――跳んだ。
一瞬で覚醒、猫のように身体を丸め、ひねり、四つん這いに着地する。
「……あいつ、返ったら死なす!」
こぼれた言葉は物騒なものだった。
ほかでもない、山崎のことだ。人のことを嗅ぎまわった挙句、どこからかリヴァのことまで……
「私は、リヴァのことを何も知らない――」
その事実が聖花の胸に重くのしかかった。
陰鬱な気分に苛まれようとしたその時、
「聖花? 開けていい?」
ノックと共に幼さを残す声音。「リヴァ!」
わたわたと立ち上がり、乱れたスカートの裾を払う。「はい、いいよ」
小さくドアが開くと、恐る恐る少年が顔を覗かせた。
「なんか、すごく怖い言葉が聞こえたんだけど」
「なっ、なんでもないのよ。うん、こっちのことだから」
あはは、と愛想笑いを浮かべながら、聖花はリヴァを招き入れた。
「リヴァ、その、傷は?」
「もう、平気だよ。聖花は心配性だね」
リヴァの言葉に嘘はなさそうだ。機敏な動き、顔色も悪くない。
その様子に、なぜか聖花は面白くない。
「……信じられない」
と、リヴァの服を掴む。
「わっ! ちょっと、聖花?」
抵抗するリヴァを抑え込み、そのまま服を無理やり剥いだ。
そして、聖花は息を呑んだ。
背中に走る、大きな裂傷――傷自体は塞がっているものの、その痕は消えることはないだろう。
「もう、いい? 聖花」
叱るでもなく、やさしいリヴァの声。それがかえって聖花を責めたてる。
服を着直したリヴァは、そっと聖花の頬に触れた。「心配してくれたんだよね。ありがとう」
「……私は、そんな言葉を聴きたいんじゃない」
「自分を責めないで、聖花」
そっと頭を抱きしめられた。
服越しに聞こえるリヴァの鼓動――聖花は涙に気づかれないよう、胸に顔をこすり付けた。
「ああ、そうだ!」
ややあって、リヴァが思い出したように言った。
「聖花、今すぐこれに着替えて」
あらかじめ準備していたのだろう、丁寧に折りたたまれた服を聖花に渡す。
「今日はちょっとね、厄介なことになりそうなんだ」
困惑した様子でリヴァ。聖花に服を押し付けると、そそくさと部屋を出て行ってしまった。
「あ、ちょっ、リヴァ!」
パタン。まるで拒絶するように閉じられたドア。先ほどと打って変わって、聖花はムッとした表情で、ドアの向こうにいるであろうリヴァを睨むのだった。
一瞬で覚醒、猫のように身体を丸め、ひねり、四つん這いに着地する。
「……あいつ、返ったら死なす!」
こぼれた言葉は物騒なものだった。
ほかでもない、山崎のことだ。人のことを嗅ぎまわった挙句、どこからかリヴァのことまで……
「私は、リヴァのことを何も知らない――」
その事実が聖花の胸に重くのしかかった。
陰鬱な気分に苛まれようとしたその時、
「聖花? 開けていい?」
ノックと共に幼さを残す声音。「リヴァ!」
わたわたと立ち上がり、乱れたスカートの裾を払う。「はい、いいよ」
小さくドアが開くと、恐る恐る少年が顔を覗かせた。
「なんか、すごく怖い言葉が聞こえたんだけど」
「なっ、なんでもないのよ。うん、こっちのことだから」
あはは、と愛想笑いを浮かべながら、聖花はリヴァを招き入れた。
「リヴァ、その、傷は?」
「もう、平気だよ。聖花は心配性だね」
リヴァの言葉に嘘はなさそうだ。機敏な動き、顔色も悪くない。
その様子に、なぜか聖花は面白くない。
「……信じられない」
と、リヴァの服を掴む。
「わっ! ちょっと、聖花?」
抵抗するリヴァを抑え込み、そのまま服を無理やり剥いだ。
そして、聖花は息を呑んだ。
背中に走る、大きな裂傷――傷自体は塞がっているものの、その痕は消えることはないだろう。
「もう、いい? 聖花」
叱るでもなく、やさしいリヴァの声。それがかえって聖花を責めたてる。
服を着直したリヴァは、そっと聖花の頬に触れた。「心配してくれたんだよね。ありがとう」
「……私は、そんな言葉を聴きたいんじゃない」
「自分を責めないで、聖花」
そっと頭を抱きしめられた。
服越しに聞こえるリヴァの鼓動――聖花は涙に気づかれないよう、胸に顔をこすり付けた。
「ああ、そうだ!」
ややあって、リヴァが思い出したように言った。
「聖花、今すぐこれに着替えて」
あらかじめ準備していたのだろう、丁寧に折りたたまれた服を聖花に渡す。
「今日はちょっとね、厄介なことになりそうなんだ」
困惑した様子でリヴァ。聖花に服を押し付けると、そそくさと部屋を出て行ってしまった。
「あ、ちょっ、リヴァ!」
パタン。まるで拒絶するように閉じられたドア。先ほどと打って変わって、聖花はムッとした表情で、ドアの向こうにいるであろうリヴァを睨むのだった。