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みつとみ俊郎のダイアリー

音楽家みつとみ俊郎の日記です。伊豆高原の自宅で、脳出血で半身麻痺の妻の介護をしながら暮らしています。

金木犀の香りを浴びながら

2011-10-02 21:34:35 | Weblog
いつものように病院の裏門をくぐり看護学校の前を通って病院にたどり着く。
向いにある駒沢公園からはスポーツを楽しむ人やイベントに来た人たちの大きな明るい歓声が聞こえてくる。
一方の病院の内部は大きい病院ながらも日曜の午前中はひときわ静かだ。
病室は2階なのでエレベーターを使わず非常階段を歩いて上る。
病院の中のエレベーターは当たり前なのだろうが、間口の広いエレベーターばかりだ。これが繁華街や雑居ビルなどにあるエレベーターだと間口が狭く車椅子はとても入れないようなものも多い。これは、妻が車椅子を使わざる得ない状態になり初めて気づかされたことだ。
東京、いや日本の社会は弱者にはとても優しくない社会だということを改めて考えてしまう。

部屋に着くと今日の午前中はシャワーの日だと昨日楽しそうに話していた恵子だったが、あいにく看護婦さんたちが忙しいので違う日になったと残念そうに話していた(この病院はやたら看護婦さんの数が多い病院なのだが)。
お昼ご飯まではリンパマッサージを施すのが習慣になっている。
同じ病気を経験した友人から教えてもらったことだ。
「パートナーのリンパマッサージは回復にはとても有効なものです」という彼のことばを信じひたすら優しく肩の鎖骨のくぼみから始まって、首、ワキの下、足ヒザの裏、くるぶしとひととおり揉みほぐして行く。
本人も「気持ちいい」と言っているからきっと効果があるのだろう。
現在の食事はおかゆ以外はほとんど通常食だが、右手が使えないので左手だけで食べなければならない。
しかもまだ右の麻痺が口元にも多少残っているらしく、時折右端からこぼれた食べ物に気がつかないこともある。
食事はけっこうひと仕事だ。

日曜日は通常のリハビリがお休みなので、私が代わりにリハビリプログラムを彼女のために施す。
何もついていない筆を持たせて絵を描く真似をさせたり、「親指」「中指」「薬指」と私が言う指だけを曲げさせたり、一人で車椅子を運転する訓練や(左手左足だけで操作するのは意外と難しい)とけっこうハードにリハビリをした後、ほとんど人のいない一階の大きな外来待合室(ここの待合室はカフェもありホテル並のきれいなロビーになっている)の真ん中にある大きな熱帯魚の水槽の前に車椅子を運び「熱帯魚の絵、描いてみい」と左手にプレパスを持たせる。
「魚はあんまり好きじゃないし、動くから描きにくい」とブツブツ文句を言いながらも絵描きらしく絵を描き始める。

夕食前の時間はわりとゆったりした時間がいつも流れるが、今日は昨日私が買ってきたipodに入れた音楽をヘッドフォンを片方ずつつけながら楽しむ。
彼女の好きなフランソワーズ・アルディと私のアルバム(「緑の光線』)を聞く。
「片方じゃあんまり面白くないだろう?」と聞くと「両方の耳の方が疲れる」と言う。
それでも、音楽に合わせて両方の手を動かし始める彼女を見て「音楽って絶対リハビリに有効だ!」と確信する。

今頃病院で何を聴いているのだろう?
病院の夜は長いといつも言うので、眠れなくなったらきっと何か音楽を聴いているのかもしれない。