●『きみの友だち』 重松清 ※映画の感想も絡めて書きます。ネタバレあり。
先に映画の方を観た。チラシの写真などから、てっきり二人の少女の友情を綿々と描いた物語と思っていたら、そうではなくオムニバスに近い構成だった。エピソードごとに別々の語り手が登場し、何らかの形で主人公と関わりを持つのだ。急に視力が落ちて戸惑う女子生徒(吉高由里子が好演!)、幼なじみとの差が開いたことに劣等感を持つ男子生徒、先輩風を吹かすことで虚しい自己満足を得ている男子生徒(柄本時生がハマリ役!)。この3人のエピソードが、どれも他人事とは思えない。特に男子を主役にした2つの物語は、いじましい気持ちが理解できすぎてスクリーンを正視できないほどだった。どっちも劣等感のカタマリみたいな少年であり、それが10代の頃の僕とあまりにも瓜二つなのだ。って、実は未だにああいう性格なんだけどね。
原作の方でも、この二人の少年のエピソードはしっかりと綴られており、やはり身につまされる。そして、そんな冴えない少年たちを温かい視線で描く作者の優しさに救われたような気分になった。とても温かい気持ちにさせてくれる小説である。
ただ、結末は大団円すぎて、ちょっと面映ゆい。いや、こういう明確かつ明快な終わり方は基本的に好きなんだけど、ここまで完璧に大団円だと「やりすぎじゃない?」と思えてしまうのだ。浜田省吾の『もうひとつの土曜日』だっけ? あれを初めて聴いた時のような気分。でもまあ、そういうベタすぎる表現を臆面もなく使うってことも、ひとつの勇気かもしれない。
ところで、この物語はわざと時制を前後させてエピソードを並べているわけだけど、原作はともかく映画では年代順に語った方が良かったんじゃないだろうか。そんな気がする。
●『死神の精度』 伊坂幸太郎
これまた先に映画を観た。半年ぐらい前だ。で、内容を忘れかけた頃に原作を読んだわけだが、なるほど、世間の評判通り原作の方が遙かに面白い。まあ、「そんな高度な比喩表現を使う語り手が『ブティック』とか『雪男』とかって言葉を知らないのは絶対ヘン」とは思ったけど、作者もそういうツッコミを覚悟の上で書いたのだろうね。
伊坂幸太郎の長編で前に読んだのは『魔王』だったかな? あれは後半の展開が尻すぼみすぎて好きになれなかったけど(と書きつつ、かなり内容を忘れてます)、この『死神の精度』は最後までなかなか楽しめた。ただ、なんとなく物足りなく思えるのは何故だろう。
●『うつうつひでお日記 その後』 吾妻ひでお
うーん、苦し紛れの単行本。マンガでもなくエッセイでもなく、ただ単に日々の雑記とラフなデッサンを載せただけ。まあ、それでも商品として成立するわけだから、大したものではある。吾妻さん、内容は今回みたいな感じでいいから、次回はそれをマンガでお願いします。
●『ナグラる』 ステッグマイヤー名倉
名倉氏がホームページで10年間発表してきたコラムや雑記の集大成。内省を極めたからこその軽妙洒脱な筆致が小気味よい。しょーもないネタでもどこか品位が感じられるのは、知性と教養と洞察力を身に付けているからだろう。
声を出して笑っちゃったのは174ページのエピソード。無意識のジェスチャーには気を付けなきゃね。
で、昨日買ったのが、町山智浩の『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』。アメリカ人は国勢情勢や他国の地理どころか、自分の国の情勢や地理も知らない、という内容みたい。まだ数ページしか読んでないけど、ちょっと引用。
ニュースを知らない人たち、外国に興味のない人たちによって大統領が決定され、その大統領が無茶な戦争を起こし、デタラメな政策で経済メルトダウンを起こして日本や世界を巻き込んでいるわけで、この不条理には、もはや笑うしかない。 (p.14より)
ああ、怖い世の中だ。ホントに大恐慌が来るのだろうか。
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