全が確認された原発は稼働させて石油火力とのコスト差を積み立てて原発施設の解体と使用済み核燃料の最終処分への糸口を見出し、尚かつ、脱原発を終えた後にも、我が国の原子力技術継続進歩の為と諸外国向けの商業炉の設計製造施工の技術継続進歩と技術指導の為に、我が国にも商業規模の原子力発電所を残さなくてはならない筈だ。ヒステリーに陥った今、未来を見据えた視野で我が国のエネルギー行政を導いていく政治に期待したい。