本の感想、書こう書こうと思いつつ、ため込んでしまってました。すんません。
●『ミャンマーの柳生一族』高野秀行(集英社文庫)
ずっと前から気になっていた本。なにしろ、辺境ルポで名高い高野氏が、かの船戸与一氏と一緒にミャンマーを旅した記録なのだ。船戸ファンとしては、随所で明かされる船戸氏の大らかさ……というか大ざっぱさや無頓着さが楽しい。ただ、ところかまわず立ちションするってのは、いかがなもんでしょ。いや、日本じゃやらないだろうけど。
それにしても、高野氏の行動力と着眼点は素晴らしい。現代のミャンマーを江戸時代の日本になぞらえることで、僕のような世間知らずにもミャンマーの現状や人々の暮らしぶりが伝わってくるのだ。まあ、僕が実際に行くことはないだろうけどね。虫とかイヤだもん。軟弱ですんません。
●『僕は運動おんち』枡野浩一(集英社文庫)
『ショートソング』枡野浩一(集英社文庫)
先に読んだのは『僕は運動おんち』。まるで僕のことを言ってるようなタイトルだ。自慢じゃないが……って自慢どころか相当情けない話だが、小中高を通じて僕は自分よりもスポーツが苦手な同級生を見たことがなかった。まあ、走るスピードとかは平均並みだったけど、球技に関しては……ああ、思い出したくないや。
この『僕は運動おんち』の主人公ももちろん運動おんちで、なおかつ「ゆるやかな自殺願望」を抱いている。って書くと陰々滅々としたノリかと思えちゃうが、これがなんとも清々しい青春小説なのだ。僕もこんな高校生活を送りたかった、と読みながら何度も思ったものである。登場する女の子たちがすこぶる魅力的なのも楽しいし、読後感も爽やか。超オススメです。
あんまり面白かったので、同じ作者による『ショートソング』も読んでみた。こっちは、ハーフで美形だけど童貞の大学生と、天才歌人でプレイボーイの青年が主人公。この二人が一人称で交互に語りながらストーリーが進んでいく、というスタイルだ。これまたものすごく面白い。電車の中で毎日ちょっとずつ読むつもりだったのに、早く結末が知りたくて家で一気に読んでしまった。でも、最後の方は読み終えるのが惜しくて、ずっとこの世界の中にいたい、と思えて仕方なかった。
歌人としての枡野浩一の言葉選びのセンスには前々から敬服していたけど、小説もこんなに面白いとは。おみそれしました。
●『僕だけの☆アイドル』新堂冬樹(光文社文庫)
アイドルに夢中で妄想癖のある青年が主人公。まあ、いわゆるオタクとかアキバ系とか呼ばれるタイプね。昆虫ショップに勤めていて、カブトムシやクワガタの糞尿を処理する毎日を過ごしている。
その彼が恋をしたり妄想に耽ったりする様子が描かれるんだけど、これがあんまり面白くない。いや、主人公の情けなさには大いに共感できるんだけど、どうも可愛げってヤツがないのだ。もしかしたら、作者自身も主人公に愛着を持ってなかったんじゃないだろうか。
●『すべる時間』幽谷マサシ(太田出版)
漫才コンビのボケとしてデビューしたものの、相方が『電波少年』っぽい企画で長期拘束されたため、中途半端な芸人人生を送る羽目になった青年の悲劇。完全に自伝であり、主人公(=作者)である幽谷氏はすでに芸能界を引退し、一般人としての生活を送っているそうだ。昨今、芸人が書いた自伝的小説が出版されることは多いが、芸人の道をリタイアした者の物語が世に出るのは珍しいんじゃないだろうか。
主人公は「笑い」に関して確固たる信念を持っている。その信念は、僕にはものすごく共感できるものだが、だからといって、この小説の中で紹介されたネタを実際にナマで聞いて笑えるかどうかは確信が持てない。いや、おそらく笑えないんじゃないだろうか。あえて「差別」を笑いに取り込むという姿勢は理解できるけど、送り手と受け手との信頼関係(もしくは共犯関係っぽい意識)が成立していなければ、客は笑うことを躊躇するだろう。
ものすごく読み応えのある本だったんだけど、ひとつだけ難点を言えば、ちょっと時系列をいじりすぎ。普通に順に沿って話を進めた方が分かりやすいし、味わいも増したんじゃないかな。とはいえ、お笑いに興味がある方なら絶対に読んでおくべき本なのは間違いない。
というわけで、『僕だけの☆アイドル』はイマイチだったけど、あとは全部オススメ。夏休みでヒマな中高生(そういう世代がここを読んでる可能性は限りなく低いが)は、とりあえず『僕は運動おんち』を読むべし。
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