陶芸みち

陶芸のド素人が、その世界に足を踏み入れ、成長していく過程を描いた私小説です。

その27・出会い

2009-12-28 09:37:36 | 日記
 真夏の炎天下。人っこひとり通らない海沿いを、ウロウロと二時間もさまよい歩く。いいかげんへばってきた頃、うしろからきた小汚いワゴンが追い抜きざま、目の前に停車した。
「おい、どこいくが?」
 毛むくじゃらの野人が、運転席から半身を乗り出して声をかけてくる。能登なまりだ。
「それが・・・すずやきという焼き物をさがしてるんですけど・・・」
「ふーん。なら乗んまっし」
 妙なにおいのするワゴンの助手席に乗せられ、旅人はさらわれた(よい子は誘われてもぜったい乗っちゃダメだよ)。
 潮風の中をしばらく走って連れていかれたところは、町の郊外につくられた立派な美術館だった。郊外といってもどこからが町はずれなのか境界線もはっきりしないが、とにかくそこが珠洲焼きの総本山であるらしい。中に入ると、古い出土品が展示された本館の横に、現代作家の手による器が並んだギャラリーがあった。雑誌で見たものとおなじ、真っ黒な焼き締め陶だ。旅の目的地にいとも簡単に到達してしまった。出会いってのはすごいものだ。
「あ、ありがとうございます」
「これが珠洲焼きや」
 野人はヒマなのか、背後についてきては焼き物の説明をいろいろとしてくれる。その道にくわしいひとなのかもしれない。そこで、思いきって訊いてみた。
「あの・・・中山ダルマってひとの器をさがしてるんですけど、知りませんか?」
「ああ、それはね、タツマロ(達麿)って読むんだ」
「へー、そのひとの作品はどこに・・・?」
 野人は、土でうす汚れた指をギャラリーの一角に向けた。
「おいらの器なら、そのへんさがしてみまっし」
 ほー、そうか、ここにあったか、ついに見つけたぞ、といそいそとコーナーに移動・・・できるわけがない。おいらの?あんたの器?・・・つーことは・・・
「まさか・・・」
 そう、旅人をひろってくれたヒゲ面原人こそが、中山ダルマ氏そのひとだったのだ。かえりみれば、なるほど納得のダルマ顔。名は体をあらわす。最初から気づくべきだった。
 それがわかるとがぜん、目の前のみすぼらしい御身が光り輝いて見えてくる。土とすすにまみれた出で立ちは、まさしく大地と炎を相手に格闘した痕跡だ。本物を見通すまっすぐなまなざし、強い意思をあらわすゲジゲジまゆ、深く苦悩の刻まれたみけん・・・厳しい仕事をする男のそれだ。はじめて陶芸家という生物に接し、無知な若者は不思議な感慨をおぼえた。このひとの手からあの魅力的な器が生みだされるのか、と。
「ぼくはあなたの作品に会うために東京からきたんですよ!」
「ほー、そんな遠くから。そりゃご苦労さん」
「まさかつくった本人に会えるなんて・・・」
 感激をかくせないままに事情を話すと、彼もよろこんでくれた。ふたりは意気投合し(いや、ダルマ氏が気を使ってくれただけだと思うが)、旅人はずうずうしくも陶芸家邸にお邪魔をすることになった。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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