このわかりにくくなった世界とその混沌をトッドはシンプルにまとめて説明しています。
いちばんラジカルで大きな問題を、トッドは「信仰システムの崩壊」だといいます。
歴史的にキリスト教圏のひとつの中心といってもいいフランスの人間としては、大変思い切った重要な指摘になります。フランス現代思想に代表されるイデオローグや文化人の発言であれば、多くがマルクスの洗礼を受けており、こういった発言があるかもしれません。しかし、トッドはそのフランス現代思想の面々でさえ言い出しはしなかった信仰の崩壊を、世界の問題の根源にあるものとして指摘しています。
簡単にいえば社会の包摂性でいちばん大きなものといえる宗教と、それを支える信仰が崩壊しつつあるという、ある意味とてつもなく重要な問題だということになります。
たとえばISの問題が注目され始めたときに、宗教のプロ(宗教家や学者)の方をはじめとしてイスラムが資本主義を超えるとか、イスラムのより細かい党派性からシリア問題を論ずるものなど、多くのコメントがTVのバラエティ番組の矮小版のようにネットでも盛んでしたが、社会経済問題からアプローチしたもの以外に説得力のある指摘や主張はありませんでした。ほとんどが主張している自身の自己満足的な言説でした。それがプロであった場合、愕然とした方も少なくはなかったと思われます。
イスラム(カトリックも)は利子を認めていません。そのために利子ではなくただ貸しているという<貸す⇔借りる>の関係が返済終了まで続きます。非対称的な関係がどこまでも続き、上下関係や支配・被支配でもある貸主と借主の関係が固定されています。これでは社会は発展しません。資本主義では借主は利子を払っている以上は権利上あるいは法的に貸主と対等であり、債務の終了後は現実に対等な無関係な関係になります。
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トッドは信仰システムの崩壊のほかに、高齢化、女性の活躍を指摘しています。
この当たり前の問題、自然に必然に生起する問題への対応ができないエリート層を批判しているのです。
強引にまとめれば、経済力の低下による出生率の低下が根源的な問題としてあり、そのために必然的にすすむ高齢化という問題と、それらの問題のリカバーという意味も含めて女性の活躍があり、それらをどれもこれも理解しない、対応できないエリート層がいる…ということになります。別のいい方をすると人口動態の問題として把握できるものです。
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さらには信仰が支えていた経済的な問題などに対する耐性や柔軟性が崩壊しつつあるという事実が、これらに拍車をかけます。また格差の原因である経済的な問題(発展)は、同時に顕著な脱宗教を促すものでもあり、そのスピードが宗派によって異なることが紛争の原因にもなっています。マルクスが<ユダヤ人問題>としてとらえていた問題が世界レベルで顕在化しつつあるようなものです。
それはある象徴的なものが国家と社会という二重構造のなかでどう扱われているのかという問題です。マルクス経済学では下部構造(経済的連環)が上部構造(文化的連環)を規定するというアバウトで根源的な説明がされますが、上部構造の連環は二重性であることを基本とした構造から複雑に生成されます。この二重性のなかに、ある象徴的なものを置いたときにどのように扱われていくか?というアプローチがマルクのオリジナルであり、すぐれた方法となっています。ブルデューやトッドが人類学的なアプローチでさまざまなものをサンプリングし参照しつつ得てきた認識を、マルクスは確立した方法でアプローチし短時間で把握するということを可能にしています。
世界に2名しかいなかった古ゲルマン語を読める歴史学者の一人である阿部謹也氏も、事象を詰ていく自分のアプローチで得た結論と同じものにマルクスの方法論だと簡単に到達してしまうことを講義で話していました。
トッドは、たとえばシリアで女性の地位が高い場所と政府の支配地域が一致するというシンプルな指摘をしています。
マークする指標とするものを間違えていなければ、どんな複雑な社会も意外なほど簡単にそして確実に把握できるワケです。それこそがすべての社会科学に求められているものでしょう。
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