1/2 ちょっとだけ追記
以下本文
「ジュエル……シード……?」
その呟きを誰が発したかはわからない。
だが、その擦れた様なそれは、その場にいた誰もの心を代弁したかのようなものだった。
そして、寒風にも似たそれに彼女ははっきりとうなずいた。
「でも、そんな!ありえない!」
「そうでしょうか?」
ユーノ・スクライアのその誰何の声に、ジュエル・シードの暴走体と自称する少女の姿をしたそれは首を右に傾ける。
その仕草は、今の彼女の姿を形取るあの少女のしぐさと瓜二つ。
「目の前に起きた事象を否定するなんて、学者の卵としては失格でしょう?」
「あ、いや。僕が目指すのは考古学で……」
「ふふ、考古学とて同じこと。目の前にある遺跡や文献を君は否定するのですか?」
もちろん、過去への浪漫に思いを馳せる学問のその門弟であるところのユーノがそんなことできるはずもない。しかし、いくら目の前で起きていようがいまいが。信じられないことはいくらでもある。
「そんなことは、ないけれど……」
「でも、あなたの背後の人は信じているようですが」
目を細め、口角をわずかに吊り上げながら、彼女は管理局きっての知将の隣にいる紫の大魔女に視線を送る。
「歴史であれ科学であれ……まず目の前に起きた出来事を素直に事実と捉え、その因と果を究明するのが私たち学者の性なのだもの。否定はしないわ」
管理局という、魔法が支配する世界にあってその名を広く知られた偉大なる魔導師が一歩前に出る。
「それに……議論することが、暴走体の存在ではなく、貴女が……貴女と言う、私たちと意思疎通が可能そうな存在がいたということであるならば、それは半ば予測していたことよ」
「え?」
偉大なる学者と、まさに消滅を始めている彼女の娘の姿をしたその存在と。
その二人以外の、この部屋にいる者たちの表情が驚愕へと変わった。
「そ、そんな馬鹿な!だって、ジュエル・シードよ!?ロストロギアよ?」
さしもの女傑であるリンディ・ハラオウンの声もひどく驚愕の色が混じっていた。
「もちろん、今までの出来事の中でジュエル・シード自身が意思を持って行動したなんていう事はなかったわね。でも、いわゆるロストロギアと呼ばれるものの中には、その魔力の管制・制御のために、あるいは所有者との意思疎通のために擬似人格を搭載しているタイプのものあったはずよ?」
その言葉に、この部屋にいる一部の者たちははっとした表情になる。
「使用者の意思をスムーズに制御し、魔力管制を行う優れた人口知能なんて、安価なものではないし、ありふれたものでもないけれど、でもそこまで珍しいものではないし」
「レイジングハート!」
「バルディッシュだね!」
二人の少女の言葉に、やさしく笑みを浮かべるプレシア・テスタロッサ。
「そもそもジュエル・シードはその種別は祈念型ロストロギアに分類されるもの。その制御方法はまったく思想が違うけれど、レイジングハートやバルディッシュは祈念型デバイスと呼ばれ、その開発思想はジュエル・シードとは別のロストロギアを元としている。年代的にはそのロストロギアよりもジュエルシードのほうが遥かに古くより根源的なものがあるのだけれど。でも、人の意思を、あるいは生物の意思を魔力に変えるというその制御方法に違いはないわ。もしかしたら、ジュエルシードはバルディッシュたちの遠い遠いご先祖様なのかもしれないわね」
そう言いながら、プレシアは話がそれたけれど、と、こほんとひとつ咳払いをする。
「それが、どう「彼女」につながるのかしら?」
リンディはそうプレシアに尋ねる。尋ねはするが、ここまでくれば才女たる彼女の脳裏にはひとつの過程が組みあがっている。その答えあわせと、この場にいる全員にその回答を知らしめるための問い合わせなのだ。
「簡単ね。ジュエル・シードは願いをかなえる。人の『願い』なんて曖昧なものよ。そしてそれこそ星の数だけ存在する。だとしたらその願いを汲み上げ、取捨選択しているのは『誰』だったのかしらね。それこそ『おなかがすいたな』とか『カレーライスが食べたいな』とか『ああ、緑屋のケーキセットがまた食べたい』とか……いろいろ省略して『なのはともっと仲良くなりたいよ』だとか……。人には無数の願いがあるのも」
「え、え、え?ちょ、ちょっと、母さん、母さん?」
自分の背後から上がった慌てふためくような声にプレシアはくすりと笑みを浮かべ
「フェイトちゃん?」
なのはは自分の横で、顔を真っ赤にして首をぶんぶんと振っている友人の姿を見る。
「ち、違うからね、なのは。あ、えと、最後は違わないけど、あ、最初のも大きくは違わないんだけど、あの、えと、その……へぅ……」
「ふふふ。フェイトの願いは食べることばかりかしら?」
「違うよ!」
「そうね、ごめんなさい。でも。例えば一人の人間にはそれだけじゃなくてもっともっとたくさんの願いが秘められている。それは決して一つではないわ。たとえば世界の平和だけを願っている聖人君主様でも、小さな願いは無数に存在するもの。それを欲望の塊などというのはちょっといいすぎなのだろうけど。そんなたくさんの願い……願望の中でどうやって『願い』をかなえるのかしら。それは個別のものばかりではなく、いくつかの連続した願いなのかもしれないのに。『誰が』。その願いをここからここまでかなえますよーって決めているのかしら?」
「そのための、管制用擬似人格っていうことですか?」
「そうね、そしてそのために『貴女』がいる」
「そのとおりです」
エイミィが問いかければ、プレシアと、そしてかの少女がはっきりとうなずきを返した。
「じゃぁ、貴女の事は『管制人格』さんと呼びかければいいの?」
「『ジュエル・シード』でかまいません。それは私をさす言葉であり『私達』をさす言葉でもあるのですから」
そういいながら、目を閉じ、すでに半分以上透明になっている手を胸に当てる。その仕草はあまりにも人間臭かった。
「言っている意味がわからないよっ!それに、今こうしてなつきちゃん……アリシアちゃんと言ったほうがいいのかな。アリシアちゃんが消えかかっていることとあなたが言っていることとどんな因果関係があるの?」
幾人かの疑問をエイミィが代表して問いかける。
「そうですね。先も言いましたが、私はジュエルシードの管制制御システムに与えられた擬似人格です。現時点で起こっていることを皆さん報告するために、緊急措置ではありますがあなたたちの言うアリシア・テスタロッサ、あるいは石田なつきの身体を借りてこうして皆さんと対話しています」
「現時点で起こっていること、つまり……」
「はい、あなたたちの言う……この場合『アリシア』と呼称する人物は……」
ちらりと彼女はなのはとフェイト、その後プレシアに視線を向けた。
「この事象世界から消滅しかかっています。その理由は、ある人物の『願い』が叶えられたことによりその存在が揺らぎ始めた事です。私たちという存在は膨大な魔力というエネルギーを『願い』という指向性を持たせてはじめて力として具現化する事ができる器であったのです。ならばその願いというベクトルが叶えられることによりその方向性を失えば、どれほどの魔力をその身に内包していようとも、すぐに霧散してしまうのです」
あるいは、その放出されたエネルギーが空間の許容量を超えてしまえば、容易に世界は崩壊し、それを暴走と呼び、一定レベル以上のそれが他空間に影響を及ぼすだけの災害を次元震と呼ぶのですが……と小さくつぶやいた。
「そんな!『ある人』って誰!?その願いってなんなの!?」
なのはが泣きそうな顔で問いかける。
「……」
ジュエル・シードはその問いかけに目をそっと伏せた。
「いいわ、別に隠すこともないでしょう?」
「母さん?」
プレシアの言葉にフェイトが首をかしげる。
「よろしいのですか?」
「いいも何も。それを願ったのは私自身。これはプレシア・テスタロッサの願い。身勝手な母親が願った身勝手な願いよ」
「……」
「かあ……さん?」
気がつくとフェイトはプレシアに抱きしめられていた。
「ふふふ、そうね……これは過ちを犯したおろかな母親の贖罪だったわ」
「どう言う事かしら、プレシア」
「ねぇ、貴女。後どのくらい時間が残されているのかしら……」
「今しばらくは小康状態でしょう。私の『妹達』もなかなかに奮闘してくれています。といいますか……プレシア。貴女は『以前の記憶』を……?」
「ええ、取り戻しているわ。思い出したというべきかしらね」
そういいながらプレシアの唇には、自虐的な笑みが浮かぶのだった。
お久しぶりです。
というか、すっかり月日がたってしまいましたね、東壁堂です。
お待たせしました。待っていない人もお待たせしました。
といっても、あまりに久しぶりすぎて、長くかけないので今回はここまで。
ああ、このまま、また停止しないことを自分でも祈りつつ。
ああ、でも無印の最終話まではプロットはあるのです。
後はがんばって書くだけ。
FFが、FFがぁ!ぐふぅ……
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「ジュエル……シード……?」
その呟きを誰が発したかはわからない。
だが、その擦れた様なそれは、その場にいた誰もの心を代弁したかのようなものだった。
そして、寒風にも似たそれに彼女ははっきりとうなずいた。
「でも、そんな!ありえない!」
「そうでしょうか?」
ユーノ・スクライアのその誰何の声に、ジュエル・シードの暴走体と自称する少女の姿をしたそれは首を右に傾ける。
その仕草は、今の彼女の姿を形取るあの少女のしぐさと瓜二つ。
「目の前に起きた事象を否定するなんて、学者の卵としては失格でしょう?」
「あ、いや。僕が目指すのは考古学で……」
「ふふ、考古学とて同じこと。目の前にある遺跡や文献を君は否定するのですか?」
もちろん、過去への浪漫に思いを馳せる学問のその門弟であるところのユーノがそんなことできるはずもない。しかし、いくら目の前で起きていようがいまいが。信じられないことはいくらでもある。
「そんなことは、ないけれど……」
「でも、あなたの背後の人は信じているようですが」
目を細め、口角をわずかに吊り上げながら、彼女は管理局きっての知将の隣にいる紫の大魔女に視線を送る。
「歴史であれ科学であれ……まず目の前に起きた出来事を素直に事実と捉え、その因と果を究明するのが私たち学者の性なのだもの。否定はしないわ」
管理局という、魔法が支配する世界にあってその名を広く知られた偉大なる魔導師が一歩前に出る。
「それに……議論することが、暴走体の存在ではなく、貴女が……貴女と言う、私たちと意思疎通が可能そうな存在がいたということであるならば、それは半ば予測していたことよ」
「え?」
偉大なる学者と、まさに消滅を始めている彼女の娘の姿をしたその存在と。
その二人以外の、この部屋にいる者たちの表情が驚愕へと変わった。
「そ、そんな馬鹿な!だって、ジュエル・シードよ!?ロストロギアよ?」
さしもの女傑であるリンディ・ハラオウンの声もひどく驚愕の色が混じっていた。
「もちろん、今までの出来事の中でジュエル・シード自身が意思を持って行動したなんていう事はなかったわね。でも、いわゆるロストロギアと呼ばれるものの中には、その魔力の管制・制御のために、あるいは所有者との意思疎通のために擬似人格を搭載しているタイプのものあったはずよ?」
その言葉に、この部屋にいる一部の者たちははっとした表情になる。
「使用者の意思をスムーズに制御し、魔力管制を行う優れた人口知能なんて、安価なものではないし、ありふれたものでもないけれど、でもそこまで珍しいものではないし」
「レイジングハート!」
「バルディッシュだね!」
二人の少女の言葉に、やさしく笑みを浮かべるプレシア・テスタロッサ。
「そもそもジュエル・シードはその種別は祈念型ロストロギアに分類されるもの。その制御方法はまったく思想が違うけれど、レイジングハートやバルディッシュは祈念型デバイスと呼ばれ、その開発思想はジュエル・シードとは別のロストロギアを元としている。年代的にはそのロストロギアよりもジュエルシードのほうが遥かに古くより根源的なものがあるのだけれど。でも、人の意思を、あるいは生物の意思を魔力に変えるというその制御方法に違いはないわ。もしかしたら、ジュエルシードはバルディッシュたちの遠い遠いご先祖様なのかもしれないわね」
そう言いながら、プレシアは話がそれたけれど、と、こほんとひとつ咳払いをする。
「それが、どう「彼女」につながるのかしら?」
リンディはそうプレシアに尋ねる。尋ねはするが、ここまでくれば才女たる彼女の脳裏にはひとつの過程が組みあがっている。その答えあわせと、この場にいる全員にその回答を知らしめるための問い合わせなのだ。
「簡単ね。ジュエル・シードは願いをかなえる。人の『願い』なんて曖昧なものよ。そしてそれこそ星の数だけ存在する。だとしたらその願いを汲み上げ、取捨選択しているのは『誰』だったのかしらね。それこそ『おなかがすいたな』とか『カレーライスが食べたいな』とか『ああ、緑屋のケーキセットがまた食べたい』とか……いろいろ省略して『なのはともっと仲良くなりたいよ』だとか……。人には無数の願いがあるのも」
「え、え、え?ちょ、ちょっと、母さん、母さん?」
自分の背後から上がった慌てふためくような声にプレシアはくすりと笑みを浮かべ
「フェイトちゃん?」
なのはは自分の横で、顔を真っ赤にして首をぶんぶんと振っている友人の姿を見る。
「ち、違うからね、なのは。あ、えと、最後は違わないけど、あ、最初のも大きくは違わないんだけど、あの、えと、その……へぅ……」
「ふふふ。フェイトの願いは食べることばかりかしら?」
「違うよ!」
「そうね、ごめんなさい。でも。例えば一人の人間にはそれだけじゃなくてもっともっとたくさんの願いが秘められている。それは決して一つではないわ。たとえば世界の平和だけを願っている聖人君主様でも、小さな願いは無数に存在するもの。それを欲望の塊などというのはちょっといいすぎなのだろうけど。そんなたくさんの願い……願望の中でどうやって『願い』をかなえるのかしら。それは個別のものばかりではなく、いくつかの連続した願いなのかもしれないのに。『誰が』。その願いをここからここまでかなえますよーって決めているのかしら?」
「そのための、管制用擬似人格っていうことですか?」
「そうね、そしてそのために『貴女』がいる」
「そのとおりです」
エイミィが問いかければ、プレシアと、そしてかの少女がはっきりとうなずきを返した。
「じゃぁ、貴女の事は『管制人格』さんと呼びかければいいの?」
「『ジュエル・シード』でかまいません。それは私をさす言葉であり『私達』をさす言葉でもあるのですから」
そういいながら、目を閉じ、すでに半分以上透明になっている手を胸に当てる。その仕草はあまりにも人間臭かった。
「言っている意味がわからないよっ!それに、今こうしてなつきちゃん……アリシアちゃんと言ったほうがいいのかな。アリシアちゃんが消えかかっていることとあなたが言っていることとどんな因果関係があるの?」
幾人かの疑問をエイミィが代表して問いかける。
「そうですね。先も言いましたが、私はジュエルシードの管制制御システムに与えられた擬似人格です。現時点で起こっていることを皆さん報告するために、緊急措置ではありますがあなたたちの言うアリシア・テスタロッサ、あるいは石田なつきの身体を借りてこうして皆さんと対話しています」
「現時点で起こっていること、つまり……」
「はい、あなたたちの言う……この場合『アリシア』と呼称する人物は……」
ちらりと彼女はなのはとフェイト、その後プレシアに視線を向けた。
「この事象世界から消滅しかかっています。その理由は、ある人物の『願い』が叶えられたことによりその存在が揺らぎ始めた事です。私たちという存在は膨大な魔力というエネルギーを『願い』という指向性を持たせてはじめて力として具現化する事ができる器であったのです。ならばその願いというベクトルが叶えられることによりその方向性を失えば、どれほどの魔力をその身に内包していようとも、すぐに霧散してしまうのです」
あるいは、その放出されたエネルギーが空間の許容量を超えてしまえば、容易に世界は崩壊し、それを暴走と呼び、一定レベル以上のそれが他空間に影響を及ぼすだけの災害を次元震と呼ぶのですが……と小さくつぶやいた。
「そんな!『ある人』って誰!?その願いってなんなの!?」
なのはが泣きそうな顔で問いかける。
「……」
ジュエル・シードはその問いかけに目をそっと伏せた。
「いいわ、別に隠すこともないでしょう?」
「母さん?」
プレシアの言葉にフェイトが首をかしげる。
「よろしいのですか?」
「いいも何も。それを願ったのは私自身。これはプレシア・テスタロッサの願い。身勝手な母親が願った身勝手な願いよ」
「……」
「かあ……さん?」
気がつくとフェイトはプレシアに抱きしめられていた。
「ふふふ、そうね……これは過ちを犯したおろかな母親の贖罪だったわ」
「どう言う事かしら、プレシア」
「ねぇ、貴女。後どのくらい時間が残されているのかしら……」
「今しばらくは小康状態でしょう。私の『妹達』もなかなかに奮闘してくれています。といいますか……プレシア。貴女は『以前の記憶』を……?」
「ええ、取り戻しているわ。思い出したというべきかしらね」
そういいながらプレシアの唇には、自虐的な笑みが浮かぶのだった。
お久しぶりです。
というか、すっかり月日がたってしまいましたね、東壁堂です。
お待たせしました。待っていない人もお待たせしました。
といっても、あまりに久しぶりすぎて、長くかけないので今回はここまで。
ああ、このまま、また停止しないことを自分でも祈りつつ。
ああ、でも無印の最終話まではプロットはあるのです。
後はがんばって書くだけ。
FFが、FFがぁ!ぐふぅ……
待ってました!!
作者さんの無理のないペースで連載を続けてくれると嬉しいです
とりあえず1話から読み直します
upありがとうございます!
また初めから読ませていただきます。
連載再開、とても嬉しいです!