「メジャーの打法」~ブログ編

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センサー・バット(Ⅰ)

2005年12月23日 | センサー・バット
 小池関也氏(筑波大学)の開発した「センサー・バット」という装置があります。
 これを使うと、スイングの際にバットに加えられる力とモーメントを、左右それぞれの手について測定、算出することができます。

 詳しくは小池氏御本人の書かれた2つの記事をお読みください。
両手打撃動作を解き明かすセンサー打具の開発
  (JJBSE 8(3)2004)

バットスイングは両腕の共同作業 左右各手の動きを知る
  (パリティ Vol.1 No.08 2004-08)
  


 パリティの冒頭部分を紹介しますと、

・・・。両手による打撃動作では,右手‐バット‐左手によって機構的な閉ループ系が構成される。このとき各手の力・モーメントの出力自由度は,力が3,モーメントが3の計6であり,両手では12になるのに対して,バット操作に必要な外力・外モーメントの自由度は6であり,力・モーメントに関する冗長系となる。すなわちバットの運動は各手の作用力・作用モーメントの合成の結果である外力・外モーメントにより生じるものであるため,たとえバットの動きが同じであっても,その運動を生じさせる作用力・作用モーメントの発揮パターンは無限通り存在し,バットの動きだけから打者がバットにどのような働きかけをしているかはわからない。


 バットの動きが同じでも、それをもたらす力・モーメント(HPで『トルクを掛ける』と言う時の両手を使ったものとは違います)の加え方に任意性があるということです。打撃フォームやバットの動きが与えられた場合でも、動作解析によって各関節及びバットに働く力やモーメントを決定できないことを意味します。
 バットを長軸方向に引く時に、右手で引こうが、左手で引こうがバットの動きに対する効果が同じなのは明らかでしょう。打撃動作を考える上で肝心のことがキネマティック・データや地面反力だけからは解らないのです。

 「閉ループ系」の問題が動作解析を困難にしているというわけですが、裏を返せば「見た目が同じでも動作原理が全く異なる」ということもあり得るわけです。
 
 テニスのストロークについては、フォアとバックでは動作が著しく異なりますが、それに比べて野球の打撃フォームは打者に拠らずほぼ似通っています。しかし、力の使い方に関してはテニスのストローク以上の多様性も原理的には可能だと言うことです。
 

 ・・・ですから、打撃動作を正しく理解するためには、左右それぞれの手からバットに加えられる力・モーメントを考える必要があります。

 私のやってきたことは、「ある打者に対して、まずバットに加えられる力(モーメントは考えていない)を定性的に仮定した上で、体の他の部分の動作を色々試みることでフォームを似せることができるか」なのですが、それ程的外れではなかったと言えるかもしれません。

 しかしそのようなことでは曖昧さは否めないでしょう。科学的には左右それぞれの手についてバットに作用する力・モーメントを実測することが必要になります。そこで考え出されたのが「センサー・バット」なのです。

 私のように、加える力には多様性があると考え、それを基に打法を分類している者にとっては、データそのものに大いに興味があります。
 さらにパリティーの記事の最後には、以下のように書かれています。

今回紹介したセンサーバットによって,閉ループ系特有の力・モーメントに関する冗長系の問題が解決されたことにより,上肢各関節のトルクやパワーといった力学的な量を用いてスウイング動作を分析することが可能となった。今後はこれらの分析範囲を全身にまで拡張し,スウィング技術の決定因子を抽出することによってスウィング動作のメカニズムを解明し,現場での技術指導に役立てることや,選手に適したバットを選択する指標を提案することなどが課題である。


 センサー・バットによって得られたデータとキネマティック・データなどを併用すれば、動作解析の手法によって力やモーメントが確定しますから、それを基に打撃動作を論じることができるというわけです。投球についてのFeltner論文のような知見が打撃について得られれば、素晴らしいことでしょう。

 私がこれまで色々悩んできたことも科学的に明らかにされるということで、大いに期待しているところです。もちろん否定的に解決される部分もあるとは思いますが・・・。