ハービー・ハンコックが「間違った」コードを弾いたときのマイルスの瞬時の反応について、ハンコック自身が第三章で語っているが、どうやらマイルスは過去の教訓からよく学んでいたようだ。間違ったノートやコードなどなく、あるのは間違った選択だけだ。ミュージシャンがマイルスの言葉としてよく口にする次の台詞にも、この見方が例示されている。「自分が意図していないノートを演奏してしまったとき、それが間違いに聴こえるか、直感的な着想に従った演奏に聴こえるかは、その後に演奏するノートによって決まる」。
(略)
《ライト・オフ》でのトーンのぶつかり合いの最中におけるマイルスの劇的な参入により、形式構造や主題(テーマ)あるいはリフの欠如を埋めて余りある、勢いと方向性を持った魅力的な音楽た生まれた。そして《ビッチェズ・ブリュー》のときと同じように、マイルスが主役となり、息をのむような力強いトランペットを吹いた。