陶芸みち

陶芸のド素人が、その世界に足を踏み入れ、成長していく過程を描いた私小説です。

その9・製造科

2009-11-29 10:10:59 | 日記
「作業場に移動するよ、いかな~」
 案内された製造科の訓練棟は、かざり気のないプレハブづくりだった。質実剛健とよぶにふさわしい、使い勝手本位の素っ気なさがシブい。
 横着な立てつけのドアから入った瞬間、ひんやり、しっとりとした空気につつまれる。と同時に、むせかえるような土の気配が迫ってきた。身が引きしまる。広さは、バスケットコートが二面はとれそうなほどもある。天井はむやみに高い。「工場制手工業」という言葉を思い起こさせる、典型的な作業場だ。そしてここがそのまま教室となる。特別な講師を招いておこなわれる専門性の高い学科の授業は別棟の講義室で受けるが、ふだん待機したり、昼食をとったり、ホームルーム、担任の講義、副担任のろくろ訓練、その他実技訓練にはこの場所をつかう。いわば自分たちのベースキャンプだ。
 一限めのチャイムが鳴り、さっそく最初の授業がはじまった。まずは無骨な作業台を並べて、座る配置が決められる。それからお約束の自己紹介が順ぐりにおこなわれた。
「陶芸家を志しておりまして、腕を磨こうとこちらにお世話になることにいたしました」
「リストラにあったんですが、ハローワークでこちらを紹介されまして、へへっ」
「海外青年協力隊で派遣されたインドネシアで陶芸を覚えました」
「製陶所の家を継がなきゃなんないから、しかたなく」
「マンガが売れなくなっちゃって・・・」
「陶芸体験のできるペンションを経営するのが夢なんです」
「あたしなーんにもかんがえてませーん」
 ・・・さまざまだ。思えば、誰もが過去をすて、新しい未来を求めてやってきたのだ。職業訓練校は多種多様な人種の巣窟といえる。ただ、美大キャンパスで散見する、いきなり尻を出したり、クラスの征服を宣言したり、中指を立ててみせたり、といったでたらめなキャラは見受けられなかった。みんな、おしなべておとなしそうだ。あるいは、そのヒツジの皮の下に凶暴なキバを隠し持っているだけかもしれないが。このオレのようにね、フッフ・・・
 さてコミュニケーションもそこそこに、すぐに授業は実戦段階に突入した。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園