続けて、データ(<図4>、<図5>)をもとに、選手Sの一見無駄と思える動作について考えます。
インパクト付近のXsp軸方向の偶力
選手SはバットをYsp軸方向に引いた後に、Xsp軸方向の偶力を掛けます。このときバットは大きな角速度を得てヘッドが走ることになります。
ところがその直後、インパクト付近で逆向きの偶力を掛けているのです。左手のZsp軸まわりの作用モーメントも同じようにバットの角速度の減少に働いています。
これは理由の2.つまり
ボールとの接触時間がわずか1ミリ秒という短い現象ではあるが、インパクト時に作用する大きな衝撃力に負けないように、相殺する力によって閉ループ全体の剛性を上げることによりインパクト部のバットの換算質量(見かけの質量)を大きくできる
ということでしょう。
球が芯に当たれば問題はないのですが、それより手前に当たれば詰まり、先に当たれば逆向きの力を手に受けることになります。打者は両手でバットをしっかり握ってそのどちらにも対応できるようにしているのです。
その結果、上に述べたような無駄な力がバットに働くわけですが、角速度が増したバットにブレーキを掛けずにやるのは至難の技でしょう。
「リニアック打法」と呼ばれる打ち方があります。フォロー・スルーで右手を離す打ち方で、Aーロッドを始め多くのメジャー・リーガーが採用しています。
もし、球がバットの先に当たった衝撃(グリップ部分で投手方向に働く力)に対応する作業を左手に委ねることができれば、右手の役割りは詰まった場合の捕手方向の力を受け止めれば良いわけですから、バットを強く握る必要はないのです。
そうすることで、ヘッド・スピードを遅らせる無駄な力が減るかもしれません。これがリニアック打法のメリットではないか思いましたがどうでしょうか?
選手Sのデータがリニアック打法の優位性にひとつの根拠を与えるとすれば、単なるセンサー・バット試用のサンプル以上の価値があるでしょう。
実際選手Sにリニアック打法で打ってもらえば面白い結果が得られると思います。