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東壁堂本舗

魔法少女 二次 はじめました!
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第2話 騎士達の輪舞曲 その5

2010年02月05日 | ふたりのはやて
 魔法少女リリカルなのは はやてSS
 第2話 騎士達の輪舞曲 その5

 結界に包まれた海鳴市の中央部、そんな高層ビルの屋上には二人の人物が、眼下の街並みを見下ろしていた。
 一人は、黒いローブで全身をすっぽりと覆った小柄な人物。
 塁壁の騎士ラルゴが、そして彼が長老と呼ぶ魔導士が『姫』と呼ぶ人物だった。
 あいも変わらず、目深にかぶったフードは彼女の表情を完全に隠している。
 今現在、彼女が、どんな表情でもってこの場に臨んでいるか、それを窺い知る事はできなかった。
 そして、もう一人は、暗闇にも鮮やかな銀髪を短く肩口で切りそろえた、まだまだ幼さを残した若者だった。
 日本の胴衣と袴のような格好に、片手に無造作に剣の鞘を握っていた。
 その鞘は細く、いわゆる細剣と呼ばれる類のものにいていた。
 姫の傍らにたたずむ姿は、あるいは姫の護衛にも見えなくはなかった。

 若者は、その細い目をさらに糸の様に細めて、足元の街並みに神経を注いでいたようだった。
 何度かこくこくと頷いたり、その腕を細い顎に添えたりする様は、まるで隣の人物と会話をしているかの様だった。
 しかし彼の姫君は、僅かたりとも言葉を発していない。
 それは人ではなく、あるいは人形であると言われても、疑問には思えないほどである。

 ふと若者が空を見上げる。

 この閉じられた世界にいるのは、自分達と、眼下にいる二人の仲間……と言うほどの関係であるかはおいておいて…。
 そしてその仲間と戦いを繰り広げている敵であろう魔導士だけの筈であった。

 しかし、それら以外の魔力の気配を感じたからだ。

 現在、この当たり一帯は『長老』のはった結界の影響下にある。
 一般の人間のみならず、獲物となった魔導士意外は自分達の見知らぬ存在はいない筈だった。

 そんな結界の中に魔導士、いや、古代ベルカ式の魔術を使う以上は騎士と呼ぶべきか、が飛び込んできた。
 その騎士の相手を、今はラルゴがしている。
 赤い騎士甲冑を身にまとった小柄な騎士だったが、結界を突き破ってこれるだけの魔力は持っているようだ。
 よもや塁壁の騎士が敗れる事はないと思うが、一苦労はするかもしれない。

 などと思っていたら、別の魔力を感知した。

 その魔力の波動は自らが知るものとは違っている。
 だから、その魔力の気配は、おそらくはあの小さな魔導士の仲間であろうと推測をつけた。
 もっとも、それ以外にはありえないだろう。
 自分の知る仲間は、姫を入れても4人。
 それ以外のものは、あるいは敵ではないかもしれないが、少なくとも味方ではない。
 ともなれば、現在のこの状況から推測すれば、おのずとあの赤い騎士の増援に違いはないだろう。

 仮に、あの騎士が管理局とか言うやからの関係者であるならば、なおさらだ。

 その魔力はまるで何かを探るかのように、光の魔法陣の周囲に広がってゆく。
 おそらくは、広範囲にわたる探知魔法に違いない。
 優れた術者であれば、この街を覆う結界の隅から隅まで探査の目を広げる事ができるのだろう。
 隠行の魔法で自らの気配を消していた筈だが、ふと気がつけば自分の周囲に、あの見知らぬ魔導士の魔力の気配が忍び寄ってきているのに気がついた。

 「ありゃ、みつかっちゃいましたか」

 まるで緊迫感のない声だった。
 けれども、僅かに感心した風の響きが混ざりこんでいる。

 自らが、空に待機する見知らぬ魔導士の探査魔法に感知されたのは間違いがない。
 認識阻害の魔法も使用されているにも拘らず、こうも容易に自分達の存在を感知してのけたあの魔導士。
 余程、探査魔法に長けているに違いない。だから、ほんの少しだけど、その実力の高さを賞賛する。
 敵に拍手を送るわけではないけれど。
 
 「これは困りましたねぇ」

 先程に続き、ちっとも困った風には聞こえないのんびりとした声。
 けれども、困った事には違いがないのだ。
 管理局に目を付けられた。
 彼らの一応の主には、管理局にはくれぐれも注意するように厳重に言われている。
 出きり限り管理局とは事を構えないようにと言われているのだ。
 
 若者の視界には、先の魔法陣の術者とは別の種類の魔力の持ち主が、自分達のいるビルの屋上に接近してくるのが見えていた。
 あの、赤い騎士を管理局の人間とするのならば…この若者の推測は間違ってはいないのだが…接近してくる二人の魔導士もそれに所属する人間なのだろう。

 「どうしましょうか、ねぇ?」

 「………」

 流石に、少しは困った風に隣に立たずぬ人物に声をかける。
 勿論、その相手とは彼らの姫君。
 だが、その肝心の姫は僅かも身じろぎする事はなく、じっとフードの奥の視線を、足元の街並みに注いでいる。
 近づいて来る魔導士なんか、まるで興味がないような様子に、若者はやれやれと方をすくめて見せた。

 そんな二人の前に、シグナムとシャマルが降り立つ。
 シグナムははじめこの二人が件の魔力の持ち主かと、僅かに首を傾げたが、まさか結界の中心に、魔力を持たない一般人がいる筈もない。
 加えて、こんな怪しい格好をしている一般人はいない、いる筈がない。

 ふと、最近はやてがはまっている「こすぷれ」とやらも十分に怪しい格好をしていたのだが…。
 そんな拉致もない想像が浮かんできたのだが、とりあえず、首を振って思考の中から閉め出した。

 「時空管理局のものだ。最近周辺地区にて発生している魔導士襲撃事件の関係者とお見受けする。
 こちらも無駄な争いは好まない。大人しく投降すればよし、そちらにもそちらの理由があるのだろう。
 管理局とて無碍には扱わない事を約束する。そちらの事情をよくよく聴いた上で……」

 「あはは、ごめんなさい。それ、無理です」

 あはは~と緊迫感のない笑みを浮かべながら片手をパタパタと振る若者。
 その態度にふざけているのか、あるいは侮られているのかとシグナムはすっと目を細めた。

 「ああ、まってまって、そんなに怖い顔をしないでください。。
 とりあえずは…えっと…まぁ…色々とあるんですが。
 説明はできない止むを得ない事情と言うものがありまして…とりあえず、ごめんなさい!」

 拝むように両手をパシッと合わせて、頭を下げる目の前の不審人物。
 だが、シグナムも、言葉は悪いが餓鬼の使いをしている訳ではない。
 見逃してくれと言われて見逃すわけにはいかない。
 この、目の前の不振な若者と黒いフードの人物が、魔導士襲撃事件の重要な関係者、あるいは犯人であるのならば、見逃すわけには行かないのだ。
 
 「駄目……ですかね?」

 「ああ」

 「ですよねー」

 やっぱり駄目ですよねー、と言いながら若者は首を左右に振った。
 ゆらりと若者が動きを見せた。
 ひょろりとした単身痩躯が、軽薄な笑みを浮かべながらシグナムに近づいてくる。

 シグナムがそれを感じたのは、長年戦いにその身をおいていたがゆえの戦士の感だったのかもしれない。
 全身に冷や水を浴びせかけられたような、背筋が凍えるような寒気がした瞬間、彼女は愛剣レヴァーティンを鞘から抜き放ち眼前に構えた。
 刹那の瞬間、キンッと高く澄んだ音がシグナムの耳に聞こえた。
 そして、数瞬おくれて「ありゃ?」と言うやはり緊張感の欠片もない軽い声がする。

 気がつけば、件の不審人物が眼前にいる。
 シグナムの耳を打った高く澄んだ音は、目の前の人物が抜き放った剣を、シグナムがレヴァーティンで受け止めた音だった。
 細く長い細剣を、シグナムの愛剣が受け止めている。そして、不審人物の持つ剣はその刀身の半ばまでひびが入っている。これでは剣として使い物にはならない。
 一方で、レヴァーティンにはわずかの刃毀れも存在してはいなかった。流石はシグナムの愛剣であるといえよう。

 しかし、シグナムは大きく目を見開いた。

 「あっちゃー、受け止められちゃいました。残念ですねー」

 少しも残念そうにない声色。

 「でも、おかしいですねぇ、確かにボクには貴女が斬られる光景が見えていたと言うのに。
 ボクの『読み』をはずした人物は、実はそれ程いないんですよ。もしかしたら、貴女、とっても強いんじゃありませんか?」

 参ったなとでも言うように頭をぼりぼりとかく若者。

 シグナムはまるで凍りついたかのような表情で動けないでいた。
 この若者の言っている事は決して間違いではない。
 実は、シグナムには、この若者の剣筋と言うものがまるで見えなかった。
 数々の死闘を繰り広げ、歴戦の勇士と呼ぶに相応しい経験を重ねてきたシグナムである。
 そんな事はありえなかった。
 実際には見えていなかったのではない。
 若者が自分に近づいてきて剣を振るう様は記憶の中に存在している。
 まるで、保存された映像のように記憶の中によみがえらせる事ができる。
 しかし、今にして思えば、ああ、剣をふるって自分を斬ろうとしたのだなと、『認識』できるのだが。
 けれどもその瞬間に、その行為は『知覚』できなかったのだ。 
 それほどまでに、この若者の剣筋は、無造作に、振るわれたのだ。
 間違いなく、シグナムは、この若者に切り倒されていた事だろう。

 だが。現実には。
 シグナムは、ほとんど生存本能と言ってもいいぐらいの感で、どうにかこの若者の剣を防いだのだ。
 若者の言うとおり、シグナムにも、自分が斬られ、倒れてゆく光景が鮮やかなほどに見えていた。
 だから、自分がここに立っている事が信じられなかった。

第2話 騎士達の輪舞曲 その4

2010年01月30日 | ふたりのはやて
 魔法少女リリカルなのは はやてSS
 第2話 騎士達の輪舞曲 その4

 ヴィータからの思念通話のあった場所に急行する烈火の将シグナム。

 シグナム達守護騎士は、現在、この第97管理外世界のとある都市、すなわち海鳴市の周辺地域で発生している魔導士襲撃事件の調査に赴いていた。
 彼女達にもなじみの深いこの街で発生する襲撃事件が、すでに5件。
 何者によって引き起こされているかは不明だが、未だその犯人の目星は付かないでいる。

 襲撃された魔導士達は、全身に重傷をおっており、何者か…あるいは獣のような何かに襲撃された可能性が高いと思われた。
 そして、その魔力のほとんどを、その何者かによって抜き取られていたのである。

 その手口としては、かつてシグナム達、守護騎士が、夜天の書がいまだ『闇の書』と呼ばれていた頃に起こした事件のその手口に極めて似ていた。
 だが、明らかに違っている点が二つ。

 一つは、被害者が命を落としかねない重傷をおっている事。
 幸か不幸か、あるいは必然か、未だ命を落とした被害者はいなかったが、そのすべての被害者が未だ意識不明の状態なのだ。
 シグナム達は、自らの蒐集行為が管理局に警戒されたと悟ると、その襲撃対象を、様々な異世界の魔力ある魔物へと切り替えた。
 それは、『魔力』を集めると言う行為が目的であった為、非効率的ではあったが、魔力を持った生き物達でもそれが可能だった事と、必要以上に管理局を刺激したくはなかったが為である。
 魔力を持つ魔導士達のほとんどが管理世界に所属しており、管理局の警戒網が厳しい中での襲撃は、困難を極めたと言う理由もある。

 もう一つが魔力の抜き取り方。
 シグナム達は、闇の書の蒐集の時、相手のリンカーコアを抜き取る形で、魔力の蒐集を行っていたのは確かである。
 しかしながら、根こそぎ、その魔力が尽き果てるまでの抜き取りは行っていなかった。
 その被害にあった高町なのはやフェイトテスタロッサ達が、比較的短い時間で復帰できたのもそれが故である。
 あるいは、最後まで蒐集行為を行っていれば、より早い段階で蒐集が完了していたかもしれないのだが、それは魔導士の生命を奪う行為に等しい。
 それでも、それが実行されなかった理由。
 それは、万が一、守護騎士達が捕縛され、万が一、主はやての存在が明るみに出た場合。
 少しでもその罪科を軽くする為、最後の一線は越えないようにしてきたからであった。
 
 だが、今回の襲撃者は違う。
 その犯人は、『根こそぎ』、被害者のリンカーコアを抜き取っているのだ。
 今回の被害者達は、おそらく、この後、魔導士としての復帰はあるいは絶望的なのかもしれない。
 無論、今回の襲撃者はシグナム達とは違う存在だ。
 だから、この事件に対してシグナム達があれこれと悩む必要性はまるでない。

 しかし、それでも、かつて、自らが引き起こした惨事を思い起こさせるかのような今回の事件。
 今では管理局の一員として、かつての罪を償う事に決めたシグナム達にとって。
 この事件は他人事のようには考える事ができないでいた。
 だから、守護騎士たちは、今回の事件の犯人が未だ野放しになっている事に歯軋りをし。
 少しでも早く、今回の事件を解決に導こうと躍起になっているのだ。 

 そして、ヴィータが遭遇した、この事件の犯人と思しき魔導士達。
 ようやく得られた手がかりである。逃がす訳には行かないのだ。 

 故に、ヴィータからの思念通話のあった場所にすぐさまシグナムは向かった。
 途中で、僅かに周囲の気配が変わる。
 街から聞こえてくる喧騒の音が急にやんだ。

 間違いなく、何者かが展開した結界に突入したのだ。

 その事に、シグナムは僅かに訝しく思う。

 普通結界は二つの目的で使用される。
 結界の中に閉じ込めたものを外に出さない捕縛系の結界が一つ目。
 二つ目が、その逆に外からの侵入者を妨害する為に行使されるもの。
 今回のそれは、間違いなく後者であると思った。

 しかし、その進入はあまりに容易く。
 まるで紙でできた壁に手を突っ込んで破る程度の抵抗しかなかった。

 もちろん、魔力がない者にこの結界を破る事はできない。
 これは、その類の術式だ。
 一般人から、術式行使している場所を隔離する意味はある。
 けれども、少し魔力を持つものがいれば、容易く侵入する事ができる程度の結界であった。

 あるいは魔力の低いものがはった結界なのか。
 ヴィータと対峙する魔導士達はそれほど高い力を持たぬ者達なのか?  

 肝心の魔導士達とヴィータがいるその場所は、シグナムが探索していた場所からは、ただぼんやりとしかその位置が認識できないでいた。
 彼女達のいる場所、あるいはその周辺で魔導士による結界魔法が使用されたに違いないと推測する。
 ただ、彼女からの思念通話は思いの他、はっきりとしていたからも、それ程強力な結界ではないと思われる。
 探査魔法もある程度は効果を発揮する。しかし、霞のようなこの結界の所為で、詳細な場所や、その大きさは特定できないでいた。

 まるで泥沼の中に手を突っ込んで、落とした宝石を手探りで探すような感覚。
 認識阻害の魔法でもかかっているのだろうか?

 それでも、なんとかヴィータの周辺にいるであろう魔導士達の気配をさぐる。

 周辺には、確かに複数の魔力反応がある。

 一つは間違いなくヴィータのもの、そしてその近くにに大きめの魔力反応が二つ。
 ヴィータの思念通話から、相手の魔導士は少なくとも二人以上であることが確認できている。

 そして、その近くにもう二つの魔力反応がある。
 一つは、ヴィータの傍にいる魔導士達と同じくらいの強さの魔力。
 もう一つは、明らかに小さい、例えるならば蛍火の様な程度の魔力。

 そして、彼女達のいる場所は、シグナムが、主はやてとともに、偶に買い物に行くなじみのある場所の周辺だった。
 故に、その記憶を元に、目的の場所へと急ぐ。

 ヴィータは一人で十分だと言っていたが、相手が複数である場合、思わぬ痛手を被る可能性があると言う事。
 万が一にでも、その犯人を逃がす訳には行かない事。
 それらが、シグナムをヴィータのいる場所へと急がせる理由になっていた。 
 
 シグナムの行く手の3時方向、すなわち右手の方から近づいてくる魔力反応がある。
 微かに柳眉を歪ませたが、すぐに警戒と解いた。
 僅かではあるが、頬を緩ませる。

 何故なら、それは、シグナムもよくなじみのある魔力反応だった。
 その魔力が接近、やがてその持ち主が視界に入り込んでくる。

 淡い緑色の騎士甲冑を身にまとう湖の騎士、シグナムと同じく、夜天の書の守護騎士シャマルである。
 ヴィータとシグナムの思念通話を受けて、シグナムと合流するべく飛んできたのだ。

 「おまたせ、シグナム」

 「ああ」

 「ヴィータちゃんは……あっちね?大丈夫かしら」

 シャマルも僅かに首をかしげながらヴィータのいる方角を指し示す。
 さしものシャマルもこの結界のなかでは、その感覚を狂わされるのであろう。
 ヴィータの位置が確実にはつかめないでいる。

 心配そうな表情が浮かんでいるが、彼女が心配しているのはヴィータの身か、それとも彼女がやりすぎない事なのか。
 それが解っているからシグナムはシャマルの言葉に苦笑をもらした。

 「案ずる事はないだろう、あれも守護騎士だ。並大抵のものには負けはせんし、今の自分の立場と言うものをわきまえている筈だ。
 無茶をすれば主はやてが悲しまれると言う事を、あれが一番理解しているだろう」

 その言葉にシャマルもくすっと笑みを浮かべる。
 さすがはヴォルケンリッターの将である。自らの仲間の事をよく理解しているようだ。

 「それもそうね。きゃっ!」

 突如、シャマルが小さな悲鳴を上げる。
 
 ずーんという鈍く重々しい衝撃音と、びりびりとした衝撃が大気を伝わってくる。
 かなり大きな魔法を行使したのか、その余波はシグナムたちのいる場所まで伝わってきたのだ。
 結界のなかで静まり返った街の路地裏から、光の柱が立ち上り、そこから爆煙が立ち上ってゆく。
 シグナムは眉をしかめ、シャマルは僅かに涙を浮かべる。

 「もう、ヴィータちゃんってば!びっくりさせないで欲しいわ。
 でも、ずいぶんと派手にやったわね。犯人は大丈夫かしら」

 「やりすぎだぞ、あの馬鹿」

 シグナムは、その光景にやれやれと、肩をすくめながら小さくため息をついた。
 案の定、シグナムの心配が早くも的中したか。

 「ともかく、あちらはヴィータに任せておくとしよう。あれの話では、まだどこかに魔導士がいるようだが…。
 確かに、この周辺にいると言う事らしき気配はあるのだが、このおかしな結界のなかでいまいち場所が特定できん。
 頼めるか?」

 シャマルはシグナムの言葉にうなずきを返す。
 この泥の中にいるような結界が邪魔をして、残りの魔導士の位置が特定できない。
 だがシャマルと彼女の持つデバイスは、探索魔法の専門家である。

 「もちろん!探索と補助は湖の騎士である私とクラールヴィントにお任せよ!」

 シャマルは首肯し、両手を前方に突き出した。
 その指にはめられている二つの指輪、彼女を支えるデバイス、クラールヴィントに淡い光が灯り始める。

 「お願い、クラールヴィント」

 空中に浮かぶ彼女の足元にベルカの魔法陣が展開する。
 彼女の持つ様々な支援型の術式の中から、今回は探知系の魔法を選択する。
 その術式が、魔法陣の精製と共に組上げられてゆく。
 そして、探査魔法のための術式に必要な魔力が満たされた事を感じたシャマルは、魔力を周囲に開放していった。

第2話 騎士達の輪舞曲 登場人物表

2010年01月23日 | ふたりのはやて
 魔法少女リリカルなのは 『ふたりのはやて』
 第2話 騎士達の輪舞曲 登場人物表

 登場人物情報が更新されました。


 矢上はやて

 私立聖祥大学付属中学校に転校してきた少女。本編の主人公の一人。
 人付き合いが苦手で、他人とのコミュニケーションを避けてきたが、八神はやてや、アリサ、すずか達との出会いによって徐々に心を開いていく。
 四肢に障害を持っており、日常生活に不自由はないが、激しい運動とかは行えない。
 ある日、偶然にも『魔導士襲撃事件』に遭遇する事をきっかけに数奇な運命に巻き込まれる事になる。
 本人は嫌がっているが、渾名は「はーちゃん」。
 八神はやてと名前を区別する為に仕方なく、受け入れている。


 八神はやて

 本編のもう一人の主人公。闇の書事件と呼ばれる事件の関係者で、その事件が切欠で、様々な人々と出会い、魔法の才能を開花させていった少女。
 闇の書改め夜天の書の主で、守護騎士ヴォルケンリッターの主でもある。
 現在は矢上 はやてと同じく私立聖祥大学付属中学校に通いながら時空管理局の仕事をこなしている。
 ある日、海鳴市で起こった『魔導士襲撃事件』の解決に奔走するうちに、新たな守護騎士達に遭遇する事になるのだが……。
 ちなみに、1話で矢上はやてに貧乳とか言われているが、この時点ではフェイトと同じぐらいのサイズである。
 使用デバイスは汎用のストレージデバイスを使用。しかし、魔力容量がはやての使用に耐え切れず、よく壊している。


 ヴィータ

 八神はやての所有する夜天の書の守護騎士の一人。
 魔導士襲撃事件の捜査の為に、海鳴市に戻ってきた。
 その最中に、古代ベルカ式の術式を操る騎士ラルゴと出会う。
 

 フェイト・テスタロッサ

 ジュエル・シード事件、闇の書事件などを通じて、高町なのはや八神はやてと出会い友好を深めていった少女。
 現在は時空管理局の嘱託魔導士をしながら執務官を目指していたが最近、見事に合格したらしい。
 今回ははやてとともに海鳴市で発生した『魔導士襲撃事件』の解決の為に登場する。
 普段は、はやてと同じく私立聖祥大学付属中学校に通う中学生である。
 第1話には未登場。今回は脇役。
 使用デバイスは・バルディッシュ・アサルト。


 高町なのは

 ジュエルシード事件の時に、ユーノ・スクライアから託されたレイジングハートと出会い、魔法の才能に開花した少女。
 はやてやフェイトとはお互い親友の間柄である。
 はやてとフェイトが『魔導士襲撃事件』に携わる事になり、その協力の為に登場。
 数年前に、とあるロストロギア事件に携わったおり、何者かに襲撃を受け、撃墜されておりその過酷なリハビリから回復した。
 現在は教導官を目指している。第1話には未登場。フェイトと同じく、今回は脇役。
 使用デバイスは・レイジングハート・エクセリオン。


 アリサ・バニングス

 はやてや、なのは達の親友の少女。
 彼女達の事情を知ってなお、彼女達の親友であり続ける少女。
 気がつよくリーダーシップの高いまとめ役。
 気の難しい矢上はやても初日で陥落させた。


 月村すずか

 アリサと同じくはやて、なのは達の親友である少女。気が優しく物腰が柔らかい。


 矢上さやか

 矢上はやての母親。夫とは離婚しており、それを契機に海鳴市に引っ越してきた。
 離婚の慰謝料で仲間達とソフトハウスを設立した。高名なウェブデザイナーでプログラマーである。
 しかし……?



 塁壁の騎士 ラルゴ

 突如現れたもう一組の守護騎士の一人。塁壁の騎士の二つ名を持つ。
 古代ベルカ式の魔法を操り、真っ赤な魔槍を持つ偉丈夫。
 防御魔法に長け、ヴィータの攻撃をやすやすと防ぎきる。
 何らかの目的で『魔導士襲撃事件』を引き起こし、ヴォルケンリッターや管理局の魔導士達と対峙する。
 とあるベルカの昔話に登場する古強者に容姿等が酷似しているが……。


 ??? Ein großer Schwertkämpfer


 突如現れたもう一組の守護騎士の一人。
 ベルカの古刀を操る剣士。少年のような容姿の守護騎士である。その剣技は見る者圧倒する。


 ??? Neun von ihnen

 突如現れたもう一組の守護騎士の一人。ラルゴからは長老と呼ばれている。
 灰色の外套を身にまとった、腰の曲がった老婆の様ないでだちの騎士。その魔術は強大。
 支援魔術や結界魔術のみならず、攻撃魔術も使いこなす。
 今回出現した騎士達の参謀役もこなす

 ??? Ein weiterer Sturm

 なぞの少女。守護騎士達の主か、彼らと共に姿を現すなぞの人物。その正体は不明。
 ラルゴや長老からは『姫』と呼ばれており、騎士達の長と目される。
 ただし、この場合、『長』と『主』は別人である。

第2話 騎士達の輪舞曲 その3

2010年01月23日 | ふたりのはやて
 魔法少女リリカルなのは はやてSS
 第2話 騎士達の輪舞曲 その3

 ラルゴと名乗った騎士。
 その男の巨大な体躯がヴィータの前に立ちふさがる。
 オフィス街のビルの谷間に仁王立ちするその偉容は、その名の通り、まさに砦の城壁。
 許されぬ者は、この先通る事、一切まかりならぬと、物言わずとも物語る。

 彼の背後では、怪しげな黒フードが周囲の魔力を収集している様子が見える。
 その老婆の足元に倒れているのは、明らかに管理局の武装隊員だ。
 最近、この辺りの都市、特に海鳴市に集中して発生している『魔導士襲撃事件』の調査の為に送り込まれた魔導士だ。
 しかし、ここ最近……と言っても、ここ数日の僅かな期間になのだが、送り込まれた魔導士が逆に襲撃の対象になりつつある。
 最初はただの管理局が異世界での魔法術式が無断に行使された痕跡の調査であったらしかった。

 偶々その時に近くに駐留していた次元管理局所属の次元航行艦アースラのスタッフが派遣された。
 別にアースラが手を抜いた訳ではない。それなりに選りすぐりの武装隊の人間を送り込んだつもりだった。
 現地調査であると言う事で派遣されたスタッフが、無事に帰還する事はなかった。
 何者かに襲撃された武装隊の人間が発見されたのは、その翌朝だった。
 最悪の事態までは至ってはいなかったが、局員はその怪我により、未だ意識が戻る事はない。 

 ミイラ取りがミイラになるとはこの事だが。
 少なからず一般市民にも犠牲者が出ている可能性もあるのだから、安易に引き上げる訳にもいかない。
 現状は魔導士を狙い、襲撃を繰り返しているが、その対象が魔導士であるとは限らない。
 犯人の凶刃が、いつ一般市民、しかも、管理外世界の、魔法の存在を知らぬ市民に向かないとも限らない。
 その為にも、まずは犯人と接触し、その目的を探らなければならない。
 その上で捕縛、拘束をせねばならない。なんと困難な事だろう。

 だから、襲撃者にも対応でき、相手を捕縛することができるだけの実力を持った魔導士を派遣する必要がある。
 高ランク魔導士の存在は気象である、それでいて管理局に所属し、この管理外世界にも詳しい者たち。
 それゆえのアースラスタッフであり、ヴォルケンリッター達だった。無論、主たる八神はやての了承もと行われた派遣だが。

 現状で犯人捜査で動いているのが鉄槌の騎士ヴィータと、烈火の将シグナム、そして湖の騎士シャマルの3人である。
 守護獣ザフィーラははやての護衛で待機。はやても現状は待機状態だった。

 だが、それでも襲撃事件はやまなかった。現在だけでも犠牲者は5人にのぼる。
 初めて犠牲者が発生して期間にして一週間。
 ヴォルケンリッター達も、未だ姿を見せぬ襲撃者に忸怩たる思いを感じていた。

 管理局もこの襲撃事件を重く見ているのか、近くに執務官が派遣されて来ると言う。

 その話を、アースラ艦長のクロノ・ハラオウンから聞いて、その前に事件を解決してやるけどな、と、ヴィータは息巻いていた。
 別にヴォルケンリッター達を軽視した発言では決してなかったが。
 自分達が不甲斐ないばかりに犠牲者を悪戯に増やしているのだと言う思いはある。
 先の『闇の書事件』では、闇の書、今では夜天の書と呼ばれる魔導書の守護騎士である彼ら自信が事件の加害者であったのだ。
 それゆえの使命感である。あるいは罪悪感かもしれないが。

 海鳴と言う街は、管理外世界に所属する街でありながら、こうも魔法絡みの事件が連発するのは、呪われているに違いない、と。
 その事件の一つに関与した守護騎士のヴィータは思う。
 その両方に関わっている二人の魔導士の少女も、この街の住人だし。
 『ジュエル・シード事件』そして『闇の書事件』、双方ともこの海鳴と呼ばれる街を舞台にした、管理局史に残る大事件だったのだ。
 下手をすれば、この世界は、丸ごと消滅していたかもしれなかったのだ。

 そんな状況だったから、不信な魔力反応を感じて様子を見に来たヴィータだった訳だが、今回は『当たり』だったようだ。

 塁壁の騎士ラルゴと名乗る、魔導士。
 いや、ヴィータ達、守護騎士と同じく古代ベルカ式を行使する以上、騎士と呼ぶべきか。
 実際に、男自信も自らを『騎士』と名乗っている。

 その背後で、周囲に浮遊する魔力を、おそらく何らかの魔力機器で回収している黒フード。
 見慣れぬその形、明らかに魔力を放つその異様、もしかしたら、別の世界から持ち込まれたロストロギアかもしれない。
 
 塁壁の騎士と言う言葉が記憶のどこかに引っかかるが、とりあえず、現状を見るに、この二人が間違いなく襲撃事件の犯人に違いない。
 実際に、この二人が武装隊の隊員を襲撃した現場に出くわした訳でもなく、それ故に証拠も乏しいが、状況証拠が間違いなくそれを物語っている。
 問題は。今まで、この短期間に犠牲者が5人、5人もの人間がこの犯罪者達に襲撃されたのだが、その事件の規模、内容。
 だから、アースラスタッフはこの事件の犯人を複数犯であると予測している。
 仮に犯人ではないとしても、襲撃現場で怪しげな行動をしておりなおかつ、明らかに違法な魔術行使をしている以上、逮捕は可能だ。
 ロストロギアらしきものの不法所持も現行犯だ。

 目の前にいる『怪しい連中』は二人、確かに複数犯なのは間違いがない。
 だが、ヴィータはこの町の何処かにいるシグナムに念話を送る。ベルカ式ではそれを思念通話と呼ぶのだが。
  
 『見つけたぜ、例の魔導士の襲撃事件の犯人だ。たぶんな』

 『たぶん?場所は?』

 『海鳴の中心部のオフィス街の中心だ。前にはやてと来たアイスクリーム屋の近くだ』

 そういえば、あのアイスはギガうまだったっけ。

 『わかった、今行く』

 『………』

 また行きたいな…。

 『ヴィータ?』

 『あ、ああ!待て、シグナム。こいつはあたしだけでいい』

 『なんだ、一人で相手をするつもりか?相手は一人なのか?』

 『いや、二人だ』

 『待て、ヴィータ。相手が複数なら危険ではないのか?』

 『あぶなそーなのは一人だけだ。こいつならあたし一人でもなんとかなる。
 それよりも、シャマルと一緒にほかにおかしなことをしている連中がいないかどうか探してくれ。
 なんか、どっかから見られているような気がする』

 『ふむ、第三者がその場にいるのか。了解した、だが、油断はするなよ?』

 『はっ!誰にものを言っている!』

 『ふっ…心配はせぬが、今の我らは昔と違う。怪我でもすれば、それだけで主が悲しまれる事を忘れるな』

 『わかってるよ!』

 『ならばよし。聞こえてるな、シャマル』

 『もちろんよ、シグナム』

 『ヴィータを探査範囲内に入れつつ、この周辺に探査魔法を。我等と武装隊員以外での魔力反応があったら連絡をくれ。
 私は上空から、他の魔導士を探す。確かにヴィータのいる場所以外にもおかしな魔力を感じる』

 『了解よ、シグナム、いったん合流しましょう。ヴィータちゃんも気をつけてね』

 『ああ』

 「終わったのかい?」

 「すまねぇな、待たせちまったな」

 「なに、気にする必要はない。どの道時間稼ぎは必要なんでね」

 ヴィータとヴォルケンリッター達の思念通話を律儀に待っていたラルゴ。
 それはこの男の性格が律義なものゆえか、それとも単純に余裕があるのか。
 あるいはその両方かもしれない。

 男は、先程から一歩も動かず、微動だにしていない。
 あいも変わらず、巨大な赤い魔槍を肩に担いだままの姿。

 ヴィータの攻撃を防いだ時も、僅かに利き腕とは逆の腕を、僅かに動かし、手のひらを打ち込まれるグラーフアイゼンに向けたのみ。
 その手の正面で展開した、ベルカ式の魔法陣が、ヴィータの攻撃を完全に防いだのだ。
 もっとも、初撃で、その魔法防御の魔法陣をいくらかは打ち砕いたのだ。
 決して攻撃が通らぬわけではない。しかし、その防御を貫き通すためには、いささか苦労をしそうだ。
 故に、この騎士の特性は防御に特化したものと推定される。

 しかし、断定するのは、この男が、未だ初手を見せぬ事から危険ではある。
 加えて魔力反応もヴィータに負けず劣らず高い。

 そんな騎士が彼女を、この先、一歩も行かせまいと、山の様に立ちはだかっている。
 自ら『塁壁の騎士』と名乗りを上げた以上、やはりその防御力は自信があるのだろう。
 こうして見ているだけで、巨大な城塞を目の当たりにしたかのような重圧感を感じる。

 かつて、ヴォルケンリッターで難攻不落の砦を攻略した時にも似た、いやそれ以上のプレッシャーをこの男からは感じる。

 難しい表現はよそう。

 ヴィータは、この目の前の人物を『強い』と評価した。
 最初にからかわれた事に対しては、とうに頭が冷めている。
 
 だから、冷静に彼女は判断する。 
 
 それでも、自分に貫けぬ、破壊できぬ壁はなし。
 何故なら、自分は『鉄槌の騎士』であり、自分の相棒は『鋼の伯爵(グラーフアイゼン)』なのだから。

 ヴィータはふわりと浮かぶ。
 男とは一度距離をとった。
 追ってくる気配はないが、その視線はしっかりとヴィータを追跡する。 

 この距離なら、近接攻撃は届かない。
 それに、おそらくは近接攻撃は相手に有利な戦いの距離だ。

 攻城戦に置いて尤も厄介なのは、城塞近くでの攻防にある。
 防御側は硬い城壁で攻め寄る兵士を食い止めながら、ゆるゆるとその敵を往なしていけばいい。
 無論、攻撃側も手を抜くわけではないのだが、防御壁が硬ければ硬いほど、その攻撃の勢いを失してしまう、減じられてしまう。
 だから、古来において攻城戦は防御側が圧倒的に有利なのだ。
 犠牲あっての城塞戦の攻略なのだ。故に攻撃側は防御側の三倍の兵力が必要となると言うのはその辺りが理由なのだ。

 だが、ベルカの歴史も何度か記載があるように。
 城塞の中から兵士を引きずり出してしまえば、後は野戦となんら変わりない。
 そのときこそは、兵力の差、錬度の差、あるいは将の差がものを言う戦いになる。

 もう一つ、致命的な問題があったりする。
 主にその背丈あたりで?しかし、これは故意に無視する、するったらする。

 だから、あの狭い場所での戦い、近接戦闘は、鉄壁の防御を誇る騎士にとってはその場所そのものが城塞。
 攻撃側のヴィータが圧倒的に不利なのだ。

 だったら、どうする?

 何も敵に有利な状況で戦う必要はない。
 自分に有利な戦闘状況に敵を引きずり出せばいいのだ。

 幸い、ヴィータは好みとする戦いは近接の直接的な攻防だ。
 これはベルカ式を選択する騎士の多くに共通する、いわば戦士の性なのだ。
 ヴィータのその特性は、どちらかと言えば戦場全体を視野にいれた近中距離戦域をカバーするオールラウンダーなのだ。
 そして、必要とあらば、そのどちらも選択できる柔軟な戦闘スタイルの持ち主。
 負けぬ事を選択するならば、そのスタイルにこだわりを持たないのもヴィータのよき特性の一つであった。

 故に、彼女は中空にその身を浮遊させ、眼下に男の姿をおさめる。
 こうなると、狭い路地裏と言う地形が男の動きを束縛する。

 防御壁を貼れば確かに鉄壁の、絶対の守りとなるだろう。

 しかし、それはそれでヴィータも安全な距離から攻撃を仕掛ける事ができる。
 そうなれば、どちらかの魔力が尽きるまでの、キャパシティの勝負となる。

 あるいは、シグナムか、クロノを呼びつけれ一気に制圧すればいい。
 それは最後の手段にしておきたいが、それでもこの犯罪者を見逃すよりは遥かにましである。

 それはそれとして。

 まずは、頭を取る。
 つまりはヴィータは敵の上空に位置すると言う絶対的な有利の状況に位置したのだ。
 己の持つ古代ベルカ式の術式の中から、攻撃のための術式を呼び起こす。

 足元に、赤い、ベルカ式魔法陣が浮かび上がる。
 ヴィータの目の前に、鈍い鋼色の光を放つ魔力球が浮かび上がった。数にして4つ。

 「いくぜ、アイゼン、仕切りなおしだ!」
 【シュワルベフリーゲン】

 アイゼンを振りかぶり、浮かんだ鋼球を地面に向けて打ちつけた。
 4筋の鋼色の光弾が、男に向かって唸りをあげて飛んでゆく。
 4つの弾が、避け様ともしない男に着弾し、爆煙を吹き上げた。

 「やったか……?」
 
 薄れてゆく魔力の残滓の中に、三角形の光が見える。
 すでに何度目かの防御魔法陣だ。
 
 「な、訳ねーよな」

 ラテーケンの一撃を防いだ防御力を誇る騎士だ。
 この程度の攻撃、牽制にもなるまいとは思う。
 だから、次の手は打ってある、いや撃ってある。

 いままでヴィータの攻撃はすべて完全に防がれている。
 カートリッジを使用してまで放ったラテーケンハンマーを完全に防がれたのは確かに痛い。
 しかしながら、あの攻撃は『防がれた』のだ。『避けられた』訳ではない。
 防御魔法陣はその使用に魔力を消費する。
 まして、強力な魔力をこめた魔法を防ぐためには、守る側もそれなりの代償、魔力を必要とする。
 実際には、連続行使は難しいのだ。

 高町なのは?
 あれは別、まったくの別物。
 管理局の白い悪魔の防御力は化け物か?

 魔力の煙が晴れ、こちらを見上げる騎士にヴィータはニヤリと笑みを浮かべる。

 実際にはヴィータはそこまで考えてはいない。
 単にでかいのをぶちかまして、あの防御を打ち抜こうと考えているだけなのだが。

 彼女の周辺にはすでに、魔力をこめた魔弾がいくつも浮かんでいる。数にして32。
 どこぞの雷撃魔導士が組み立てたファランクスシフトと呼ばれる術式が存在するが。
 流石にこれだけの魔術を使用するのはきつい、だから一度カートリッジをリロードする。

 「ほう?」

 すっかり煙の晴れた、路地裏の中央に立つ騎士の顔つきが流石に変わる。

 「へっへっへ、流石にこれは受けきれねーだろ?降参するなら今のうちだぜ?」

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第1話 彼女達の前奏曲 その3

2010年01月23日 | ふたりのはやて
 魔法少女リリカルなのは はやてSS
 第1話 彼女達の前奏曲 その3


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 That day AM:6:32 

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 私の朝の目覚めは、目覚まし時計の電子的なアラーム音によるものだった。
 時間を見れば、そろそろ起き出して朝食の準備をするなら、始めなければならない時間だ。
 眠たいまなじりをこすりながら、心地よい誘惑を撥ね退けてベッドから起き上がった。

 人気の無いマンションの一室を素足でぺたぺたと歩きながら、キッチンの冷蔵庫の中から牛乳のパックを取り出す。
 その中身をコップに注ぎ、一息に飲み干した。

 冷たい液体が、一気に私の覚醒を促した。

 何気なしにキッチンを見渡し、机の上に残された、惣菜のパックを確認し小さくため息をついた。

 気がつけば、留守番電話にメッセージが残されている。

 まったく、その気にはならなかったのだが、仕方なく点滅している留守番電話の確認ボタンを押した。

 『はやてちゃんですか、お母さんです。御免なさい、今日はお仕事が忙しくて帰れそうにありません。
 ちゃんと戸締りをしておいてください。お願いします』

 ピーと電子音が鳴り、機械的な音声でメッセージが1件だった事を告げた。

 「今日『も』だろうに…」

 その小さな愚痴を聞く人間は、私一人だった。
 録音時間は23時を大きく過ぎている。
 もう日付が変わりそうなタイミングだった。

 私は電話の呼び出し音が苦手だったから、いつも電話の音の大きさを最小にしている。
 そして就寝してしまえば、ちょっとやそっとの物音では目覚める事がない。
 ある意味特技なのだが、自慢できるものでもないか。
 だから、気がつく事はなかったのだろう。

 生憎と携帯は持っていない。
 かける相手もかかってくる相手もいないのだから別に不便でもなんでもない。
 ここに来る前には持っていたのだが、とある事情から捨てた。

 こうした全くもって親子らしくないコミュニケーションも何時もの事だ、気にしても仕方がない。
 これがそうなのかと言われても、私としては困るのだが。
 少なくとも『あの人』がそうだと思っているのだから仕方がない。
 とは言え、世間一般の人々が思う『それ』を『あの人』としろと言われても、私のほうから願い下げなのだが。
 そう言えば、ここ数日、あの人の顔を見た記憶が無いなと思った。

 私は、もう習慣になっている行動をとる事に決めた。
 台所の机の上にのっている、すっかり冷たくなった惣菜のパックの中身を生ゴミのゴミ袋に投入した。
 
 ほんの少し躊躇して、惣菜のパックも同じ袋に投入してやった。
 世の中はエコブームと言う事で分別にうるさくなっているのは承知している……このマンションも御他聞にもれず……ごめんなさい。


 新しい制服に袖を通した。
 心機一転のはずだったが、非常に気が重い。
 茶系統のブレザーにスカートと一見すると地味な制服だが、実は某有名デザイナーによるものらしく、制服だけでも結構根が張るらしい。

 今日から通う事になる私立聖祥大学付属中学校は、名前にあるとおり、私の暮らすことになった海鳴市にある私立聖祥大学の付属中学であり、女子中学である。
 パンフレットによれば小学校からのエスカレーター式の女子校で、このあたりの都市では結構な名門らしい。
 小学校だけは共学らしいが、今の私にはあまり関係のない話か。
 そんなわけで、入学金とか寄付金とか結構な額になる筈なのだが、そこはあの人の見栄なのかもしれないが、私の心配する事ではない。

 中学校のある場所までは、海鳴市を巡回しているバスに乗り込んで向かう。
 バス停で時刻表を確認すると、もうしばらく時間はある。
 だから、近くにコンビニに入り込んで、おにぎりを二つとサンドイッチを一つ購入する。
 飲み物は紅茶で。甘いのとレモン入りは苦手だからストレートで。
 ほんとはこれでも甘すぎると感じる。残念ながらノンシュガータイプのものは無かったので、良くあるシンプルな種類を購入。
 別にダイエットをしているわけではない、単純に甘いのが苦手なだけ。
 好き嫌いは多いほうだと自覚している。ピーマンとかにんじんとかは別に平気なのだけど。

 私は、バス停のベンチに座ってコンビニのビニル袋からおにぎりを取り出してその包みのビニールをぺりぺりとはがしていく。
 この時間は通勤や通学の時間と重なるのか、背広姿のサラリーマンや、制服姿の学生がちらほらいる。
 つまり、人目があるのだが、残念ながら、そんな事を気にするほど、私の神経は繊細ではない。
 世間のマナーを言われると、それはそれで痛いのだけど、昨今の若者をなめるな、そんな事を気にしていたら生きていけない。
 誉められた事ではないのは確かだけど。
 
 だから遠慮することなく、おにぎりをぱくついた。
 購入した2個をお腹に収めた後、はがしたビニールはちゃんとコンビニのビニル袋の中に収納、それごと、学校指定のかばんの中にしまい込む。

 その時、丁度バスがやってきたから、バス停に並んだ群衆と一緒に、バスに乗り込んだ。
 ちなみに、定期券はまだ準備していないので、お金を投入口に入れて乗車する。

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 That day AM:8:17 

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 興味もなさげにぼんやりと流れる風景を眺めているうちに学校に到着。
 所要時間にして15分ぐらい。
 なるほど、歩くのはちょっときつい距離だ。
 
 さて、校門に立ったのは構わないが、どうしよう、職員室に来るように言われているのだが、場所がわからない。
 本来ならば保護者と一緒に来るように言われていたのだが、どうせ『あの人』の事だ、そんな事すら忘れているに違いない。
 ちなみに、私は編入試験にちょろっと来たぐらいなので、この学校の構造なんて覚えていない。

 確か、あの時は生徒指導室か何かに案内されたんだったっけ?

 小さくため息をつく。
 校門の前に立って、戸惑っている……風に見える、私の横を生徒達が通り過ぎてゆく。
 見慣れない私の姿に、不審そうな顔を浮かべるが、声をかけてくるものなんていない。知り合いでもない人間に早々親切にする人間なんている訳も無いか。
 ……と、思っていた。

 「あの……なにか、お困りですか?」

 迷っているうちに声をかけられた。
 振り返ると、私と同じ制服に身を包んだ二人組みの少女。
 一人は大人しそうなロングヘアの女の子、もう一人は……金髪の気の強そうな女の子。
 声をかけてきたのは大人しげな少女のほうだった。


 職員室に案内してもらって、取り合えず、彼女達にお礼の言葉を述べて、私は室内に入り込む。
 近くにいた教師風の女性に、私が来た目的を告げると、しばしその場で待たされた後、一人の女性の前に案内された。
 どうやら、これから私が所属する事になるクラスの担任教師らしい。

 ショートヘアに眼鏡をかけた優しげな表情をした人だった。
 教師の名前?その時、確かに自己紹介をされたような気がするけど、すぐに私の記憶の中から消えてしまった。
 だって、興味が無かったし、彼女の名前なんて、この先、関係があるとは思っていなかったから。
 勿論、色々とあって、改めて後から聞き直した訳だけど。
 その時は、覚えてなかったのぉ~と、よよよと泣き崩れてしまった。
 尤も、あだ名だけは、皆がそう呼ぶものだから覚えていたのだけど、その時、その事を告げるのはなんとなく酷な気がしたものだ。

 彼女の後に着いて教室まで案内される。
 教師の後に続いて、私も教室の中に入る。
 彼女が教室に入ると、ざわついていた教室が、一瞬で静まり返る。
 良家の子女が通っている事もあって、さすがにしつけが行き届いているようだ。
 つい先月まで私が通っていた学校とは大違いである。
 しかしながら、教室の座席に座る彼女達の瞳に浮かぶ好奇心の光は消す事ができない。

 「はい、皆さん注目!」

 教師がそんな事を言うが、言うまでもなく 皆が皆、教室にやって来た私の事を注目している。
 教室を見渡せば、あの金髪と、ロングヘアの女の子の姿がある事が確認できた。なんだ、同じクラスなのか。

 「今日から、皆さんと一緒にお勉強する事になった『やがみ はやて』さんです」

 一瞬、あの二人の表情がかわる。
 何かに驚いたかのように目をまん丸に広げている。
 お互いに顔を見合わせて、顔を寄せて何か話している様だった。
 私は『目』はいいのだが『耳』は人並みなのだ。
 彼女達が何を言っているのかまでは聞こえない。
 けれども、別に興味は無い。
 この先、彼女達もまた、他の大多数の人間と同じ様に、私の『背景』でしかないのだから。

 「『やがみ』さん、自己紹介を」

 私はホワイトボードに自分の名前を書き込んだ。

 「矢上 はやて です。よろしく」

 「はい、矢上さんでした。でも、ちょっとシンプルな自己紹介ね、他に何か一言ないかしら?」

 余計なお世話だと思うけど。何か一言……ね?

 「特にありません。しいて言うなら、私に関わらないようにお願いします」

 「え、え?」

 「皆さんのお勉強の邪魔をするような事はしませんから、私のことは放置の方向でお願いします」

 「あ、あはははは…」

 まさかそんなことを言うとは思っていなかった教師は「えっとぉ…」と、乾いた笑いを浮かべるとあいている窓際の席を指差した。
 それもそうだ、こんな事を言われれば、普通はドン引きするものだし、私もワザと言っている。
 おかしな子だとか、扱いにくい子だとか思って、あまりかかわりを持とうとしないでくれれば、それでよかったのだから、まずはその教師の反応は上々な結果だった。
 
 「それじゃぁ、矢上さんはあの席に座ってくれるかな?」

 「はい」

 勿論、生徒達の視線も変わっている。
 転校早々、あんな事を言われるとは思ってもいなかったのだろう。
 周囲には戸惑いとか躊躇いとかいった雰囲気が満ちていた。
 そんなクラスメイトを見て、私は内心黒い笑みを浮かべていた。

 なんて酷い奴だったのだろう、私と言う人間は……。

第1話 彼女達の前奏曲 その1

2010年01月23日 | ふたりのはやて
 魔法少女リリカルなのは はやてSS
 第1話 彼女達の前奏曲 その1

 私達の根源(はじまり)は、何だったのだろう?

 その頃の私は、自らを不幸のどん底にいるのだと思い込んでいた。
 ある意味それは、正しい事だったのだが、世の中には私程度の不幸な人間なんていくらでもいたのだ。
 けれど、色々と辛い事が連続して起こったばかりで、幼い自分の心が押し潰されそうになっていたのだ。
 理解(わか)ってはいる。それがただのいい訳だという事は。

 その頃の私は、それでも自分は大人だと思い込んでいたのだから、なお始末が悪い。
 孤独でいられる『ふり』をする事と、一人であると言う事は決して同義語ではない。
 一人では生きていけない事を自覚せずに『一人』でいるつもりでいるという事は、まったく身勝手で幼稚な事だったのだ。
 でも、現実にその事に気がつくのは実は、とても難しい。まして、『子供』でしかなかった私には、とてもではないが理解できる事ではなかった。

 だから最初はその『出会い』に驚くばかりだったけど。

 私達の出会いは、突然だったと。記憶している。
 彼女と私の出会い方は、ある意味突然で、刺激的で、幻想的で、破天荒だった。
 今にして思えば、私の常識からは、考えられない出会いをしたものだ。
 万に一つの偶然、いや、億に一つだったのかもしれないその出会いは、運命と言う言葉で表してしまえるほど陳腐なものではないと思っている。
 それは、この世界で何度も繰り返し行われる『出会い』の中のひとコマに過ぎないのかもしれない。

 しかし、私の中にある『何か』を変えてくれた大切なひとコマには違いがない。
 
 頑なだった、氷の様な心を溶かすのは、やはり心でだった。

 その事に気がつくまでに、かなりの長い時を要してしまったけれども。

 それを気づかせてくれたのも、また彼女だった。
 そんな風に思えるようになったのは、もっと、ずっと、ずっと後になってからの事だったのだけれども。

 だが、今は、出会えた事に、出会えた運命に感謝を捧げよう。
 特別な理由なんていらない。
 
 私達の運命の歯車は、いつまわりだしたのか?  

 時の流れの遥かな底から、その答えを拾い上げるのは、今となっては不可能に近い……。

 いや、思えば、出会ってしまったその瞬間から。
 私達を結ぶ運命の糸車は、意地の悪い運命の女神によって廻されていたのだろう。

 だが、確かにあの頃の私達は、多くのものを愛し、多くのものを憎み……。
 お互いを傷つけ、お互いに傷つけられ……。
 何度も立ち止まりながらも、それでも風の様に駆けていた……。
 青空に、笑い声を響かせながら……。

 これは今更語るまでもない、私達の過去の物語。
 それでも、今となっては懐かしい物語……決して帰ってこない思い出の中の物語。

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 Yesterday PM:5:23 

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 思えば、物語の始まりは、夕暮れ時のマンションの屋上が始まりだったと記憶する。
 この辺りの土地に引っ越してきたばかりの私は、とあるマンションの屋上から、目の前に広がる光景を眺めていた。

 真っ赤に染まる空を仰ぎ見て、次に、眼下に広がる地上の光景を見下ろす。

 空には夕日に染まるオレンジ色の雲がいくつも浮かんでいた。朱色の空に、ほんの微かに瞬く光は宵の明星だろうか、あるいは飛行機か。
 地上には、街角を行き交う人々が見える。
 帰宅を急ぐのか、急ぎ足で歩道を歩いて行くサラリーマン風の男。バス停で、バスがやってくるのを待ちながら、携帯を操作する女子高生。
 別の場所では、やって来た電車から吐き出され、交代するようにそして乗り込んでゆく雑多な人々の集団が見える。
 ほんのしばらく前までは、私も、あんな『風景』の中に埋もれた個人でしかなかった。
 気がつけば、そんな『集団』からはみだしてしまったけども。
 
 そんな私の目には、本来ならば、見えるはずのない光景が飛び込んでくる。
 昔は、そんな事はなかった。いつの頃かは覚えていないが、いつの間にか遠くが見える様になっていた。
 それが、どんな理由だかはよくは知らないが、私には遠くの光景がよく『視』える。
 意識しなければ、ごくごく普通の視覚に過ぎないのだが、私の視線はいつしか『飛ぶ』様になっていた。
 もっとも、その距離は無限ではなく、大体数百メートル、あるいは頑張って1キロぐらいの距離だった。
 
 そんなものが日々の生活にどれほどの役に立つかはよくは解らなかったけど。
 今の私にはさほどの役に立つものではなかったのは確かだった。
 それでも『異質』には違いない。

 もう一度、自分の立つ場所から足元を覗き込む。

 屋上には当然、落下防止のための金網が周囲に張り巡らされている。
 
 私が立っているのは、それなりに高いマンションの屋上である。
 ここから落ちれば私の命はないのは確実だ。まかり間違って、運悪ければ命が助かってしまうが、まず助からないだろう。

 ああ、それもいいかもしれないな、と。その当時の心理状態の私は思ってしまった訳だけど。

 そして、胸のうちにこみ上げてくるもう一つの想い。

 もしかしたら。万が一にも何かの奇跡が働いて。

 子供の事の夢の様に。『空』を飛べたらと…。

 私の身体が中空に舞い上がり鳥の様に飛翔するその姿を、夕暮れ時の空に幻視する程には魅力的だったけれども。
 残念ながら、現実には。私の背には、空を飛ぶための翼はなかったのである。

 私は小さく頭を左右に振り、そんな光景を脳裏からかき消した。
 夢は夢、現実は現実。実際に私の身体は重力に縛られ、この身体を中空に投げ出せば、地面に叩きつけられるだけである。

 それが解っているにもかかわらず、私は、金網に向かって一歩足を踏み出す。
 そして、フェンスに攀じ登らんが為、金網に手をかけた。

 ふと、何かが聞こえたような気がした。足元を行き交う人々の喧騒だと思った。

 ゆっくりと金網に足をかけて、フェンスをよじ登ってゆく。その行為は、なかなかに苦労した。これでも体重には気をつけていたつもりだったけど。

 やっとの思いで金網を跨げる所まで身体を持ってくる事ができた。
 普通の人間ならば、この高さで、この行為をする事の恐怖に打ち勝つ事ができるだけの度胸があればそれ程苦にならない行為であったのだろう。
 実は、私にとってはその恐怖はあまりたいした事ではなかった。
 恐怖はないが、別の意味の苛立ちと、もし仮にバランスを崩して落下してしまえば、色々なしがらみから開放されると言う期待があったのかもしれない。
 決して褒められる様な願望ではないのだが、金網に跨りながら苦笑をもらした。
 落下した時の事を想像してみたがやはり恐怖はわいてこなかった。私の心は壊れていたのかもしれない。
 だが、もし仮に助かってしまったら……そのときの煩わしさの方がある意味怖かった。
 目的は『そんな事』ではなかったのだが、ちらりちらりと脳裏をよぎるそんな想像に、暗い笑みを浮かべてしまう。
 
 とりあえず、その当時の私はそんな子であったと言う事だ。

 また、声が聞こえた。

 不思議な事にその声は、地上から聞こえたものではなかった。当然、背後からのものでもない。
 地上からでも背後からでもなければ、別の場所から聞こえたものだと言う事になる。

 まさかとは思いつつ、気がつけば、空を見上げていた。

 その姿が見えたとき、私の心臓はどきりと跳ね上がった。

 目に見えるのは真っ赤な夕日。

 「-------------------ん!」

 やはり、聞こえる。女の子の声が。

 よく目を凝らす。先にも言ったけど、目には自信があったのだ。
 太陽の真ん中に染みの様に現れた黒い点は、徐々に大きくなり、次第に人の形を取ってゆく。

 「あかーーーーーーーーーーーーーーーーーん!」

 大きな声を上げながら、彼女は確かに飛んでいた。
 『彼女』は、白いベレー帽に、黒いインナーと、同じ色のミニスカート。防止と同じ色のジャケットを身にまとった彼女は、確かに飛んでいた。
 夕暮れ時の太陽を背に、淡い光を纏った黒い翼で羽ばたきながら、空を飛ぶ少女。年頃は私と同じぐらい……いや、少し年下だろうか?

 黒い翼を持った天使……。
 後になって彼女の本性を知ってみれば、腹がよじれるのだが、この時には、そんな風に思った。
 彼女の姿はそれ程、美しく、神秘的に見えたのだ。

 そんな少女が、見る見る間に大きくなっていく。
 最初はぼんやりと、やがてははっきりとその姿が確認できるようになる。
 美術か何かの授業で、遠近法と言うものを習わなかっただろうか?
 遠方にある物体は小さく、近くにある物体は大きく見えるというあれだ。
 どんどんと彼女の姿は大きくなっている。つまりは、彼我の距離が、かなりの勢いで狭くなっていた。

 はっと、気がついたときには、彼女は目の前にまで迫っていた。このままではぶつかる。間違いなく二人は衝突する。
 少なくとも双方が肉体を持った存在であれば、どちらかが避け様としない限りは接触事故を起こす。彼女にその気は無さそう。
 慌ててよけようとしたが、其の侭の勢いで私に体当たりをかまされていた。

 「あかーーーーーーーーーーーーーーーーーん!死んだらあかーーーん!」

 ラグビーの試合でタックルをする選手のように私の腰にぶつかってくる彼女。
 肺腑の中にある空気が押し出されて、とても女の子とは言えない様な呻き声が、私の口から漏れる。

 「ぐほっ!?」

 勿論、言うまでもなく、不安定な姿勢で金網に跨っていた私は、まともに体当たりを受け、身体のバランスを崩して落下する。
 一応は、同じ年頃の子供達の標準的な肉体的スペックを十分に満たしている自信はあったのだが、さすがに無理だった。
 その金網は、子供が落ちない様に2メートルくらいの高さがあった。金網を跨いでいた私は、必然的にその高さを落下する事になった訳で。

 二人分の体重を受け止めたまま落下した私は、したたかに私は腰を打ちつけた。
 一瞬目の前が真っ暗になり、続けて腰から鈍い衝撃がやってくる。

 「うぐ……いたたたた………」

 その激痛に、うめく私。
 幸いな事に、頭はぶつけなかったらしい。
 それでも、そのあまりの痛みに、しばらく声が出なかった。
 そんな私にお構いなしに、彼女は大きな声で喚き立てる。

 「あかん、あかんで、自分!死のうなんて思ったらあかん!」

 その目にいっぱいの涙を浮かべながら、彼女は私に向かって命を粗末にするなと、私に向かって説く彼女。
 おかしなイントネーションは関西訛りだろうか?
 一瞬、何を言われたのか良く理解できなかったけど。

 だが、自分のしていた行為を思い出す。
 屋上の金網をよじ登ろうとしている少女が、仮に私の目の前にいたら。
 なるほど、端から見れば確かにそう見えるだろう。

 そして、彼女の言葉には私の心情的には、ほんの少しだけ事実が含まれていたから。
 彼女が心配するのも道理な訳で。そんな様子があまりにも滑稽で。

 「……」

 沈黙する私にじれたのか、怒った様な表情を浮かべる彼女。

 「な、じ、自分、人の言ってる事聞いてるん!?」

 聞いている、聞いているさ。
 けれども、なるほど、私が死ぬ、死のうと思っているか……。
 そんな風に見えたのか……。

 何故だか、笑いが込み上げてきた。

 「ぷっ…」

 「へ?」

 「あははは……あはははは、あはははははははは!」

 ずきずきとする腰の痛みを我慢しながら、それでも思わず爆笑してしまった。

 「あ、れ?」

 きょとんとする彼女。
 そんな彼女を余所に、私の笑い声は、しばらくこの屋上に響き渡るのだった。

 
 思えば、これが私達の最初の出会いだった。
 そして、これが彼女と私の『はじまり』。

 『やがみ はやて』と『やがみ はやて』の『はじまり』だった。


 『ふたりのはやて』 第1話 彼女達の前奏曲 始まります。

第2話 騎士達の輪舞曲 その2

2010年01月22日 | ふたりのはやて
 魔法少女リリカルなのは はやてSS
 第2話 騎士達の輪舞曲 その2

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 Mid Night of the day in The central area of Uminari
 PM : 23:47

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 夜と闇が溶け合えば、やがて見えなくなってしまう。
 何故なら、お互いに持つ属性が同じなのだから。
 それは溶け合い混ざり合い、やがては二度と分ける事ができなくなるほどに混濁してゆくのだ。

 だが、その騎士が、闇の中にその身をおこうとも、その圧倒的な存在感を感じてしまうのは。
 やはりその騎士が闇とは相容れぬものだから、なのだろう。
 男の本質が闇とは程遠いところにあるから、なのだろう。
 元々、この男の出自も闇とは相反するものではあったのだが、それは別の話としておく事にしよう。

 そんな闇とは相容れぬこの男に如何なる理由が存在するにしろ、その身を闇の中においているのは何故だろう?
 闇に乗じて行動を起こすなど、騎士ではなく、宵闇に暗躍する盗賊の如き所業なのだが。
 あえて、それを実行に移す、それは主への忠義か、それとも別の理由故なのだろうか?
 あるいはその両方の理由なのか。

 いずれにしろ、ビルの谷間にある男の、その存在は、存在感は。
 どれほど隠そうとも、遥か遠方に存在する魔導士の感知する事となる。
 遠方にあった気配が一つ、急速に、この場所に近づいてくる。
 おそらくは、いや、間違いなく、最近この辺りでよく感知する魔導士の気配に相違ない。

 ニヤリと唇に笑みが浮かぶ。

 「管理局の魔導士とやらに感知されたか。後どのくらいかかりそうだ?」

 その騎士は天空を仰ぎ見る。
 夜の空には重くどんよりとした雲がたちこめている。
 一瞬、雲間に雷光が走った。

 その男の傍らに立つ灰色のフード。
 男が長老と呼んでいた、あの老婆だ。

 「いま少しばかり、時間がかかるかの」

 騎士達の背後には、道路に倒れ付した男が一人。
 管理局の武装隊の制服をその身にまとっている。
 その格好から、倒れているこの男も、管理局の武装隊の人間だろうか?
 だが、そんな管理局の人間が、何故この場に倒れているのか。

 老婆はその手に何か持っている。
 砂時計にも似たその物体が、淡い不可思議な光を放ちながら明滅を繰り返している。
 その砂時計が光を発するたびに、足元に倒れた男が苦しげなうめき声を上げる。

 「すまんな、謝ってすむものとは思わんが、まぁ、野良犬に噛まれたとでも思ってくれや」

 騎士が足元に倒れている男にそう謝罪する。
 生憎と、この男には少しもすまなそうな表情が浮かんでいない。
 むしろ、この後に起こるであろう、荒事への期待に、目が輝いている。

 だが、あいも変わらず、あの老婆が騎士の愉悦に水を差す。

 「ふぇふぇふぇ、犬に噛まれたとは言いえて妙じゃな」

 「はっはっはっは!この俺を犬と呼ぶか、クソ魔導士!」

 「吼えるな、駄犬。そんな事よりも接近してくる魔導士の遊び相手をして、いま少し時間稼ぎをしておれ。
 最低限、番犬としての役割を果たしてみせよ」

 「くくくっ、言うじゃねぇか」

 「戯言を言っている場合ではないぞ?なかなかに速いぞ、あの魔導士」

 老婆の言うとおり、あの魔導士らしき者の気配が急速に接近してきている。
 視線を夜空に移せば、東の空に一筋の赤い流星が見える。
 その星は天空に瞬くあの星である筈がない。
 天空を覆っているのは、今にも雨が降り出しそうな厚く重い雨雲だ。
 そんな雨雲の下を、滑るように近づいてくるその流星は速い、確かに速い。
 瞬く間に、赤い流星は、人の姿を形作る。
 
 男にとって、管理局の魔導士、その存在は、おそらくは羽虫の如き存在ではある。耳元で飛び回られては耳障りである。
 では、うるさい羽虫はどうするのか?

 そんなものは決まっている。叩き潰すに限る。

 それに、と。

 にやりと笑みを浮かべる。
 あの忌々しい魔導士が、自らの仕事をこなすまでの暇つぶしには丁度いいか。
 いい加減、退屈してきたのだ。

 「まぁ、長老殿は自分の仕事をしていろ。あまりに、ちんたら仕事をしていると一緒に吹き飛ばしちまいそうだがな」

 「ふぇふぇふぇ、おぬしに吹き飛ばされるほど、愚鈍ではないつもりじゃよ、わしは」

 「それは残念だな」

 「期待に添えなくて申し訳ないの」

 「なになに、いつでも遠慮なしに言ってくれ、むしろ遠慮はするな。
 当然、遠慮してもぶちかましてやるがな。親切は押し売りしてこそ親切だ」

 「ふぇふぇ、含蓄のある言葉じゃな、誰の言葉だ?」

 「ふふん、俺様だ!」

 「寝言は寝てから言ってくれんかの。ほれほれ、来たぞ」

 その言葉に、騎士は空を仰ぐ。
 天空を流れる、赤い流星は、今でははっきりと人の姿に見える。
 赤い騎士甲冑を身にまとい、同じ色の帽子の両側にはのろいウサギのワンポイント。
 右手には、小ぶりなハンマーが握られていた。そして、赤い髪の毛をおさげにしている。
 夜天の主八神はやての守護騎士ヴィータである。
 闇の書事件のあと、管理局にその身を置くことになったヴィータがその姿を現したと言う事は、やはり男達のしている事は犯罪行為なのであろうか。
 地面に降り立った少女はぶぅんとハンマーを男に突きつける。

 「管理局のものだ!管理外世界の無許可での魔法の行使による現行犯でお前達を拘束する!
 直ちに武装を解除し、投降しろ!他にお前達には『魔導士襲撃事件』の容疑がかかっている。
 武装を解除して、素直に投降をすれば、こちらにも情状酌量の……」

 「何だ、ガキか……」

 男の顔に落胆の色が浮かぶ。
 あからさまなその表情に、ヴィータが噛み付くように声を荒げた。

 「なんだとぉ!」

 ガキと呼ばれ激昂するヴィータに男はからからと笑う。
 そんな男にますますヴィータは怒りが募ってゆく。
 
 もともと、いちいち事前通告を行うのはヴィータの性格にあっていない。
 問答無用で叩き潰すほうが性に合っていると、自分でも思うのだ。
 しかし、あまり無茶をすれば、主のはやてに迷惑がかかると思って大人しくしているのだ。

 「それなりに大きな魔力だったから、それなりの奴を期待していたんだが。
 来たのがこんなガキとはな、ちっ…期待はずれだったぜ……」

 「てめぇ…」

 「なぁ、お嬢ちゃん。悪い事はいわね。よい子はお家に帰っておねんねする時間だぜ?
 ママが心配するから早く家に帰りな?」

 騎士は子供を諭すような表情でそう言った。
 その言葉にヴィータは暗い笑みを浮かべる。

 「ふっふっふっ……グラーフアイゼン……カートリッジリロード…」

 ガシュンガシュンとヴィータのデバイス、グラーフアイゼンがカートリッジをリロードする。

 「ん?どうしたお嬢ちゃん」

 「ラテーケン!!」

 グラーフアイゼンの姿が組み変わる。
 魔力がデバイスの先端のハンマーに収束していく。
 爆発するような魔力の増加に、男は大いに慌てる。

 「お、おい、ちょっと、まて!」

 だが、すでに、ヴィータはグラーフアイゼンを振りかぶり、デバイスはすでにラケーテンフォルムに姿を変えていた。
 そのハンマーの片側から魔力がロケットエンジンの推進剤のように噴出している。
 ヴィータはハンマーの柄を握り、アイゼンの噴出す魔力流の、その勢いでぐるぐると回転を始める。

 にやりとヴィータが笑みを浮かべる。
 勿論、やる気……いやいや、殺(や)るきは満々である。

 「またねぇ!ハンマーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 魔力を後方に撒き散らしながら、ヴィータが騎士の男に向かって突っ込んでくる。
 その勢いはまさに破壊の鉄槌。
 鉄槌の騎士の名前に相応しい、破砕の一撃である。
 その攻撃は、如何なる防御も貫き通す破壊の攻撃である。
 かつて、闇の書事件の折、高町なのはの魔法防御すら容易に突き抜けた、鋼の一撃であった。
 故に、いくら男と言えども、その攻撃を受け止める事は不可能、できるはずがない。

 はずであった。

 「鉄鋼結界多重展開!」

 男の正面に、ベルカ式の魔法陣が出現する。

 その魔法陣がヴィータのもつグラーフアイゼンと激突し激しい光を周囲に撒き散らした。
 瞬間、激しい音が轟く、まるで落雷があったかのような雷鳴にも似た衝撃音。
 男の使用した、魔法防壁がヴィータのアイゼンの攻撃によって破壊された音だ。

 だが、自信満々で笑みを浮かべていたヴィータの表情が驚愕の色に染まっていく。
 当たり前である。

 「く……」
 
 破壊された魔法陣の下に、また魔法陣が出現したのだ。 
 その魔法陣が、勢いを減衰させたグラーフアイゼンの攻撃を再び受け止めた。

 最初の魔法陣を突き破るのに、それなりの魔力を消費した。
 しかしながら、カートリッジを使用したアイゼンの攻撃は、まだまだ魔力の蓄えは十分だ。
 もう一枚ぐらい、結界を突き破り、この犯罪者に一撃を加えるのには、何の問題もない。
 だが、この得体の知れない犯罪者に出し惜しみをする必要もない。
 だからヴィータは、アイゼンにカートリッジにリロードを命じる。

 「アイゼン!カートリッジリロード!」
 【ヤーヴォール】

 ガシュンッと再びアイゼンのカートリッジがリロードされる。
 爆発的な魔力がアイゼンとヴィータに充填される。

 「もう一度!打ち砕けーーーーーーーーー!アイゼン!!」

 ピシリと男の防御壁に再びひびが入る。
 なんだ、たいした事ねーなと、ニヤリとヴィータが笑みを浮かべた。
 然程、労せず目の前の男の防御壁は打ち破れるだろう。

 だが、少しばかり驚いた。
 目の前の犯罪者、いやいや、まだ容疑者か、の男の魔法術式である。
 この男の術式は、ヴィータ達守護騎士の使用する古代ベルカ式の魔術式だった。
 
 ベルカ式と呼ばれる魔術形態はそれなりにな珍しいのだが、別に廃れたわけではないし、術者が希少な訳ではない。
 管理局内にも、身体能力の優れた術者に使用する者が多い。蛇足だが、それらを古代ベルカ式と区別するために、あえて近代ベルカ式と呼ぶ事もある。
 だが、その術式の前身である古代ベルカ式と呼ばれる魔術式となると話は違う。

 最近になって、ヴォルケンリッターたちが管理局に加わったが、それ以前では、管理局内のベルカ教会に所属する魔術師…ベルカ風に言えば騎士達のみであった。
 その騎士たちの中でも純粋に古代ベルカ式の魔術を継承した物の数は、本当に極僅かな数だった。つまりは、それ程珍しい術式形態だった。
 ヴィータ達の周囲には、それこそ、はやてやシグナムをはじめ古代ベルカ式を使用する術者ばかりだから、あまり希少な術に見えないのがあれだが。
 はやてやヴォルケンリッター達の術式を除けば、そのほとんどが、文献や古書の中にしか存在しないのがベルカ式なのだ。
 
 しかし、目の前の男は確かに、古代ベルカの術式を使用していた。
 となれば、この男は、やはり、ベルカ教会の関係者かあるいは……。

 しかし、今は関係ない。
 そんな事は、この男を叩きのめして、とっ捕まえてから聞き出せばいい。

 ヴィータはさらにアイゼンの魔力を高める。
 だが、徐々にヴィータの顔に焦りの色が浮かび始める。
 いくら魔力をこめようとも、男の防御壁が破れる気配がない。
 確かに、ヴィータも己の魔力は、限界には至っていない。
 
 しかし、男の力も、未だ本気には程遠いようにも見える。

 更なる魔力をこめようかどうか、ヴィータが迷い始めた時、男がヴィータに問いかける。

 「その程度か?」

 「なんだと?」

 「お前の力はその程度か、と聞いている」

 「はぁ!?てめぇ、何を言ってやがる!」

 「少しは暇つぶしになるかと思ったが、これでは退屈凌ぎにもならん」

 「くっ……」

 男の声には落胆の色が隠せない。
 ヴィータは直感する。
 この男は戦いを喜びとするタイプの男だと。

 ぺろりと唇をなめる。

 彼女のそれほど短くはない経験の中で、あるいは闇の書の守護騎士として稼動してきた時も含めて。
 決して短くはない経験の中でこんな相手に出会うのは珍しい事だ。

 やりにくい相手でもある。
 あの、高町なのは以上にやりにくい相手かもしれない。

 だからと言う訳ではない。
 ヴィータは一度、アイゼンにこめた魔力を霧散させ、背後に大きく後退し、男とは距離をとった。

 ほぅ…と男の眉が僅かに跳ねる。

 大きくグラーフアイゼンを天空に掲げ、地面に叩きつける。
 鈍い音がして、地面に消して小さくはない窪みが形成された。
 そして、プシューッと魔力の煙を排気する。

 「もう一度言うぜ、武装を解除して投降しな!
 そうすれば、お前たちの事情も聞く余地はあたし達にはある」

 「残念だが、それはできない相談だな、お嬢ちゃん」

 「へっ、だよな。だったら……あんたを叩きのめして『オハナシ』を聞かせてもらうぜ!」

 「おいおい、物騒な『オハナシ』だなぁ、おい!」

 しかし、男は、ニヤリと笑みを浮かべる。物騒なオハナシ、大いに結構!
 それこそ、間違いなく、男の好みである。

 「けっ!違うな、そんときは、『悪魔めっ』って台詞を言うのさ!」

 「ほほう、それはまた、で、言ったらお前はなんて答える気なんだい?」

 「決まってる。『悪魔でいいもん、悪魔らしくお話聞かせてもらうから』って答えるのさ」

 「おいおい、マジで物騒じゃねぇか。でもいいね、気に入った!」

 「『高町式オハナシ合い』って言うんだぜ、管理局じゃ!」

 「はっはっは!拳と拳での話し合いかぁ!?いいのか、それで、管理局!」

 「いいんじゃねぇか?実際、あたしも、やられたし」

 「おいおい、本当に大丈夫か、お前のところ」

 「あー、まー、たぶん、な。それはともかく、行くぜ?」

 「ああ、来い!」

 「鉄槌の騎士、夜天の守護騎士ヴィータ、参る!」

 「塁壁の騎士、ラルゴ、推して参る!」

第2話 騎士達の輪舞曲 その1

2010年01月16日 | ふたりのはやて
 魔法少女リリカルなのは はやてSS
 第2話 騎士達の輪舞曲 その1



 The day .... One week ago

 そこには闇が蹲っていた。
 闇の中に霞む様に、にも拘らずはっきりとわかる闇がそこにはあった。
 夜の闇の中になお暗い闇が、ただただあった。

 文明の利器が、夜の世界から闇を駆逐して久しい。
 煌々ときらめくネオンの光、行き交う車のヘッドライトの群。
 すでに夜の都市部には、暗闇の存在する猶予などありはしない。

 闇が人々に恐れられるのは、何故だろうか?
 闇の中に存在すると噂される物の怪の存在故だろうか?
 少なくとも、闇があれば、人の目ではその奥に何者が存在するか見通す事ができずない。
 周囲の確認を視覚に頼る人は、本能的に見えないと言う事に、恐怖するのだろう。
 故に、人は、闇への恐怖ゆえか、その存在を執拗に、妄執的に排除してきたのだ。

 にもかかわらず。
 やはり、闇は、ビルの谷間に、街角の街灯に、それでも街の至る所に点在した。

 そんな街角の闇。昼日中には多くのビジネスマンが行き来するオフィス街。
 それでも、夜の遅くの時間帯になれば、人々の息遣いは耐え、ひっそりと静まり返る。

 人の営みがなくなれば、自然とそこに闇は広がっていく。
 目をよくよく凝らしてみれば、そこはすでに人の生活領域ではなく、百鬼夜行の跳梁跋扈する姿が見えるのかもしれない。
 その異形なるもの達が実際に存在しているか否かは、別の議論だ。
 存在の証明は「いる」ことと「いないこと」の証明を必要とするのだ。
 この場にての議論は不毛な結果に終わる可能性が高く、またその知見も少ない故に結論を下すのには時間がかかるのだから。

 それはともかく。

 オフィス街のビルの屋上に、蹲る闇が何者か、それは誰もその答えを知る者は居ない。
 だが、闇の中に闇がわだかまっている……、はっきりとは解らないが、そうとしか言えないのだから仕方ない。
 夜の闇よりもさらに濃い暗闇……その雰囲気をまとうものが、ビルの屋上から眼下の風景を見下ろしていた。 

 蹲る闇の背後に、新たなる闇が出現した。
 否、それを闇と言っては失礼かもしれない。
 現れた瞬間に『その男』の存在感は圧倒的だった。
 巌のような体躯の大男が、突如何もない空間から出現した。
 赤い色の槍を肩に担いでいる。
 男のみならず、その槍も明らかに強い力を放っている。
 その姿は、誰もがこの男が優れた戦士である問い事を想像させた。
 そしてその想像は、おそらく間違いはないのだろう。

 「見つけたか?」

 闇が静かに首を振った。否、闇……ではない。
 偶然だろうか?
 男が闇に向かって問いかけたその時、雲間から差し込む月明かりがその暗闇を照らし出した。

 黒い外套を身にまとった小柄な影は、おそらく人間。
 外套を身にまとった外見からすれば、背丈はそれ程高くはない。
 むしろ子供か少女ぐらいの身長だろうか?
 黒い外套の隙間から僅かに見える白磁の肌、真一文字に結んだ桜色の唇。
 問いかけに対して、僅かに反応するのは、その人物に意思というものがあるのか、あるいは条件反射か。

 その反応に、いずこからか出現した男は僅かに表情を曇らせる。
 落胆。確かに期待はしていなかったが、僅かながら心の片隅にはすがるような切望があった。
 刹那、それを隠す事に失敗した男だったが、すぐに表情を引き締める。
 外套の人物は、背後に出現した男を気にする風でもなく、その視線を、夜の街並みに注いでいる。
 故に、男がどのような表情を浮かべたのかは知る由もないのだが。
 男にとって、自らの落胆をこの人物に悟られるのは望ましくないのだろう。
 男は、その端正な顔を引き締めた。

 しかし、この二人の人物。何を探しているのだろう。
 いや、それ以前に何者であるのだろうか。

 男は、まるでその人物に気を使うかのように静かにその背後に直立する。
 その姿はまるで、可憐なる乙女を守る騎士の様。
 実際に、男の身にまとうは西洋の鎧にも似た、騎士甲冑そのものである。
 フルプレートと呼ばれる全身を覆う鋼の防壁を、まるで苦にする風でもなく容易くその身にまとっている。
 その手に持つ彼の獲物も決して、軽いものではない。
 おそらく、その身を守る甲冑を脱げば、その下には見事な肉体が出現するに違いない。
 端正な顔立ちと相俟って、惚れ惚れとする様な偉丈夫であった。

 そんな偉丈夫が、ピクリと眉を吊り上げる。

 「ふぇふぇふぇ、そうも簡単に見つかったら、苦労はせんて」

 男達のいる場所とは別の方向から声が聞こえた。その声に大男が盛大に舌打ちをする。
 先程とは違い、嫌悪の表情を隠す事はしない。
 そこには、灰色の外套ですっぽりと全身を覆い隠した人影が出現していた。
 しわがれた声、そして、腰の辺りから曲がっている姿を見ると、かなり高齢の人物のようだ。
 その手には、先端が二重に分かれた蛇を模した杖を握っている。
 まるで、物語の中から抜け出してきた魔法使いの老婆のようだった。
 今すぐにでも白雪姫の元へと飛んでいき、毒林檎を差し出しそうな人物だった。

 「長老殿か、言ってくれるな。しかし、姫の探知に引っかからぬとは、未だ活性化の兆しは見えぬのか?」

 「ふぇふぇ、確かに活性化しておらねば、いくら姫でも見つからぬのも道理じゃが……」

 乱杭歯の様な口が笑みの形に歪む。
 男の顔は、しかめっ面に歪む。

 「では……」

 「否、活性化はしておるよ、昨今、この街周辺での奇妙な魔力反応は感知しておる。姫君も反応はしておられたであろう。
 されど、詳細な位置までは、完全には探知できぬ……やはり…」

 「なるほど。姫の力が、未だ十分ではないと言う事か」

 「欠損した姫の力では、感じるだけで精一杯じゃろうて。
 せめて姫君の『視覚』の範囲内で、『あれ』が力を使うか、魔力を喰らうかしてくれればまだしも。
 姫君とて頑張ってはおられるのじゃ、責めてくれるな、騎士殿」

 「誰も責めてはおらん。だがしかし不便なものだな」

 「うむ、姫の力が戻れば、例え不活性状態であっても容易に探知して見せようものを。
 ましてや、活性化しておれば、過つ事なく察知して見せようものじゃが。
 やはり、姫の力を取り戻すのが先決じゃの。じゃが、その為にも、『あれ』を回収せねばならぬ。
 その為の我等じゃて。それに主殿も回収をまずはお望みとの事じゃ」

 「姫の力を取り戻すためにも『あれ』が必要だと、されど、それを捕縛するための姫の力は期待できぬ、か。
 ちっ、堂々巡りって言うわけかい…くそっ…あの…」

 「その言葉、そこまででやめておいたほうが無難じゃの。主への不忠は騎士の恥、忠義こそ騎士の誉れじゃて。
 失言で失墜した騎士のなんと多き事よ。おぬし程の騎士がその様な凡百の騎士のような末路を辿る事もあるまいて?
 まして、姫君の前でその発言、いささか不遜と言うもの。
 事と場合によっては処断されても言い訳できぬぞ?
 無論、姫君が、そうと望めば、おぬしは自らその首差し出す覚悟があろうがの?」

 ふぇふぇふぇと笑い声を立てる老婆。ちっっと舌打ちをする槍の騎士。
 騎士として、主への忠義を盾にされては致し方ない。忠節を尽くしてこその騎士の存在である。
 逆に言えば主に忠節を尽くすからこそ騎士と呼ばれるのだ。
 それはいかなる世の中にあっても、いかなる世界であっても変わらない。
 だが、それはやはり、使えるべき主の人格が……否、やはり使えるべき主が別人であったらと考えるのは、不忠の極み。
 彼は、脳裏に浮かんだ考えを即座に打ち消した。

 「不満そうじゃな?」

 ふぇふぇふぇと壊れた笛の様な笑みを浮かべる老婆。
 だがしかし、この老婆の言う事もあながち過ちではない。
 いかなる思惑があるにせよ、主に使えてこその騎士なのだ。
 それに、現状は、彼の目的と主の目的はそれ程、かけ離れてはいる訳ではない。

 「今は、姫の為。そう思って我慢するしかあるまいて。それに現状は主殿と我等の目的は一致している」

 「ふぇふぇふぇ、おのが目的のためには主殿も利用するかの?その様な小賢しい知恵などおぬしには到底似合わぬ。
 それを考えるのはお主ではなく、わしの役目じゃろうて…」

 「まったく、俺を何の考えもなしの馬鹿だとでも思っているのかね…それはそうと、奴はどこに行った?」

 「おお、忘れておった。あやつめには別の仕事を頼んでおいた。合流はいま少し遅れるぞ」
 
 「おいおい、それは…」

 「まて、姫が何かを感知したようじゃ」

 抗議を使用とする男を、老婆が言葉で制した。
 老婆の言葉に男は、あの黒い外套の人物を振り向える。
 屋上の床に座り込んでいた小柄な影はいつの間にか立ち上がっていた。

 すっと、街の一箇所を指し示す。

 「見つけたか……」

 言葉に混じる愉悦の感情を男は隠しきれていない。そして、にやりと槍の騎士が獰猛な笑みを浮かべる。
 それは、猟犬が獲物を見つけたときに浮かべる笑みそのもの。明らかに戦いを娯楽として捕らえる者の表情。

 「やり過ぎぬ様にな。いくら『あれ』とて我等の求めるものじゃぞ?」

 「解っている、流石に『あれ』を破壊はするものかよ!」

 「どうだかの。それはともかく、転送をかけるぞ」

 「ああ、やってくれ!」

 男の言葉に、老婆がこつん、こつんとコンクリートの床を杖で何度か叩く。
 男の足元に円と正三角形を組み合わせた魔法陣が浮かび上がった。
 その山のような体躯が淡い緑色の光で包み込まれる。

 「気をつけよ、この世界、魔導士は存在せぬものと思っておったが、おかしな魔力反応が点在しておる」

 「よもや騎士か?」

 「うむ……単に素質を持つものと言うだけであれば『ニエ』にしてくれようと思ったが…これは違うな。
 明らかに魔導士か騎士の反応よ。近くに一つ、遠方に二つ……いや三つか」

 「なるほど、だから『あれ』が活性化したか…しかし、なにものだ?
 管理局とかいう連中か?
 管理外世界が聞いて呆れるが……だが、今は放っておくしかあるまい」

 「ふぇふぇふぇ、おぬしの事じゃ。横槍を入れてきたら……」

 「ああ、共々に吹き飛ばしてくれる」

 「くれぐれも勢いあまって、消炭にしてしまわぬようにな。
 『あれ』の回収こそ我等の使命ぞ?
 念の為に、そなたを転送したら周辺に防御結界を張り巡らす。
 案ずる事はない、おぬしが敗れてもわしが回収してやる」

 「長老、誰に向かって物を言っている?」

 「心配はしておらぬよ、信用もしておらぬがな?」

 「言ってくれるわ!さっさと転送しろ、この似非魔導士!」

 「ふむ、転送に事故はつき物じゃ。あまりに急くと、文字通り「塁壁の騎士」になってしまうぞ?」

 流石に、その言葉には、怖いもの知らずの騎士もたじろいだ様な表情を浮かべた。

 「おいおい、気をつけてやってくれよ?」

 「かかか!このわしが失敗するとでも?すでに座標は割出済みじゃて、たぶんじゃがな。
 そんなことよりも、まさかでも損じる事がなきよう、気を引き締めていくのじゃぞ?」

 「はん!何度も言うがこの俺が、敗れるとでも?……って、おい待て、こら!多分って何だ、多分って!」

 「安心するのじゃ、少なくとも、ここ最近は失敗した事はないわ」

 「以前ははあったのかよ!
 ったく……姫の事は頼んだぜ?」

 「解っておるわ。すぐにあやつも駆けつけてくる。こちらの心配は無用じゃ」

 魔法陣が、輝きを帯び、男の身体が透き通り始め、瞬間、男は光の粒子となって消滅した。
 転送の魔法が発動したのだ。
 今頃は、転送先に出現している事だろう。
 その証拠に、老婆は自らの生み出したサーチャー(探査用魔力スフィア)で、確かに男の出現を感知した。

 それを確認した魔女は、杖を天に突き上げるように振り上げる。
 そして、彼女を中心とした広大な結界が、街を包み込んだ。

第1話 彼女達の前奏曲 登場人物表

2010年01月13日 | ふたりのはやて
 魔法少女リリカルなのは はやてSS
 第1話 彼女達の前奏曲 登場人物表


 矢上はやて

 私立聖祥大学付属中学校に転校してきた少女。本編の主人公の一人。
 人付き合いが苦手で、他人とのコミュニケーションを避けてきたが、
八神はやてや、アリサ、すずか達との出会いによって徐々に心を開いていく。
 四肢に障害を持っており、日常生活に不自由はないが、激しい運動とかは
行えない。ある日、偶然にも『魔導士襲撃事件』に遭遇する事をきっかけに
数奇な運命に巻き込まれる事になる。
 本人は嫌がっているが、渾名は「はーちゃん」。八神はやてと名前を区別
する為に仕方なく、受け入れている。
 物語は彼女の独白から幕を開ける。


 八神はやて

 本編のもう一人の主人公。闇の書事件と呼ばれる事件の関係者で、その事件が
切欠で、様々な人々と出会い、魔法の才能を開花させていった少女。闇の書改め
夜天の書の主で、守護騎士ヴォルケンリッターの主でもある。
 現在は矢上 はやてと同じく私立聖祥大学付属中学校に通いながら時空管理局の
仕事をこなしている。
 ある日、海鳴市で起こった『魔導士襲撃事件』の解決に奔走するうちに、新たな
守護騎士達に遭遇する事になるのだが……。
 ちなみに、1話で矢上はやてに貧乳とか言われているが、この時点ではフェイト
と同じぐらいのサイズである。
 使用デバイスは汎用のストレージデバイスを使用。しかし、魔力容量がはやての
使用に耐え切れず、よく壊している。


 フェイト・テスタロッサ

 ジュエル・シード事件、闇の書事件などを通じて、高町なのはや八神はやてと
出会い友好を深めていった少女。現在は時空管理局の嘱託魔導士をしながら
執務官を目指していたが最近、見事に合格したらしい。今回ははやてとともに
海鳴市で発生した『魔導士襲撃事件』の解決の為に登場する。
 普段は、はやてと同じく私立聖祥大学付属中学校に通う中学生である。
 第1話には未登場。今回は脇役。
 使用デバイスは・バルディッシュ・アサルト。


 高町なのは

 ジュエルシード事件の時に、ユーノ・スクライアから託されたレイジングハートと
出会い、魔法の才能に開花した少女。はやてやフェイトとはお互い親友の間柄である。
 はやてとフェイトが『魔導士襲撃事件』に携わる事になり、その協力の為に登場。
 数年前に、とあるロストロギア事件に携わったおり、何者かに襲撃を受け、撃墜
されておりそのリハビリから回復した。現在は教導官を目指している。
 第1話には未登場。フェイトと同じく、今回は脇役。
 使用デバイスは・レイジングハート・エクセリオン。


 アリサ・バニングス

 はやてや、なのは達の親友の少女。彼女達の事情を知ってなお、彼女達の親友で
あり続ける少女。気がつよくリーダーシップの高いまとめ役。気の難しい矢上はやても
初日で陥落させた。


 月村すずか

 アリサと同じくはやて、なのは達の親友である少女。気が優しく物腰が柔らかい。


 矢上さやか

 矢上はやての母親。夫とは離婚しており、それを契機に海鳴市に引っ越してきた。
 離婚の慰謝料で仲間達とソフトハウスを設立した。高名なウェブデザイナーで
プログラマーである。しかし……?



 ??? Der Ritter des Speeres

 突如現れたもう一組の守護騎士の一人。
 古代ベルカ式の魔法を操り、真っ赤な魔槍を持つ偉丈夫。
 何らかの目的で『魔導士襲撃事件』を引き起こし、ヴォルケンリッターや管理局の
魔導士達と対峙する。とあるベルカの昔話に登場する古強者に容姿等が酷似している
が……。


 ??? Ein großer Schwertkämpfer


 突如現れたもう一組の守護騎士の一人。
 ベルカの古刀を操る剣士。少年のような容姿の守護騎士である。その剣技は見る者
圧倒する。


 ??? Ein magischer Ritter

 突如現れたもう一組の守護騎士の一人。
 黒い外套を身にまとった、腰の曲がった老婆の様ないでだちの騎士。その魔術は強大。
支援魔術や結界魔術のみならず、攻撃魔術も使いこなす。今回出現した騎士達の参謀役も
こなす。


 ??? Ein weiterer Sturm

 なぞの少女。守護騎士達の主か、彼らと共に姿を現すなぞの人物。その正体は不明。


第1話 彼女達の前奏曲 次回予告

2010年01月11日 | ふたりのはやて
シャマル「闇の書事件が解決し、それぞれがそれぞれの道を進み始めて数年」

ヴィータ「はやてとはやて、二人の少女が出会ったその時」

ザフィーラ「運命は再び幕を開ける」

シグナム「再び始まる魔導士襲撃事件」

シャマル「守護騎士ともう一組の守護騎士達」

ザフィーラ「ベルカ式の騎士同士の戦い」

ヴィータ「そして、出現する新たなる魔導書……」

シグナム「二人のはやては、その思いを余所に過酷な運命の渦に飲み込まれてゆく」

ヴィータ「次回、リリカルなのはA's ふたりのはやて 第2話」

シャマル「騎士たちの輪舞曲(ロンド)」

はやて「リリカル・マジカル……頑張ってこか」

第1話 彼女達の前奏曲 その7

2010年01月10日 | ふたりのはやて
 魔法少女リリカルなのは はやてSS
 第1話 彼女達の前奏曲 その7

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 「で、色々と質問があるのだけど」

 私は不機嫌そうな表情を隠しもせずに尋ねる。
 私の周囲では、何故か私以外の三人組が仲良くお弁当を広げていた。
 あれ、おかしいな、私の言った事、理解できなかったのかな?

 「むぐむぐ……なんや?」

 お弁当を箸を加えたまま、もぐもぐと咀嚼しながら答える彼女。
 はしたないから、口に物を入れたまましゃべらないで、女の子でしょうに。

 「なんで、私はあんた達と一緒に、保健室でお弁当を広げていないといけないのかしら?」

 声に嫌悪の感情がこもっても致し方ない事だと思う。

 「それはやなぁ「あ、はやて、そのコロッケもらうわね」オッケーや、アリサちゃん。すずかちゃんもどうや?」

 「うん、ありがとう、はやてちゃん」

 『はやて』がすずかの前にお弁当の箱を差し出す。
 すずかもわりと遠慮せずに、彼女のお弁当の中身を口に運ぶ。
 そう言えば、はやてのお弁当は二人のものより一回り大きめだ。
 もしかしたら、最初からこの二人につつかれるのを前提に作っているのか?

 それに、彼女のお弁当の中身は結構多彩で、私から見てもとても美味しそう。
 事実、彼女のお弁当に手を伸ばす二人組みはとても満足な表情で舌鼓を打つ。

 何だろう、この、私の周りで繰り広げられている和気藹々としたお昼の風景は。
 保健室の備品と机をくっつけてお弁当を広げる私達。どこから見ても仲良しグループだった。
 気がつけば、私のかばんも手元にあるし。
 確かに、かばんの中からコンビニの袋を取り出せば、すぐにでもお昼のご飯が現れる。
 つまり、彼女達と一緒にお昼のご飯を食べろと言う事なのだろうか?

 何で、こんな事になっているの?私、断ったはずだよね?はっきりと声に出して断ったはずだよね?

 本当に、何なのだろう、この子達は。
 朝のホームルームで私は確かに、自分にはあまり関わらないでくれと、はっきりと言った筈だった。
 『はやて』はその時、教室にいなかったから、知らない筈だけど、金髪とすずかは確かにあの教室にいたはずだ。
 それに、もう一度。ほんのついさっきもお断りだと、言ったつもりだった。

 なのに、何で彼女達は、こんなにも自分を構うのだろう。
 
 だんだんと腹が立ってきた。
 間違いなく、彼女達は親切でやっている事なのに、ずいぶんと身勝手な考えだが。

 だから、私は勢いよく立ち上がる。三人の視線が私に集中した。
 『はやて』が恐る恐ると言った風に尋ねてくる。

 「あ、あの……ごめん、迷惑やったかな?」

 しかられた子犬のような表情を浮かべる彼女。くっ…流石の私もそんな表情を浮かべられたら罪悪感を感じちゃうじゃない。
 彼女が本当に子犬だったら、間違いなく、耳も尻尾もしゅんっとうなだれているに違いない。思わず想像して噴出しそうになった。
 だから、そのまま出て行くつもりだとは言えずに、慌ててそっぽを向いて、できる限りそっけないような口調で言う。

 「………お手洗いに行くだけよ……」



 私は、ハンカチを口にくわえながら、流れる水道の水で手を洗う。
 ハンカチで丁寧に手に付いた水をふき取りながら、水道の蛇口をしっかりと閉めた。

 鏡に映る自分の顔を見た。
 鏡には、ちょっとやせ気味の目つきのきつい女の子の顔が映っている。
 人付き合いの苦手そうな、他人を拒絶するような表情をしている。
 自分だったら、あんまりお付き合いしたくないタイプの人間だと思う。
 後に、アリサに「あんたってば、かまってオーラがビシバシでてたわよ!」なんて言われたけど。

 「何で断らないのよ……」

 鏡を見ながらぼそりと呟く。
 正直なところ、そんな自分に戸惑っていた。
 何時もの私なら、あのまま席を立って保健室を出て行っていたはずだ。
 そのまま学校からエスケープすらしていたと思う。
 はっきり言おう、私は人付き合いが怖いのだ。
 コミュニケーション恐怖症なのだ。
 だから、あんな風になれなれしい態度で近寄ってくる人間は、一番の苦手としているのだ。
 まして、あの中の一人は、昨日であった得体の知れない人間なのだから。
 それは、自分自身、正直驚きだった。
   
 保健室に続く廊下を歩いてゆく。
 流石にお昼休みともなると、何人かの女生徒達とすれ違う。
 彼女達は私のことなんかまるで気にしない風にすれ違っていく。
 顔見知りでもないから、挨拶なんてかわしたりはしない。
 これが当然であり、私の望む事だった。
 私は路傍の小石であればいいのであり、彼女達の風景であればそれでよかったのに。

 小さくため息をついた。
 まったく、調子が狂っちゃう。

 やっぱり、このまま帰っちゃおうかな……。

 そう思っても、私の足は、何故か保健室へと向かう。
 ほんの少しだけ躊躇したが、私は保健室の扉を開ける事にした。
 その時の私は、相当、仏頂面をしていたに違いない。


 私が保健室に入ってゆくと、ほっとした表情の三人がいた。
 とたんに私は苦虫を噛み潰したような表情を作る。
 
 「よかった、帰ってきたわね」

 にっこりと笑みを浮かべるアリサ。

 「なによ…」

 「あんたの事だから、戻ってこないかもって思ってただけよ」

 「あ、アリサちゃん…」

 すずかが、ちょっと咎めるような口調で彼女を窘める。
 しかし、アリサの杞憂もあながち間違いではない。
 ここに戻ろうか戻るまいか、迷っていたのは事実だったのだから。
 戻ってきた事には自分自身、何故だろうか、と言う思いがあるのだから。
 しかし、そんな風に言うアリサも、安堵の表情を浮かべている。そんな顔をされる覚えはないのだけどね。
 けど、アリサ、あなたの予測は間違ってはいないわ。やっぱり迷ったもの。

 だから、私は彼女の言葉に、ただ肩をすくめて、席に座る。
 ご丁寧に、彼女は私が帰ってくるまで、いったん昼食を中断して待っていてくれたらしい。律儀な事だ。
 
 「ふん……かばんを置いたまま、帰る訳にはいかないでしょ?」

 食事を中断してまで、私を待っていたと言う事は、私が戻ってくるって信じていたのだろうか。
 私の朝からの行動を見れば、戻ってこない可能性のほうが遥かに高かったと思うのだけど。
 信頼される様な行動をとった覚えもなければ、信頼して欲しいとも思わないけど。
 それに、私たちが出会ったのは、今日の今日だ。
 例え、望んだとしてそんなにすぐに築けるものではない事は身に染みて理解しているつもり。
 ぶち壊すのはいとも簡単だけど、例えば私の親のように、ね。
 だから、そんなものを築き上げるための努力を私は放棄している訳で。
 その時は、築きあげる努力をしても、すぐに壊れるものだと思い込んでいた。

 私はかばんの中から、コンビニの袋を取り出し、ペットボトルの紅茶とサンドイッチを取り出す。
 私は、ちょっと驚いた様子の彼女達の視線を無視して、サンドイッチのビニールの封をペリペリとはがしていく。
 中身は卵とレタスをはさんだもの。

 はむっとそれを口にくわえる。
 美味しいとは感じないが、これでおなかが膨れるのだから別にかまわない。
 栄養とかカロリーとか考えているかって?
 昔は、色々と理由があってちゃんと計算していたのだが、今は別に気にする必要もない。
 最近、ずいぶんと胃が小さくなっているのか、あんまり食べなくてもおなかは減らないし。

 ふたきれのサンドイッチをおなかに収め、私はペットボトルの封を切って口につける。
 何回かに分けて半分ぐらいまで飲み干すと、しっかりと封をして、コンビニの袋にしまいこんだ。
 とりあえずは、ご馳走様でした。 

 そんな私の食事風景を、三人はぽかんとした表情で見ていた。

 「あ、あのな……あんたの食事って、まさかそれだけか?」

 「そうよ、何か文句ある?」

 「あ、あはは…別に文句はないけどな、ずいぶんと少食やなって……」

 確かに、彼女達と比べても少ないとは思うけど。

 「別に、あんた達に心配されるような事じゃないと思うけど?」

 「うん、それもそうなんやけどな」
 
 「だったら別にいいじゃない、あんた達の食事の邪魔をしている訳でもないし」

 「あんたね!言い方っていうもんが!」

 「別に、一緒に食事してくれと頼んだ覚えはないんだけど。あんた達が勝手にやっている事でしょ?」

 私のとげのある言葉に周囲が沈黙した。

 アリサは機嫌の悪いブルドックのような眼つきで睨み付けてくる。ブルドックにしては、可愛らしすぎるけど。
 はやては、私達を見渡して何か言おうとして、言葉が見つからないのか口をつぐんでしまう。
 すずかの目にはじわーっと目に涙が浮かんでくるのがわかる。

 何だろう、この胸を締め付けてくるような気持ちは。
 ちょっと、待ちなさいよ!
 これって、私が彼女達をいじめてる?もしかしてそんな風に見える、見えちゃう?
 違う、違うわよ!
 私の周りに勝手に集まってきたのは彼女達だし、そんな事頼んだ覚えはないわ!

 うーうーと、唸りながら相変わらず、睨んでくる金髪。
 おろおろとしながらも、何かを言わなきゃと、慌てているはやて。
 じーっとこっちを見つめながらも、まなじりに涙を浮かべるすずか。
 うわ、すずかだけじゃなくて、他の二人も目が潤んできている。

 なに、なんなの、これは!?
 私、私が悪いの!?
 これは、罠?
 わかった、これは孔明の罠ね!?
 どこからか電波が飛んでくる。
 ああ、頭が混乱する。
 どうすればいいのよ、この状況。

 「………あーもう!わかった、わかったわよ!降参、全面的に降参よ!」

 私は両手を上げて、お手上げの仕草をとった。
 お願い、勘弁して。
 あんた達の思ったとおりにするから、いい加減私を解放してください。

 「へ?」

 アリサがほけっとした顔をする。

 「まったく、もう!私が悪かったわ、ごめんなさい!これでいい?」

 なんかもう、馬鹿馬鹿しくなってきた。


 「あ、あの……」

 「なに、そんな顔してるのよ、すずか、でいいわよね?」

 「あ、うん!」

 「ほら、アリサも。ボーっとしてると、お昼休みが終わっちゃうでしょ。さっさとお弁当を片付けなさいよ!」

 「え、うん……あんた…あんたよね?」

 「あんた、あんたと、連呼しないように。私だってちゃんと名前があるんですが」

 「えっと…じゃぁ、改めて自己紹介しよっか?」

 すずかがおずおずと切り出した。何でそうなるの!?
 でも、正直そうして貰えると有難い。
 
 「えっと、じゃぁ、まずはあたしからね!あたしはアリサ・バニングスよ!」

 「私は、月村すずか、よろしくね」

 「あたしは、はやて。八神はやてや!あははは……変な名前やろ?」

 ぴくんと私の眉が跳ね上がる。あんた、もしかして私に喧嘩を売っている?
 でも、ちょっとびっくり。
 アリサがニヤニヤと笑みを浮かべている。
 すずかもそっと口元を手で隠した。
 くそ…こいつら……。
 少なくとも、この二人は私の名前を知っている。
 教室で見たあの微妙な表情はこの所為か。

 「さ、最後はあんたよ」

 こいつ、わかって言っているよね?
 アリサの顔に浮かぶ満面の笑みがその証拠。

 「……やがみ……はやて、よ」

 はやてが微妙な表情を浮かべる。
 冗談とでも思ったのだろうか、案の定、はやてが咎めるような言葉を発する。

 「あかんで、冗談はなしや。自己紹介でするのはちょっと、笑えんよ?」

 「悪かったわね、冗談でもなんでもないんだけど」

 「ええ!?」

 「矢上 はやてよ。変な名前でごめんなさいね、八神さん」
 
 「あうあうあうあう……」

 あうあうと、うろたえまくる八神はやて。
 まったく、あんたはどこの神社の祟神様よ、シューを捧げるから黙りなさいよ。それともキムチでも詰め込んだら、もしかしたら黙るのかしら。
 あ、でも、こいつってば、神様じゃなくても、もしかしたら天使か魔法使いかなのか?間違いなく、昨日飛んでたし。
 別人と言う可能性もない訳ではないけど、さっき私の顔を見たとき、かなり狼狽していた事から、あの時出くわした本人と断定して間違いはないだろう。
 ま、そんなことはどうでもいいけど。

 そんなはやてを余所に、アリサが再びにやりと笑みを浮かべた。
 なにか、面白い事を思いついたかのような表情。
 と、言うか、悪巧みを思いついた、そんないい表情を浮かべる。

 「そういえばさ、ねぇ、はやて」

 「なんや?」「なによ?」

 二人同時に返答して思わず顔を見合わせる私達。
 はやては驚いた顔をするが、なるほど、そう言う事か。

 「どっちを、どう呼べばいいのかしら?」

 「うん、どっちも『はやてちゃん』、だもんね?」

 すずかがこくこくと、頷きながらアリサの言葉に答える。
 確かに、どっちも、読み方は「やがみ はやて」だ。名字で呼ぶにしろ、名前で呼ぶにしろややこしくて仕方がない。
 しかし、何でこの学校は同じ呼び方の人間を、同じクラスに編入させたのだろうか?同じクラスだよね?
 仕方がないから、私は妥協案を提案する。

 「それじゃ、そっちが『小さなはやて』で、私が『大きなはやて』でどう?」

 「へ……なんや、それ!…って…どこ見とるんや!」

 ふふん、私はこれでも、同じ年頃の女の子の標準的身長と、標準的サイズなのだ。

 「だって……最初に見たときは小学生かと思っちゃったもの」

 主に身長とかサイズとか?

 はやてが、かぁっと顔を真っ赤にしてずびしっと私を指差す。

 「アリサちゃん、こいつ、あたしの敵や!」

 そのアリサはと言えば、おなかを抱えてけたけたと笑っている。私の言葉は彼女のつぼにはまったらしい。
 すずかも、困ったような顔をしているが、頬の辺りが引きつっている。

 「すずかちゃんも、そんなこらえとらんと、笑ってかまわんよ?」

 「笑うな!と、いうか、あたしの真似するな!」

 「おお!」 

 ぷんすかと腹を立てているはやてを、すずかが一生懸命なだめている。
 アリサがまなじりに浮かぶ涙をぬぐっている。

 「あーおかしかった。ほら、はやても、冗談なんだから、いいかげん、機嫌直しなさい」

 「そうそう、機嫌を直しなさいよ。半分冗談なんだから」

 「半分本気やんか!?」

 「大丈夫よ、はやて。貧乳はステータスなんだから……うわ、さむ!」

 「すずかちゃーん、こっちのはやてがイジメルんやー!」

 うわーんと無きついたはやては、よしよしと、すずかに慰められている。

 「不思議ね。私にそんなつもりはこれっぽちもないのに」

 「あんた……」

 呆れたような視線を向けるアリサ。

 「でも、はーちゃんって、思ったよりも面白い人だね」

 とても失礼な感想を漏らすすずか、って、ちょっと待て。

 「ちょっと待ちなさい、すずか」

 なに?と首をかしげる彼女。

 「今、なんて言った?」

 「え?思ったより面白い人だなって……あ、ごめん、変な事言っちゃったね」

 確かに失礼な言葉だけど。

 「そうじゃなくて、今、私をなんて呼んだのかしら?」

 「ああ、はーちゃんって。はやてちゃんだと、こっちのはやてちゃんとかぶっちゃうから。駄目かな?」

 ここで、その上目遣いは卑怯だと思う。
 
 「う……くっ……好きにしなさい……」

 「うん!」

 「よろしくや、はーちゃん!」

 にやにやするはやて。お前、さっきまで、すずかに泣き付いていただろう。あれはウソ泣きか、ウソ泣きか!

 「お、覚えてなさいよ……」

 この、騒々しいお昼休みが、本当の、私の学校生活の始まりだったのだろう。
 他人と関わる事を避けていた筈の私だったが、なし崩し的に彼女達の仲間に引きずり込まれた瞬間だった。

 そして……まさか、この時、わたしとはやてを巻き込んだ大事件が起こるなんて、その渦中に私がいるなんて思いもよらなかったのである。

第1話 彼女達の前奏曲 その6

2010年01月07日 | ふたりのはやて
 魔法少女リリカルなのは はやてSS
 第1話 彼女達の前奏曲 その6

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 保健室に引きずり込まれた私。
 保健室と聞くと、授業中に退屈になった時に居眠りをする所と相場が決まっているのだが。
 残念ながら此処はお嬢様達の通う、名門私立中学な訳で。
 ちゃんと、この場所を、名前の示す目的以外のことで使用している輩はいないようだった。
 そんな不埒な考えをする奴は、一人としていなかった。

 私の過去の経験では、たいてい数人は保健室でたむろっている生徒がいたのだが。
 生徒の質まで違うのか、この学校は……。

 ちなみに、私は勿論、正当な目的以外の目的で使用する常習犯だったけど。

 それはともかく。
 私が半ば引きずられて……文字通りの意味でずるずると……保健室を訪れた時には、保健医の先生の姿はなかった。
 別に保健の先生が常に保健室にいる必要もない。当然別の仕事だってあるはずだ。
 しかし、3人組の抱く感想はまったく別のものだった。

 「あれ、磯村先生いないね?」

 「また、どっかでサボってるんでしょ、あの人の事だから」

 「きっと、どっかで居眠りでもしてるんやな、きっと」

 「そんなことは……あるかな?」

 「否定できんなぁ」

 「否定できないわよね、あの人」

 「この前だって、そこのベッドでグーグー寝てて、高村先生に怒られてたらしいよ?」

 「ウソやろ?って……残念やけど言い切れんなぁ…」

 「ありえないと言い切れないところが、あの人らしいと言えばあの人らしいけど」

 「「「はぁ」」」

 三人で顔を見合わせて溜息をついている。
 信頼ないね、この部屋の主。

 「ま、いいわ。あんた、そこの椅子に座ってなさい。すずかは脱脂綿と消毒液を持ってきて。はやては絆創膏ね」

 金髪の指示でてきぱきと怪我の治療の準備を進める二人。
 勝手知ったる他人の家、ならぬ、勝手知ったる保健室。
 三人とも何がどこにおかれているのかは熟知しているようで、我が物顔で保健室の中を闊歩する。
 保健委員か何かなのか、この部屋の常連なのか知らないけど。

 しかし、なるほど、この三人の関係が大体わかってきた。
 少なくとも、この三人は友人関係で、金髪のアリサが、他の二人の牽引役みたいだった。
 きっと、クラスの中でも自然と皆を引っ張っていく役割なのだろう。
 すずかがその補佐役で、もうひとりが……この子はいまいち立ち位置がよく解らないが、仲は良いのだろう。

 「ほら、ボーっとしていないでとっとと座る!そうしないと怪我の手当てができないじゃない!」

 三人組の人間観察をしていたら、またもアリサがきゃんきゃんと吼える。
 確かに、ボケッと突っ立ているのもなんだし。
 立っているよりは座っているほうが楽には違いない。
 けど、そんな風に言われるのはなんとなく面白くない。
 誰が手当てをしてくれと頼んだんだ、とつい聞き返してしまいそうになる。
 彼女が親切で言ってくれている事は、内心では理解しているつもりだ。

 そんな風にしか考えられない『嫌な人間』である自分に、小さくため息。

 仕方がないので、彼女の指示通りに、保健室に据え付けてあるパイプ椅子に腰を下ろした。

 と、言っても彼女が手当てをする訳でもないらしい。

 私の前にしゃがみこんでいるのはすずかの方だった。実はちょっと安心。
 アリサにやらせると、傷が逆に悪化しそう。

 「ちょっと、沁みるかもしれないけど我慢してね?」

 「あんた、今、とても失礼な事考えてなかったでしょうね!?」

 うむ?
 なかなかに鋭いかも、この金髪。

 「ちょっと、アリサちゃん……」

 「ああ、ごめんごめん、すずか」

 すずかが脱脂綿に消毒液を含ませ、私の足の怪我に軽く押し当てる。

 「痛くない?」

 ぜんぜん痛くありません、むしろ、何も感じません。
 触られたと言う感じすらしないので、遠慮しないでちゃっちゃと処置して私を解放してください。

 「………別に……」

 「うん、痛かったら言ってね?」

 「………ええ…」

 すずかはにっこりと微笑むと、傷口を何度か丁寧に消毒。
 ひざの周りに付いた血を、傷口と同じ様に消毒液で湿らせたガーゼでふき取っていく。
 結構手馴れた手つきだと思った。

 「これで、よしっと。はやてちゃん、絆創膏は?」

 「あったで、これでええ?」

 はやてが、引き出しの中からいくつかのサイズの絆創膏の箱を取り出した。

 「うん、ありがとう」

 「どういたしましてや」

 すずかは比較的大きなサイズの絆創膏を選び、丁寧に私の傷の上に貼り付けていく。

 「あと…靴下も血でちょっと汚れちゃってるね。これは染み抜きしないと駄目かな?」

 血はタンパク質の塊だから乾くとなかなか落ちないのである。
 お嬢様っぽい外見をしているのに、そんなことまで知っているんだ。
 ちなみに私が知っているのは、我が家の家事一切が私の役目だから。
 やりたくてやっているわけではないけど。
 
 「換えの靴下なんて持ってないよね?どうしようか」

 「……それぐらいは、我慢するわよ」

 別に、後半日ぐらい我慢したところでたいした問題ではない。
 確かにちょっと気持ち悪いけど、我慢できない程度のものでもない。

 「そう?だったら、これでお終い。
 今日、お風呂に入る時は、あまりこすらないでね?
 お風呂から出た後は、絆創膏を変える事。
 もしお家に消毒薬か何かがあったら、交換する前に傷口を拭いてね。
 傷が化膿しちゃうといけないから」

 「はいはい、わかったわ」

 まるで、すずかが保健室の主みたいだったけど。
 本当の主はいったいどこへ行ったのやら。

 「とりあえず、お礼は言っとく、ありがと」

 「うん!」

 満面の笑みで頷くすずか。
 何がそんなにうれしいのかね?

 「さてと、怪我の手当てはこれでおしまいね」

 アリサがえらそうに言う。

 「あんたは何もやってないだろう……」

 じろっと睨まれた。
 事実は事実、手当てをしてくれたのはすずかだし、あんたじゃない。

 「それはそうだけど……ああ、もう!」

 「それでも、とりあえず、あんたにも感謝しとかなきゃね、ありがと」

 「ふん、素直にそう言えばいいのよ!」

 すまないね、あんた達ほど素直じゃなくて。
 自慢じゃないけど、これでも素直に言ったほうなんだけど。

 「ふふふ…それじゃ、教室にもどろっか?」

 すずかがそう提案した時、4時限目の終了のチャイムが鳴り響く。

 「ああああ!授業終わっちゃったじゃない!」

 なんだ、まだ授業に出るつもりだっのか、それはご愁傷様。
 私はとっくの昔に諦めていたから、気にならない。

 まだあわあわ言っているアリサに、仕方がないから声をかける。
 少なくとも、彼女が授業(の半分)をサボってしまったのは私の所為だし。
 殊勝な心がけだとか、性格が違わないかとか言っているのはどこのどいつだ?
 別に、私は誰かと関わるのが苦手なだけで、別に誰かと波風を立てたいわけではない。
 これでも、他人を気遣う事ぐらいはできるのだ。

 「諦めなさい」

 「あんたの所為でしょうが!」

 即答だった。


 とりあえず、4時限目が終わればそのままお昼休みである。
 これはどこの学校でも同じみたい。
 私以外の三人はお互いに顔を見合わせる。

 アリサが大きくため息をついた。

 「仕方ないか。授業の事は後で先生に謝り行くとして、今は、お昼休みにしましょ」

 「うん、そうだね。どこで食べようか?」

 「うーん、屋上に行くのもあれやなぁ」

 「だったら、ここでいいわよね、あんたもいいわよね?」

 「勝手にすれば……って、何で私が入ってるのよ!」

 「あ、あかんか?」

 「私達は矢上さんと一緒にご飯を食べたいな」

 駄目かな、と上目遣いで見つめてくるすずか。
 私が男の子だったら、きっと間違いなく、惚れてしまいそうな表情。
 残念ながら、私は女の子だからちょっとしか、くらっとこない。
 ちょっと、きたのは内緒にして欲しい。
 わ、私にそんな趣味はないからね!本当だからね!
 それはともかく、私は彼女達と仲良くなるつもりはない。
 あんまり関わり合いになりたくないのだ。
 だから、やんわりと断ると、ずるずると彼女達の『お友達』に引きずりこまれそうなので、はっきりと断る。

 「嫌よ!なんで、あんた達と仲良くご飯を食べないといけないのよ!」

 「なんでって、お友達になりたいから、かな?」

 「だから、そういうのはお断りなのよ!」

第1話 彼女達の前奏曲 その5

2010年01月05日 | ふたりのはやて
 魔法少女リリカルなのは はやてSS
 第1話 彼女達の前奏曲 その5

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 嗚呼、私は、一日目から早速挫けそうです。
 この空のどこかで見ている意地悪な神様、私を助けて?
 と、言うか、私を見ているのなら疫病神か貧乏神か、こんちくしょう!
 余計な真似をするんじゃない!
 試練なのか、試練なのですね?
 だが、断る!

 わかってはいたけど、階段の上り下りだけで、もうすでに身体が悲鳴を上げている。
 具体的に言えば、私の右足。
 すでに感覚が無くなってきている。
 どれだけ、脆弱なんだ、私の身体。

 などと、愚痴を言っていても仕方ない事は解っているさ、解っている。
 
 しかしながら、このまま階段の手すりに身体を預けていても仕方がない。
 はっきり言って、時間の無駄。
 周囲に助けを求めようとも、授業中の為か誰もいない。
 それに、私の性格上、誰かに助けてもらう事をよしとはしない。
 我ながら損な性格である。

 だったらどうするか。

 このまま、本当に授業をボイコットしてしまおうか。
 どうせ、自分の印象は最初からよいものではない。
 評価は急激下降中、私の株価は大暴落の真っ最中。
 もともと高く売るつもりなんてないのだから、下がるとこまで下がってしまえば後腐れがないか。
 無理してアウトローを気取るつもりもなかったけど、これはこれで悪くはない。

 私の事情の事は学校側も知っている……はずだ、たぶん。

 うん、決めた。

 さぼろう。

 そうと決めたら、今更焦って目的地に向かって努力する必要もない。
 努力などと言うほどの苦労をしたつもりもないし、するつもりもないのだけれど。

 とりあえずは、教室にたどり着いて授業に参加すると言う今後の予定は、キャンセルだ。
 授業が終わる前に、姿をくらませてしまえばそれでいい。
 でも、どこに行こう?
 転校したてなのでこの学校のレイアウトは、ほとんど頭に入っていない。

 それはともかく、ひとまず一息吐く事にする、はい決定。

 私は周囲に遠慮することなく……遠慮する必要のある人間がいるはずもないのだが……階段に腰を下ろした。
 スカートが汚れる事も気にせずに階段に座り込みんだ。

 「なぁ、自分、大丈夫か?」

 足を揉み解そうとしたら、見知らぬ誰かに声をかけられました。
 まったく、どいつもこいつも……本当にこの学校の生徒は御節介な奴が多すぎないか?

 「別に…あんたには関係が……?」

 「なんや、どっかで聞いたような台詞やなぁ…ん?」

 あんたにとっては聞いた事がある台詞かもしれないし、私にとっても、あんたのその声と顔は記憶にある。
 そしてその関西訛り。

 「あ、あ、あ……あああああーーーーーーーー!」

 私を指差して絶叫する彼女。
 思わず耳をふさぐ。

 「うるさい」

 「あ、ああ、ごめんな…って…あんた!何でこんなところにいるんや!」

 幾分かは小さな声で。
 それでも十分、大きな声で、私を指差しながら叫ぶ彼女。

 「人を指差すのは失礼な行為だと習わなかったの?」

 でも、それは西洋での事。日本では別にそのような風聞はない。
 目上の人間にすれば、あまりいい印象をもたれないのは確かだけどね。

 「あ、ごめんな」

 彼女は慌てて手を引っ込める。
 意外と、素直な事。

 「ん、別に気にしないわ。じゃ、またね」

 さりげなく立ち上がり、この場を去ろうとする。
 階段を下る為には、彼女が立塞がっている。
 ここは、仕方がないので階段を上る事にした。
 
 「ああ、またな……って、おい!」

 ちっ、気がついたか。
 あまりにもさりげなさ過ぎて、そのままスルーでバイバイ作戦失敗。
 ま、成功した事ないけど。

 彼女は慌てて私に駆け寄る。
 そして、私は腕をつかまれて引っ張られた。
 当然だけど、彼女にその気はなかったと思う。

 たまたま、たまたま、偶然、手を引かれて身体のバランスを崩した上に、踏ん張りの聞かない私の右足。
 そして、此処が階段の中段ぐらいの場所だったという事。

 階段でふざけるんじゃありませんと、小さい頃大人に言われた事はないだろうか?
 私は、そんな大人たちの忠告を身をもって体験する事になる。
 別に、ふざけていた訳じゃないけどね。

 ぐいっと引っ張られた私の身体。
 見事に私の身体は、傾いてゆく。
 その先には、驚いた彼女がいる。
 小柄な彼女が人間一人の体重を支える事はできなかった訳で、私は彼女を巻き込んで階段から転げ落ちてゆく。

 「ひゃ、きゃぁ!」

 彼女はやけに可愛らしい悲鳴を上げるが、すでに二人一緒に階段から足を踏み外した格好になっている。
 咄嗟に彼女と身体を入れ替え、結局、また私が彼女の下敷きになって、腰を酷く床に打ち付ける事となったのだった。
 これでも一応、女の子なのだから腰には気をつけて欲しいんだけど。

 「ぐっ…!」

 それにしても痛い。
 落下したのは、それでも数段だったから、たいした距離を落ちた訳ではない。
 高さでけで言えば、昨日の金網のほうが高いぐらいだった。

 けど、今回は彼女の体重をまともに私が受け止める事になった。
 咄嗟にやった事だけど、何で私が彼女を助ける必要があったんだ?
 まったくもって意味不明な行動をしたものだ。
 やっちゃったものは仕方ないけど。

 そして、受け止められた彼女の方は、気が動転しているらしく「え、え?」と困惑した顔を浮かべている。
 彼女の方は無事みたい。
 これで、怪我でもされていたら、私が下敷きにされた分だけ損である。

 混乱しているのか、彼女は私の上に馬乗りになったまま固まっている。
 小柄とはいえ、同い年ぐらいの女の子が身体の上に載っているのだ。
 男だったら、文句も言わずにそれぐらい受け止めろと言われるかもしれないが、幸いな事に私と彼女は同性。
 遠慮する必要はどこにもない、あるはずもない。

 「………重い……」

 うわ、我ながらすごく不機嫌そうな声が出た。
 いや、これで御機嫌な声を出していたら、ただの変な人だけど。

 「え、ええ…あ、うん」

 まだ若干困惑気味の彼女。
 うまく思考が現実に付いていっていない様だ。
 突然の事だから、あまり責めても仕方がないとは思うが、現実に、私の身体は彼女の下敷きになっている。
 身動きがとれない訳で。

 「だから、重いの…どいてくれない?」

 「え、は……あ、ああ!?ご、ごめん!自分、大丈夫か、なんともないか!?」

 「なんともあるわよ!だから、重くて痛いの!早くどきなさい!」

 ようやく自分の状況が理解できたのか、慌てて彼女が飛びのいた。
 おのれ、一度ならず二度までも……。
 当然の事ながら、一度目とは昨日の事。

 私は腰を抑えながら立ち上がろうとして、またバランスを崩して床に倒れる。
 これはいかん、完全に足が言う事をきかない。
 鈍痛のような痺れが右足から伝わってくる。

 飛びのいた筈の彼女が、私の目の前にしゃがみこんでいる。
 顔には、案の定、心配そうな表情が浮かんでいた。

 「ちょ、ちょい、自分、ほんとに大丈夫か?」

 「いたたた……これが大丈夫に見えるんだったら、あんたの目は相当おめでたいわね……くぅ……」

 再び、痛みに思わずうめく私。
 足ではなく腰から来る痛み。

 「あ、あわわ……誰か呼んでこんとな……ちょっと、待っててな…」

 「待ちなさい、待って……」

 「え、って、ひゃぁ!」

 「きゃぁ!」

 立ち上がり、どこかに向かって駆け出そうとする彼女。
 誰か……多分教師か何かを呼びに行くというのだろう。

 お願いだから、あまり騒ぎを大きくしないで、と、立ち去ろうとする彼女の手を引いた。
 そしたら、彼女のほうが身体のバランスを崩したのか倒れてしまった。
 いや、倒れてきた、主に私のほうに向かって。

 「ぐくぅ……」

 女の子らしくないうめき声を上げる私。
 本当に今日はついていない、と言うか呪われていない?
 だったら、やっぱり憑いているのか?
 何か、こう、王様なぼんびーとかに。

 再び……いや、三度か…彼女を受け止める形で、彼女の下敷きにされる私。

 厄日か、まったく、本当に。
 近くの神社に御祓いにでも行かないと駄目かしらん。
 ちょっとまじめに検討しよう。

 「あ、あわわわわ!な、な、だ、大丈夫か、自分!」

 「くぅ……あんた……私に何か怨みでもあるの?ホンとは昨日、私が見た事隠そうとして、私の口を封じる気?」

 いや、マジでほんと、こいつ、私のこと、殺そうとしてないかい?

 「そ、そないな事あらへん!ほんと、ごめん、ごめんなさい」

 ごめんごめんと言いながら、涙をぽろぽろと流し始める彼女。
 確かにそんなつもりはないだろうし、あるはずもないだろう。
 ただの憎まれ口のつもりで言った言葉だったのに、こんな風に反応されるなんて。
 私の所為?私の所為なの!?
 どう見たって悪いのは目の前で泣いてるこいつじゃないのよ!
 けど、客観的に見れば、こいつを泣かせたのは間違いなく私で。
 ああ、もう、どうしたらいいのよ!
 泣きたいのはこっちの方よ!
 
 「ちょ、ちょっと、待って、待ちなさいってば!泣かないで、わかった、わかったから!」

 本当に?
 と、首をかしげながらぐすぐすと鼻をする彼女。
 ちょっと、かわいいかもと思っちゃったじゃないか、私にそんな趣味はないぞ、誰か責任者出て来い、こら!
 あんまり他人と関わった事のない、私は混乱し始めている。

 こんな時にはどうしたらいいのかわからないのよ!

 笑えばいいと思うよって聞こえる幻聴。
 そんな訳あるか!

 お願いだから誰か助けて!

 けれど、私の願いを聞き届ける優しい神様はいなかった。世も末だ。
 ちくしょう、グレテヤル。
 ごめんなさい、これ以上はない程やさぐれている中学生がここにいます。

 なるほど、神様、私の普段の生活態度が悪いから、こんな意地悪をするんですね?

 ああ、混乱しているぞ、自分。

 そして更なる混乱は頭上からやってきた。
 
 「ちょっと、あんた達!授業もでずにこんなところで何やっているのよ!」

 見上げれば、金髪の女の子が手を腰に当てて大層憤慨した様子で、階段の踊り場に立っている。
 その隣には心配そうな顔をしたロングヘアの少女。

 確か名前は…ロングヘアのほうがすずか、金髪の方はたぶんアリサと言うのだろう。

 ずんずんと、アリサが階段を下りてきて、びしっと私を指差す。

 「まったく!4時間目は別の教室で授業だって行ったでしょ!それをこんな所で何をやっているのよ!」

 君達こそ、こんな所で何をやっている?
 まだ授業中のはずなんだけど……。

 「あんたがいつまでたっても、教室に来ないから心配で見に来たのよ!」

 授業中に勝手に教室を抜け出して大丈夫なものかね、しかし。

 「大丈夫だよ、先生の許可は取ってあるから」

 声に出してないはずの私の心情を、ずばり言い当てる、すずか。

 「だいたい「ちょっと、アリサちゃん、矢上さん、怪我してるよ?」って…へ?」

 すずかの指摘で、私も自分の身体を確認する。
 うん、ひざ小僧の辺りが切れていて、そこから血がたらたらと流れている。
 
 「え、きゃ、きゃぁーーーー!あんた、ちょっと、大丈夫!?」

 「おや」

 「おや、じゃなーーーい!何、他人事みたいな言い方してるのよ!」

 と、言われても、私も今、気がついたし。
 うん、痛いとかなんとか、そもそも感覚がないんだからわからないよねー。
 気がつけば、床に血の雫ができている。

 「ちょっと、大変だよ、早く保健室に行かないと!」

 「気にしなくても、ほっといて欲しいんだけど」

 これぐらいじゃ、人は死んだりしませんから。
 それよりも、何でこんな事になっているんでしょう、誰か教えてください?
 と、言うか、早くどこかへ行って下さい、お願いですから。

 「なに、馬鹿なこと言ってるのよ!ほら、はやても手伝いなさい!」

 「え、あ、うん、そやな」

 私の願いもむなしく、私は彼女達に保健室に連行された。

 二人の登場にほけっとしていた彼女……ん?はやてとか呼ばれていたな……も、私達と一緒に保健室へと向かった。

 ただ……私に肩を貸してくれたのはすずか一人だった……と、書くとアリサとはやてとかいう子が薄情に聞こえるけど。
 そうではなくて、彼女一人で事足りたと言う意味だ。
 どんだけ力持ちなのだろう…。 

第1話 彼女達の前奏曲 その4

2010年01月04日 | ふたりのはやて
 魔法少女リリカルなのは はやてSS
 第1話 彼女達の前奏曲 その4

  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 ありがたい事に、まず一番最初に行った私の宣言が功を奏したのか、思ったよりは、あの転校生特有の質問攻めの被害は軽微だった。
 勿論、そんな事はお構いなしに、私の席の前までやってきて色々とプライベートな事を質問してくる輩がいたのだが、そのすべてを無視した。
 やがて、そんな私の態度に興を削がれたのか、それとも、これ以上質問を繰り返しても労力の無駄だと悟ったのか、皆、私の席の前から姿を消していった。
 以前は『他人』と友達付き合いもしていたのだが、今の私にとっては単にうっとおしいだけの存在でしかない。
 他人の声はただの騒音で、その姿は書割の背景でしかない。
 自分の周囲は静寂に支配されているべきだと思っていた。

 それは単純に、自分がとても臆病で、他人との触れ合いを怖れていたからに他ならないのだが。

 無論、その時だって心の奥底で、自分の中にある弱い心の事は十分に自覚していたから、自分の周りから人がいなくなる事に安堵していた。

 3時限目の授業まではそれでよかった。
 とりあえず、教科書や参考資料の類は事前に渡されていたから、誰かに頼る事はなかったし、質問され答えなければならない状況もなかった。
 転校初日と言う事もあって教師陣も多少の手加減をしてくれただけかもしれないけど。
 ただ、授業の内容はあまり頭の中に入ってはこなかった。
 私は、ただただぼんやりと、学校の校庭を眺めてつまらない時間をやり過ごしていた。

 3時限目の授業が終わると、周囲がざわつき始め、クラスの皆が席を立って教室から出て行く。
 気がつけばうつ伏せになって寝ていたようで、周囲の椅子を引く音で目を覚ましたのだ。
 何事かとは思ったが、別に興味のある事ではないので、もう一度頭を伏せた。

 その時であった。

 「あの……」

 控えめな声が私にかかる。

 僅かに頭を上げ、声をかけてきた子を見る。
 長いロングヘアの女の子、ああ、今日の朝、校門で私に声をかけてくれた子か。
 何か私に用でもあるのだろうか……でも、生憎と私のほうに用はないので、とりあえず無視を決め込む事にしてまた頭を伏せた。

 「あの…」

 もう一度声をかけてくる。控えめで、優しげな声だった。
 そう言えば、顔立ちも整っておりなかなかの美人な子だった。
 おっとりとした雰囲気があるが、実際にそんな子なのだろう。
 
 「ちょっと、あんた!すずかが呼んでいるんだから返事ぐらいしなさいよ!」

 今度は、キンキンとした声がする。
 どうやら、私の安眠を妨害する人間が一人増えた様だった。
 だが、今度は頭を上げて、その人間の姿を確認仕様ともしない。
 完全に無視を決め込む。

 「あ、あんたね!人の話を聞きなさいよ!」

 声の主は私の肩をつかみゆさゆさと揺さぶる。
 だが、私は顔をあげようともしない、その気もない。

 「あ、アリサちゃん……」

 たしなめる様な声がするが、なに、あんたが気にする必要はない。
 無視をしている私のほうが悪いのだから。

 でもわかった事が一つ、いや二つ。
 おっとりとした方の声の主が『すずか』、もう一人の怒っているほうが『アリサ』と言う名前と言う事だ。
 
 
 「くぅ~~!!もういいわ!行きましょ、すずか!」

 人の気配が遠ざかってゆく。

 「あ、あのね、矢上……さん?次の時間は音楽だから、教室移動なんだよ?場所はこの棟の3階の一番奥だからね?」

 「すずか!そんな奴ほっとく!」

 「うん、今、行くね、アリサちゃん!」


 二人の足跡が遠ざかっていくと、教室は静寂に包まれた。
 しばらくして4時限目を告げるチャイムの音が教室に鳴り響いた。

 ようやく頭を上げると、確かに周囲には生徒の姿は一人もなかった。
 移動教室というのは事実らしい、実際時間割は次の授業が音楽である事を示していたし、何よりも誰もいない。
 さすがに、転校初日から授業をボイコットするわけにも行かないか。
 遅れた原因は『気分が悪かった』とでも言っておけば良いだろう。
 教師や他の生徒達には怪しまれるだろうが、そんなのは気分の問題なのだから。
 事実とも嘘とも判断の付かない曖昧な回答であれば、誰も責めることはできまい。

 ああ、あの二人には私を責める権利はあるか。
 せっかく声をかけてくれたのに、無視をしてしまったのだから。
 例えば、あのアリサと呼ばれた女の子の方、ずいぶんと気の強い性格をしていたから、さぞ盛大な文句を言ってくれる事だろう。
 面と向かって言ってくるか否かはわからないが。

 さて、あまりこんな場所でぼんやりとしていても仕方がないか。
 私は、かばんの中から授業で使う教科書とノートを取り出すと、のんびりと立ち上がり教室を後にした。

 しかしながら、この私立聖祥大学付属中学校というところは無駄に広い。
 施設が充実しているといえば聞こえはいいんだが、生徒数に比較して敷地面積がとても広い。
 教室も、生徒収容数に比較したら十分すぎるほどに『無駄』なスペースが確保されている。
 私が以前に通っていた中学校の倍はあるに違いない。
 そも、生徒数が違うのだからそう感じるだけかもしれないけど。

 加えて同じスペースの高校がこの校舎に隣接するように立っているのだから驚きである。
 狭い日本、もっとスペースを有効活用したほうがいいのでは?
 と、どうでもいい事を考えながら、私は目的地に向かって歩き始めるのだった。

 急げって?
 それは無理。

 だって、いまさら5分10分授業に遅れたところで如何しようもないし、そもそもその気がない。
 加えて、やんごとなき事情により、私はあまり早くは動けない。
 それこそが、私の気分を憂鬱なものにしている最大の原因なのだが、嘆いても致し方ない話だ。
 どうでもいいけどね。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 あたしはとてとてと走る。
 腕時計を見ると、時刻はすでに4時限が始まっている時間だ。
 何とか授業が始まる前に、教室に到着したかったのだが、直前まで『お仕事』をしていたのだから仕方がない。
 本当はお昼から授業に出ればいいのだが、少しでも授業に出れるのならば出たほうがいい。
 だから、急いで教室に向かうのだった。
 確か4時限目だから音楽の授業だっけか。
 だったら、自分の教室ではなく、音楽室へと直行すればいいか。

 あたしの名前は『八神 はやて』。
 私立聖祥大学付属中学校に通う中学生。
 数年前にとある事件に巻き込まれて、今ではとある『お仕事』と中学生の二束草鞋を履く、どこにでもいる女の子……。
 ごめん、うそや。
 ちょっと『普通』ではない女の子だ。
 速効で否定したそこのあんた、ちょっと後で『オハナシ』しような?

 それはともかく、その『お仕事』の所為で学校になかなか来る事ができない。
 勿論、どこかのファミレスでアルバイトとかそんなんじゃない。
 もしそんな『お仕事』だったら、いくら中学でも即座で退学だ。
 その辺、私立と言うところは厳しいのだ。
 それでもこの『お仕事』をしているのは、自分にとってとても大切な仕事だという事。
 どんなお仕事か、やて?
 信じる、信じないは別として、あたしは今『魔法使い』をやっている、正確に言えば『魔導士』か。
 やっぱり、信じられんか?
 いや、そんな風に考えるのは間違ってはいない。
 実際に『この世界』の人々の多くは魔法の存在を知らないのだから。
 けれども、とりあえず、信じてもらわんと話が進まないから、そんな仕事も『ある』と思って欲しい。
 当然、痛い目で見るのもやめて欲しい。
 何故、そんな『お仕事』を始めたのかは、また別の話だけど。

 そんな感じだから、当然『お仕事』の話は学校には秘密。
 でも、あたしは『お仕事』もとても大切な自分の生き方なのだから、結構学校にこれない事も多い。

 その辺の誤魔化しとか、色々な『事情』とかは、あたしの『勤め先』の人間が学校側に便宜を図ってくれている。
 だから、あたしは最低限の出席日数と、年に何回かの補講を受ける事でいろいろと勘弁してもらっているのだ。
 ただ、定期試験だけは免除してもらっていない、しかも、他の普通に授業を受けている生徒達と同じ出題範囲で受ける必要があるのだからかなり厳しいものがある。
 前回の定期試験がとても涙ものだった事は、秘密。
 なのはちゃんとかフェイトちゃんとかも、泣きそうな顔をしていたけど……何点だったんやろ……。

 そんな感じだから、あたしはこうしてたびたび授業の途中から顔を出す事が多々あるのだ。


 あたしは昇降口で靴から上履きを履き替える。
 とりあえずは教室を無視して廊下を歩いていった。
 廊下は静かなもので、教室の中から教師達の講義の声が聞こえてくるのみだった。

 だから、あたしが最初に彼女を見つけた時、不思議な感じがしたのだった。

第1話 彼女達の前奏曲 その2

2010年01月02日 | ふたりのはやて
 魔法少女リリカルなのは はやてSS
 第1話 彼女達の前奏曲 その2

 ひとしきり笑った後、顔を上げると、たいそう御立腹な様子の彼女の顔が合った。
 改めてよくよく彼女の姿を見ると、私よりも年下だろうか?
 小さな身体に……アニメか何かのコスプレのような格好をしている。
 背中からはえた黒い羽は、ちょっと格好良く見えたけど。

 背丈から想像するに、彼女は小学生ぐらいだろうか?
 私から見ても愛らしい顔がに怒りの表情を浮かべているのが、実にアンマッチ。
 余計に笑いがこみ上げてくるのだ。

 「なんや、自分!どうゆうつもりか知らへんけど、せっかく助けたのに、そないにけらけら笑うもんやないで!」

 言いたい事はよく解るが、実際に私は彼女が思っているような事をするのが目的ではなかった。
 頬をいっぱいに膨らませて、まなじりを吊り上げる彼女。
 愛らしい丸い顔が怒った表情を作り出しているけど、あんまり迫力がない。

 「ちょ、ちょい、自分!人の言っている事は真剣に…」

 「はいはい、聞いてる聞いてる」

 目に浮かんだ涙をぬぐいながら、私は答える。

 「ふ、ふざけとらんとやね!」

 「別に、私にふざけているつもりはないけど?そもそも、私、『あなたの思っている様な自殺』なんてするつもりないんだけど」

 偶然、足が滑って落下する事を内心期待するのは、積極的なそれとは呼ばないだろう。微妙な言い回しの違いに、彼女も気がついた様子はない。
 意地の悪い言い回しだと言う事は認めるけどね。
 結果的に、それが起こったとした場合、マスメディアや官憲の多くの人々は、私の『事故』の原因を『そうである』と決め付けるのは間違いがない。
 実際に、彼女もそんな考えに思い至ったのだろう。
 案の定、私が『そうではない』と否定すると、先程までの怒気はどこへやら、きょとんとした顔で目を白黒させている。

 「え、え、ええ?」

 「だから、違うんだってば」

 「だったら、だったら、なんであないな危険な真似するんや!下手したらそれこそ大怪我じゃすまへんかもしれんのやで!?」

 「落ちても、運がよければ怪我ですむわよ」

 「そりゃ、ごっつ幸運な場合は、や!」

 「一生分の幸運を使えば助かるかもよ?」

 使えなければ命がないのだから、間違いなく一生分の幸運だ。
 私の場合は、おそらく助かるだけの幸運値は無いだろうけど。
 不幸自慢をする訳ではないが、私の短い人生で私の幸運は使い果たしている自身はある。
 そんな自信、何の自慢にもならないが。

 「そないな幸運、使わんでもええ!」

 彼女の言っている事は至極尤もな事だが、素直にそうだねと言う事ができるほど、私の性根は真っ直ぐには育っていない。
 再び、語気を荒くしてゆく少女に私は肩をすくめて、立ち上がり、再び金網に向かって歩いていく。
 だいぶ痛みが薄らいだつもりだったが、立ち上がった時に鈍い痛みが走った。
 でも、歩けない程の事でもないか。

 「あ、ちょっと、待ちや!危ないって言うてるやん」

 「それは初耳」

 危ないからやめろとは、言われてない。
 彼女の制止を無視して、改めて金網に手をかけると、肩を掴まれた。
 その力はそれ程強いものではなかったけど、振り払えない程度のものではあった。

 「危ないから、やめときって言ってるやろが!」

 再び、彼女の怒りを含んだ声がする。
 けれど、彼女がどこの誰かは知らないけれど、見知らぬ少女に止められる理由はない。

 「貴女には関係のない事と思うけど?」

 「関係ない事あらへん!」

 「関係ないでしょう?私と貴女は見ず知らずの赤の他人。赤の他人が何をしようとも関係のない事です」

 「くぅーーーーーっ!!ああ言えばこう言う!せめてあんたが何でそないな危険な真似をするかは教えてくれんか!」

 それこそ、関係のないあなたに教えてやる義理は無いけれど……。

 「そう言えば……」

 私はくるりと踵を返して少女のほうを振り向いた。

 「赤の他人にこんな事を聞くのは野暮なんだけど…」

 私は金網から手を離した。

 「なんや?」

 私が思いとどまると考えたのか、ぱぁっと明るい顔をする彼女。

 「あんた、空飛んでなかった?」

 「へ?」

 質問の意味が理解できなかったのか、ぽかんとした表情を浮かべる彼女。
 しかしながら、徐々に私の質問の意味が脳に浸透していったのか、顔が青ざめていく。
 反応が鈍いよ。

 「え、あ、あ、あ……あああああーーーーーーーー!」

 甲高い絶叫が、屋上に響き渡る。
 私は、思わず耳をふさぐ。

 「うるさい」

 「あ、ごめん…じゃ、なくて……見たんか?」

 「それはもう、ばっちりと。と、言うかそこで否定はしないんだね」

 見たかと言う確認。
 それは、彼女が飛んでいたと言う事実を認めた事と同じ台詞。
 実際に、彼女もその事は否定するつもりはないらしい。

 「……否定しても無駄やろ?」

 「それはもう。あんたの言う『自殺』……」

 「それは、確かにあたしの勘違いや、すまん」

 「……『危険』な行動をしている最中にばっちりと」

 「そっか…それもそうやなって…それはそれや!誤魔化されへんで!あたしの質問のが先や!」

 「ふーん、飛べるんだ……へぇ……」

 「なんや、その目は…と、言うか、驚いとらんな、自分」

 「十分に驚いているよ、この見えない心の中をあんたに見せてあげたいぐらい」

 「ああ、もう!話をはぐらかさないでくれんか!」

 「別にそんなつもりじゃないんだけど」

 「だったら!」

 私はすっと指を刺す。
 彼女は私の指の先に視線を向けると、小さく息を呑んだ。

 そこにはフェンスと屋上の張り出しとの間に子猫がうずくまっていた。
 カタカタと震えながら、すでに鳴き叫ぶだけの体力も使い果たしたのか、微かにニーニーと鳴く声が途切れ途切れに聞こえる。
 フェンスと床の隙間は悪戯ができないように、思った以上に狭く、無理やりに子猫を引きずり出すだけの隙間は無い。
 うかつに手を出せば、人を警戒した子猫が逃げ出してしまい、下手をすれば屋上から落下してしまうかもしれない。

 「あ……」

 「悪餓鬼共の悪戯かなにかでしょ。中々に酷い事をする」

 「あんた、あの子を助ける為に?」

 「わかってるよ、そんな風には見えないって言うんでしょ?」

 「そんな事はないで!でも…あの子にどうやって気がついたん?」

 「悪餓鬼どもの後をつけたわけじゃないよ?そんな事をするぐらいだったらそうなる前に張り倒してるもの」

 と言うか、殴り飛ばしている。例え相手が年上だって何者だって噛み付いてやる自信はある。

 「じゃぁ、どうやって?」

 「私ね…『目』はいいのよ」

 「はぁ?目?まさか、地上からこの子を見つけたとか言うん?」

 そうだよ、丁度餓鬼共が屋上から子猫を落とそうとしたところが見えたのさ。
 偶々偶然、屋上の張り出しの上に落ちたんだが…。
 流石に、この高さから落下すれば、いくら猫でも助かる筈もない。

 「ま、そんな事はどうでもいいけど。あんた、人助けが趣味でしょ?そうじゃなきゃ、空を飛んでまで、私を助けに来たりしない、違う?」

 「趣味かどうかはともかく…あーもう、あの子を助ければいいんやろ!」

 「おやおや、中々に聡い事で…」

 厭味を言う私に、今度は彼女のほうが肩をすくめた。
 彼女は小さく、二言三言何かを呟いた。

 瞬間、彼女が薄い光に包まれ、その足元に複雑な幾つか図形が組み合わさった様な紋様が現れた。
 魔法みたいだと、その時は思った。
 まさか、本物だとは思わなかったのだけれども。

 「Der Flugel des Sturmes」

 ふわりと彼女が浮かび上がる。

 「へぇ……」

 「悪いんやけど……この事は秘密にしといてくれんか?」

 思わず感嘆の声を上げる私に、彼女は言った。
 こうして目の前で本当に人が浮かび上がるところを見ると、やはりすごい。
 というか…綺麗だと…そう思った。
 けれど、私の口からこぼれたのは憎まれ口だった。

 「そんな事言われなくても、誰も信じないって」

 「それもそうやな」

 彼女は小さくうなずくと 光の軌跡を残しながら、音も無く空へと飛び上がった。


 マンションの近くの公園で子猫を放す。
 そもそも野良だったのか、すぐに近くの茂みの中に姿を消してしまった。
 礼を言って欲しいわけではなかったが、少しばかり冷たくはないだろうか。
 それにしても、先程までは私の腕の中で震えていたのだから、現金なものだと苦笑をもらす。

 そう言えば……。

 私も似たようなものか。

 確かに、彼女が指摘したとおり、危ない真似をして、下手をすれば大事故を起こすところだった。
 心の奥底で、そうなる事を望んでいたのかもしれないけれども。
 彼女が手伝ってくれなければ、万が一にも、事故が起こる可能性があったのは否定できない事だ。

 なるほど、私が彼女に命を救われた……というのは言いすぎかもしれないが、助けられたのは間違いない事のようだ。
 にもかかわらず、別れ際に、彼女に礼の一言も言ってはいない。そう言えば、名前も聞いてなかったっけ。

 私は、彼女が飛び去った方角の空に向けて、手を差し出す。

 「私の名前は『はやて』…やがみ はやて…君の名前は?」

 勿論、帰ってくる答えなどありはしない。
 すでに暗くなっている公園には、ベンチを照らし出す、薄暗い街頭の明かりが灯っているだけだった。

 不思議と笑いがこみ上げてくる。今日は、よく笑う日だと思った。

 なんと滑稽な事だろう。
 私の立場は、今つい先程、私の手から逃げ出した子猫と同じだったのだ。

 私に子猫を手渡して飛び去った彼女も、私の事を、礼を欠く人間だと思っているのだろうか?

 なるほど、私はあの野良猫と同じか。いろいろな意味で…。

 不思議な出来事だった。
 ほんの僅かな邂逅ではあったけども、私の心に深く刻まれる出来事だったのは間違いない。

 そんな偶然は二度と起こらない。
 そんな風に思っていたけれど。
 二つの風の邂逅は、すでに運命付けられていたのかもしれない。

 さて……私は、服に付いてしまったあの子猫の毛を手で払い、帰路に付く事にした。

 明日からは新しい学校に通う事になる。
 私立聖祥大学付属中学校。
 色々と思うところはあるけれど、私と言う人間の再出発点となる筈の場所だった。