「メジャーの打法」~ブログ編

野球、ゴルフを中心とするスポーツ動作論
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センサー・バット(ⅩⅢ)

2006年02月11日 | センサー・バット

 前回、選手Oのスイングが「袈裟切り」に似ていると書きました。

 日本刀は両手で保持しますし、重量もバットとほぼ同じですから、剣術とバッティングは共通部分が多いと思います。
 バッターを昔の剣豪に重ね合わせたりするのも日本人の特権ですが、実際バッティングのヒントを剣術に求めることも可能でしょう。種田選手(ベイスターズ)の独特のスタンスは示現流の構えだと聞いたことがあります。
 
 剣術も閉ループ系ですから、動作をバイオメカニクス的に明らかにするにはセンサー・刀の助けを必要とします。「バイオメカニクス研究」の記事にはセンサー付きのゴルフクラブが紹介されていますが、剣道にも応用可能だと書かれています。


 かつてNHKで甲野氏の講座が開かれた頃に、HPの掲示板で話題になったのですが・・・。

 私が「鹿島神流の国井善弥師範の三方斬りと甲野氏の三方斬りでは動作が違う」と述べたところ、甲野氏に近しい方から「どちらも同じである」という指摘をいただいたことがあります。結論を得ないままになっていましたので、センサーバットのデータをヒントに私なりの見方を述べておこうと思います。

 NHK講座から動画を再掲しました。

     甲野氏   国井氏

 問題にしたいのは刀を振り下ろす局面ですから、刀の長軸方向(Ysp軸)とそれに直角な方向(Xsp軸)の2次元で考えれば十分でしょう。

 三方斬りは複数の相手を続けざまに斬る動作を言いますが、甲野氏の動作が国井氏に比べて異常に速いのには驚かされます。最初見た時は三方斬りだとは気づかなかったくらいです。

 甲野氏が、選手Sが偶力でバットに回転を与える時のように、Xsp軸方向の互いに逆向きの力を加えて刀に回転を与えているのに対し、国井氏は選手OのようにYsp軸方向に刀を動かしつつ同時に回転を与えているように見えます。

 簡単な棒状のモデルの場合、末端のスピードが同じであれば、回転のエネルギーは並進のエネルギーの3分の1で済むそうですから、切っ先のスピードが同じだとしても、(刀を引き戻す局面も含めて)動作を速くできるのでしょう。

 しかし、甲野氏の三方斬りはいかにも速すぎます。前方の相手を2度切ることになりはしないかと思える程です。初めの一太刀はフェイントでしょうか?

 また、刀や包丁は「押して切る」のではなく、「引いて切る」ものだと言われます。
 この場合「押して切る」とはYsp方向に刀(包丁)を動かさずにXsp軸方向の力を対象に加える、「引いて切る」というのはYsp軸方向に刀を滑らせながら力を加えることを意味します。

 甲野氏の場合、速度はX軸方向でYsp軸方向の成分はほとんどありませんから、「押して切る」ことになるのではないでしょうか?木刀で叩く場合はその方が良いとは思いますが・・・。

 その点、国井氏の三方斬りはスピードこそ落ちますが、ひとりひとりをしっかり斬っているように思います。

 甲野氏のことを凄いとばかり言っているのも能がありませんから、剣術には全くの素人ですが、素朴な疑問を呈してみました。


 センサー・バットの項はこれで終わりにします。今後さらに多くのデータ、特に来日外国人選手やゴルフの杉原輝雄氏のものなどが得られることを大いに期待しているところです。

 物理学に関する私の知識はお粗末なものですから、興味をお持ちの方は2つの記事をご自身でお読みになってください。