今日も僕は白く霞んだ世界の中を涙を流しながら歩く。

　すっかり花粉症の季節になった。僕が特にダメージを受けるのは目だ。悲しくなくても涙が溢れ出す。そして目の周りの肌が荒れ、ヒリヒリする。ピシッと肌が裂けるのが分かることもある。
　もちろん、鼻もムズムズするし、クシャミも出る。だからマスクは必携アイテムである。鼻の頭から顎の先まですっぽり隠れるタイプのヤツだ。
　しかし、これを装着したまま歩くのは、極めて危険なことである。何故か。メガネが曇るのだ。マスクで保護された鼻孔から吐き出される息は、鼻の両脇に空いたマスクと顔面の隙間から上向きに吹き出し、そのままメガネを直撃する。そして、すぐにメガネが曇る。辺りが白い霧に覆われる。その白く霞んだ世界の中を、僕は涙を流しながら歩くのだ。
　特に怖いのは下り階段である。なんせ足元が見えないのだ。おっかなびっくり、という感じで歩くしかない。しかし、それではやっぱり危険なので、マスクを下にずらすことにする。鼻の穴を露出させるのだ。だが、それでもまだ曇る。ええい、口も半分ぐらい出しておこう。むむっ、これじゃあマスクしてる意味ないじゃんっ。
　再びマスクで口と鼻を覆う。再び世界が霧に包まれる。そして僕はその中を歩く。でも怖いので、マスクを下げる。その繰り返し。ああ、無間地獄。

　ある日、指摘された。マスクが大きいんじゃない？　だから隙間ができて息が上に洩れるんじゃないか、と。
　その通りかもしれない。深く考えずに標準サイズのマスクをかけていたけど、どちらかといえば僕は「小顔」である。今までかけていたマスクは少々大きかったかもしれない。
　そんなわけで「女性・お子様用サイズ」のマスクに替えた。うん、確かに今までよりピッタリくっつく。明らかに隙間は小さくなったろう。
　早速それを装着して僕は出かけた。これで恐怖感を味わうことなく外を歩ける。階段を下りながらビクビクすることもない。僕は解放された。この世界の中を堂々と歩いていけるのだ。ひゃっほう。

　しかし、数分後、僕は周りの景色が白く霞んでいることに気付いた。なんじゃい、マスクの大きさは関係ないじゃん！