叩かれた頭をてで抱え込みながら、なみだ目で睨みつけてくるマスター。
だめです。そんな目で見ても何もでま…うわっと。
黒い影が飛び掛ってくるのを慌てて避ける。
あたし達が漫才をしている間に、いつの間にか忍び寄ってきた…違うな、堂々と近寄ってきてたな…魚人があたしたちに襲い掛かる。
「しまった!夏樹!」
「はい!」
1体の魚人があたしに、2体がマスターに襲い掛かる。
あたしは取り出したナイフで一体を切り裂く。
その腹は、まるで柔らかく、容易に切り裂けた!
だが、その内臓物を撒き散らしながら、魚人はまるで傷など意に介さず襲い掛かってくる。
あたしは、そのまま2体目に切りかかろうとしていたが、それを防がれてしまう。
その間にも、2体目の魚人がマスターに襲いかかろうとしていた。
遅れて3体目も…。
いけない!
「マスター!」
1体目を引き剥がせないままだったが、マスターが傷つくよりははるかにマシだ。
あたしは、正面の敵に背を向けてマスターをかばおうとした瞬間…。
激しい爆音がした。
銃声?
その音が周囲に響き渡るとともに、魚人が吹き飛ばされる。
すぐに嵐の音に、銃声がかき消されてしまった。
何が起こった?
もう一体の魚人はマスターの前で崩れ落ちていた。
「高科さん!それに…夜斗!」
高科さんは…ライフル?
「あの…それは?あたしてっきり、ボクシングか何かで登場って…」
「それは別の執事です」
そうだっけ?
「それだと、物語的にいろいろとまずいもので…」
高科さんは、ライフルを構えたてつづけにライフルの引き金を引く。
そのたびに、周囲の魚人が吹き飛んでゆく。
「彼らも肉体があるのなら、鉛玉でも十分に御嬢様方の援護ができると思いまして」
にやりと笑う。
すごい人だ。その射撃の腕もプロ級だ。この闇の中で、しかも吹きすさぶ風雨の中で、狙いを外さすに銃撃を続ける。
銃声がするたびに、魚人がばたばたと倒れてゆく。
さすがに、体を粉々にされては、さしもの魔物も、起き上がることはできない。
それでも、ぴくぴくと肉体を震わせているあたり、凄まじいまでの生命力だと言うしかない。
夜斗は、マスターの周囲に近寄る魚人をその刀でなぎ払う。
ちなみに、この人はいつの間にかメイドの装束を身につけている。
どっから持って来た?
と思ったら、マスターがどこからか手に入れてきたらしい。
「戦う巫女もいいが、戦うメイド服も萌えではないか?」
いや、もう何も言わないでおこう。
「妾とて、この程度の雑魚どもに、舐められるわけには行かぬよ」
「それと、その衣装に何の因果関係が…ってうわ!?」
きらめきがあたしの鼻先をかすめた。
「ふむ…どうやら、おかしな魔物が紛れ込んでおるのぅ?間違えて切りさばいしまいそうじゃ?」
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
この際、マスターや貴女の趣味にとやかく言いません。
敵を減らしてくれれば、文句はありません。
「ふむ…何か引っかかる言い方じゃが…そら、夏樹、後ろががら空きじゃ!」
あたしは、振り向きざまに、飛び掛ってきた魚人を切り裂く。
やはり倒れない。この魚人に与えられた不可思議な理が、彼らの肉体を
不死身にしているのか?
ならば…
あたしは右手のクリスナイフを握り締め、左手で指刀を形作る。
手のひらの中にはあらかじめエメラルドの粒を握り締めている。
その左手で中空に簡単な円と紋を描き出す。
「風よ…四霊に連なる孤高なる者にして、英霊を守護せしものよ…」
魔力(マナ)が、体の中を突き抜ける。そして、宝石を触媒として集まりだしている
のがわかる。
「汝は剣(つるぎ)、汝は切り裂きしもの、我意に従い顕現せよ!
…エアリュエルの切り裂き魔剣よ!」
右手に持った、魔法杖とも言えるクリスナイフに風の力が集まる。
軽く剣を振るった。
すぱんっと、まるで手ごたえも無く、目の前の魔物を切り裂いた。
一刀両断というやつである。
「ほう…かまいたちか?」
夜斗が驚いたような顔をする。
これは、魔法同士の戦いでもある。
強い方が勝つのだ。
それは、あたしと夜斗の戦い(戦いと呼ぶべきだろうか、あたし的には
前後不覚になった空腹のトラが、か弱い子羊に襲い掛かったと、思って
いるのだが…)の折、あたしの魔法防壁が、いとも簡単に破られた事からも
理解していただけるだろう。
要は、その戦いの前提条件は力対力なのだ。
なにも、魔法対魔法である必要はない。
その証拠に…恐ろしいことだが、高科さんは、その散弾銃という破壊力で
あの、魚人の魔的再生力が及ぶ前にその体を破壊している。
だが、あたしや夜斗は、その武器にそこまでの破壊力はない。
だったら…魔力で、少しでも、あたしの武器に力を上乗せしてやればいいのだ。
「なるほど…戦力としては『歩』程度じゃが、智謀は持ち合わせているようじゃな。
妾の背後を守るには、いささか心もとないが、任せてもよいようじゃな?」
「ふん…勝手に言っててください…」
あたし達は、魚人を次々と倒していく。
いやはや、実際、じっくりと『夜斗』の戦う姿なんて見たことないが…あたしが『襲われた』時には、そんなにじっくりと
見ている余裕なんて無かったし…ほんとに惚れ惚れとする姿だった。
舞うように、踊るように夜斗の刀がきらめきを発するたびに、スパリスパリと魚人が切り裂かれていく。
その刀の由来が如何なるものかは知らない。
だが、御神刀として…そして、この地を襲った怪異を打ち破った守り神として
崇め奉られてきたこの刀に与えられた力は、この程度の魔物を軽々と打ち破ってしまう。
そも、このような戦いは、魔と魔の知名度の戦いと言ってもいいだろう。
と、言うのであれば、この地この場所で戦う夜斗にとって、その力を辱められたとは言え、
この程度の魔物に敗れる理がどこに存在するだろうか?
仮にも御神刀を名乗る地方神がここにいる。
それは、確かに心強いことだった。
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Presented by 東壁堂
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