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東壁堂本舗

魔法少女 二次 はじめました!
リンクフリー!
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あけましておめでとうございます。

2013年01月01日 | 雑談
明けましておめでとうございます。

東壁堂です。

昨年度は、にじファンの閉鎖に伴い、この自前ブログに移ってきた訳ですが、それでも変わらぬご声援をいただきまして大変感謝であります。
本来ならば昨年中に、少なくとも連載時の状態まで戻すつもりでしたが、後一歩及ばず、年を越えてしまいました。

しかし、今年こそ、覇種武器を・・・・・・ではなくて、奮闘記を終了し、Asに移していかねばと決意をする次第です。

それではみなさま

今年もよろしくお願いします。

ことしも・・・・・・

2012年12月31日 | 雑談
今年も残り僅かです。
こんなに長く続くとは思わなかった、と言うか終わらなかった彼女達の奮闘記ですが、
いよいよ、新規部分に突入しそうです。こんな遅筆の東壁堂ですが、来年度も
どうか、ご愛顧いただきますようお願い申し上げます。

と言いながら、残り15分後で年が明けて、新年の挨拶を・・・・・・?

探偵もの 前編

2012年08月24日 | 雑談
 息抜きに書いてみた探偵ものです。




 ある依頼

 薄汚れた事務所に赤い光が差し込む。
 乱雑に積み上げられた書類にうずもれた机。
 眠たげな目をした男が、だらしなくその机の上に足を投げ出して、暇そうに頭の後ろで手を組みながら、天井を見上げていた。

「まったく、いつ来ても暇そうなんだな、お前」

 突如かけられた声にちらりと目線をやる。
 事務所の入り口には大きな紙袋を抱えた白いセーターと藍色のスカートをはいた少女が立っていた。
 長い腰まで届くような黒色の髪の毛に、ほっそりとした面持ちの少女。
 その少女は勝手しったる我が家といわんばかりに勝手に部屋を大またに横切ると、紙袋の中から缶コーヒーを一本取り出し男の前に置いた。

「仕事はどうしたんだ、探偵」

 ぴくりと男の眉が動く。
 しかめ面を少女に向けるが、その視線を向けられた少女はというと、そんな男の表情なんかどこ吹く風といわんばかりに、ニヤニヤとした笑みを浮かべていた。

「ああ、聞くだけ野暮というもんか。こんなぐうたら探偵のところに依頼なんて持ってくる物好きな人間なんてそうはいなかったもんな。まったく、生活の糧すら稼げないんじゃどうやって生きてんだかな、お前」

 ふんっと、すねたように男は鼻を鳴らす。
 いちいち、この少女の言葉は的確に今この男の立場を言い表しているからだ。
 無論、彼のプライドからすれば、いつまでもこの少女にいいように言われてばかりではいない。
 だがしかし、この少女にそんな反論でもしようものなら、どんな目にあうか、彼はすでに経験から知っていたから、唇をわずかにゆがめるだけにとどめておいた。
 そんな彼の態度もすでに承知しているのか、藍色の髪をした少女は紙袋を持ったまま、台所へと入り込んでいった。
 ここは、この探偵の事務所兼居住スペースだ。
 無論、キッチンも併設されている。
 よくよく、この建物が建っている場所を調べてみれば、この場所が以外にも高級住宅街に建築された
 決して家賃が安いわけではないエリアに立てられたビルの一角であることがわかるだろう。

「今日はいい肉が手に入ってな。久しぶりに私が自ら腕を振るってやろう。ありがたくて涙が出るだろう?後、野菜は……そうだな、そのままサラダにしようか。ドレッシングはこの前作っておいたものがあるはずだ。そうそう、そういえば商店街の魚屋だがな、どうやら、あそこのユミコが子供を生んだそうだぞ。女の子だそうだ。あの親父大喜びだそうだ。ユミコのところにサブロウが来た時には、そりゃぁ、あの親父かんかんになってサブロウを追いかけたのにな。包丁を持ってだぞ?それがあの変わりようだ。おかげで、病院へ行くとかでさっさっと店を閉めちまいやがって。まぁ、おかげで?肉屋の親父のところに言ってみれば、いい感じの肉があったわけだから、これは僥倖と言うものだろうがな」

 少女の姿は見えないが、実に楽しそうな声がキッチンから響いてくる。
 少女の話はそういった世間話がしばらく続いたかと思えば、大きく飛躍して政治経済の話になったり
 最近はやり始めた子供向けのアニメーションの話になったりと実にとりどめがない。
 男が聞いているのかいないのかはあまり関係がないのか、少女は一人楽しげに話を紡ぐ。
 そして、まな板を包丁がたたくリズミカルな音と、やがては実にいいにおいが漂い始めていた。
 それにしたって、魚屋の親父は顔見知りだが、あの家にはいまだ嫁の来てのないぐうたら息子がいるだけだ。
 ならば、あの家のユミコというのはあの家のお袋さんが大事にしている真っ白な毛並みの猫だし、サブロウというのはこの辺りを根城にしている野良猫だったはず。

 少女の話はあちらこちらに飛びながら、探偵の前に、滅多に食べた事のない豪勢な食事が並ぶまで続いた。




「さて、感想ぐらい言ってもらいたいものだがね」

 わずかにほほを膨らませながら、少女は男と自分の皿を片付ける。
 そうは言いながらも男が何か口を開こうとするのを手で制するのだ。

「なに、お前が言いたいことはわかる。どうせ、何を食べても美味いというのだろう?もう少しその貧困な語彙を何とかして欲しいものだがね。いや、その貧しすぎる言語能力にわずかばかりの期待をしている私も私だがね。でも、言わぬよりは言ったほうがはるかにましだろう?お前の一言で私の心が満たされるのであれば、お前はその労を惜しむべきではないと私は考えるがね」

 ほほを膨らませている様なんぞは、年相応の表情だと思えるのだが。

「ああ、そうか。お前は人間様の飯よりも私を食べたいというのか?それは、食欲的な意味ではなくそう言うのであろうがな、私だって準備というものがある。そりゃぁ、お前にとっては私は、そんな欲望の対象であるかもしれないのだがね。おっと、そんな顔をするな、探偵。まさか私が否というと思っているのか?ふむん、確かにロマンチックな夢を抱いていないでもないが、これはこれで悪くはあるまい。そうか、俗に言う職場恋愛というものだな?なるほど、口にしてしまえば確かに俗っぽいが、うむん……悪い気分ではないな。そうか、私とお前は、この職場で同僚というやつだな?ならば、そこは私は健康的な少女だ。お前が私を望んだとしたら、私は断れないではないか!!」

 頬に手を当ててイヤンイヤンと身体を揺らす少女を見ながら、男はさすがに呆れたようなため息をついた。

「あのな……」

 さすがに男が少女に何かを言おうとすると、事務所に来客を告げるチャイムの音がする。

「ふん、お客だぞ、佐伯。貧乏探偵に仕事がないのはまさに死活問題。お前にとっては救いの女神かもしれないぞ?ほら、さっさと行った。客を待たせるのは、いかがなものか?」

「エンネア……」

「私は、台所の片づけが終わったら顔を出すよ」

 佐伯と呼ばれた男は大きくため息をつくと、疲れたような表情をして台所から出て行く。




 一通り水洗いを終えると、エンネアは事務所へと向かう。
 事務所では、ちょうど佐伯が、一人の少女……エンネアと同じくらいの年齢だろうか?を応接用のテーブルへと案内してきたところだった。
 やけに時間がかかっていたような気もした。
 どうやら、この少女がいざ探偵に、頼みごとをするにいたって躊躇をしていたらしい。
 いつまでも、事務所の扉の前で、口も開かず、うつむいたまま突っ立っている少女をまずは話だけでもしようじゃないかと、佐伯がなだめすかしてここまで連れて来たらしい。

 こういったことにはマメな奴である。

 それはともかく、少女の姿を見てエンネアは軽く顔をしかめた。
 もちろん、うつむいたままの少女にそんなエンネアの表情はわかりようがないのだが佐伯はどうやら気がついたらしい。わずかにとがめるような目線を彼女に向ける。

 そんな佐伯にエンネアは苦笑を返すが、もちろんエンネアじゃなくてもそんな感想をこの少女に抱いても致し方ないだろう。実際に表情には出していないが、その実、佐伯もこの少女にエンネアと同じ感想を抱いている。




 少女の服装は、この辺りでは割と有名な進学校の制服だ。
 それなりに、厳しい校風をモットーに、有名大学への高い進学率をもって生徒たちを集めている。
 ということは、この少女の頭はそれほど悪いわけではないだろう。

 しかし、その表情が問題だ。

 いかにも内気で、いろいろな問題を己の内側に抱え込んでしまうタイプ。
 そして、抱え込んだ問題を、その性質であるがゆえに他者に相談することができずに徐々に蓄積させ、それを爆発させることもできないタイプ。

 気がついたときには抱え込んだ負債で、その身を崩壊させていくタイプ。

 この少女はその内向的な性格をさらに輪をかけて強くしたような人間であると、エンネアは直感した。

 一方でエンネアはその逆の性格を持つ少女である。

 普通とは違った生き方をしてきたので、風変わりな性質ではあるのだ。基本的には陽気で明るいのがエンネアという少女だった。自由で気ままで奔放と言った方が正しいのかもしれないが。

 もちろん、彼女と言う人間を語る為には、それだけではすまないのだが。




「お嬢さん。ここは探偵事務所だ。お嬢さんはここを尋ねてきたということは、何か依頼する物事があるという事だ。基本的にうちは、いろいろな物事の調査を行うのが仕事だ。よくドラマでやっているが、ああいった荒事をするのは苦手なんでね、それはご理解いただきたい」

 佐伯はゆっくりと言い聞かせるように語る。
 荒事は……というのは実に正しい。
 基本的に彼の仕事はいろいろな情報を集めることだ。そしてその為の下準備と、その後始末。
 それが彼の仕事のすべてといっても過言ではない。もちろん、下手をすれば暴力という手段で解決せざるを得ない事柄もあるのだが、それをできるだけ避けるのも探偵の素質のひとつなのだ。

 とは言っても、佐伯の携わる仕事の大半は、最終的には力技で片付けるものが殆どなのだが。

 故にくっくっくと詰まるような笑い声が聞こえてきたがあえてそれを佐伯は無視をする。

「それを承知の上で話をして欲しい。君は俺に何を依頼しに来たのかな?もちろん、依頼人の秘密は守ることにしている。たとえ君が未成年であったとしても、依頼人の秘密を守るのは探偵の守秘義務だからね。それがたとえ君の親御さんだったとしても。しかるべき手段と私を納得させるだけの理由が無ければ、君がここに相談に来たことでさえ私は他人にしゃべることはない」

「そして、今お前が抱え込んでいる悩みを唯一解決できる男でもある」

「お、おい、エンネア?」

 にやりと笑みを浮かべ、応接用のテーブルにひじを突きながらテスは佐伯の横に座る。
 そして優雅なしぐさで腕を組み、その上に緩やかなカーブを描くあごを乗せる。

「お前も『そのつもり』でここの扉をたたいたのだろう?どこの誰から聞いたのかは知らないが。お前の『探し物』を見つけるために。だからこの探偵事務所を訪ねた。ここは普段見つからないものを探すことのできる場所だ。さぁ、佐伯を信じて話をするんだ。今は、誰も笑ったりはしない。今は、誰も疑ったりはしない。お前の言葉をよくよく吟味し、調査した上で、お前の『探し物』が如何なるものであれ私達はそれを探し始めるだろう」


「ようこそ『チェイサーズ』へ」





 深山 冬美

 彼女は自分の名前をそう名乗った。

 冬美は自分の探し物を佐伯とテスに語る。
 なんどもなんども、笑わないで欲しいと念を押す。
 無論、佐伯たちはその都度、うなずきを返すのだったが。
 それでも語り始めようとしない少女の横顔をやがては西日が赤く染め上げる。
 そして何度目かの決意の表情。
 テスが入れた来客用の紅茶が十二分に冷め切ってしまったころ。
 彼女はようやく自分の顔を上げる。

 曰く。

 自分は何かを忘れている。
 とてもとても重要なことだったのだが。
 自分にとってとても大切なことだったのだが。
 それが思い出せない。
 なぜ、それを忘れてしまったのか、どこでそれを忘れてしまったのか。
 そもそも忘れている『事柄』を思い出せないのだから、その忘れた原因を思い出すことができない。
 忘れても問題の無いものであれば、そもそもこんなに焦燥感に駆られることも無いのだろう。
 しかし。
 自分のどこかで何かが、それを忘れてはいけないと告げているのだ。
 自分は、その忘れてしまった何かを思い出さなければならない。
 だから。
 その、忘れてしまった何かを探し出して欲しい。




 佐伯はいくつかの質問事項をした後に、少女の連絡先を訪ね、彼女をいったん返すことにした。

 そして彼女が事務所から立ち去った後、むぅと、小さくうめいたかと思うと、腕を組み目を閉じてしまう。

「ふむ、せっかくの紅茶が冷めてしまったな。入れなおしたほうがいいかな?」

 佐伯は目を閉じたまま静かに首を振る。

 テスは小さくため息をついて冷えてしまった自分のカップに、その形のいい唇をつける。
 中の甘ったるい液体を少し飲みほし、佐伯に視線を投げかける。

「しかし、また難解な依頼をされたものだな。
まだ、受けるとも受けないとも回答をしていないわけだが、
いささか興味深い話ではあるな。
さて、自分でも思い出すことのできない大切な何かを思い出したい。
だから、それを探し出して欲しい。
確かに、お前は情報を探し出すことには長けているだろう。
あの内気そうな彼女は、是非とも協力をしてあげたいような雰囲気を持っているからな。
あの表情には男ならずとも、私ですら保護意欲を掻き立てるものがあるからな。
しかしながら、今回の依頼内容の難易度と、その意欲とは別物だ。
大概の場合、モチベーションというものは仕事の難易度を左右してしまうものだが、
今回の場合はそういうわけにも行くまい?
いくらなんでも、探したいものがなんであるか、わからない場合、それを探しようがあるものだろうか?
記憶喪失…というやつかな?」

「では、テスは記憶というものはなんだと思う?」

「なんだって?」

「記憶は感覚記憶、短期記憶、長期記憶の3つに大きく分類される。
感覚記憶とは、映像や音などを最大1~2秒ほど、記憶する記憶。つまり瞬間的な記憶のことだ。
次に短期記憶とは、短期間保持される記憶のことだ。
とある学説によればそれは、約20秒間保持されるといわれている。
短期記憶を蓄える貯蔵庫を短期記憶貯蔵と呼ぶ。短期記憶の情報は時間の経過とともに忘却される。
これを防ぐためには維持リハーサルを行う必要がある。ここで維持リハーサルとは短期記憶の忘却を防いだり
長期記憶に転送したりするために、記憶するべき項目を何度も唱えることである。つまり学生が定期試験の
為に反復学習を行うことがこの情報リハーサルのもっともよい一例であるといえるな。
そして長期記憶。長期記憶とは、当たり前のことだが長期間保持される記憶である。
忘却しない限り、死ぬまで保持される。
長期記憶を蓄える貯蔵庫を長期記憶貯蔵と呼ぶ訳だが、これは、まぁいいだろう。
今回の彼女の場合、『大切な何か』を『忘れてしまっている』ということになる。
『大切な何か』という記憶はあるのだから、彼女は『何か』を長期記憶化していることになる。
この学説の場合、長期記憶化した場合、その記憶は基本的には忘れることは無いことになる。
しかしながら実際に、人間には『忘却』というメカニズムが存在する。
実際に、俺だっていつまでも過去の依頼事項の詳細をいつまでも覚えているわけではないし、
当然この世の中には忘れっぽい人間も存在するわけだ。
では、『忘れる』というメカニズムはどういうものがあるのか。
長期記憶の忘却の原因については、減衰説と干渉説、さらに検索失敗説が存在する。
減衰説とは、時間の経過とともに記憶が失われていくという説である。
よく言う時間の経過とともに物事を忘れていくというやつだな。
次に、干渉説とは、ある記憶が他の記憶と干渉を起こすことによって記憶が失われていくという説だ。
検索失敗説とは、想起の失敗は記憶された情報自体が消失しているのではなく
適切な検索手がかりが見つからないため、記憶内の情報にアクセスできないことによるという説だ。」

「では、今回の場合は?」

「さて、な。俺は医学者ではないし、ましてや心理学者でもない。素人の俺が、彼女の記憶の忘却を論じても致し方あるまい。まして、そんな人間が推論で物事を判断したところで正しい結論を導き出すことはできないだろう」

「そんなときには、正しい情報取得から正しい状況認識を……か?」

「その通りだ」

「では、私は後者を。佐伯が前者だな。明日から、彼女の学校に行ってみるよ。あの頃の年代の子の情報は、自宅や近所よりも、まずは学校だからな。学校なんかに佐伯が近づいたらまさに不審者だからな。この場は私が適任だろう。しかし、そうなると、お前が手あまりだな。どうする?」

「俺は、彼女の身元を洗ってみるよ。その辺からわかることがあるかもしれない」

「まぁ、見たところ、不振なところもなさそうだし……」

「あれでか!彼女はどこからどう見ても不振だらけだ!!」

「まぁ、いい。確かに彼女の身元から確認してみるとするか。依頼人の身元をとりあえず確認しておくのは調査の基本だからね。俺はそちらをあたるよ、もちろん、ひょんなことから今の彼女の『在り方』の手がかりが見つかるかもしれないし」

「わかった。そちらは任せる。というわけで、彼女の依頼は受けるということでかまわないんだな?」

「ああ。確か彼女の携帯は……ああ、あった、これだ。すまないが、依頼を受ける旨、伝えておいてくれないか?」

「わかったよ。でも報酬の件はどうするね?」

「あ、しまった!」

「なんだよ、またただ働きか?私は別にお前をヒモにするのもやぶさかではないが、自分の食い扶持ぐらい自分で稼いでみせるのが男の甲斐性というものだろう?その少ない稼ぎで私に貢いで見せろよ、探偵。残念な話だが、私はお前からの贈り物にはとことん弱いのだからな」




「おはよー」

「あ、おっはよー」

 行き交う生徒達が朝の挨拶を交わす。

 そんな中を深山 冬美は誰とも言葉を交わすことなく歩いている。

 周囲の人間は友達同士、楽しそうにおしゃべりをしながら学校へ向かっている。

 だがしかし、彼女に話しかけるものはいなかった。

 もともと大人しい所のある彼女は友達がなかなかできなかった。

 彼女自身から他人に声をかけるような事をしなかったからというのも理由のひとつだろう。

 そんな彼女だから、一日誰とも話さないと言うことも、日常茶飯事だった。

 朝の出欠を取るとき、担任の教師すらわざと彼女の名前を呼び飛ばすことがある。

 あとで、教師がそう言えば忘れていたが…、といって冗談めかして彼女の名前を呼ぶのだが、それがどれほど彼女の心を傷つけるのか、教師が気がつくことはない。

 もっとも、最近では、そんなことすら彼女は諦めてしまったのだが。

 そんな訳だから、東京中の彼女が背後から肩を叩かれたとき、心臓が飛び出すほど驚いたのは言うまでもない。

 彼女が信じられないといった表情で、背後を振り向いたとき、そこには人懐っこい笑顔を浮かべた見知らぬ少女が立っていた。

 見知らぬと言うのは間違いである。

 少なくとも一度は面識がある人物だった。

 けれども、それはたった一度の顔合わせだったし、そのとき、非常に緊張していた彼女にとって、彼女の顔を正確に覚えてなくても誰が責めることができただろうか?

 「おはよ!」

 その少女はにこやかな笑みを浮かべながら彼女に挨拶をした。

 とっさに挨拶を返すことができずに目を白黒させていると、その少女の顔が僅かに曇った。

 そんな僅かな表所の変化ではあったが、その変化は冬美の心に罪悪感を感じさせるのには十分なものだった。

 「あ、あの…」

 「どうしたの?朝はおはよう、だろ?」

 「あ、うん、おはようございます」

 「うんうん、よくできた。おはようございます」

 その少女は、再び春の日差しの様な笑顔を浮かべた。

 少女は、彼女と同じ学校のベージュの制服を着ているとこ、緑色のネクタイの色からすれば、どうやら彼女の同級生らしいことはわかる。

 でも。

 少なくとも彼女の記憶には存在しない顔だった。

 ましてや彼女に話しかけてくる存在なんて、彼女の学校には皆無だったから、そんな珍しい存在であれば忘れるはずがない。

 そんな彼女の戸惑いがやがては理解できたのか、少女は、嗚呼、と小さく頷いた。

 「そうかそうか、昨日はずっと俯いたままだったから、私のことは気がつかなかったのか。それは失礼をした。確かにあの時、私は私自身の名前を名乗らなかったっけ。これは無礼なことをした」

 そこまで言って、冬美の記憶と彼女の存在がつながり始める。

 「あ……佐伯さんの所の」

 「おお、そうそう、覚えてくれていていたようだな。うんうん、嬉しいぞ。それでは改めて挨拶をすることにしよう、私はエンネア=ウラ。佐伯探偵事務所の助手兼飯炊き係だ。よろしくな」

 エンネアはそういって大きく胸をそらす。

 「あ、あ、はい。よろしくお願いします」

 ほんのかすかに、笑みを浮かべて少女はぺこりと頭を下げた。

ターニングポイントです

2012年08月16日 | 雑談
と、言う訳で物語は取り敢えずのターニングポイントまで掲載できました。
元々、彼女という存在はイレギュラーなのであり、その存在がなくなれば、物語は元に戻るはずだったのです。
しかし皆の心の中に残る違和感。それでも物語は止まる事なく進行していきます。

それはともかく、猫と魔女シリーズも少し見直しをしていきたいなと思います。
思えば、これも結構古い作品だなぁ……。

アリシア・テスタロッサの憂鬱 その4

2012年08月10日 | 雑談
 ところで、窓の外を流れていく風景を興味深そうに見ているフェイトと、そんなフェイトを面白そうに見つめている私が何で、二人だけでリニアレールに乗っているかというと。


 リニスのとある一言が原因だった。



 「デバイスを新調する?」

 「そうですよ、フェイトの分と貴女の分。二人分です」

 デバイスの新調というけれど、デバイスなんてそうほいほいと買えるものではない。

 ストレージデバイスといえども、結構驚くぐらいの値段がするのだ。実際、私の使っている汎用ストレージデバイスの値段を聞いて、ちょっぴり驚いた。普通に、家庭用の通信端末が、しかもそれなりの高級品が買える位の値段だった。

 だから、そんなに易々と買い換えられるものではない。

 けれども、確かに、今のデバイスに問題がないわけではなかった。今、私とフェイトが使っているデバイスは、確かにバランスのよい扱いやすいものだった。

 しかし、魔力量の上限があまり高くは設定されていない。故に、最近、ここに来て急成長を見せているフェイトの魔力にはついていけないでいた。

 私にとっては……もちろん、私の魔力量も……ほんのちょっぴりとではあるが成長していたんだけど……本当だぞ?嘘じゃないんだぞ?……まぁ、能力的には不足はなかった。

 勿論、不満はいろいろとあったけど。術式のリソースとかもう少し余裕のある設計になっていればな、と。そうすれば、もっと術式をいろいろと書き込めるのに……って、今はそんな話はどうでもいいか。

 それはともかく、今はフェイトの話。そんな、急成長を見せるフェイトの魔力が、言ってしまえばデバイスの魔力許容量を超えてしまったわけだ。

 だから、先日も魔法の練習の最中に、それほど大きな射撃魔法を使ったわけでもないけれど、デバイスを壊してしまったのだった。

 ぽしゅんっと小さな煙を噴き上げて沈黙するデバイス。しゅんっと表情を曇らせるフェイトを「気にしない、気にしない」と励まして、私は彼女のデバイスを受け取った。

 リニスにそれを手渡す前に中身を確認してみる。やっぱり何箇所か回路が焼け焦げているようだ。うん、私では手に負えない……事もないけど。基本的に簡単なデバイスメンテナンスは教え込まれている。破損したパーツや消耗品の交換ぐらいなら簡単なものだ。

 本当は簡素な設計も出来るのだが、あんまり中身をいじくると後からリニスに見つかって怒られるので……怒られた事があるので、やる前にはリニスの許可をとる事にしている。たいていは不許可になるんだけどね。

 ストレージをあんまり魔改造しすぎるとバランスが悪くなってしまったり、魔法に変な癖がつくからよろしくないらしい。

 だから、私は今回もフェイトのデバイスを簡単に分解してみて、簡単な回路の点検をし、故障した部分を取り替えるだけで、その破損した部品と共に、デバイスをリニスのところに持ち込んだ。

 リニスはプリシアからデバイスマイスターの素質まで受け継いだらしい。本当に万能な家庭教師である。

 リニスにフェイトが破壊したデバイスの部品を見せると、彼女はあごに指を当てて、うーむとうなり声を上げた。やはり、魔力伝達回路の部分が完全に焼き切れているようだ。何とか修理して使ってきたが、これも限界かな、と思っていたところだったらしい。

 基礎フレームはともかく、魔力の伝達回路が焼ききれている以上、何度修理をしても同じ結果が繰り返されるだけだ。ようは現状のデバイスの規格がフェイトの魔力には耐え切れないのだ。だから今のままの規格で部品を交換してもなんら改善はなされないのだ。

 何より、フェイトは魔導士としても成長期に入っている。普段の魔力を見ていて、あれでまだ成長過程の途中かといわれると、背中に寒気が走るのだが、それでも彼女の魔力はまだまだ大きくなるらしい。

 確かに、彼女が、あの魔法少女とであった段階ではすでに、管理局世界でもかなり上位の魔力保有量の持ち主だったというからね。いろいろな意味で、この先を考える必要がある訳か。

 「フェイトの使っているデバイスはもう限界でしょう。だから、新しくデバイスを作ります」

 「作るって……まさか、デバイスを?」

 「ええ、もともと、基礎的な設計は進めていたんです。」

 そう言いながら、リニスが手元のコンソールを叩くと、二つの魔法の杖の姿が浮かび上がった。片方は、そう、あの死神の鎌にも似た姿をした魔法の杖。そして、もう片方は、槍のような姿をしたものだった。

 「えっと……バルディッシュと……アドラスティア?これって両方ともインテリジェント?」

 「そうですよ、もともとフェイトのために設計を進めていましたから。いろいろあって設計で止まっていましたが」

 なるほど。

 確か、彼女のもともとの目的はフェイトを一人前の魔導士にする事だった。だから、こんな風に私の教育まで引き受けるなんて思ってもいなかったことだろう。

 ましてや、私、アリシアの魔力保有量はフェイトに比べてはるかに小さなものだから。だからフェイトならばクリアできる課題を私は簡単にはクリアする事ができない。

 その為、どうしても魔法の勉強の進度は私の深度に合わせた速度、のろのろとした歩みにあわせる事になってしまう。故に、フェイトの教育が本来の予定よりも遥かに遅れてしまったのだろう。

 などと、私が考えていたことを、リニスは気配を察知したのだろう。小さくため息をついて、腰に手を当てる。

 「だからといって、それはあなたの所為ではありませんよ?あなたも含めて一人前の魔導士にする事が、今私がプリシアから頼まれた私の仕事なんですから」

 「でも……」

 「でも、じゃありません。大体貴女は……」

 あ、まずい、リニスがお説教モードに入ろうとしている。こうなると長いのだ。

 だから慌てて、私は話題をそらしにかかる。

 「あ、あ、そういえば、フェイト用のデバイスって二つもあるの?」

 などと、自分で聞いては見たものの。 確かに、不思議だ。

 『私の知識』からすると、フェイトの持つインテリジェントデバイスはバルディッシュのみである。その後、いろいろと魔改造を施され、ほとんど、まったく別の存在へと変貌していくのだが、それはまた別の話。

 そもそも、初期段階で槍の形態のデバイスなんてあったっけ?

 「そちらは、構想段階のデバイスです。フェイト用のデバイスの初期段階において近接戦闘用に設計したものです。だから、試作の一号機ですね。バルディッシュはその後継機……弟みたいなものですか」

 「へぇ……結構かっこいいかも」

 「気に入りましたか?」

 「うん」

 「では、こちらは貴女用に少し仕様を変更しましょうか。戦闘能力はとりあえずおいておいて、魔法のストレージ領域を増やしてみますか……貴女はどうやら術式をいろいろカスタマイズするのが好きみたいだし」

 なるほど…これが私のデバイスになるわけか、へ?

 「え?私用のデバイス?」

 「そうですよ」

 「え、え、なんで?」

 「なんでって……欲しくありませんか?」

 「いや、欲しくないかといわれれば、欲しいに決まってるけど……」

 「だったら、文句を言わないでください」

 「いや、文句とかそういうのじゃなくて。だって、私、インテリジェントなんか使うほど魔力高くないよ?それに、魔法の才能だってフェイトに比べればたいしたことないし」

 またも、リニスはため息をついて呆れ顔。そんなへんな事を言ったっけ?だって事実だし。

 「貴女ね……。まったく、慎ましやかなのは美徳ですけど、行き過ぎるとそれは欠点にしかなりませんよ?確かにフェイトを基準にして考えれば、あなたの実力は及ばないかもしれませんが、普通に人たちに比較すれば、決して低いわけでは……ありませんよ?」

 そうだったのか……。まぁ、周囲にフェイトやプリシアやリニスみたいなのしかいなければ比較対象がどうしても偏ってくるからね、そう思い込むのは仕方ないと考えて欲しいな。

 「それに、最近、少しずつではあるけど、魔力も成長してきています。それほど嘆くものではありません。大体、ここしばらく、デバイスの容量不足を嘆いていたじゃないですか、少々早い気も確かにしますが、ここらでデバイスをインテリジェントにするのも悪くはないと思いますよ」

 「いいの?」

 「それとも使いこなす自信がありません?」

 「あるかないかと言われれば、あんまり自信ないのだけど」

 「大丈夫ですって。あなたなら使いこなせます。私が保証しますよ」

 「そっか……これが私のデバイスか……」

 「調整段階からのデバイス構築もやって見ます?」

 「え、いいの!?」

 簡単に言えば、PCを自作で組んでOSを組み込み、そのOSのカスタマイズをしていいといっているのだ。ソフトはその後に組み込む事になるが、こちらは規格品でもオリジナルでもかまわない。

 「勿論です、ちょっと、というか、ものすごく早いような気がしますが。でも、あなたがこっそりとデバイスマイスターの勉強をしていることも知っていますから」

 「あれれ、ばれてたの?」

 そう、夜中にこっそりと勉強をしていたのだ。

 「でも、ちゃんと最後まで面倒は自分で見るんですよ?」

 「わかってるって、そんな、ペットじゃないんだから……」と、言いつつも、私はその視線をアドラスティアと呼ばれたデバイスの設計構想図から放すことが出来なくなっていた。

 その後、リニスが声をかけても、まったく気がつかなかった。お蔭で夕食までそのまま放置されていた……おやつ食べ損ねた、くすん……。


 と、言うわけで、フェイトと私の二人のデバイスを造る事になったのだ。そして、その為の材料を、二人して首都クラナガンへ会に行くこととなったのだが。

 「えっと……お使い?」

 「はい、お使いです」

 不安そうな表情を浮かべるフェイト。それとは対照的ににっこりと笑みを浮かべるリニス。私は別の意味で嫌な表情を浮かべた。

 「フェイトと二人で?」

 「そうです、二人だけで、です」

 これって、初めてのお使い?

 私は小さなため息をつくのだった。


 アルトセイム地方からクラナガンへはリニアレールでおよそ一時間。

 私たちはクラナガンの中央駅にたどり着いた。

 列車から降り、駅の改札にチケットを通す。

 チケットといっても個人識別用のIDパスに、リニアレールの乗車データを書き込んだものだ。まぁ、身分証明証というか、免許証にさまざまな個人識別情報を書き込んだものと考えればいい。

 だから、改札を通過して、吐き出されたIDパスを回収する。

 フェイトは私の後につずいてパスを改札に通し、恐る恐るといった風に改札を通過してきた。そして、返ってきたIDパスを手に取ると安心した風に表情を緩めた。

 よくできましたと、頭をなでてあげたい。いや、した。してあげたら、心の底から幸せそうに微笑んでくれたけど。

 さて、はっきり言って、私たちのIDパスは偽造品である。というと語弊があるか……。限りなく偽造に近い正規品であるといったところか。だからと言って、他人にすぐに見破られるようなちゃちなものではない。発行は確かに管理局の手によるものなので、正規品と言っても間違いはないのだ。

 ただ。

 もともと、私達には戸籍というものが存在してはいなかった。だから当然の事だが、私達の戸籍は偽造と言う事になる。もちろん、ミッドチルダの法律に照らし合わせても、管理局法に照らし合わせても、戸籍の偽造は、犯罪である。

 もう何年も前に死んだことになっているアリシア・テスタロッサという少女に戸籍が存在するはずもなく、ましてやそんな『私』から生み出されたフェイトにそんなものは存在するはずもない。

 プレシア自身がそれをどう考えていたかは知らないが、事実として私達に戸籍というものは存在していなかったわけで。正確に言えば、私の場合は、過去に起こった事故が原因で失効しているのだが。

 あるいはアルトセイム地方に引きこもっているだけだったならば、それほど問題にもならなかったかもしれないのだが。

 しかしながら、私たちの生活圏はプレシアの入院の件も含めて確実に広がっていったわけで。使い魔であるリニスやアルフはともかく、私達に戸籍がないのは、それなりに問題であった。

 そんな時に私達がとった手段は、プレシアの知り合いとか言う人物に連絡をつけた訳で。そしてIDを作ってもらった訳で。本来ならばそんなに簡単に受け取れるものではないのだけれど。

 つまり……いったい、どんな人たちと付き合っていたんですか、プレシア母さん?

 と、言ったわけで、私たちの元に、アリシアとフェイトのIDカードが送られてきた。ついでに、リニスとアルフの使い魔登録証も。

 これって、間違いなく偽造ですよね?送り主と偶々話す機会があったのでそのことを問いただしてみたら、限りなく偽造に近い本物だ、などと答えやがった。

 それってまったくの偽者じゃん、と言ったら、おお笑いして『逆だよ、逆』とのたまいやがった。

 つまり、私達の暮らす管理局という世界は、多くの世界を管理局の影響下においている。そしてそれはまた、多くの管理外世界というものを、新たに管理局に取り込んで拡大していっているのだ。

 その為に、管理世界には常に多くの移民が流れ込んでくる。そんな人達のために、管理世界は彼らのIDを発行することで、その管理を行っているのだが、どうやら、その管理IDを発行するための情報端末にハッキングをかまして私たちの情報を紛れ込ませてくれたらしい。後はお役所仕事で情報が右から左へと流れていくだけ。そもそもの入力情報のチェックには厳しい監視の目が向けられているが、いったん入力された情報が出力される時にはほとんどノーチェックの状態らしい。

 普通は入力よりも、出力側の監査を厳しくやるものだけど、と、言ったら、お役所とは得てして逆なものなのだよ、と言われた。うん、否定できない。

 だから、発行された戸籍情報は、管理局のコンピューターが発行した正式なものなのだそうだ。誤魔化したのは情報だけ。

 うわ、そんなことでいいのかよ、管理局?

 でも、結局、後になって調べてみると、やはり、それって実はとんでもなくすごい事で。

 普通は、犯罪やテロに利用されない為に設置された何重ものプロテクトを潜り抜けない事には、そんな事はできないんだそうだ。

 私も試したけど、二日がかりでやっと一つ目のプロテクトを突破できただけだった。あの時、リニスから背後で拳骨を落とされなければ、二つ目も突破できたのだが……、それはまぁいいか。

 とりあえず、私はこのとんでもない人、『ドクター』と名乗っていたが、に感謝の言葉を伝えておいた。あれ?『ドクター』?『ドクター』ってあのドクター?

 確かに、あの人も人造魔導士計画とやらの関係者でプレシアとも接点があったとかなかったとか『私の記憶』にあるんだけど、まさかね?あの人だったらこんなことに協力してくれるなんてぶっちゃけありえないし…。

 なんてこのときは思っていたけれど、このドクターの正体を知って、やっぱりあの人だったのか、と、とんでもなく吃驚するのは、もっともっと後の話。

 まぁ、そんな事はどうでもいいのだけれど、兎に角手に入ったIDは確かに本物で、使用には何の問題もなかった。そもそもの個人情報がちょっぴり間違っているだけなのだから。


 とりあえず、私とフェイトは、とりあえずクラナガンの中央駅の駅舎を出て、目的地へと向かう。

 目的地は此処からトラムに乗り換えて10分程度のクラナガン都心だ。

 お使いの目的は4つ。

 一つ、デバイスの売買をしているお店に行って、リニスの書いた指示に従ってデバイスの部品を購入ないしは注文をすること。

 小さな女の子二人のお使いだから持てるものは所詮知れている。

 だから、手にもてない部品……といってもほとんどの部品だが、は、アルトセイム地方の時の庭園まで届けてもらうのだ。

 本来ならば、小さな子には難しい内容かもしれないが、このお店、実はリニスの行きつけの店であったりもする。

 私達が訪れるのは初めてのことだが、リニスに届けられる発注伝票の発送元の店名から、リニスがこのお店をかなり贔屓にしているのがわかる。

 店主が私達のことは知らなくても、リニスの事はおそらく知っているだろう。

 よほどの気難しい人物であれば便宜は図ってくれると思う。もしそうでなければリニスも私達のお使いに、この店を指名する訳がない。そこまで気が回らない使い魔ではないのだ、彼女は。

 それに、おそらく、事前に店側に連絡して、私達の来訪を伝えている事だろう。

 だから私達は、店主に欲しいものを伝え、それを庭園まで届ける事を伝え、購入した品物の金額を払えばそれでお終いである。

 まぁ、私なら楽勝なので、私がやってしまっては意味がない。これは、フェイトにお任せする事にする。

 次に、これはお手伝いでもなんでもないのだが、どこかのお店で昼食をとること。

 これも社会勉強の一つではあるのだが、どうにもフェイトはこういったお店で、ものを注文するというのが苦手である。頭はいいのだが、人前に出るとどうにもあがってしまうらしい。

 対人関係が非常に限定されてきた彼女らしい弱点と言えばそうなのだが、早めに克服しておく必要があるのも確かだ。

 だから、少しでも、お店での注文に慣れる為にも、というリニスの考えであるのだろう。

 三つ目が銀行でお金を下ろすことである。

 リニスから渡された現金は、デバイスの部品を買うためのお金とちょっぴり豪勢な昼食をとるのでぎりぎりのお金だ。

 ああ、勿論、リニアレールの往復料金とトラムの利用料金はここから除いてある。

 昼食を節約すれば、少しは手元に残るのだが、これもフェイトの訓練のためである。

 それで何故、お金を下ろす必要があるかと言うと、プレシアのお見舞いの品を購入する為だ。

 ちなみに、このクラナガンで物を購入するのには三つの方法があり、一つはもちろん現金で取引をする事。

 紙幣と硬貨があるのはどこの世界も同じようなものである。

 さまざまな世界の出身者が集まってくるクラナガンだが、やはり出身世界では貨幣経済が主流だった世界が多いらしく、この世界でもまだまだ貨幣の使用頻度は極めて高い。

 二つ目の方法がクレジットカードを使った決済を行う方法だ。

 やはり、この世界でもある程度の支払い能力を持っていればクレジットカードが手に入る。

 ただ、地方に行けば行くほどカードが使用できないお店が増えてくるものまた事実。

 逆に言えば、クラナガンほどの巨大都市であればほとんどのお店でクレジットカードでの支払いができる訳で。

 実のところ、私はこっそりリニスからプリシアのカードを手渡されている。

 この世界ではIDカードと一緒に提示する必要があるが、カードには決裁可能者の情報も同時に記載されており、IDとの同時提示で子供にでもカードの利用ができるのだ。

 カードには個々の登録情報毎に、一度に、あるいは決裁期間毎に使用できる購入金額の上限設定もされている。だから子供が勝手に持ち出しても、無茶な買い物が出来ないようになっているのだ。でも、私とリニスは無制限設定になっているようだけど。

 加えて、細々としたルールも存在するのだが、それはまた別の話だから、この場はおいておく。

 だから、いざとなれば、これで支払いができるわけだ。渡されたカードを見て、それがいわゆるプラチナカードだった事に、ちょっぴり、いや、かなり驚いたけど。

 ちなみに、フェイトには渡さなかったその理由は推して知るべし。

 そして、最後の方法が信用手続き済みの金額情報が記載されたカード、つまりはプリペイドカードを使用する方法だ。

 これはクレジットカードと同じ方法で支払いができるのだが、その支払いに決裁手続きが済んでいる……つまりは使用者に制限がないという利点がある。

 たとえば、額面に記載されている金額がいくらであったとしても、その使用者に制限がつかないというものだ。あるいは記載金額の枠内であれば、使用者が如何なる人間であれ……例えそれが人以外の何者か出会ったとしても、使用金額の上限は存在しないし、使用制限も発生しないのだ。噂によると犯罪者の取引によく使用されている事もあるという事だが。

 今回はこの3番目の方法をフェイトに銀行で行なってもらう。まぁ、例によって私がやってしまっては意味がない。あくまでもフェイトの教育が目的なのだから。

 それはともかく。

 私達のお使いの最後の目的が、銀行でおろしたお金……実際にはプリペイドカードだが、を使ってプレシア母さんのお見舞いの品を買って、彼女のお見舞いに向かうことだった。

 お見舞いの品は、私とフェイトで一つづつ。これが本当の目的と言えば目的になるだろう。リニスもいろいろと考えているようである。

 実は、それを聞いてフェイトがおお張り切りで、お見舞いの品は何がいいかなといって、昨日はなかなか寝付けなかったのは彼女の名誉のために秘密にしておこう。

 一緒の部屋で寝ている私にとってはバレバレだったし、アルフとなにやら念話でウンウン唸りながら相談していたらしかったけど。

 私が早々に布団にもぐりこんでしまったので遠慮して私には話しかけてこなかったけどね。

 遠慮なんかしなくて、相談してくれればよかったのに。

 
 そんな私達は、リニアレールの駅舎から少し徒歩で移動して、今度はトラムに乗り継いだ。

 クラナガンの中央にある繁華街に移動するためだった。

 とりあえず、フェイトもだいぶ慣れたようでリニスに指示された駅名の書いてある切符を購入し私たちは移動を開始した。

 ちなみにトラムの切符は、よくあるチケットタイプのものだった。

 トラムに乗り込もうとして私はふと足を止める。

 背後を振り返ってきょろきょろと周囲を確認する。

 「どうしたの?」

 いや、どことなく見知った様な気配が背後からしただけで。振り返ってみれば、どこにでもあるような雑踏の中に人々が行きかう光景が広がるだけ。

 気のせいか。

 「ん、ううん、なんでもない」

 なんとなく、誰かに見られていたような気がしたのだけれど……。

 ふと、私はひとさし指を唇に当てて、念話を送った。

 『リニス~耳と尻尾が見えてますよ~』

 がばっと、この暖かい日差しの中で厚いコートとサングラスをかけた、いかにも怪しい格好をした女性が、帽子をかぶっているその頭を抑えた。その手には、撮影用の携帯カメラを持っている。

 その隣で、駅舎の案内板の陰に隠れたのはアルフだろう、ちらちらっとこちらをのぞいている。オレンジ色の髪の毛がそもそも案内板からはみ出してはいるのだが。あれで隠れているつもりなら、他人の尾行は到底無理な話だろう。

 『……』

 『………』

 『……二人とも……あとで一緒にお説教フルコースね?』

 『はっ!はわわわわ!?ちょっと、アリシア、待ちなさい!』

 『あ、あたしは悪くないよ!?リニスがどうしても、ついていくんだって』

 『こら、アルフ!裏切るんじゃありません!最初に二人が心配だからついていこうと言い出したのは貴女の方でしょう!?』

 『嬉しそうに、プレシアと連絡を取っていたのはリニスじゃないか!?』

 うん、手に持っているカメラと彼女達の台詞から、彼女達の背後に黒幕の存在がある事も理解できた。なにやら泣き声と弁明の言葉が聞こえてきたが、私は一方的に彼女達との念話を打ち切った。

 後で、二人とも……いやプレシアを含めて三人か。きっちり、お説教しなきゃね。

 くふ、くふふ。くふふふふふふ。

 どんなお仕置きがいいだろうと、そんな事を考えていたら、不思議そうな顔でフェイトが私の顔を覗き込んでいた。

 「あれ、どかした?」

 「ううん、何かとても楽しそうだったから」

 「ああ、なんでもない……事はないか。うん、この後、お母さんの病室にお見舞いに言った時の事がとても楽しみなだけだよ」

 「そうなんだ。うん、私も楽しみだな。母さん、何を持っていくと喜んでくれるかな」

 「ふふふ、そうだね。とりあえずはまず銀行に言って、リニスのお使いを済ませて、それからお食事をしながら考えようか。でも、フェイト、昨日色々考えたんじゃなかったの?」

 「うん、考えたけど、お母さんが喜びそうなもの、たくさん思いついて迷っちゃった」

 「例えば?」

 「在り来たりだけど、お花とかはどうかな」

 「いいけど、鉢植えは駄目だよ?昔からお見舞いに鉢植えは根が生えるからってよくないんだよ」

 「根が生える?」

 「うん、根が生えて、病室から退院できなくなるって」

 「ええ!?」

 顔色を青くするフェイトに、私はくすくすと笑みを浮かべた。

 「まぁ、べつに気にする必要はないかな。心がこもっていればお母さんも喜んでくれるだろうし」

 実際に、此処最近はフェイトのお見舞いの品も、それなりに喜んではくれているようだった。

 ついつい緩んでしまう頬を、私とリニスがからかうものだから、必死で冷静なふりをして、取り繕っているだけなのである。

 「とは言え、生花はあまりよくないと思うな。実はあれはあれで、始末に困るのだよね。例によって食べ物にしようか?」

 「うん、えっと、チョコボット?」

 「それはフェイトが食べたいだけでしょ?」

 「うーうー、でもでも!母さんも好きだって言ってたよ?」

 それでもいいか。お母さんも甘いものが嫌いなわけではないし、実のところ、私もお気に入りの食べ物なのだ。

 フェイトも大好物らしく、夜中に歯磨きをした後に、こっそり食べていたのがリニスに見つかって、彼女にしかられた事がある。うん、その時、知っていながら黙っていた私もしかられた。その後、しばらくチョコボットを取り上げられたのは記憶に新しい出来事だった。

 どこぞの母親が、就寝時間後に医師に隠れて、こっそりチョコボットを食べていて看護婦のお姉さんに見つかって、しかられたらしいと言うのも比較的新しい記憶だ。うん、何故か、その時、私に連絡があったんだよね。だから、彼女が病室に隠し持っていたものを含めて全部取り上げた。ほんと、保護者はどっちよ?

 けれども、そんなんだから、きっと喜ぶには違いない。

 「あはは、そうだね。お見舞いにはともかく、ちょっと買っていこっか?少し多めに買って、お母さんの分を渡したら、後はもって帰ればいいのだし」

 「うん!」

 おやつ程度に限度をわきまえて食べる分にはリニスも許してはくれている。お昼とか夜のご飯が入らなくならないように途中で取り上げる事がたびたび発生しているのだけどね。

 フェイトは素直でいい子だから、ストップをかけても文句を言う事はないけれど、目に涙を一杯に浮かべて、指を口にくわえて我慢している様子を見ると、つい情に流されてしまいそうになるけど、それをぐっと我慢する。でも、胸に降り積もってくる罪悪感に耐えられない。そんな時は、夕食に後に、彼女の机の上に、ほんの一つまみ、チョコボットを置いておくのだが。ああ、我ながら、甘い姉である事よ。

 そして、その後、なんか私だけが悪者になっているような気分にさせられた、そんな腹いせに、リニスの大好きなお菓子を隠してしまうのだ。知っているぞ、リニスだって、こっそりキャンディとか夜中に食べてうっとりしているのを。


 ともかく、私とフェイトは順調にお使いの前半戦はこなす事ができた。

 デバイスの部品の注文は、簡単に終了した。注文表をあらかじめリニスからもらっていたので、それを手渡して、お金を清算するだけだった。

 お金もリニスからもらっているものを手渡して足らない分は、カードから払い落としにする。

 これは私の役目だった。フェイトもやりたがっていたけど、カードの情報は私で登録してあるからフェイトでは支払いができない。それだけの事だった。その後の、銀行でお金を下ろすのは、フェイトにお願いした。

 「さて、お金も手に入ったし、先に食事を済ませちゃおうか?」

 「うん!」

 「フェイトは何が食べたい?」

 そう言いながら、私は背中に背負った猫の形のリュックサックから、タウンガイドを取り出した。

 ちなみに、フェイトはわんこの姿のリュックを背負っている。リニス手作りでリニスやアルフそっくりだったりする。

 「パスタ!」

 「また?」
 
 べつに非難した訳では無いのだが、フェイトがしゅんとうつむいた。

 此処最近、パスタがフェイトのフェイバリットらしく、クラナガンに来るたびにパスタのお店に立ち寄っている。

 「あ、えと。うん、アリシアの好きなものでいいよ?」

 そうは言ってるけど、目が子犬のようにうるうると潤んでいる。こんな目をされては、私は逆らう事ができない。

 わざとらしくため息をついて、肩をすくめた。

 「仕方ないなぁ。ま、私も丁度食べたいパスタのお店があるから、そこに行くとしますか」

 「え、いいの!?」

 フェイトの目がキラキラッと輝きだす。現金なものだなと思うけど、そこがまた可愛いのだから、私も甘い人間だ。

 「いいもなにも、私も丁度行きたかったんだもん」

 そう言いながら、情報誌をぱらぱらとめくっていく。

 実は、すでに昨日の段階で、新装開店したばかりのパスタのお店を調べておいたのだ。そのページをフェイトに指差してみせる。ポストイットがぺたりと張られている。油性のマーカーでお店の地図と名前が大きく丸印で囲まれている。

 それを見てぷくぅっとフェイトが頬を膨らませた。

 「最初から行くつもりだったんだ!意地悪だよ!」

 「意地悪でいいもん。だったら……此処に行く?」

 私が、パスタの店に続けて示してみせたのは、激辛で有名なカレーの専門店だ。フェイトは辛いのが苦手だから、たちまち目に涙が浮かぶ。実は嗜好はフェイトとあまり変わらないので、実は私も激辛なのは不得意。でも、ピリ辛は大好きかな。

 「いぢわるだよぅ~」

 ぽかぽかと叩いてくるフェイトに、くすくす笑みを浮かべながら、もう一度最初のお店のページを開いて見せた。

 「まぁ、カレーのお店はまた今度にして」

 「絶対に行かないよ!!」

 「そこは無理やり連れて行くとして、今日は、このお店にしよっか。えっと、丁度このすぐ近くなんだよね。もうすぐお昼時だから、込み合う前に席を取っちゃおう」

 「うん!」

 と、言った感じで向かったお店は、大通りに面したとても綺麗なお店で、まだお昼まで少し時間があるにもかかわらず、でも、丁度込み合い始める前の時間帯だったので、子供二人、席を確保する事ができた。

 店員さんが、何故だかあったかいものを見るような視線で私達を見ていたのは……まぁ、しかたないか。

 怪しげな格好をした例の二人組もお店に入って、隅っこの方に座席を確保している。フェイトは気がついていないようだけど。

 明らかにカメラをこちらに向けているのに、どうしてこの子は気がつかないんだろう、とフェイトの顔を見ると、どうしたの?とでも言うように、彼女は首をかしげた。

 「なんでもないよ。さて、何を注文する?」

 「えっとね、今日はこれ!」

 「じゃぁ、私も同じものを注文しますかね」

 二人で頼んだのはきのこと鶏肉のクリームソースをかけたパスタ。それが楽しみでならないフェイトは、上機嫌で身体を左右に揺らしている。

 そこに、くすくすと言う笑い声が聞こえた。隣の席の若い男性と女性がそんなフェイトの様子を見て優しげな笑みを浮かべていた。どうやら、その視線に気がついたらしいフェイトは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

 「あははは、ごめんね、あまりにも嬉しそうだったから」

 隣の席の女性が話しかけてきた。長い髪の毛の綺麗な人だった。女性らしい体系の人だった。男性の方はなかなか立派な体躯の持ち主だった。

 「あ、あの、その、えと……」

 「いえいえ、実際に嬉しそうなのですから、かまやしません」

 「ふふふ、本当にごめんね。それにしても、二人ともそっくりね。姉妹?」

 「はい」

 「そう、今日は二人でお買い物?」

 「そうです、それからお母さんのお見舞いに行こうと考えてまして」

 「あらま、えらいわねぇ」

 女性の方は感心したようにうんうんと頷いていた。

 「そんなことはありません。定期的にお見舞いに行かないと暴れだすんですよ。そうなると、病院にとても迷惑がかかるので……私に苦情が来るのですよ。だからこれは定期訪問のようなものなのです」と言う事を、見た目5,6歳の少女が言うのだ。

 女性の方は一瞬目をまん丸にしたけれど、すぐにお腹を抱えて大笑いをし始めた。
 
 「あっはっはっは!それは、なんとも、あれな母親だね」

 冗談だと思っているのだろう。しかし、事実、最近プレシアはフェイトを連れて行かないと、とたんに不機嫌になるのだ。私が行かないと暴れだすらしい。

 「ええ、なんとも困った母です」

 眉をしかめて言う私の姿が、妙につぼにはまったらしい。私とその女性と顔を見合わせてくすくすと笑いあった。

 「ああ、そう言えば、自己紹介がまだだったわね」

 「そういえば、では私達から。アリシア・テスタロッサです。そしてこっちが……」

 「フェイト・テスタロッサです」

 赤い顔でフェイトがぺこりと頭を下げる。

 「あらあら、ご丁寧に。じゃ次は、私達ね。私の名前は、クイント……」

 その時、店の外が急に騒がしくなった。パンパンと言う破裂音のような音が聞こえてきた。

 「あれ、何が起こったのかしら?」

 いつの間にか、私のすぐ隣の椅子に……4人がけの椅子だった。男性もフェイトの隣の椅子に座っている……座っていた女性が、凄く真剣な表情で立ち上がる。

 その瞬間、荒々しく、お店の扉が開け放たれた。

 「全員、手を上げて立ち上がれ!」

 拳銃などで武装した三人組が、お店に中に入り込んできた。


 実のところ、クラナガンという都市は、さほど平和な街と言う訳ではない。

 この次元世界の首都であり、管理局の中枢である都市には違いないのだが、けっして犯罪の発生率が低いと言う訳ではない。

 むしろ高いと言ってもいい。無法地帯と言うほどではけっして無いのだが、やはり、アルトセイム地方のような田舎の地方と比較すれば、発生率は高いと言わざるを得ない。 

アリシア・テスタロッサの憂鬱 その3

2012年08月10日 | 雑談
 一方でリニスはそんな二人を真剣なまなざしで見ていた。

 模擬戦はフェイトの勝利、それは、最初から予測していた事だったから、驚くべきことではない。

 アリシアが、フェイトを上回る数のスフィアを生み出した事も、そのときは軽く驚きはしたが、彼女の魔法の使い方の上手さからすれば、できてもおかしくはない事だった。

 その分、一撃一撃の制御や威力に甘さが見られたが、それでもあれだけの数の魔力を生み出したのだ。むしろ褒められるべき事である。

 それよりも、と、リニスはフェイトに視線を向ける。

 必死で、アリシアを開放するフェイトの身体を防御するバリアジャケットの一部に破損が見られる。

 魔法の攻撃が彼女の身体にダメージを与えた痕であった。模擬戦ではよくある話であった。

 けれども、である。

 アリシアの攻撃のほとんどは、フェイトのフォトンランサーでかき消されていた。

 しかし、数の違いから、撃ち落されずにフェイトまで到達した数発が存在したのだ。

 それでもまだ、フェイトはその攻撃に対して防御魔法を展開した。

 何度も言うが、フェイトの魔力は、将来的にどうなるのかはわからないにせよ、アリシアのそれを圧倒している。

 まして、威力に割り振るリソースを数に割り振って、威力の減衰した魔力砲弾など、幾ら防御力の薄いフェイトの魔力壁であっても容易に防ぐ事ができたはずだった。

 それがフェイト本人に着弾している。

 一発であったならば偶然で片付けていた。

 しかし、それが二発であった。

 フェイト自身にはほとんどダメージを与えていないようだ。

 それでも、彼女の魔力防壁を貫いて彼女に攻撃を加えている。

 はたして、これが何を意味するのか。リニスは一人頭を悩ませるのだった。


 気がつけば、私の上に覆いかぶさるようにしてフェイトが泣いていた。

 どうやら、私は模擬戦で、フェイトの魔法を受けて気絶してしまったらしい。

 そして、そのまま、湖に落下。

 そんな私をフェイトが岸辺に引き上げてくれたようだった。

 涙で顔をくしゃくしゃにしながら、フェイトは「ごめんね、ごめんね」と何度も繰り替えしていた。

 そんなフェイトの頭をやさしくなでながら、彼女の所為ではない事をフェイトに伝える。

 本当に、今回の事は彼女の所為ではないしね。

 そもそも、私の魔力量が少ない事が原因だ。

 フェイトにはかなうはずもないが、それでも模擬戦を挑んだ。

 自分から言い出したことではなかったが、それでもそれを受けたのだ。

 彼女の得意分野である空中戦。

 少しは、相手になるかと思ったんだよ、本当だよ?

 魔法の練習をするようになって、改めて自分の魔力量とフェイトのそれとの差を感じる事はあったけれども。

 それでも、こうして模擬戦をするからには負けたくはない。

 勝つ事は難しくても、負けないと言う選択なら、何とかなるかもしれない、いや、何とかしたい。

 それが私の「お姉ちゃん」としての威厳と言うものだ。

 だから、事前に、リニスから渡されたストレージデバイスのプログラムもできるだけ魔力負担にならないように、自分に合うようにカスタマイズした。

 リニスから渡されたデバイスはフェイトと私で性能的にはまったく同じもの。

 魔法は基本的な術式が幾つかと、術式制御補助の為の簡易AI。

 どうやって手に入れたのか知らないが、管理局武装隊の訓練用のデバイスだった。

 こんなものが市販されているとは思えないが……されているのか?

 フェイトにとっては物足りないかもしれないけど、私にとっては性能的には十分なものだった。

 それに、デバイスの性能が戦闘の優劣を決めるものではない。
 
 どちらかと言えば、魔力量がそれを決定付けるのだが、そこはそれ、やりようは幾らでもあると思ったのだ。

 自分なりには、ぎりぎり接戦にまで持ち込めるかと思ったんだ。

 極力魔力リソースを減らし、威力を犠牲にした代わりに弾数を増やした魔力砲撃。

 フェイトの現状の魔力では、フォトンランサーの魔力スフィアは出せて3つ、魔法の精度や威力の減衰の事を考慮するとせいぜいが二つぐらいだとふんでいた。

 その弾数を上回るだけのスフィアと、魔力砲撃の数を打ち出す事ができれば、何とかフェイトにまで砲撃が届くかもしれないと考えたからだ。

 だから、最低でも4つ。

 フェイトのそれを上回る為には最低でも4つのスフィアを精製する必要がある。

 威力で勝てないのなら、数をぶつけるまで。

 後になって考えてみれば、それ以外の魔法。

 例えば、サンダースマッシャーとかの魔法を使われたら、それこそ私の負けはゆるぎないものだったはずだ。

 この辺は少し反省。

 今後の、戦術に大いに改良の余地が残されるところだった。

 主に対フェイトの模擬戦に関しては……だけどね。

 私は制御が不安定になって、時折ふらふらと揺れる身体を何とか立て直しながら、フェイトの前に浮かび上がる。

 そんな私を、フェイトは不安そうに見つめている。

 「お姉ちゃん……大丈夫?」
 
 優しいフェイトは心配そうに私に尋ねてきた。

 正直大丈夫ではありません。

 スフィアの制御の為に、飛行魔法の制御リソースには、最低限の魔力しか振り分けていないから。

 フェイトみたいに、何の揺らぎもなく空中に浮いている事ができないだけです。

 これでも、普段はもうちょっと上手く、空中に浮いている事ができるんだよ、本当だよ?

 一応、移動もできるんだよ?

 子供の駆け足ぐらいの速度しか出せないけど。

 一方でフェイトは、空中戦の申し子のように、高い機動と優れた空中戦闘能力を有している。

 いまも、何のよどみもなく空中に浮いている。

 私の魔法は『空中浮遊』だけど、フェイトのは『空中飛行』なのだ。

 そこのところ、間違えてはいけない。

 私は、何とか浮いているだけ。一歩でフェイトはちゃんと『飛行』しているのだから。

 そんな彼女に虚勢であると言う事はわかっているけれども、胸を張って見せる。


 「あわわ、うん、大丈夫、大丈夫……たぶん」

 大丈夫と言った瞬間にぐらっと体が揺れた。

 うん、ごめん、やっぱり正直なところ大丈夫じゃありません。

 今からでも地上に降りたいぐらいです。

 でも、そんな事はいえない。

 だって、ほら、私、曲がりなりにも「お姉ちゃん」な訳だから…。

 ああ、こうしてみると『私』もだいぶ『アリシア』としての私に順応してきたなと思う。

 こうやって自然に自分の事がフェイトの『お姉ちゃん』と考える事ができるのだから。

 それはそれで、やっぱり嬉しい事だと思う。

 そんな事を考えているうちにリニスからの念話が届いた。

 私たちの魔法の教師であるリニスは、眼下の岸辺で私達の模擬戦を監視している。

 もう一人、フェイトの使いまであるアルフが湖の上で浮遊しながら私達の戦いを眺めていた。

 アルフもまた、リニスの生徒となるのだが、フェイトの魔力を受け継いだ彼女は私より魔法の才能は優れている。

 だから、今回はもしものときの為に待機しているのだ。

 正直なところ、フェイトにもしものことなんて起きるはずがない。

 リニスもアルフも私に何かがあったときの為に、こうして模擬戦を見ているのだ。

 空中戦では事故もまた多いからね。

 万が一、私が空から落下したときの為にいるんだろう。

 周囲に被害を及ぼさない為の結界の維持をしている、と言う理由もあるのだが。


 私とフェイトはそんなリニスたちに戦闘準備が完了している事を告げる。

 模擬戦だから、戦いの開始の合図が出るまでは、術式の使用ができない。

 けれども、頭の中で戦闘のシミュレーションを行う事までは禁止できない。

 だから、私はフェイトがどんな戦法で来るかをいろいろと思案している。

 『それでは、はじめ!』

 リニスが模擬戦の開始の合図を出した。

 さぁ、はじめようか、術式展開開始。

 私がデバイスに魔力を流し込み始める。

 体が淡い紫色の光に包み込まれていく。

 これを魔力光と呼び、魔法を行使するときに発生する発光現象だ。

 この光の色は、個人によって差が生じ、生まれたときから、生涯その色が変わることがない。

 私の場合は、この淡い紫色の光がそれだ。

 フェイトも同じように金色に近い黄色の光に包み込まれていく。

 これがフェイトの魔力光。

 親子でも遺伝する事はないから、それは本当に個人の資質によって決まる事になる。

 もっとも、どういう理由で色が決められるのかは、いまだわかっていないそうだけど。

 この光の色の所為でフェイトとプレシア母さんの間に確執が生まれる事となるのだが、それはまた別の話。

 いや、すでにその確執は徐々にではあるが溶け出そうとしている。

 だから、今の私がそれを気にする必要はない、今のところは。

 そして私の光の色は、『アリシア・テスタロッサ』の個人の色だった。ちなみにプレシア母さんは濃い紫色の光。

 フェイトが母さんとよく似ている私の魔力光を見て羨ましそうにしていた事があるけど、私からしてみれば、その魔力量のほうが余程羨ましいよ。

 魔力の光が身体を包み込むと、ストレージデバイスが起動する。

 あらかじめバリアジャケットは展開済みだったが、これで完全に私とフェイトの戦闘体制は整った事になる。

 フェイトも同じように、いつもの黒いボディスーツに真紅のベルト、そして風になびく黒いマントと言ったバリアジャケットを身にまといストレージデバイスをすきもなく構えていた。

 あちらも戦闘準備は完了しているようだ。

 ちなみに、私のバリアジャケットは某聖杯戦争の赤い魔女が通っていた学園の制服をモチーフにしてみた。

 と言うか、あれそのまま。あれに分厚いコートを身にまとっている。

 どちらかといえば、重装甲だ。

 それなりに魔力を食うので魔力量に不安のある私にとってはいささか重荷となる防護服だが、魔力量と防御力が比例してしまうこの世界では少しでも厚い装甲を身にまとう必要があると考えたからだ。

 もともと、私に機動力なんて求められても仕方ないしね。いざとなれば、このコートは外す事もできるし。

 何で、この制服だと言うとそれはなんとなく。

 だって、あの制服(冬服)って凄く重いイメージがあるもの。

 さても互いの準備も完了した事だし、改めてフェイトと対峙する。

 「地上に降りても……いいんだよ?」

 フェイトが、また心配そうに声をかけてきた。

 やはり、彼女は、私にとって明らかに不利な状況で模擬戦をするのは心苦しいらしい。

 地上戦なら、空中浮遊に魔力を割く必要がないので、少しは私に有利な戦いができるからだ。

 といっても、それはほんのちょっぴりの事なので、あえて私は空中戦を選んだのだ。

 でも、心優しいフェイトは、そんな私のことが心配で仕方ないのだろう。

 「あはははは……うん、心配は要らないよ。そんな事よりも、油断していると、足元をすくわれるよ?」

 「うん、大丈夫、油断はしないよ」

 するわけないですよねー。

 と言うか、してください、お願いですから。

 でも、そんな事をお願いするぐらいなら、はなから模擬線なんか挑まなければいいのだ。

 とりあえずは、今は私のできる全力を出してぶつかるまで。

 フェイトの胸を借りるつもりでやるまでです。

 私は、ストレージに仕込んだ術式を起動する。

 「術式展開……第二式……ライトニングランサー詠唱開始」

 ストレージに魔力を導いていく。

 それが術式となってストレージを駆け巡り、魔法の杖の中に封じ込められていたプログラムを展開していく。

 私の周囲に幾つかの魔法陣が展開して、その中心部から、魔力の塊が視認できるほどの密度になったものが出現する。

 スフィアと呼ばれる魔法の砲身だ。多くの魔法使い達はこのスフィアを発生させて、魔力の攻撃を行う。

 数にして5つ。

 かなりの魔力が私の身体の中からそのスフィアに流れ込んでいくのがわかる。

 しかしながら、どうにか制御する事はできているようだ。

 下手をすれば、スフィアの精製段階で魔力が尽きてもおかしくはなかった。

 ちょっぴり無茶をした自覚はあったが、どうやら、その無茶は成功を収めたようだった。

 ふっふっふ、フェイトとリニスの驚いた顔が見えるぜ。

 実はちょっぴり、くらっときたけどね。

 だが、フェイトが驚いた表情を浮かべたのは一瞬で、すぐに表情がきりっと引き締まる。

 その目には真剣な色が浮かんでいた事から、どうやら、本気で相手をする事を決めたらしい。

 嬉しいけど、ちょっぴり怖い。

 フェイトがデバイスを右から左へ振り払うと、彼女の周囲に二つの金色に輝くスフィアが浮かび上がった。

 詠唱をまったく必要とせずに、一瞬で術式を組上げてしまう彼女の魔法の才能と、それをなんともしない魔力量が本当に怖いね。

 そして、あのスフィアは、すさまじく高濃度の魔力の塊である事が見て取れる。

 その魔力量からして、私が選択した『ライトニングランサー』よりも幾分高レベルな砲撃魔法『フォトンランサー』だろう。

 今のフェイトが持つ魔法のなかでも、かなり高レベルな射撃魔法である。

 そのスフィアがパリパリと時折稲光のような光を発生させるのは、彼女の特性から帯電しているのだろう。

 フェイトもまずは砲撃戦を選択したようだ。
 
 私は術式を紡ぎ、フェイトもまた詠唱を開始する。

 「術式選択……ライトニングランサー」

 「フォトンランサーセット!」

 「「アルカス・クルタス・エイギアス……」」

 「貫け、ファイア!」

 「ファイア!」

 無数の魔法砲撃が互いのスフィアから発射されていく。

 魔法の発射間隔と、発射された弾道の総数は私のほうが明らかに上回っている。

 一方でフェイトから発射された砲撃は、わずかに数発だが、私の魔力弾の威力を大きく上回っている事だろう。

 だから、できる限り魔力弾を集束させてフェイトの魔力弾を撃ち落す。

 お互いの、魔力弾がぶつかりあり、激しく爆発を起こす。

 どうだ!

 流石のフェイトの魔法でも、あれだけの数をぶつければ、撃ち落せるだろう。
 
 けれども、その考えは甘かった。
 
 もうもうと立ち上る爆煙の中から、きらめく金色の輝きが生じた。

 次の瞬間には無数の魔力砲撃が私の目前にまで迫っていた。

 まったく威力を減じる事ができないままに、ほぼすべての魔力砲撃が、私の魔力弾を逆に撃ち落しながら私の眼前に迫る。

 あわてて、防御の術式を組み立てようと試みるが、生憎、私の魔力のほとんどが先の攻撃に使用しており、防御魔法を立ち上げる事ができるだけの魔力が残ってはいなかった。

 デバイスの自動防御機構もとりあえずは作動するが、フェイトの魔力は容易に私の魔力を上回った。

 そして、それはまた、私の防御服をも貫いていく。
 
 体中を駆け巡る激痛と共に、非殺傷設定の魔法が容易に私の意識を刈り取っていった。

 もう少し、何とかなると思ったけれども、まったく歯が立たなかった。

 ちょっぴり悔しい。

 次はもうちょっと工夫を凝らして、もう少し何とかしたいものだよね……。

 そして、湖に無様に落下した私はフェイトに泣かれる事になったのだった。
 


 その日の夜、私とフェイトは今回の戦闘のおさらいをしていた。

 私はほぼ一撃でフェイトに倒されてしまったが、それでも、フェイトよりもたくさんの魔力弾を生み出した事が彼女の興味を引いたらしい。

 基本的に、フェイトに比較して、私の魔術はまだまだ初級クラスのそれであり、すでに高度な魔法を使いこなすフェイトから比較してみれば、大人と子供ぐらいの差があった。

 そんな状態で、私がリニスの授業を受けているものだから、一緒に授業を受けているフェイトの魔法の勉強は大きく遅れを生じていた。

 それでも、私は日々の予習復習を欠かさないでいたし、何よりも魔法の勉強は楽しかった。

 自分が、本当に魔法が使えるなんて吃驚ものだ。

 元の世界ならば、それは少なくとも私の認識では、物語の中の出来事でしかなかった存在が、今私の目の前にあったからだ。

 そして、それがそれなりに危険なものである事も認識した。

 それはまた別の話になるのだが、フェイトと一緒に魔法の勉強をするのは楽しい。

 フェイトも私と一緒に勉強をする事はとても楽しいらしく、よく嬉しそうにニコニコとしているのを見る。

 一方でリニスはそんな私の勉強を見ながら、フェイトの教育をしなければならないらしく、特にフェイトの勉強の遅延が気になるようだった。

 優しい彼女は、私の前ではそんなそぶりは見せないのだが、よく一人で悩んでいるのを時の庭園の中では見かけた。

 でもある日、プレシアのお見舞いに行った後の彼女からは、そんな感じがなくなり、少なくとも、私達のいないところで苦悩する事はなくなったようだ。

 逆に、どこか嬉しそうにしている。

 だから、私はそんな彼女に質問をしてみた。


 「何かいいことでもあった?」

 「そうですね、あったといえばありましたけど、新しい苦労を抱え込んでしまったような気がします」

 そうは言いながらも、やはり嬉しそうな様子のリニス。

 新しい苦労とは、間違いなく私のことだろう。

 彼女はプリシアに私のことを相談しに行き、そして、魔法を教える事の許可を取りに行っていたらしい。

 そして、プレシア母さんはその許可を出したとの事だ。その、後からだった。

 リニスが本格的に私に、魔法を教えてくれるようになったのは。

 そしてフェイトのお勉強は、私が少なくとも、知識レベルが彼女と同じレベルになるまでは少し休憩と言うことになった。

 魔力量は遠く及びつかないが、知識はまた別であるとの事。

 私はリニスとフェイトに魔法の知識を学びながら日々を過ごしていった。

 まぁ、フェイトの勉強の邪魔をするのはまずいから、せいぜい頑張って、彼女の知識に追いつくことにするさ。


 と言っても、フェイトも魔法を勉強する事が楽しいらしく、予習を欠かさない。

 リニスも彼女の進み具合を見ながら、いろいろと課題を出している様子で。

 うむ、これは彼女に追いつくのは当分先になりそうだ。

 そんなある日の事、リニスが私達に模擬戦を行ってみると言い出した。

 「模擬戦?」

 フェイトが可愛らしく首を傾げて見せる。

 彼女は今までリニスとアルフの3人で勉強をしていた。

 基本的にプレシア母さんはフェイトを戦闘魔術師として育てようとしていたから、リニスもそのつもりでフェイトに魔法を教えてきた。

 だから、ある意味彼女の知識は魔法戦闘に大きく偏っている。

 その分、アルフが補助的な魔法を行くばかりかは習得していたが、それでも彼女も含めて戦闘に特化された存在だった。

 だから、リニスやアルフを相手に戦闘訓練をしてきたから、模擬戦がどんなものかは知らないわけではない。

 それでも、対人の本格的な戦闘訓練は初めて行うようだった。

 もちろん、私にとっても、初めてと言うか……なんですと?

 「ちょ、ちょっと待ってよ、リニス、模擬戦って何さ!?」

 「模擬戦は模擬戦ですよ?実際にフェイトとあなたが魔法で戦ってみるんです。フェイトにとってははじめての対人戦ですし、あなたにとっても、その実力を見てみるのには丁度いいでしょう」

 それはそうだけど、だからと言って、まだほとんど魔法の使えない私にとって模擬戦はかなり無茶なんじゃ?

 「そんな事はありません。確かに魔法の実力からすればフェイトの方がはるかに高いですが、その理解力に関してはあなたも、フェイトに負けるとも劣らないはずです。すでに初級とは言え、砲撃魔法の幾つかは習得したはずでしょう?」

 それはそうなんだけどね。

 私には無理ですよーって、態度で示してみたが、にっこりと笑って、模擬戦の実施を宣告したリニス。

 鬼、と小声でぼやいてみたら、ものすごい笑顔で睨まれた。

 あれだ、顔はとてもにこやかなのに、目がまったく笑っていない人を私は始めてみた。


 そんなわけだから、私がフェイトに勝てる要素は何もなかったのだ。

 それでも引き分けに持ち込もうといろいろと努力してみたのが、今日のあれだ。

 模擬戦の前に、リニスから渡されたストレージデバイスの中身をいろいろといじくってみたり。

 魔法の術式のプログラムソースを自分なりに軽くしてみたり。


 そのデータをフェイトの前に展開してみせる。

 「凄いね……ランサー系ってそれ程軽い魔法じゃないはずなのに、こんなに軽くなるんだ」

 フェイトが驚きの声を上げる。

 私を見るその顔が尊敬のまなざしに変わっている。

 いや、私は君に負けたのよ?

 そんな風に見られる覚えはないんだけどな。

 けど、そんな風に言われたら、種明かしをしてみたくなる。

 「うん、ランサー系ってさ威力の割りに魔力の変動が少ないから連射に向くんだけど、決して軽い魔法じゃないんだよね。だから、制御リソースは削らないように、威力だけ変動させてみた。後は余計な部分を削れるだけ削ってみた。だから、これを私ではなくフェイトが使ったのであれば、最低ラインで25個のスフィアから5発の魔法弾を打ち出せるかな。まぁ、それだと、一発一発は私でも防げるレベルの威力になっちゃうけどね。それでも、連続で攻撃を受ければ……あはは、私ズタボロにされちゃう」

 勿論、牽制用の弾幕に使うのであれば、十二分な威力だ。

 「凄いよ…」

 「そうかな?」

 「そうだよ、アリシア、凄いよ…」

 うん、そう言って貰えるととてもうれしかった。




 そして、それからの日々はほぼ平穏な毎日だった。

 プレシア母さんの病状もだいぶ快方に向かっているとの事で、それ程遠くない内に退院が可能だと言う事だった。と言っても、後、半年ほど先。しかもその後もしばらくは安静が必要との事らしいが。

 魔法の使用に関しては、しばらくの間制限がつくとの事ではあったが、放っておけばそれこそ命とりな病にかかっていた訳だから、私とリニスはほっと胸をなでおろした。

 一方で、フェイトとプレシア母さんの関係ではあるが、不器用ながらもどうにかコミュニケーションをとり始めているらしい。あれを親子の会話と呼ぶには程遠い。それでも会話が一応は成立しているのだから、まずは御の字だろうと思う。

 この前、お見舞いに行ったときに、プレシアのほうからフェイトに話しかけてきたことに対して吃驚した顔を隠す事ができずに、プレシアににらまれてしまった。

 しかし、いつもの事だが、顔を真っ赤にしながら、しどろもどろになりながら、自分の事を必死で伝えようとするフェイトの様子に顔が思わずほころんでしまう。

 クスクスとリニスと共に笑みを浮かべていると、ばつの悪そうな顔をしたプレシア母さんがじろりと冷たい目を向けてくるので、慌ててそっぽを向いたり。そんな様子が理解できずにきょとんとするフェイトを見て、プリシア母さんも含めて、改めて3人で苦笑を漏らしたり。

 そんな。どこにでもありそうな、だからこそ、とても暖かな日々が過ぎていった。


 さてさて。

 そんな平穏の日々のなか、私とフェイトの生活は多少の変化が生じていた。と、いっても実は大した事ではないのかもしれない。

 確かに、フェイトにとっては大きな変化かもしれないが、私にとっては、改めて言うほどの、それ程の変化ではないと言えるだろう。

 それは、ただ単に、一般常識の勉強が始まったと言うだけの事だった。ミッドチルダの言語から始まり、歴史、地理、管理世界で必要とされる社会的な常識。

 普通だったら、学校で勉強する極々当たり前の内容を勉強し始めたに過ぎない。

 もともとリニスはフェイトを一人前の魔導師として促成栽培するために生み出された使い魔だったから、彼女自身がどう思っていたかは別としても、フェイトにはどうしても魔法中心の教育を施すしかなかったのだろう。あくまでも魔法を重視した偏った教育を。

 しかしながら、本来、リニスと言う存在はプレシアの魔法技術や知識を凝縮さてて生み出された使い魔である。人並みの一般常識以上に優れた魔導師でもあったプリシアの知識を継承したリニスは普通に教師役をこなすに当たっても十分に優秀な人材であった。

 そんな訳だから、私とフェイトは、彼女の元で、様々な知識を得ることになったのである。


 けれども。


 そんな知識とは別に、一般常識という奴はどうしても座学以上に経験がものを言う事になる。今までが今までだから致し方ないとは言え、フェイトにはその部分がいささか不足しているように感じる。何せ、普通にお店とかでものを買ったりする事があまり得意ではないときたもんだ。

 なにせ、実際に、今、私の目の前でうーうーと言いながらリニアレールの切符を買うのに眉を潜ませている。駅舎の係員の人も、手助けをしていいのかどうか迷った風に、苦笑を浮かべている。まぁ、私が、彼女の背後で、彼らに向かって『だめ、だめ!』と手でばってんを作って手助けをしないようにしているのだが。

 時折、私のほうを振り返って「大丈夫だよ、一人で買えるよ、本当だよ?」と言ってくる。それでも、目が潤んでいるのを、私は見逃さない。うーうーと唸りながら、どのボタンを押したらいいか迷っている。ついにはいを決したように切符の購入ボタンを押した。

 そんな愛らしいフェイトを見ているのは、とても心が満たされるのだけれども。

 とりあえず、フェイトよ。

 まずはお金を入れたまえ。後、行き先のボタンが間違っているぞ?


 ちなみに、私達がいるのはアルトセイムと首都クラナガンを繋ぐ山岳地帯を突き抜けて走るリニアレールの駅だった。

 アルトセイムとクラナガンを一時間程度で結ぶ、市民の足だ。

 切符……といっても、その乗車情報と降車駅情報を書き込んだIDカードだが、を大事そうに握り締めるフェイトと一緒に私は駅に停車したリニアレールに乗り込む。


 以前に調べて驚いた事だが、このリニアレール、なんと電気で動いているのだ。

 『あっちの私』がいた世界では電気が当然の事だったけれども、『こっちの私』が住んでおる世界では何でも魔法で動いているのだと思っていたからだ。

 そんな事をリニスに行ったら、笑われてしまった。できないことはないらしいが、何でも『非効率的』だかららしい。

 たとえば、私の母親、プレシア・テスタロッサが研究していた大型魔導炉は戦艦レベルのエネルギー供給を可能とするものだった。

 確かに、この世界には魔導炉と呼ばれるものが存在する。その魔導炉のエネルギー源は擬似的なリンカーコアであり、瞬間的な発生エネルギーは既存の発電システムに比較してはるかに大きなものだ。プレシア母さんがかつて研究していたのもその魔導炉の大型なものだった。

 しかし、その維持には莫大なコストを必要とする。メンテナンスの費用も馬鹿にはならない。一般市民が使うにはコスト的には見合わないシステムなのだ。無論、それが軍事利用であるならば、そういったコストは度外視されるのですけどね、とリニスが苦笑していたっけ。

 例えば想像してほしい、駅と駅の間一区間の運賃が缶コーヒー二本程度の場合と高級レストランのディナーの料金ぐらいの違いがある場合、人はどちらのシステムを利用するだろうか?

 よって、普通一般市民は、やはり発電所で作り出した電力を利用した駆動システムを採用した交通機関を利用するのだ。

 といっても、いわゆる化石燃料を利用した発電システムは管理局の制度が制定されてからは衰退していて、風力や水力といった自然のエネルギーを利用した発電システムが主体らしい。

 実際に、私たちの住まうアルトセイム地方も、その豊かな水源と、山々を吹き抜けていく風力を利用した水力発電所や風力発電所が存在する。今度リニスに頼んで見学に連れて行ってもらおう。この世界の電力発電システムにはとても興味がある。

 そんな事を考えながら、私は、流れてゆくリニアレールの窓の外の風景を眺めていた。

アリシア・テスタロッサの憂鬱 その2

2012年08月08日 | 雑談
 結論から言って、リニスはこの、突然、嵐のように現れた少女の事が嫌いにはなれなかった。

 確かに出会い方があまりにも衝撃的過ぎて、彼女自身自分の中に生まれた感情が、驚愕をはるかに飛び越えていてとっさに反応できなかった事は確かである。

 今まで、フェイトの前に顔を見せる事すらなかったプレシアが突然、彼女達の前に現れて、なにやら訳のわからないことを口走りながらフェイトに対して暴力を振るおうとした時だった。

 突如開け放たれた部屋の扉から金色の風が飛び込んできて、跳躍したかと思うと、プレシアに対して蹴りつけてきたのだった。

 小さな少女の身体であっても、プレシアの身体は大きく吹き飛んだ。

 何事が起こったのか咄嗟には理解できなかった。

 なにせ、その少女は、フェイトそっくりであったからだ。

 確かにフェイトよりは少しばかり体が小さかったが、金色の美しい髪の毛から、整った顔立ちまで、本当にフェイトによく似ていた。

 いや。今にして考えてみれば、プレシアによく似ていたのである。

 思考が停止したままのリニスの目の前で、その少女に蹴り飛ばされたはずのプレシアがむくりと立ち上がる。

 「ア、アリシア?」

 その顔は、まるで信じられないものを目の当たりにしたかのような表情を浮かべて…突如その口から血を吐いて、再び倒れてしまった。

 「え、え?」

 今度は吹き飛ばした少女の方が、驚いたような顔をする。

 そして、彼女はプレシアに駆け寄ってとんでもない事を口にした。

 「ちょ、ちょっと、お母さん、お母さん!」

 大変だったのはその後である。

 倒れてしまってピクリともしないプレシアを慌てて病院へと搬送したり、泣いてプレシアから離れようとしないフェイトを宥めたり。

 その後、プレシアの容態があまり思わしくなく、地方の病院では精密検査をする事ができないからミッド中央の病院に移転する事になったり。

 その後の検査の結果で、プレシアが大事に至る一歩手前の状態だった事が発覚し、そのまま即入院生活に突入と言う事になった。

 当然と言えば当然で、今までほとんど休息らしい休息を取る事もなく研究を続けてきて、身体を酷使しすぎたのだ。

 プレシアは自身の入院に対して猛反対したが、アリシアが『お説教』をし、ともかく、しばらくは入院して様子見をする事になった。

 問題はそれだけではなかった。

 当然のことながら、突然現れた少女『アリシア』の事である。

 プレシアが入院した日の夜、彼女はフェイトたちに自分の自己紹介をした。

 自分の名前はアリシア・テスタロッサであると言う事。

 そして、多分、フェイトの『姉』であると言う事をだ。

 リニスからしてみれば、プレシアからそんな事をまったく聞いた事もなかったので、この少女の出自を疑ったものだが。

 それに多分ってなんだ、多分って。

 フェイトは彼女の事をいたく気に入ったようで。

 この後、アリシアの後ろをちょこちょことついて回っているのを見かけるようになった。

 ただ、アルフにとってはそれが気に入らないらしく。

 よく、アリシアを睨みつけるような目で睨みつけているのだった。

 アルフの印象は、一番最初に出会ったときに、フェイトを泣かせてしまった事に起因するものだ。

 一方で、リニスの彼女に対する印象は出会いほど悪いものではない。

 確かに、彼女の主を一撃のもとに気絶させてしまった事に対して思うところがないわけではない。

 けれども、彼女は主であるプレシアに自らの創造主であること以上の感情を持つ事ができないでいた。

 それはそれで、魔導師の使い魔としてあるべき姿ではない事は認めるが、彼女の娘であるフェイトに対する態度を考えると、自らの主の事を尊敬する事ができないのも致し方ないのではないだろうか?

 彼女のフェイトに対する感情は、主たる魔導師の娘に対するそれを超えており、親子に近い愛情をフェイトに感じていた。

 リニスは、それが、そういった感情であるという認識を、心の奥底にしまってはいたけれども。

 ともかく、身体はフェイトよりも一回り小さいけども、自分は彼女の姉であると言い張る少女に、リニスはいろいろと質問をしてみた。

 プレシアのこと、彼女自身のこと。

 特に彼女自身のことに対しての質問に対しては、少し言いよどむようなところがあったりしたけれども。

 概ね、アリシアがフェイトに対して好意的な感情以外のものを持っていない事を確認したリニスは、アリシアに今度は別の質問をしてみた。
 
 初歩的な魔法の知識から、この次元世界の知識、そして数学的な知識と幅広く質問を繰り返してみた。

 意外な事に、魔法的な知識はそれ程持ち合わせてはいなかった。

 いや、それどころか、初歩的な魔法の基礎知識も彼女は知らなかったのである。

 あの大魔導師の娘にしては意外だと思いながらも、フェイトも当初はこのぐらいのレベルであった事を思い出して苦笑を漏らす。

 使い魔というものは、創造されてすぐに必要な知識は、創造主によって書き込まれるものである。

 だから、リニスも『誕生』したその瞬間から魔法の知識を与えられていた。

 あのプレシア・テスタロッサの使い魔である彼女は、かなり高度な魔法の知識も所有していたのである。

 そこから先、知識を増やす為には、人間と同じように勉強を繰り返す必要があるけども。

 だから、まぁ、知識がなければ教えれば言いと思い直して、次の質問に移っていく。

 地理的な質問はほとんど答える事ができなかったが、一方で理数系の質問は淀むことなく答える事ができた。

 不思議に思いながらも質問を少しづつ高度なものにしていくが、リニスの持つ知識のほとんどにアリシアは回答を出した。
 
 アリシアにしてみれば、当然のことながら、次元世界の知識なんて持ち合わせていない。

 『私』としての知識の基準は、この世界のものではないわけだし、『アリシア』としての知識は彼女が生きていた頃のものである。

 いまは、二つの記憶が複雑に絡み合っているわけだけども。

 だから、そうではない質問、数学的なものとか物理学的な知識に関しては、もともと『私』の得意分野だったおかげですらすらと答える事ができた。

 見た目、5、6歳程度の少女が答えていい知識か否かは別問題として。

 リニスは思った以上にこの少女の知能レベルが高い事に気がついた。

 残念な事に彼女の魔力は、フェイトやプレシアに比べればはるかに低いものだったから、その知識が魔法に役に立つ事は少ないと思う。

 それでも、訓練次第ではリニスを追い越すぐらいにはなるかもしれないと感じた。

 この少女がそれを望むかどうかは別の話だけれども。


 入院が確定したプレシアのお見舞いに訪れたアリシアを迎え入れたプレシアの態度を見れば彼女が、プレシアの身内である事は間違いがない。

 どこかぼんやりと、病室の窓の外を眺めていたプレシアはリニスがはいってきた事にもまったく反応を示さなかったが、アリシアが訪れたときにはまったく態度を変えた。

 そこにいるのは、リニスの知る冷酷な女魔導師のプレシアではなく、どこにでもいる母親そのものだった。

 ただし……。一緒についてきているフェイトやアルフ、そしてリニスのことはまったく目に入っていないようだった。

 その事はアリシアも感じているらしく、そのたびに自分の母親に対して『お説教』をする姿を見かけた。

 リニスが驚いたことに、そんな時には、小さくため息をつきながらも、プレシアはリニスやフェイトに声をかけてくれるのだった。

 そんな時には顔を真っ赤にしながら、満面の笑みを浮かべるフェイトがいて、そんな彼女を満足げに見ているアリシアがいることにリニスが気づいたのは、プレシアの入院生活が半年ほど過ぎた後だった。

 ポツリポツリとではあったが、フェイトとプレシアが会話を交わす。

 プレシアは何を話していいのかよくわからないのか、魔法の勉強ははかどっているのかだとか、最近体長はいいのかだとか、とても親子の会話だとは思えない会話が繰り返されてはいるけれども。

 それでも、不器用ながらも会話が成立している事にリニスの心は満足でいっぱいだった。





 アリシア・テスタロッサと言う少女は魔導師としては並以下の水準であった。

 もともと、大きな魔力を持っていたプレシアの娘としては意外な事ではあったが、魔法の才能の継承は決して遺伝にばかり頼るものではないと言うのが現実だった。

 もっとも、彼女自身は、まったくそんな事を気にしたそぶりを見せる事もなく、フェイト達と一緒にリニスの魔法の講義を受けている。

 ただ、魔力の保有量は、確かに人並みのものでしかなかったが、魔法を使う才能に関しては、その優秀さをリニスも認めるところだった。

 魔力の量、そしてそれを扱う技量、それらを総合的に判断して下される魔導師ランク。

 もしかしたら、フェイトは当然のことながら、アリシアも結構高いランクを獲得する事ができるのではないかと、リニスは思う。

 『魔法使い』

 魔法を導く訳ではなく、使う。

 単純に個々の魔力の最大出力で言えばフェイトの方がはるかに大きい。

 これは、今のリニスには知るよしもない事だが、はじめから魔導師として誕生したフェイトと、残念ながら母親の偉大なる魔力を受け継がなかったアリシアという少女の差ではあった。

 しかしながら、魔力のリソースの配分で行くと、アリシアのほうがはるかに長けていた。

 小さな魔力を無駄なく配分し、最小の力で最大限の力を発揮する。

 もちろん、最大出力の違いから、例えば模擬戦を二人が行ったとき、アリシアの魔力がフェイトの防御力を突き抜けることはなかったけれども。

 それでも、単純な威力ではなく、魔力の精度や命中率の視点で判断すれば、アリシアのほうが上回っていることが多かった。

 もっとも、リニスからしてみれば、アリシアが魔法に興味を抱いたのは、複雑な思いだった。

 闊達なアリシアの性格から、純粋に魔法に対する好奇心であったのだろうけども。

 それでも、魔法に興味を盛ってくれた事はリニスにとっては嬉しい事であった。

 しかしながら、そもそもの彼女の生まれた理由は、フェイトを魔導師として一人前に育て上げる事。その使命にといってはアリシアの存在はあまり喜ばしい事ではなかった。

 プレシアがいれば、アリシアの教育は彼女に任せるのがいいのかとも思ったのだが、それはそれで問題がある。

 一つは目下プレシアは長期入院中であり、アリシアの面倒を見ることができないでいる。

 もう一つの方がどちらかと言えば重要で、フェイトがその事をどう思うかである。プレシアがアリシアばかり目をかけていればフェイトがその事をどう思うか、であった。

 フェイトの事だからきっと、その事を認めてしまうのだろう。

 それは、リニスにとって喜ばしくない。だが、彼女の懸念は、最終的にプレシアにその事を報告しに行ったときに払拭される。

 「だったら、あなたがアリシアの事も面倒を見てあげてくれないかしら?」

 「で、でも!」

 「フェイトの事だったら、気にしなくていいわ。契約の内容は今のところ変更するつもりはないけれど、そちらはゆっくりとでいいから」

 「は、はい……」

 「用事はそれだけ?今日はこの後検査だから、少し寝ておきたいの」

 「はい」

 その言葉に、リニスは内心とても吃驚していた。

 素っ気無いといえば素っ気無い返事である。

 しかしながら、リニスの命題である『フェイトを一人前の魔導師にする事』を否定まではしていないが、重要ではないように言ったのである。

 リニスの心には複雑な感情が生まれた。怒りなのか悲しみなのか。

 それでも、身体を横たえて目を閉じた主の邪魔をしたくない、リニスは病室を後にしようとして振り返った。

 その時である。

 「『二人』をよろしく頼むわね、リニス」

 小さな声であった。

 危うく聞き逃すところだった。

 「プレシア?」

 慌てて振り返りプレシアに視線を向けるが、すでに彼女は目を閉じて軽く寝息を立て始めていた。

 ああ、そういう意味か。勝手な解釈である事は否定しない。

 けれども、リニスはプレシアの中で何かが変わったのだと確信した。

 そして、彼女の使命にもう一人の少女の名前が書き加わったのだった。



 今日もアルセイム地方にある『時の庭園』の近くにある湖沼地帯で魔法の訓練をしている二人の様子をリニスは見ていた。

 模擬戦と呼ばれる魔法の実践訓練。

 二人ともバリアジャケットと呼ばれる防護服を展開している。

 この防護服は魔力によって構成され、魔力的なダメージはおろか、物理的な衝撃や、ある程度の慣性制御までできる優れた保護具である。

 この保護具によって、実践訓練で発生するダメージはほとんどないといっても言い。

 そもそも、模擬戦においては魔法を非殺傷設定と呼ばれる肉体的なダメージを与えない方法で使用するのが通常だ。

 この設定と防護服のおかげで、肉体的にはほとんど損傷する事はない。

 しかしながら、非殺傷設定といえども、痛みがないわけではない。

 そして、この設定時には相手の魔力、すなわちリンカーコアへと干渉するダメージを与える事になる。

 よって、ダメージが蓄積すれば、当然気を失う事もありうる。

 そうなると、半自動的なものではあるが、魔力によって生み出されている防護服が解除される恐れがある。

 仮に空中戦を行っていたときにでも、本人が気絶し、魔力の制御が解除されてしまった場合。

 当然、地面に向かって身体は落下し、万が一バリアジャケットまで解除されてしまっていた場合、怪我では済まされない事になりかねない。

 そんな事を少しでも防ぐ為に、たいていの場合には、模擬戦には立会い者がついているのだし、今回の場合はリニスが二人の様子を見ているのだ。

 そして、戦闘エリアとして湖沼地帯が選ばれたのも、落下しても、地面が湖ならばそのダメージがかなり軽減される為である。

 さて、そんな湖沼地帯の上空で二人の少女が対峙する。

 一人は、まったくゆるぎないよう数で空中に静止している。

 湖沼地帯を吹き抜けていく柔らかな風に、頭の両側で結んだ長い髪の毛が緩やかにたなびいている。

 春先の暖かな太陽の光に照らされて輝く金髪が眩い。

 その右手には、淡い輝きを放つ宝石を先端に埋め込んだ杖を持っている。

 その姿はまるで、魔法使いの杖のようだが、まさしくその通り、これはデバイスと呼ばれる魔法の杖だ。

 デバイスと呼ばれるものの中ではごく一般的に使われているストレージデバイスと呼ばれているもの。

 処理能力はさほど大きなものではないが、それでも魔法を使う時の負荷を大幅に減らしてくれる。

 一方の少女も同じようなデバイスを手に持っていた。

 こちらは左手にデバイスをしっかりと握り締めているが、空中に浮遊しているさまはどこか危なっかしい。

 片方の少女が飛行していると表現するのにふさわしいのに対して、彼女は、飛行していると言うより、まさに浮いている。

 時折、バランスを崩すのか、ワタワタと手をばたつかせている。

 両サイドをリボンで留めている少女とは違い、彼女は後頭部で一本に纏めている。

 そんな髪の毛の縛り方の違いのみで、この二人の少女は瓜二つと言ってもいいほど、よく似ていた。

 わずかに、ほんのわずかに、ポニーテールの少女の方が背丈が小柄で肉付きが薄い。

 傍から見ればとてもよく似た姉妹で、小柄な方が妹だと誰もが思うだろう。

 けれども。

 「お姉ちゃん、大丈夫?」

 心配そうにポニーテールの少女に問いかけたのは、若干背丈の高い方の少女だった。

 「あわわ……うん、大丈夫、大丈夫……たぶん」

 おっかなびっくりと言う様子で浮遊する姿勢を制御しながら、引きつった笑みを浮かべる姉と呼ばれた少女。
 
 『フェイト、アリシア。二人とも、準備はいいですか?』

 そんな二人に、足元から声が掛かる。
 
二人の足元に広がるアルセイム地方最大の湖の岸にいる、二人の家庭教師兼世話役である、彼女達の母親の使い魔でもあるリニスからの念話だった。

 『うん……』

 『大丈夫だよ!』

 『それでは、模擬戦を始めます。とりあえず、接近戦と近中距離戦闘で。戦闘範囲はマーカースフィアを浮かべておいたからそこから外には出ないように』

 リニスの言葉を裏付けるように二人を取り囲むように円形に浮かび上がる光の点が見える。

 半径で言えばざっと100メートル。

 『アルフ、万が一のときの為に待機をお願い』

 『あいよ』

 フェイトの使い魔であるアルフが返事をした。

 リニスは最後にマーカースフィアの位置をチェックする。

 湖沼地帯から外には二人の魔法が漏れていかないようにする為の防御結界でもある。

 魔法が当たり前のように存在する世界で、彼女達の練習風景が他人に見られることを懸念したわけではない。

 彼女達の魔法が、周囲の森林を傷つけないようにと言う、リニスらしい配慮であった。

 『それでは、はじめ!』

 リニスの合図に二人の少女は自分達のデバイスを改めてしっかりと握りなおす。

 二人の体が二色の魔力光に包まれていく。

 フェイトは金色に近い輝くような黄色。一方でアリシアのほうは淡い紫色の光だった。

 魔力量で言えば、明らかにフェイトの方が有利だった。

 高い機動力と空中戦に優れた才能を発揮し、速射性の高い射撃魔法を操り、格闘戦に優れるフェイト。

 一方でアリシアの戦闘能力はフェイトのそれに遠く及ばない。

 魔法への理解力はきわめて高く、その親和性もフェイトに劣る事はなかった。

 浮遊魔法も、どうにかやっと浮いていると言う程度のレベルでしかなく、移動すらままならないのが事実だ。

 空中移動にはそれなりの魔力的リソースを消費する。

 それだけの魔力量を割り振る事ができないでいるアリシアにとってはそれが精一杯なのだ。

 だから、空中戦をまともに仕掛ける事は、得策ではない。

 「地上に降りても……いいんだよ?」

 訓練とは言え、明らかに不利な状況の相手に戦いを仕掛ける事ができるほどフェイトはひどくはない。

 そして何よりも、本来はとても心根の優しいフェイトは、姉であるアリシアを心配して声をかける。
 
 「あはははは…うん、心配は要らないよ。そんな事よりも、油断していると、足元をすくわれるよ?」

 「うん、大丈夫、油断はしないよ」

 ちょっとぐらいはして欲しいものだと、アリシアは思考の片隅で考えながらも、デバイスに封じられた魔法を立ち上げる準備を始めていく。

 所謂ストレージデバイスと呼ばれるデバイスは、汎用性の高いデバイスで一般的に次元世界に広く頒布されている代物だ。

 一般的には規格で統一された魔法が封じ込められており、それを、呼び出す事で、魔法を行使する。

 当然のことながら、使用する魔力は、ある程度規格化されており、使用魔力水準を満たしている魔導師が使用する事によって、魔法が発動する事になる。

 使用者がその魔力量を満たしていなければ、魔法は発動する事はない。

 一般的に販売されているソフトウェアとハードウェアの関係と思っても、間違いはないだろう。

 販売されているプログラムは、万人は使えるように操作や規格が統一されており、誰もが扱ったとしてもおなじ操作であるならばおなじ結果を返す。

 当然、そのプログラムを使用するためにはハードウェアの能力が必要となり、能力不足の状態でプログラムを使用したとしても満足の行く結果を得ることができないだろう。

 ストレージデバイスもまた同じなのである。

 ただし、である。

 当然のことながら、明らかに高い魔力を持つものが使用しても、魔力の低い魔導師が使用しても、規格化されたデバイスの行使による結果からは、おなじ結果が得られてしまう。

 それは、魔力の行使による結果のばらつきをできる限り減らす為の努力なのだが、それでは魔導師の能力を十分に生かすことができない。

 高い魔力を持つものは、おなじ魔法を使っても高い威力の結果をもたらして然るべきなのである。実際には微妙な結果の差が生じるのではあるが。

 ストレージの生まれた意味は魔法の規格化であるために、そのまま使用していたのでは十分な効果が得られないのだ。

 だからこそ、デバイスには様々な種類のものが存在し、例えば、高位魔導師に使用される事を前提としたインテリジェントデバイスと呼ばれるデバイスや、近接戦闘に特化したアームドデバイスと呼ばれる、高機能のデバイスが存在するのだ。

 とは言え、それらのデバイスは高機能であるが故に、とても扱いづらいと言う欠点が存在する。

 高機能であるが故に、並みの魔導師ではその性能に振り回され、十分な能力を発揮できないのだ。

 だから、多くの魔導師はやはりストレージデバイスを選択するのである。

 別にストレージデバイスが高性能デバイスと呼ばれるそれに対して決して性能が劣るわけではない。

 もともと、高レベル用のストレージデバイスも中には存在するのだし、デバイスそのものが本来は魔導師の術式の補助の役割を与えられた『魔法の杖』なのだ。

 魔導師本人が、術式を導き、制御を行い、発動を行えば、そもそもデバイスは不要なのだ。

 魔導師の訓練の初期では、デバイスを与えずに魔法の練習をする事も少なくはない。

 フェイトやアリシアも普段の魔法の練習の時にはデバイスを介在させずに魔法の発動を行う練習をしているのだから。

 そして何よりも。別に、ストレージがそこまで規格で固められているわけではないのだ。

 あらかじめ設定された、術式プログラムが、ある程度の統一性をもってインストールされているだけで、プログラムのカスタマイズそのものはそれ程難しいわけではない。

 アリシアもフェイトも自身に与えられたストレージデバイスのプログラムは独自のカスタマイズを施している。

 だから訓練に使用するには、ストレージデバイスでも十二分なのだ。

 「術式展開……」

 アリシアが呟き、自らのうちに存在する魔力を開放する。

 彼女の周囲に無数のスフィアが展開されていく。アリシアの魔力光と同じ紫色の魔力球。

 数にして5つ。一瞬、ゆらりと彼女の体が揺らいだのは、スフィアの展開に魔力を割きすぎた為に、浮遊魔法の制御が甘くなった所為か?

 しかし、それでも、5つは多い。フェイトも、地上で見守っていたリニスも驚いたように目を見開く。

 一方でフェイトも、ストレージデバイスを右手で天に向けて掲げる。

 彼女の周囲にも2つのスフィアが現れる。やはり彼女の魔力光と同じ黄色に輝いている。

 アリシアのスフィアに比べて数は少ないが、そこにこめられた魔力量はまるで違う。

 そのスフィア一つで、アリシアのスフィア5つ分をはるかに凌駕している。

 もちろん、アリシアのスフィアが質よりも量を重視したものである事はリニスには理解できていたが。

 それはともかく、二人とも、この模擬戦の開始は、砲撃戦を選んだようだ。

 二人のスフィアの魔力が集束し始める。

 「術式選択……ライトニングランサー」

 「フォトンランサー、セット」

 「「アルカス・クルタス・エイギアス……」」

 「貫け、ファイア!」

「ファイア!」

 アリシアは5つのスフィアから5発の合計25発の連続攻撃を。

 フェイトは2つのスフィアから3発づつ砲撃を繰り出した。

 お互いの魔力砲撃がぶつかりあり、対消滅を起こす……はずだった。

 しかしながら、魔力の大きさの違いから、アリシアの繰り出した魔力の槍をフェイトの魔力の砲撃が打ち砕いてゆく。

 そして、そのまま威力をほとんど減衰させないまま、フェイトのフォトンランサーはアリシアに向かって飛んでいく。

 慌てて、アリシアが防御魔法を展開するが、すでにフェイトの魔法はアリシアの眼前まで迫り、防御壁を展開できないままの彼女を貫いた。

 その後、アリシアが意識を取り戻したときには、ずぶ濡れになった彼女が、湖から引き上げられた後であり、彼女が気がついて最初に見たのは、涙でぐちゃぐちゃになったフェイトの顔だった。


アリシア・テスタロッサの憂鬱

2012年08月08日 | 雑談
これは、もう一つの可能性でした。
プロット段階では存在し、破棄したもので、一時的ににじファンではアップしていました。

これも、ありだったかもしれません。本当の始まりの部分だけでしたが、ただ、無印につながる所まではぼんやりと考えてはいました。

オープニングはほぼ奮闘記と同じ内容です。と、いってもTSものの名残が残っています。

奮闘記の目次にはあえて載せません。これはこれでただの雑記なのですから。






 幾つもの世界には、人がいて、

 人の数だけ、思いがあって、

 思いの数だけ、願いがあれば、

 願いの数だけ、運命がある。

 願いはきっと、たくさんあって、

 そこには、喜びも悲しみも、たくさん、たくさんあるのだろうけども、

 そんな思いが、いつかどこかでだれかと出会い、

 そして手を取り合って進んでいく。

 これはそんな物語の始まり。

 魔法少女 リリカル…えっと、私の名前ってなんだっけ?。

 まぁ、いいや、とにかく、始めようと思います。


 夢を見ている。

 夢を見ていた。

 夢を視ている。

 夢を観ていた。

 煌く液面。

 滴り落ちる滴、祈りの雫、青いキラメキ。

 それは光と影のユラメキ。世界が幾重にも重なり、幾重にも揺らいでいる。

 重なり合った光と影が織り成す細波のような陰陽の渦が幻想的な光景となって視界の中に広がってゆく。

 現実にはありえない光景、少なくとも自分自身の目では見たこともないような光景。

 自慢できるほどの年月を生きてきたわけではないが、そんな短い人生の記憶の中にあって稀有な経験。

 それは、いつかどこかの映像の中で見た、深海に降り注ぐ日光の揺らめきだとか。

 あるいは人が足を踏み入れることのない、木々の生い茂る深い深い森の奥の、木々の合間から零れ落ちる木漏れ日だとか。

 とにかく、僅かに動く目蓋の向こうに、淡い光と濃い影が見事な円舞曲(ワルツ)を踊っていた。

 光と影と幻想と、光と影と幻想を。

 入れ替わり立ち代り繰り返される三拍子の演舞。

 飽きる事もなく繰り返される、認識の世界のユラギの中で、霞がかった記憶野の中に、自分という存在が徐々に覚醒してゆくのを感じる。

 あれ?

 夢を見ている。

 夢を見ていた。
 
 夢を視ている。

 夢を観ていた。

 煌く液面。

 滴り落ちる滴、祈りの雫、青いキラメキ。

 あれ?

 記憶のどこかにある記憶。

 いつか見た夢、彼方の記憶。

 ああ、なるほど。

 これが私(わたし)の「終わり」。

 これが私(あなた)の「はじまり」。


 
 『元気ですか?』

 誰かが尋ねる。

 『何とかやっています』

 誰かが答える。
 
 似た様な問いかけを何度も何度も繰り返しながら、やがて『私(あなた)』が『私(わたし)』を取り戻し始める。徐々に徐々に、まどろみの様な深くたゆたう意識のゆらめきの中から、少しずつすこしずつ、眠りの浅瀬へと浮かび上がってゆく。いまだ目覚めない意識と、覚醒しつつある意識。どちらの『私(わたし)』が、どっちの『私(あなた)』に問いかけているのかは解らない。

 『元気ですか?』

 『私』が尋ねる。

 『何とかやっています』

 『私』が答える。 

 なんと、稚拙で曖昧な行為の繰り返し。幼子が興味を持った行為を何度も繰り返し繰り返し行う様によく似た、自己確認と、自己認識の繰り返し。

 どれほど、『世界』が曖昧で虚ろであっても、まずは『自分自身』の認識からはじめよう。

 どれどれ、どれぐらい意識が覚醒してきたのかな?

 もう一度、自問自答。

 『元気ですか?』

 『ボチボチでんな』

 『朝、朝だよー』

 『もう後三分、寝させてください』

 『もしかして起きてる?』

 『そうかもね』
 
  
 自己を認識できれば、次は身体を知覚してみましょう。

 まずは、基本的な機能の確認、身体の五感のチェック。意識はどこかぼんやりとしてはっきりしないけれど、何とか動く、この身体?

 何故だかちょっと疑問系。

 それでは、五感の確認を。

 視覚……だめ、まぶたが開かない。

 味覚……口の中が、なにやら、水よりも僅かに粘りのある液体で満たされている。残念ながら味がしない。しても困るけど。

 嗅覚……味覚に同じ。匂いも何にも感じやしない。

 聴覚……何処からか、何かの脈打つ音がする。胸の奥から響いてくるのは、自分の心臓の鼓動の音。たぶん。少なくとも、これが自分が生きている証。

 残りは触角……全身を取り巻く何か、たぶん液体。冷たくはないけども熱くもない。なんかべとべとしているような気がする。液体である事を祈りたい。

 五感すべてが、あまりにも頼りない。その、どこか頼りない触覚が、自分が液体の中に浮かんでいると教えてくれる。

 と、言うか。

 自分がその液体に浸かっているようだ。全身を包むように液体が存在する様だ、不思議と息は苦しくない。

 そして、身体に感じるのは浮遊感。もちろん、実際に感じた事は無いのだが、無重力というのはこんな感じだろうか?

 液体に浮いている身体。思い浮かぶのは理科室の標本。まさか、自分はホルマリン漬けにされてる生体標本だったりしない?

 でも、呼吸ができるということは、そういった目的で、自分をこの液体に浸けている訳ではないようだ。ちなみに『漬けている』ではないこれ重要。自分は大根や茄子の類ではない、たぶん。ちなみに浅漬けは大好きだ。御飯三杯はいける。だからと言って、私なんか食べても美味しくはない。たぶん、きっと。

 いやはや、思考がそれていく。

 シリアスな状況になればなるほど話しの本質を本能的に逸らしてしまう。これは私の悪い癖。ちょっと自重。でも、私を形作る根源は変えられない。諦めて頂きたい部分もある。

 それはともかく。

 おぼろげながらに身体に感じるその感覚は私が生きていると言う証拠。でも、私は何かしらの液体に漬けられている…おっと、浸けられている。にもかかわらず、呼吸が苦しいと言う事はない。なるほど、いつの間に、人間はえら呼吸と言うスキルを習得したのだろう?

 ああ、もしかしたら、自分『深きもの』だったとか?それなら、えら呼吸ができても不思議じゃないよね、さよなら人類、今日は異形の私。……ごめん、そんな不可思議な先祖を持った覚えはない。インスマウスの血なんて、流れてないよね、流れてないよね?


 まぁ、とりあえず、呼吸ができているんだから問題はないんだけど。

 それじゃぁ、呼吸に問題がないということは、そういった目的を持って作られた液体なのだろう。所謂パーフルオロカーボン?つまりは液体呼吸?確か、この方法は動物実験の検証はすんでいるが、その折、肺に著しいダメージを与える為、あまり現実的ではない方法だ。だったら、この液体はそれを可能にした新しい実験の過程で生まれたなにかなのか?

 自分は肺疾患か何かに侵され、臨床実験的にこの液体に浸けられたのか?残念ながら、その辺りの記憶が非常に曖昧。そんな重度の病気だったのか?その治療の為に、自分は漬物のように、この液体に浸されているとか。

 さすが医療の進歩は光の如し。

 え、違う?

 それとも、それ以外に、私の知らない何か理由があって、私は今の状態に置かれているとか?

 うん、そんな記憶はないぞ、私。

 とにかく、この、謎の液体に浸されているという事実には間違いがない。

 今、この状態でできる確認はこのぐらいか。できる限りの、自分の周囲状況の知覚は終わり。

 しかし、今現在、私は、気を抜けば、再び、眠りに落ちてしまうような、不思議な感覚に、この身体は支配されている。人が、何処かに置き忘れてしまった母の胎内のぬくもりの様だとでも表現すればいいのだろうか?

 でも、それが認識できた所で、何故私がこのような状況下に置かれているのか、と言う現在の命題の回答にはなっていない。


 ふむ、思考がそれたか。

 再び、思考再開。

 では、次に自己の再確認。

 質問その一

 私は、だあれ?

 Who am I?

 なんと初歩的な自己確認。なんて難しい自己確認。

 さて、私。この問い掛けになんと答える?

 アンサー。

 確か自分は……。

 ■■■■■■■■■■■■■たはず・・・。

 あれ?

 記憶があまり鮮明ではない。

 もう一度繰り返す、今度ははっきり答えて欲しいな。さて、私は誰だ?今、ここにいる私は何者だ?

 私は、■■■■■■■■■■・・・。

 この部分も不明確。思考に霞がかかっているような感覚。自分の事を思い出そうとすると、別の誰かが邪魔をしているような感覚。いや違う。答えは出ているのに否定されている。例えば、日記に書かれた過去の自分の行動を、文字として呼んでいるような感覚。そして、そう言えばこれって他人の日記じゃなかったっけ?、などと思っているような感覚。上書きされた自分を、別の自分が客観的な立場で、眺めているような違和感。

 いや…ちょっと待て。

 それ、以前に、何故、私は『私』を『私』と、認識していただろうか?

 自我の認識。

 我思う故に我あり。

 単純で初歩的なデカルトの初歩的な自己認識手法。人は思考し、自分というものを、自分として認識できるからこそ、人間なのである。

 けれども、この状況で、『私』を『私』と認識できるからといって、私の周囲に認識できる『世界』があるわけではない。

 周囲状況の把握とは、つまりは、私を取り巻く『世界』の『認識』から始まるのだから。

 この場合、『世界』とは私を取り巻く状況であり、私を生み出す過程であり……ああ、難しく表現しなくてもいっか。つまりは『記憶』である。

 『記憶』が私という人間を作り出し、私を取り巻く『世界』を、自分の『人生』として形作るのだから。

 だが、『私は■■■■』。

 そんな単純な認識すら、今の私は違和感を感じる。私に与えられた『記憶』と、自己認識がつながってゆかない事にとても違和感を感じる。その『記憶』から、今の私の『状況』に、思考をつなげることができないでいる。

 非常にもどかしい…痒いところに手が届かない、この不愉快さ。

 自己の内には答えは無い、正確には『ある』のだろうけど、いまのままではそれを『理解』できない。

 だから、少なくとも、私は私以外の『外の世界』へと、その不愉快さを解決する為の手がかりを求めようとするのだが。

 だが、『世界』が知覚できない以上は、周囲環境から、自分の置かれた現状を把握することはできないという訳だ。そもそも、『周囲環境』の把握とカッコいい言い方をしてはみたものの。要は、見えません、聞こえません、喋れませんと、人間の情報入手手段のすべてが、曖昧な状態の、今の私にとって。

 つまりは、なーんにもわかりませーん、という事。

 わからない、つまりは理解できない事を、いつまでも思索していても、思考のループに陥るだけ。わからないことはわからないと、いったん棚においておいて、次の事を考えよう。

 ポジティブシンキングという奴だ。

 というか、身体が動かない以上、思考すること以外にやることはないわけだが。

 ああ、前向きだな、自分。

 『前に向かって歩いていかなければ、後ろを振り向く事だってできないんだぞ』

 私の友人の・・・・・・あれ、誰が言ったんだっけ?

 うむむ…これでは埒が明かない。

 だから、この件はいったん保留。保留にするにはあまりにも重要すぎる案件のような気がしないでもないが、現状の思考能力では、疑問を解決するに至らないと判断。

 とりあえずは優先順位を下げる事とする。

 べ、べつに、問題を先送りにしている訳じゃないんだからね!本当なんだからね!

 ……御免、冗談です……って、誰に謝っているんだか。
 

 さて、自己認識はとりあえず保留。
 
 それでは次の課題にうつります。

 周囲環境。つまりは私を取り巻く『世界』を感覚を用いて『確認』できない上で、『認識』できる過去の『記憶』から、何故自分がこのような状況に置かれているのかを類推しなさい。

 配点は20点。

 まず大変疑問に思うのが『私』を認識するための『記憶』が二種類存在すると言う事。

 ああ、やっちまったな、自分。ついに錯乱してありもしない記憶を勝手に作ったのだろうか?いわゆる二重人格、解離性同一障害と言うやつか?ちなみに略称はDID、どうでもいいけど。

 やけに曖昧な『私』の記憶と、とても慣れ親しんだ『私』の記憶。この際どちらが正しいかは、問題ではない。その二つの記憶に、この場所に関する何かの手がかりはありはしないだろうか、と記憶の検索を行う。

 まずは、再び現状認識。

 現在、私の置かれている状況が引き起こされるであろう『事象』の抽出を行う為にも。今私がいるこの場所、もしくは『世界』。非常に限定された情報から得られたこの『世界』。

 どうやら自分は、何かしらの液体の詰まった空間に放り込まれた状態にある…。

 うん、いくら考えても、こんな場所に放り込まれる記憶はない。

 『私』の記憶にも、もちろん『私』の記憶にも存在しない。存在しないだけで、どちらかの行動が引き起こした結果であるともいえなくもないが、とりあえずは直接的な原因はなさそうだ。

 そうなると、もしかしたら、自分は世界に一人しかない珍妙奇天烈な『特技』を持っていて、その保存のために、こうしてこの場所に保護されたとか?

 それともやはり、私は奇特な病にかかっていて、とある研究機関で臨床実験を行っている最中だとか…。

 いやいやいや、そんなどこぞの世界の魔法組織じゃないんだから、誰がそんなことをするのだろう?

 100パーセントただの人間である自信のある私が『封印指定』なんて受けるはずもない。ないよね?そもそも、そんなことする組織、存在しないよね、よね?

 第一、私はそんな特技を持っていた記憶がない。単なる病気だったと言う…それもこんな場所に放り込まれるだけの奇病にかかっていたと言う…記憶ももちろん無い。『どちらの私』も、すこぶる健康的で、医療機関のお世話になったことはほとんどない。

 では、自分はこの世界の最後の人類の生き残りで、外宇宙からやってきた知的生命体に保護というか保存されているとか?晴れ時々人類滅亡、なーんて言う天気予報はついぞ聞いたことがないので、それもない。

 ないはず。たぶん。

 やっぱり、私はさよなら人類してしまったとか。そのために人体実験でばらばらにされて、本当は脳みそだけが浮いているとか?この手足の感覚はじつは幻視だとか?

 うーん、突拍子もない考えは浮かぶのだが、いまいち現実的な理由というものが浮かばないな。

 これは、困った。こんな状況に陥ったその『理由』すら、わからないというのだろうか?

 自分は、何処の誰かもわからず、今何処にいるのかもわからず、何故此処にいるかもわからない。所謂、記憶喪失という奴か。いや、自分の名前とかは『覚えている』けどね?

 物語としてはよく聞くパターンだが、いや、実際自分がその立場に立ってみると、色々と不都合なものだ。

 さて、どうするべ?しかたがない、もう一度状況整理を……。

 いや、いけない。

 これが思考のループという奴だ。再考して、熟考して、その結果、この状況を打開すべき解決案、対策案を思いつくと言うのであれば、幾らでも思索する意味はあるのだろうけれど。今はその時ではないと考える。

 それはそれで、新たな手がかりを手に入れた後に行えばいい。では、考えるべきは、次に何をするべきか……ということか。
 
 「……」

 私の思考が、内へ内へと思索の網を張り巡そうとしていたその時。

 ふと、誰かが呼ぶ声がした。記憶の中のどこかが、その声に懐かしさを感じた。心のどこかが、暖かく満たされていく様なその感覚。

 その暖かさが何処から来たものなのかはよくはわからない。

 けれども、今の状況を打破できるかもしれない、『外』からの情報だ。

 「………!」

 再び、声がする。その声に反応して、僅かに動く目蓋を持ち上げ、ゆっくりと目をあける。

 先程までは、重たげに私の意志を拒否した筋肉が、今度は素直に従ってくれる。それでも十分にのんびりとした、不満をあれこれと漏らしながらだったが。

 自分自身の肉体なのだから、もっと素直に従って欲しいものだ。確かに、朝のまどろみの中で、暖かい布団の中から這い出す時に要する努力に匹敵する頑張りを、今、私はしたのだ。

 当然の事だが、周囲の状況が、どこか朧げで頼りなかったのは、この身体の目が閉じられていた所為だ。自分の身体である事は間違いないのに、そのあまりにも客観的な考え方に、我ながら苦笑するしかない。

 もっとも、心の中でこっそりとだ。生憎と、苦笑ができるほど、今の私の唇は、私の言うことを聞いてはくれないのでね。

 それでも、身体の一部とはいえ、私の命令に従って動いてくれることは非常にありがたい。

 まぶたがゆっくりと開いていくにつれて、私の目に光が飛び込んでくる。脳が周囲の景色を認識し始める。視界が徐々に鮮明になっていく。どこかゆらゆらと揺れる視界に移るのは、黒髪の女性の顔。あの、幻想的な揺らめきは、私を包み込む液体が、その周囲の光を反射しているからだとその時は理解した。

 まず、私が認識したのは、その女性の驚いた様な表情。

 どこか疲れたような顔が、信じられないものを見てしまった様に、目を大きく見開いていた。だが、すぐにその表情が歓喜のそれに支配される。彼女は、涙を流し、私の周囲を覆っている器のようなものにすがり付いて涙を流している。

 誰だろう?

 少なくとも、この私の知識にはない顔。でも、心のどこかではその顔、姿、形を懐かしく思っている。先程の声の主…たぶん私の事を呼んだのであろうその声の主は、おそらくこの女性なのだろう。

 本当に誰なのだろうか、この女性は。少なくとも私の記憶には無い……無い?

 いや、違う。

 『私』の記憶に存在する顔。

 『私』の大切な人、私の『■■■■■■』

 ちょっと、姿は変わってしまったけれども。間違いない、私の大好きな『■■■■■■』の顔だ!

 幼い感情が私の心の奥底から湧き上がってくる。ある意味生物の根源的な感情である。そんな激情に私は支配され心の中で喚起の涙を流す。

 しかし、一方で冷静な私が、私自身とこの女性の事を見つめる。違う……この人のことを私は知らない。

 もう一人の私がそれを否定する。

 なんてことを言うのだろう、この人を知らないなんて、なんてひどい事を言うのだろう。この人は私の『■■■■■■』だぞ!

 二つの記憶が鬩ぎ合う。

 「……!」

 ああ、『■■■■■■』が私を呼んでいる!

 ああ、誰かが何かを叫んでいる…。

 そういえば、その『音』を『声』と認識できたのは、私の事を呼んでいると感じたのは何故だろうか?

 この身体は、その聴覚は、女性が発する『音』を『声』と認識しているようだが、残念ながら、その『声』が『言葉』として明確に伝わってくる事はない。

 でも、その女性が『声』を上げるたびに、私の心は何かに満たされている。声が『言葉』として私に伝わらないのは、身体を包む液体の所為か、この身体の所為かはわからなかったけども。

 もしかしたら、私の理解できる言語ではなかったのかもしれないけども。

 それでも、私が僅かばかりの反応を返した事によって、女性の顔が歓喜に輝いたのは理解できた。

 ああ、この人が喜んでくれると、自分も嬉しい。

 そんな感情が、私の知らないどこからか、湧き上がってくる。無意識ではあったけども、ほんの少しばかり、自分の唇が動いたような気がした。あの女性の事を呼ぼうとしたのだと、そう私は認識した。

 何故だろう、何故そんな認識をするのだろうか…?
 
 いや、この、心の内側からわきあがってくる、この感情は間違いなく、歓喜の思念だ。幼い子供が、ただ一途にその喜びの感情を体で表すかのように。

 これはとても素直な、人の歓喜の念なのだ。

 ああ、なるほど。私は嬉しいのだ。

 あの人が喜んでくれて嬉しかったのだ。

 私の事を呼んでくれて嬉しかったのだ。

 だから、私は、必死で話しかけてくる彼女をいつまでもいつまでも見つめていたかった。できれば、彼女の事を声を出して呼びたかった。

 けれども。

 急激に意識に靄がかかり始める。この体は、休息を欲している。こうして目を開けているだけでも、思考をしているだけでも。この身体は、休息を必要とするのだ。

 なるほど。要は、眠い。単に眠いのだ。

 まるで赤子の様だなと、思考の片隅で考えてしまうけれども、その欲求に逆らう事は今は難しい。そもそも、逆らうつもりも、その必要も無いのだから。

 そんな風に思った瞬間に、意識が闇に包まれていくのだった。

 そして目蓋の閉じる瞬間に。

 悲しげな顔をした、あの女性の姿が見えた。少しの戸惑いと悲しみを湛えたあの人の姿が。ほんの少しだけれども、心の内側がちくりと痛んだような気がした。



 私が、世の中にはこんなはずじゃなかったと思う事ばかりであるなどと、それなりには有名な台詞で愚痴をこぼすのは、もっともっと時間が経ってからの事だった。

 しかし、こんな状況に置かれてもなお、有名な台詞を吐きたくなるのは、私を構成するもの、あるいは人格の、生来の気楽さから来るものか、それとも別の何かが複雑に作用しての事かは、全くの不明だったが、私はぼそりと呟くように言葉を吐き出した。

 「見知らぬ天井だ…」などと、言っても周囲に視覚で認識できるものは何も無く、と言うか、天井なんてまるで見えやしない。だから見知らぬも見知ったも判断の仕様がないのが現実な訳だが、何故だかこう呟くのがお約束のような気がして、私は躊躇う事なく実行した。思考と行動の間にコンマ一秒のタイムラグすらなかった、ある意味すごいぞ、私。考えて即実行。こら、そこ!本能のままに行動しているから、などと言わないで欲しい!

 別に、その台詞を言ったからと言って、ここがどこかの病院の病室であるはずも無いのだが。

 何故なら、背中にあたる感触は固くひんやりとしていて、申し訳ないけれどもとてもベッドと言うわけにはいかない代物だった。

 ほんの先程まで…といっても自分の記憶のある範囲で、だが…よく訳の分からない空間、液体に全身を包まれていたような感じは、今現在は無い。

 背中に当たる冷たい床らしきものよりは、ほんの少しましな程度の温度ではある。

 私の身体を包み込んでいるのは明らかに大気であり、呼吸をしてもあのどろりとした液体の感触は無い。少なくとも自分はあの液体からは解放されたのだなと認識をする。

 そんな周囲の寒さに、小さく体を震わせて、私は、ゆっくりと目を開けた。

 先はなかなかに言う事を聞いてくれなかった、重いその目蓋も、今度は、素直に私の意志に従って開いてくれた。自分自身の身体であるにもかかわらず、なかなかに素直ではない自分の身体にほんの少しだけ苦笑を漏らす。

 もっとも、そんな苦笑ですら強張ったように唇が歪んだだけだった様だけど。

 すべてが薄ぼんやりとしか知覚できない瞳も、やがて周囲の風景がはっきりと見え始める。

 そうしてようやく確保した視覚に、あの光の揺らめく美しい光景が、見える事は無く。ぼんやりと、徐々に見えてくる周囲の光景を、なんとはなしに見つめているだけだった。

 だから、目を閉じているよりは幾分かましな程度の、薄暗がりの中に、自分がいると気がついたのはずいぶんと時間が経ってからだったのかもしれない。

 私を取り巻く周辺環境に光源となるものは無く、感じる光は、どこかしらにあるわずかに明滅を繰り返すぼんやりとした電灯のような物だった。そんなわずかな光であっても見つめているうちに、目に疲れを感じてしまう。

 私は、小さく一度だけくしゃみをして、思わず我に返った。慌てた風に周囲をきょろきょろと見回してみる。

 「!?」

 あれ、周囲は暗い。

 一瞬、自分の視覚がおかしくなったのかと思ったが、そもそも、此処は光の差し込むような場所ではなかったらしい。

 僅かな光源は、周辺の壁が僅かに光を放ち、薄ぼんやりとした光を周囲に投げかけているのみ。

 自分は、どうやら、この光の無い空間に放置されていたらしい。

 さて、まずは現状認識。

 どうやら、この行為が日課になってきたようだ。

 此処は何処だ。

 視覚が生きている以上、まずは、目視で周囲の確認、右よし、左よしの指差し呼称。

 僅かに視線を左右に向ける。

 背中の感触から、私はどこかに、寝かされているらしい

 柔らかな感触が背中から伝わってくる。

 身体にかけられた真っ白な清潔なシーツからは微かに暖かなお日様の香りがした。

 様な気がした。

 もちろん、日光に香りなんてあるはずないのだから、それはまったく持って私の気のせいに違いないのだが。

 それでも、ふわふわで柔らかなこのベッドからそんな感じがしたのは間違いがなかった。

 薄ぼんやりとした明かりから、此処がどこかの部屋の中で、私という存在がベッドに寝かされていたと言う事がわかる。

 ほんの先ほどまでの記憶では、私はおかしな液体の中にプカプカと浮かんでいたのだから、この大きな待遇の改善に何が起こったのかすぐには理解できない。

 「ここ…は…・・・・?」

 勿論、周囲に人の気配はないから、とりあえずは、誰もそんな独り言に答えてはくれない。

 ま、期待なんかしていなかったけどね。

 けれど。

 「あ、あれ?」

 声が出る。

 それはそれで一安心。

 けど、何か違和感。

 ん、んん。

 「あ、あーあー」

 どうやら、喉の調子があまりよろしくないらしい。

 奇妙に甲高い声が、私の口から発せられた。

 先程の液体の所為だろうか?

 喉をどこか痛めたのだろうかと、喉をなでようと手を動かす。

 すると、思った以上に小さな腕が私の目に飛び込んできた。

 ほんのわずかな光源の所為で見間違いかと思ったが、その腕の大きさは、成人のそれとは思えない。

 ほっそりとしたその腕は、まるで小さな子供の持つもののようだった。

 手をいっぱいに広げて、まじまじと自分の手のひらを眺める。

 小さい………。

 少なくとも、私は一般的な成人の基準を満たす体格をしていたと思うのだが?

 本当に自分の手かと思わず疑うが、こぶしを握ったり開いたりしてみると、面白いように自分の思考に、手の動きがついてくる。

 自分の身体だから当たり前だけどね。

 と、言うことは、だ。

 この小さな手の平は、間違いなく私自身のモノだと言うことだ。

 自分の記憶とはまるで違うこの腕が!

 なにやら、魔改造でもされたのか?

 まさか、犯人はあの女性!?

 なにやらいやーな予感がしてきた。

 ここは、悪の秘密組織の地下基地で、私は人体改造を受けた被験体○○号!?

 いやいやいやいや、しかし、ありえないだろう、普通。

 うんうん、と頷きながら、心の中で、嫌な考えを、理性的に否定しながら、それでも、私の心に募る不安感は増すばかり。

 けれども、いつまでもこうして床(らしき所)に寝転んでいるわけにもいかないし。

 私は起き上がろうとして、床に手を突いて体を起こす。

 すると、はらりと、視界を何かが覆った。

 「え?」

 絹糸のような細さを持つそれは、多分、髪の毛。

 その証拠に、引っ張ると、頭の皮膚が痛い。

 うむ、長髪だ。

 腰辺りまであるそれは、間違いなく私自身の持ち物だ。

 よくわからないけど、多分、金髪?

 あれ、私、典型的な日本人だよね?

 脱色した記憶もないし、そもそも、私、短髪だよね?

 あ、あれ?あれあれあれ?

 ごめん、ダメです。

 自分の理性が、あと少しで限界だと、警告しています。

 いや、まてまてまて。

 おっけーおっけー。

 冷静になろう、私。びーくーる、びーくーる。

 多分、この体は『子供』だ。

 すまない、多分じゃなくて、間違いない。

 それはいい、許そう。

 いや、本当は許せないけど、私は現実を認める主義だ。

 金髪、長髪もまだいいさ。

 そういったこともある。あるかもしれない。あると言ってくれ、私の理性!

 けどもね。

 まぁ、なんだ。

 その………。

 嫌な予感はそれだけじゃなくってさ。

 もう一つあるわけだよ。

 やけにね。
 
 寂しかったりする訳よ。

 そりゃ、子供に、あの質量を求めるのは無理だと思うよ?

 けどね。

 あったものがなくなっている感覚って。

 うん、これは夢、 きっと夢。

 そんなことを考えていたら、急に寒気が襲ってきた。

 「へ、へぷち」

 思わず、いやに可愛らしいくしゃみをした勢いで私の視線が移動する。

 そして現実と自己の再認識。

 現状はあくと問題認識ってとても大切だよね、私。

 ようやく、このうす暗がりに目が慣れてきた私が見たものは、ベッドの横にあった鏡台と、そこにうつる金髪の見た目5、6歳のなかなかに愛らしい少女の姿だった。

 「あ、あはは、あははははは……」

 お、女の子だったよ、orz…・・・。
 
こんにちは女の子の私……。

 自己嫌悪モードから脱出した私。

 しばらくの間茫然自失となって、思考が停止してしまった事は内緒だったら内緒なのだ。

 気絶しなかった事をむしろ褒めてくれ、と言っても、褒めてくれる人は、周囲に誰もいませんがね。

 とりあえず、目が覚めれば、ああ、今までのアレは夢だったんだと、ちょっぴり期待もしたけれど。

 現実は何も変わらなかったりするわけで。

 確認するまでもなくちっぽけな、この身体は。

 ああ、やっぱり、女の子の体なんですね。

 とりあえずは、もう一度現状認識を始めようと思う。

 まずは自分という存在。

 私を『私』と認識する存在。

 名前は、確か……■■■■

 今、自分が自分として認識しているのはそちらの名前。

 もうひとつ、心の奥底に別の何かがわだかまっているような気がしている。

 あの人を■■■■ん…と呼び慕う、もう一人の私。

 あの人がいないときは心の奥底に引っ込んでしまっている、私を、確かに感じる。

 でも、これは『私』じゃない『私』なのだろうと、他人事のよう分析をしてしまう。

 生まれてこの方、多重人格なんてなったこともないから、その認識は間違っていないと思う。

 この不可思議な状態をなんと表現したらいいだろうか?

 そう、あれだ、自分自身の人生をまるで、ダイジェスト版の映画のようにしてみている感じ?

 そして、もう一人の『私』。

 母親と二人暮しの私。

 母親はどうやら有名な研究者で、とある会社の研究施設で働いている。

 肩書きは主任研究員といって、とあるプロジェクトの開発リーダーを任されたえらい人だ。

 最近仕事が忙しいらしく、なかなか家には帰ってこない。

 帰ってきたとしても夜遅く、私と少しだけ顔を合わせただけで、すぐに寝てしまう。

 そんな母親を少し恨めしく思ったりもして、何度かわがままを言って母親を困らせたりもした。

 けれども、幼いながらも母親の仕事がどんなに大切かと言う事は理解していたらしく。

 実際には寂しげな顔を隠しながら、母親を仕事へと送り出している。

 そんな、けなげな少女であったらしい私。

 どうやら、本来はそんな少女だったはずの『私』。

 しかしながら、そんな少女の頭の中にもぐりこんでしまったもう一人の私。

 少女の記憶は確かにあるのだが、どうやらこの思考の大部分は大人であった『私』が大部分を占めているらしい。

 今のところは……だけど。

 ならば、どうして、この風になったのか。

 何故なのかは、今のところまったく不明。

 となると、どうやったら、元に戻れるかの手がかりもまったくなし。

 もっとも、これが、なかなかさめることのない夢という考えもあるわけで。

 もしかしたら、自分は事故か何かで意識不明になり、その状態で見ている夢ということもありうるわけだ。

 しかし、そうなると、自分に少女化願望があるということになるのか?

 ちょいとへこむ。

 そんな願望は無いと、意識的にはないはずだ。

 けど、それならそれで、なる様にしかならない。

 だから、危険な妄想はちょっぴり心の棚の奥底にしまいこむ。

 しばらくは出てきてくれるなよ?

 そして、この記憶は、その逆と言う事もありうるのだ。

 この記憶が『私』と言う少女が作り出したもう一人の『大人の私』と言う場合だ。

 が、こうした夢とか、『記憶』と言ったものはその人間自身の経験によるところが大きい。

 ならば、わずか5年ばかりしか生きていないこの少女がそんな『体験』をしたとも思い難く、謎はますます深まるばかりである。

 そして何より、この少女の記憶が、まだまだぼんやりとしていてはっきりと思い出せないのだ。

 ただ、揺らめく光の向こうで、私が目を覚ました事を歓喜の表情で喜んでいたあの女性が、『私』の『お母さん』であると言う記憶は強く強く思い出すことができた。
 

 「そんな、ことよりも、まずは、現状をどうするかというのが問題だよね」

 そう、それが切実な問題。

 私は誰と言う根本的な問題の次に大事な事象。此処はどこ?

 簡素なベッドに寝かされていた私は周囲を見渡した。

 まず目に付くのは、白くこの部屋の主の潔癖さを示すような薄く白いカーテン。

 私はベッドから起き上がり、裸足でぺたぺたと床を歩く。

 カーテンに近寄り、おもむろにカーテンを左右に開け放った。

 眩しい光が、私の視界を埋め尽くし、思わず手でその光を遮った。

 少しずつ、その光の奔流に目が慣れてくると、目に映るのは緑が眩しい、広大な森が広がる光景であった。

 「えっと…ここはどこ?」

 少なくとも私の記憶にはこんな光景は存在しない。

 私の住んでいた街のどこを探しても、こんな視界を埋め尽くすような森は存在しなかった。

 日本とかに、こんな森があったのかどうか記憶がないし。

 よろしい、認めよう。

 此処は、間違いなく私が住んでいた日本ではない。

 そもそも、地球と呼ばれる世界かどうかも怪しいものだ。

 では、此処はどこだろうか?

 風景から想像するに、この家…なのかどうかはわからない建物は、この広大な緑の森を見下ろす小高い場所に立っているらしい。

 遠くの方に、青いきらめきが見えるけれど、あれは湖かはたまた海なのか。

 とにかく、西洋のファンタジー小説に出てくるような幻想的な光景は、私の心に小さな感動を与えたが、現在私がいる場所の手がかりを与えてくれるものではない。

 かといって、私が寝かされていたこの部屋の中には簡易的なベッドと机、そして椅子が一脚、鏡台が一つおいてあるだけだった。

 さて、と、この部屋においてある鏡台で、もう一度私は射目の私自身の顔を見る。

 幼いけれども愛らしい顔立ちの少女が、鏡を覗き込んでいる。

 長く、腰まで届きそうな金髪に、大きな赤みがかった瞳。

 すっきりとした鼻筋は、将来、この少女がとても美しくなるであろうことを容易に予測させてくれる。

 年のころは5,6歳だろうか?

 病院着のような白い服を来た、少女のその姿は、私の記憶を奇妙に刺激する。

 どこかで見たような…はて、こんな可愛い女の子、知り合いにいたっけ?

 まぁ、いっか。

 とりあえず、今の自分の姿がどんなものであれ、今此処にいる自分を『私』と認識している以上、私は『私』。

 それ以外の何者でもないと判断する。

 これからどうしようかなと、あくわけもないかなーっと部屋のドアノブにてをかけたら、いともあっさり開きやがりましたよ。

 私のことを警戒していなかったのか、それとも目を覚ますはずもないと考えていたのか。

 ドアが開いた以上は、この場にとどまっている必要もない。

 恐る恐ると言った風で、私はひょっこりとドアから顔を覗かせる。

 そあの向こうには、石畳の廊下が左右に広がっていた。

 これはますますファンタジーじみて来たぞと思いながら、素足のままに廊下に歩みだす。

 足の裏から感じる床の冷たさと、ぺたりぺたりと裸足の足が歩く音だけが聞こえていた。

 しばらく、薄暗い廊下を当てもなく突き進んでいたが、やがて視線の先に明かりが見えてきた。

 相変わらず、廊下には人の気配がまったくしないが、明かりがある以上、誰かがいるに違いない。

 そう思って近づいていくと、なにやら人の怒鳴り声と悲鳴が聞こえてきた。

 何事かと思い、わずかに開いていたドアの隙間から、こっそりと部屋の中を覗き込む。

 部屋の中には、4人の人物。

 一人は黒いローブを見にまとった、30代ぐらいの女性。

 どうやら、怒鳴り声を上げていたのが、この女性のようだ。

 かなりの美人だが、顔に浮かんだ怒りの表情と、どこか疲れたような気配がその美しさを台無しにしているような気がする。

 しかし、この女性は間違いなく、もう一人の私の『お母さん』。

 いつも優しく、ちょっぴり仕事熱心な、私が自慢のお母さんその人だ。

 その女性に怒鳴られているのが、今の私の外見と同じぐらいの年齢をした少女。

 あれ、そういえば、この女の子にも見覚えがあると思っていたら、そうか、さっき鏡台を覗き込んだ時に、鏡に映し出された女の子だった。

 やっぱり、見覚えがある……はてさてどこで……って……髪の毛を頭の両側で結んだあの子は……えっと……まさか?

 そんな女の子に震えるようにしてしがみついている、あるいは、あの女性から女の子をかばっているオレンジ色の髪をした女性。

 よくよく見れば、その頭にはちょこんと人間にはありえない、獣のような耳がついていた。この子の名前は……うん、間違いない。

 そして、そんな二人と女性の間に立ちはだかるようにして立ちはだかる女性。

 栗色のショートカットにファンタジー小説に出てくる僧衣のような服を身にまとっている。

 私の記憶に引っかかる名前。うんうん、もう間違いがない。

 ここまで来れば、私の推測に間違いはなかった。

 あの、黒いローブの女性が、プレシア・テスタロッサ、そして、金髪の女の子がフェイトに間違いがない。

 となれば、オレンジ色の髪の毛の少女がアルフで、栗色の髪の毛の女性は……リニスか?

 リニス?リニスってあの山猫のリニス?

 私の中の私が疑問で首を傾げる。

 でも私の中のもう一つの知識が、彼女がプレシアの使い魔で『フェイト』の教育係であると認識する。

 ああ、成る程、これは『リリカル・なのは』の世界なんだなと、心のどこかで納得していた。

 何故、アニメの世界に私がここにいるのか、という疑問はとりあえずおいておく。

 となると、私は……何者?

 確かに、記憶の中には…私のもう一つの記憶の中には、私の名前が存在する。

 でも……。彼女は、リリカル・なのはの開始時点では死んでいたはずである。

 確かに『私』の記憶の中に、突然、ひどく息苦しくて気を失った記憶がある。

 成る程、あのときに『私』は死んだのだろう。

 確か『お母さん』が製作に携わっていた大型の魔導炉『ヒュードラ』と呼ばれる魔導炉の暴走事故。

 あの事故の所為で5歳の『私』は命を落としたのだ。

 ならば、此処にいる私は何者だろうか?

 そんな事を考えていると、再び部屋の中から悲鳴が聞こえ、なにやらプレシアの怒鳴る声が聞こえた。

 プレシアがリニスを押しのけ、その手に持った鞭をフェイトに振り下ろそうとしているのが見える。

 フェイトが虐められている!

 そう思った瞬間、私は何も考えられないまま部屋の中に飛び込んでいた。

 『私』の知っている知識と『アリシア』の感情がごちゃ混ぜになった結果の行動だった。

 『フェイト』が『アリシア』から作られたのなら、あれは『私』の大切な『娘』というのはちょっとあれなのではと思うので、とりあえず『妹』と言う事にしておく。

 『お姉ちゃん』より妹の方が大きいと言うのはちょっぴりあれなのだが私のほうが先に生まれているんだから私が『お姉ちゃん』で間違いないよね?

 そんな『妹』を虐めるのはいくら『お母さん』でも許せない。

 ましてや『私』をよみがえらせる為に、彼女は『フェイト』にあんな事やあんな事をしたのだから!

 だから、今は私の全力全開で『お母さん』を止めなければならない!

 これは『私』ではなく、『アリシア・テスタロッサ』としての感情。

 大事な妹を守るのが『お姉ちゃん』の使命なんだからね!

 突然飛び込んできた私の姿に呆然とする4人。

 私はそのまま走りながら「スーパーおねーちゃん、キーーーーーーーッックーーーーーーーー」プレシアにとび蹴りをかましていたのだった。

学校の怪談……みたいな?

2012年07月27日 | 雑談
 と、言う訳で、今回の彼女達の奮闘記は、学校の怪談がモチーフでした。
結局の所、学校の怪談、いわゆる七不思議も都市伝説もですが、その多くが若い世代の口コミで広がるものです。
噂というものは尾ひれがつくものですが、一つのコミュニティーにおいては……意味合い的には一つの学校や地区とかですね……それなりにまとまるものみたいです。不思議な話ですね。

 さて、こういった話で、一昔前に学園伝奇ジュブナイルと言うジャンルがありました。東京魔人學園をはじめとするPSのゲームシリーズでした。東壁堂は未だにこのジャンルのファンで、元々猫と魔女シリーズもこのジャンルを目指していたものです。のりが軽妙すぎて学園伝奇ジュブナイルの影も形もないのですけれどね!!

読みやすさを考えてみる

2012年07月21日 | 雑談
 さて、取り敢えず、彼女達の奮闘記も、原作の1話から2話あたりまで投稿できました。
 元々、にじファンで書いていたもののほぼそのまま投稿なので、ここしばらくはそれほど時間を取らずに投稿できるはずです。

 それはともかくとして。

 ブログの方に移ってきたのですが、どのくらいの文字数が読みやすいのでしょう?

 投稿サイトだと、あまりに短いとつまらないですが、かといって長すぎるのもあれでした。それなら注意していたのかというと、東壁堂の文章は3,000文字~20,000文字とばらつきがありました。

 ブログでも同じで、あまり長いと読みにくいですし、あまり短いとページの切り替えに面倒です。目次とか作って工夫はしてみているのですがね。

 一応、10,000文字を目安に投稿してみております。

 ネタが切れた後は、数千文字の投稿になってしまうかもしれませんがね。

 まぁ、自前のブログなのであまり気にしない……というのも手段の一つではあるのでしょうけれどもね。

 あと、行間。

 本来は開けるべきではないのでしょうが、開けないとブログだと文字が小さく見えるので詰まっているように見えて見栄えがよろしくないような気もします。こういった文章のレイアウトは素人なので何とも言えませんが、見やすくなるように工夫を重ねていきたいと思います。

 その為、途中で文章の体裁が変わるかもしれません。

 その時はご容赦ください。

 ただでさえ、会話文が長いとか言われてるんだし、ね?

プロローグはこれで終了なのです。

2012年07月19日 | 雑談
東壁堂です。

魔法少女リリカルなのは 彼女達の奮闘記のプロローグ部分はこれで終了なのです。
これだけで10万字を超えてしまっているというのは恐ろしい事なのですが、
まぁ、文字ばかり多くて読みにくいんじゃ!と言う感想を持つ方もいらっしゃる事
承知の上です、はい。

それはともかく、もうまもなくにじファンが終了してしまいます。

投稿を開始して2年、スランプもあったり、仕事が忙しくなったりもして
なかなか進まなかったのですが、まさかまだ完結していないとは……。

我ながら遅筆にもほどがあると言うものです。

プロット段階では50万文字ぐらいかなとか思っていたんですが、ね。

ともかく、まずは、今まで書いた部分までは早めにアップして行かねばなのです。


帰ってくるのが遅くならなければ……なのですけれど、ね。

プロローグの7まで更新したのです

2012年07月17日 | 雑談
彼女達の奮闘記、取り敢えずプロローグの7まで投稿いたしました。
まだまだ序盤です。でも、改めて見直してみると、よくもこんなに長い文章を書いていたものだと思います。

さて、この物語、本来はここで、彼女は『桃子さん』に拾われる予定でした。
プロット段階においても、彼女は桃子さんに拾われ、史郎さんに『うちの子にならないか?』と尋ねられます。
石田家の皆様の台詞は、某運命の台詞からいただきましたけれども。

まぁ、様々な理由からそのプロットは破棄しました。

その理由は、想像はつくかとは思いますが、物語が完結した後にでもご披露する事にしましょう。

しかし、それにしたって、何故石田先生?

これも色々な理由があるのですが、八神はやてとの接点を早めに構築しておきたかった……そんな思惑もあったのです。

その割には、彼女達の出会いは非常にシンプルなものとして描いてしまいましたが……。

更新なのです。

2012年07月15日 | 雑談
はい、と言う訳で、にじファンに投稿していた時のプロローグ2の前半部分まで再投稿しました。
考えてみれば、これでも、まだプロローグが終わっていなかったんだね……。

見にくかったり、認証入力があるのでコメントとか書きづらかったりもしますが、今は平にご容赦ください。

さて、それはともかく。

更新に関してはTwitterでつぶやいていこうかなと思っております。
これも、始めたはいいけれど、使い方がよくわからないw

色々と勉強しながら、進めていくのです。

帰ってきた酔っ払い

2012年07月14日 | 雑談
お久しぶりです、あるいは始めまして、こんばんは。
東壁堂と申します。久方ぶりのブログ更新です。
なにやってたんだか、と言うツッコミと、そもそも来るのが初めてじゃんと言う方も
いらっしゃるかと思います、はい。

元々ここは自分の作っていた小説やら、意味のわからない戯言を書いていたのですが、
ふと思い立って、書いていた二次創作を『にじふぁん』と呼ばれる投稿サイトに
投稿しようと思い立ち、しばらくこちらをお休みしていたのです。

そしたら、にじふぁんが色々な理由からサービス停止という状態になってしまいました。

そうなったら仕方がない、そのままフェードアウトという選択もあったのですが、
元々、ものを書く事は嫌いではない。最近は忙しくて(仕事とモンハン)、
にじふぁんの方の投稿も滞っていた訳ですが、そのまま消えるのも勿体ないか、
と言う事で、他の投稿サイト様を探していたのですが、あまり文章の行儀がよろしくない
東壁堂では、きっとご迷惑をおかけする事になやもと思うと、なかなかに躊躇してしまう訳です。

でも、せっかく書いているのだから、完結はさせたいのです。


ならば、と言う事で、当面はこのブログに細々と載せていこうかな、と思う次第であります。


あるいは、投稿サイトを見いだして、そちらに投稿するようになるやもしれませぬが、
それまでは、稚拙ではございますが、再びこの場での投稿を初めて行きたいと思いますので
どうかよろしくお願いしますです。


とりどめもないことを書いてしまいましたが……。