いま手元に
「文藝春秋」2009年12月号があります。
取調べ全面可視化に反対する文章をさがしていて、この記事のことを知りました。
雑誌のバックナンバーを販売する雑誌専門通販サイト
『バックナンバー』
で購入できたのはラッキーでした。
12月号は11月初旬発売ですから、この号はこの年9月の総選挙で民主党が大勝した時期にあわせて発売されています。
ここに「特集 新聞が書かない鳩山政権の深層」としていくつか記事がのっていますが、その中のひとつに吉村博人・前警察庁長官による「取調べ全面可視化に反対する」と題した文章があります。
著者の吉村博人氏は、いわゆる警察庁キャリアです。
ウィキペディアによれば、
「来歴 東京大学法学部卒業後、警察庁に入庁。主に刑事畑を歩む。刑事局長、長官官房長、次長を経て、2007年(平成19年)警察庁長官に就任。
取調べの一部録音・録画や被疑者取調べ監督制度の導入を実現させ、取調べ適正化施策の推進に尽力した。2009年(平成21年)に勇退。」とあります。
まさにキャリア組の王道を行っているような人ですが、この下線部分を自画自賛したのが、この特集記事です。
ほんとうは全文(約一万字)をお読みいただきたいのですが、そうもいかないので、
部分的に引用しながら吉村博人氏の取調べ可視化にたいする見解に限定して紹介します(見出しは管理者がつけたものです)。
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■警察も部分的に取調べ可視化を実施している
「検察での取調べの録音・録画がいずれ警察にも及ぶことは時間の問題でもありました。そこで警察では、裁判員裁判事件、すなわち殺人事件や強盗致傷事件などについて、被疑者の自白が任意になされたことを裁判員に分かってもらう手段として、昨年九月以降、警視庁や大阪府警などで調書作成過程の録音・録画の試行を開始し、今年四月からはこれを全国に拡大しました。
取調べの全過程を録音・録画することには、とても賛成できません。しかし、取調べの結果調書が作成された場合、その調書はいずれ証拠として外に出ていくものであることから、取調べ結果を反映して調書を作成する過程だけを録音・録画したとしても、取調べの機能を大きく阻害する訳ではないと判断し、現場にとっては新たな負担ですが、実施に踏み切ったのです。」
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■録音・録画は取調べの最終局面で実施
「警察の取調べにおける録音・録画は、勾留期間中、ある程度捜査の見通しがつき事件の全体像が明らかとなったとき、犯行に至る過程とその核心部分について、数枚程度の供述調書を作成する際に実施します。
具体的には、供述調書の印字を終えた段階で被疑者に録音・録画を開始することを告げます。録音・録画のスイッチを入れ、まず調書を被疑者に読み聞かせ、閲覧させ、被疑者がその内容を確認して署名指印をしている状況までを収めます。もし被疑者の申立てで調書を訂正する場合は、その場面も録音・録画されます。このほか、例えば取調べを振り返って言い足りないことはないか、被害者のことを今どう思っているかなどを被疑者に問い、それらに応答している状況も収めます。その後、録音・録画を終えることを告げ、スイッチを切ります。
録音・録画時間は平均十五分程度。カメラは二台設置し、一台は被疑者の表情が分かるように、また他の一台は、取調べ室全体を撮影しています。画面には時刻も正確に表示されます。撮影映像の処理とDVDへの記録ほ機械的かつ自動的に行われるので、たとえ被疑者が警察側に不利な供述を突然始めても、途中で録音・録画を止めるようなことは不可能です。こうして、録音・録画されたDVDは被疑者の面前で封印し・検察官に送致することになっており、改竄の余地はありません」
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■ 全面可視化反対の理由その1
・被疑者との信頼関係構築が困難になる
「取調官と被疑者は、捜査には直接関係しない事柄やプライバシーに関わることも含めて色々な話をしながら、時間をかけて事件の核心部分に入っていきます。地道に被疑者とのコミュニケーションを重ね、人間的な信頼関係を構築することで、少しずつ心の扉を開かせ、供述を引き出していくのです。時には被疑者の話に調子を合わせるなど、様々な駆け引きもあります。この過程がすべて録音・録画されることになれば、被疑者だけでなく取調官も、発問や供述の一言一句、その際の動作や表情に至るまで、カメラを意識してしまうでしょう。」
「取調べは、取調官と被疑者とが人間的信頼関係を構築した上でぶつかり合う、全人格的対決であり、融和でもあります。ウェットそのものの世界であり、ここにドライな録音・録画機材を入れてうまくいくはずがないのです。」
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■ 全面可視化反対の理由その2
・第三者の名誉、プライバシーを侵害する危険がある
「被疑者供述の中には犯罪事実とは関係のない事項や、例えば性犯罪被害者など被害者に関する事項なども含まれていることです。
『全過程を録音・録画することで、事件に関係する第三者の名誉やプライバシーにかかわることが、後日、公になってしまう危険がある。それを恐れて被害者が被害申告を躊躇するようなことにでもなれば、それこそ問題でしょう』(第一線の取調官)」
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■ 全面可視化反対の理由その3
・被疑者が暴力団構成員の場合、供述がとれなくなる
「今は、被疑者が取調官を信頼するところまで二人の関係を築き、『ここだけの話』として、組織内部のことを聞き出したり、他の組織犯罪に関する端緒情報を入手したりしています。また、組長など犯罪首謀者の検挙につながる供述も苦労して引き出しています。しかし、録音・録画となれば、被疑者は、仲間からの報復や組織内部での信用失墜を懸念し、話してくれなくなります」
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最後に、吉村博人氏は「事は被疑者の取調べです。すべての過程がオープンになったのでは、成る話も成らなくなります。今後とも、取調べの問題について、冷静で多角的な議論がなされることを心から願っています。」とこの稿をまとめています。
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みなさんの感想をお待ちしています。
なお、1月27日(木)午後7時~ 東葛総合法律事務所(千葉県松戸市・松戸駅西口 徒歩5分
【地図】)でおこなう事前学習会では参考資料として可視化反対論をまとめて紹介する予定です。
東葛総合法律事務所友の会会員でない方で参加を希望される場合は、事前に東葛総合法律事務所までお問い合せ下さい。(電話047-367-1313)
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2011年2月12日(土)13時
「ショージとタカオ」上映会inまつど
松戸市民劇場にておまちしています。
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東葛総合法律事務所友の会