音と美と文と武と食の愉しみ

自己参照用。今まで紙に書いていたものをデジタル化。
13歳でふれたアートが一生を支配するようです。

20240421 Miles Davis / Right Off(3)

2024-04-21 15:41:59 | 日記

ハービー・ハンコックが「間違った」コードを弾いたときのマイルスの瞬時の反応について、ハンコック自身が第三章で語っているが、どうやらマイルスは過去の教訓からよく学んでいたようだ。間違ったノートやコードなどなく、あるのは間違った選択だけだ。ミュージシャンがマイルスの言葉としてよく口にする次の台詞にも、この見方が例示されている。「自分が意図していないノートを演奏してしまったとき、それが間違いに聴こえるか、直感的な着想に従った演奏に聴こえるかは、その後に演奏するノートによって決まる」。

 

(略)

 

《ライト・オフ》でのトーンのぶつかり合いの最中におけるマイルスの劇的な参入により、形式構造や主題(テーマ)あるいはリフの欠如を埋めて余りある、勢いと方向性を持った魅力的な音楽た生まれた。そして《ビッチェズ・ブリュー》のときと同じように、マイルスが主役となり、息をのむような力強いトランペットを吹いた。

 

 

 


20240421 Miles Davis / Right Off(2)

2024-04-21 15:34:47 | 日記

ライターのスチュアート・ニコルソンは、《ライト・オフ》でのマイルスの参入は、ジャズ・ロックにおける最高の瞬間のひとつであると的確にコメントしている。これはまた、一九四〇年代にマイルスがチャーリー・パーカーから学んだ、「間違いなどない」という格言の最も印象的な例のひとつでもある。ほとんどのミュージシャンは、ヘンダーソンとマクラフリンがEとBフラットという二つの相容れないキーでぶつかり合う部分をおそまつな誤りとみなし、バンドを止めるなり、編集時にプロデューサーにこの部分を削除するよう指示するなりしただろう。このような状況で演奏に参入しようなどと考える、そんな勇気のあるミュージシャンはほとんどいない。しかも、それを全くの成功へと導ける者など他にいるだろうか。


20240421 Miles Davis / Right Off(1)

2024-04-21 15:24:29 | 日記

出典:ポール・ティンゲン「エレクトリック・マイルス」pp.161-163

 

この曲は、マクラフリン、ヘンダーソン、コブハムの三人が「Eのキーのブギ」に乗ってグルーヴするところからはじまる。ここでマクラフリンはソロ・ギターに近い、的確な伴奏を弾いている。マクラフリンは一分三十八秒にボリュームを下げ、二分十一秒にはマイルスの参入を劇的に迎え入れるべく、Bフラットに転調する。しかし、ヘンダーソンはマクラフリンの転調に気づかず、Eのキーの演奏を続けた。このトーンのぶつかり合いの最中、マイルスが二分十九秒に入ってくる。彼の演奏は、Dフラット(Cシャープ)、Bフラットのマイナー・サード、Eのメジャー・シックスではじまる。このノートはどちらのキーにも有効であり、絶妙な選択と言える。続いてマイルスは、バンドを引っ張ると同時に、ヘンダーソンにBフラット調への転調を促すかのように、十二のBフラットのスタッカート・ノートをビートの上にフレージングして演奏した。この意図を察したヘンダーソンは、二分三十三秒にBフラットへと転調する。そこからマイルスは、高音域へと達する速い走句(ラン)と音量のある中身の詰まった力強いトーンで、彼の活動歴の中でも最も印象的なソロ演奏を披露する。