道東を発見する旅 第3の人生

ブレグジット、トクヴィルの予言、ジョブ型雇用

ブレグジットの背景

ブレグジット(イギリスのEU離脱)が実現しそうになってきました。

いったい何故、EUを離脱するのか。不法移民や難民問題があるのは想像できますが、その背景に何があるのか、正直、理解できないところもあります。

グローバル化に逆行するような決断に至るまで何があったのか、いろいろ議論はあるようです。

以前、行われたブレグジットに対する国民投票では、年齢別に分けた結果で、年寄りは離脱を望み若者は残留を望んでいたそうです。

また、所得階層別にみると、お金持ちから上位中間層までは半数以上が残留派ですが、下位中間層以下では大きく比率が下がって最も所得の低い層では3分の2が離脱希望だったといいます。

この結果から、若者は、いろいろな問題はあるかもしれないがヨーロッパのメンバーとしてイギリス人に活躍できる新たなチャンスがあるだろういう思いがある。

その一方、年配者は外から来る人に職を奪われて、豊かさが失われるという意識が強いのではないか、さらに厳しい経済状態の人たちは、「外から入ってくる移民の流入を食い止めれば、自分たちの暮らしが守られる」という考えを持っているそうです。

そして、その背景には単純に移民を排除する流れというだけでは説明できない大きな流れがある。

それが、平等不平等の概念と派生する民主主義とグローバリズムの問題があるのです。

今回は、東大教授で政治学者の宇野氏が女子高生相手に行った講義をまとめた本から、平等、不平等と民主主義の問題点について著書から引用して紹介します。

民主主義における平等の概念

宇野氏はフランスの思想家トクヴィルの思想を紹介しています。

19世紀のフランスで貴族として育ったトクヴィルは、フランス革命を経験して知らない世界を見るために国を離れアメリカに渡り、アメリカのデモクラシーを見て、平等であることについて、「アメリカのデモクラシー」という本を執筆しました。その概念は、歴代のアメリカ大統領が引用されている程、大きな影響を与えているそうです。

以下、本からの引用です。

宇野重規著
『未来をはじめる−「人と一緒にいること」の政治学』(東京大学大学出版会)

35ページから引用

「トクヴィルの予言」

これまで貴族は、世の中の貧しい連中を自分と違う種類の人間と思ってきた。

貴族は貴族、平民は平民で、まったく違う人間と思っていた。

でも自分がアメリカに来てみて、そんなことはないと気づいた。

みんな同じ人間で、自分と何が違うわけでもない。これまで人を囲ってきた想像力の壁は急速に崩れつつある。

もう貴族だ、平民だという時代ではない。世界はどんどんつながっていくし、人々はどんどん平等になっていく。

ただし、それが良いことばかりではないとトクヴィルは言います。みんなが互いを自分と同じ人間だと考え、その意味でより平等になることは、もちろんそれ自体としていいことです。

でも、そのような意味での平等化が進むと、互いの見方にも変化が生じます。

昔は平民というと、「ああ、貴族の人は偉いものだなあ。でも、自分とは違う人間だから、自分は自分でやっていこう」と思うこともできた。

ところがみんなが平等になるとどうなるか。

いままでは違う世界の人だと思っていたのが、考えてみれば同じ人間だと思ったとたんに腹が立ってくる。

「なんであの人はあんなにいい思いをしているのに、自分はこうなのか」。

平等化時代の個人は、他人に対してより厳しい見方をするとトクヴィルは言うのです。

引用終わり

これは国レベルの大きな問題であると同時に、我々の身近でしょっちゅう起こっている事だと思います。

たとえば、新入職員を雇用したとします。最初は、有難がっていても、そのうち、その人の心の中で、職場での平等化意識が高まると共に文句を言い始める事になります。これはいつでも、どこでも起こっていると思います。

しかし、それは入職時の雇用条件という前提を忘れて文句を言っている場合が多いように思うのですが、いかがでしょうか。

さて、本では、次の議論が、なぜトランプ大統領が当選したのか!に移ります。そこから、現在世界で起こっている流れの説明があります。もちろん、わが国もその流れに逆らう事は出来ずに進行しているのです。

近年、インバウンドで外国人観光客が増えていますが、その理由の一つに日本の物価が安いからということがあげられています。

実は、失われた20年で、日本では20年前とくらべて中流層が減っています。その分、中国やインドの中流層が爆発的に増加しているのです。

43ページから引用(キーセンテンスだけを抽出していますので、数行ずつくらい省略しています)

世界中からさまざまな人が来て、多様な人種が一緒にやっていくのは素晴らしい。これがアメリカの本来の理念です。それでも、その人々によって自分の職が奪われるとなると、心穏やかではいられない。

そう思っている人にとっては、言いたくても言えなかったことをズバッと言ってくれたトランプに爽快さを感じることはあったかもしれませんね。

実はアメリカ人の半数近くは生涯アメリカから一歩も出ないと言われています。

かってなら、自分たちこそがアメリカを支えていると自負することができたでしょう。ところがそのような人々がグローバル化によって大きなダメージを受けたわけです。

グローバル化によって、先進国の富裕層と新興国の中間層の所得は格段に上がりました。でも、先進国の中間層、とくにその下の層、いわゆる下位中間層の人たちは圧倒的に損をしたのです。

1980年代から新自由主義やグローバリズムを進めてきたのは、イギリスとアメリカです。いまや、まさにこの2つの国で悲鳴があがっています。象徴的ですね。

45ページから引用

市場経済と民主主義

今多くの人が思っているのは、グローバル化と民主主義は、相性が悪いかもしれないという事です。

民主主義というのは、一つの国の中でより多くの人の声を政治に反映する仕組みです。

今の先進国では、グローバル化によって、豊かになるのはごく一部で、苦しくなっている人の方が多い。そういう人たちの悲鳴を、民主主義は反映することになります。

(ブレグジットのように)「もうグローバル化に耐えられない」と叫びだせば、それを政治に反映するのが民主主義です。

それが可能であるか、望ましいことであるかどうかは別問題です。グローバル化の流れは、今後減速することはあっても、完全に逆戻りすることはないでしょう。

現在、グローバル化を主張する勢力と、それに異を唱える人々の声を政治に反映する民主主義とが、厳しい緊張状態にあります。

引用終わり

まとめ

本でこの話題の結論は、世界中でグローバル化は進み、民主主義はそれに異を唱えて不協和音を掻き立てながら世界は動いていく流れは元に戻せないので、ブレグジットとトランプ大統領の動向に注視していきましょうという結論で終わります。

将来への展望も何もないのですが、こう考えるとブレグジットが今後の世界の流れを見極める大事な指標になることが分かりますね。

すでに述べましたが、平等化意識の高まりは、危険な側面もあります。身の回りで、急に声高で叫びだす人がいたら要注意ですね。きっと勘違いしている部分があると思います。

誰もが楽しく納得しながら仕事するためには、平等化意識をどうコントロールするかが大事だと思います。

本では、さらに日本型の雇用形態が揺れ動いているという話になります。

これまでは会社に雇用されるのはメンバーシップ型、すなわち会社の一員として雇用され、入社後、何をするかは会社が決めて、仕事内容も変化していくが定年まで雇用は保証されるという形でした。

近年、欧米にみられるようなジョブ型、すなわち何ができるかというスキルで契約される場合が増えていっており、ジョブ型とメンバーシップ型がどうミックスされていくか、いい面も悪い面も含めて変化していく時代の話になります。

これも自分の身の回りで起こっているので参考になりました。いずれ、機会があればこの話題にも触れてみようと思っています。

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