「瞬、キサマッ」
公衆の面前での暴挙に、一輝は瞬を睨み据えた。
「あなたのような人に、キサマ呼ばわりされる覚えはありませんね」
まさか、校内で氷河に襲い掛かるとは思わなかった。しかも、生徒に目撃されているのにも気付かぬほど呆けたのかと、瞬は肚を立てていた。
「まさか瞬、氷河が大人しく苛められるわけないじゃん」
星矢が瞬を宥めにかかった。
氷河とて聖闘士だ、一方的に虐げられているわけがない。
相手が一輝では尚更だ。
「星矢は黙っていて」
瞬は星矢を眸で威圧した、あまりの剣幕に星矢は紫龍に視線で救いを求めた。
兄と氷河の関係は瞬しか知らない、紫龍も薄々、気付きつつあるが、あまり突き詰めては考えない。
学園設立に当たって、校舎や備品を損壊させてはならないと城戸沙織に命じられている。
氷河は新築校舎を盾に質に取られ屈したのかも知れない。目的のためなら手段を選ばないのが兄・一輝だ。
「兄さん…どういうことか、説明してもらいましょうか」
瞬が鎖を締め上げる。
兄さん、と聞いて朝倉の顔から血の気が失せた。
「瞬、一輝は…」
「なに? 氷河」
言葉を遮られ、氷河は黙った。
瞬は明らかに勘違いをしている、だが…なにをどう説明しても鎖が飛んできそうな気がする。
瞬が一輝を締め上げているのはサークルチェーンだから、次に飛んでくるのはスクエアチェーンだ。そんなものは受けたくはないから、氷河は黙った。
「おい、キサマッ」
一輝と呼ばれた男に睨み据えられ、朝倉は腕で顔を庇った。
「目撃者を威圧するのは止めてもらいましょうか」
瞬が鎖を引き絞った。
「誰が威圧などするかッ! オレは、見たままを説明しろといっているのだ」
瞬の怒りはただ事ではない、このままでは鎖に電流を流されかねない。
「そんな凄みを利かせた顔じゃあ、怯えて喋れませんよ、さもなくても人相が悪いのに」
「瞬、お前…いつから兄に大口を叩けるようになった」
瞬の物言いに、一輝は肚を立てた。
「さぁ、いつからでしょうね」
兄がデスクイーン島に送られたのは、弱すぎた自分のせいなのだ。その怒りの行為が自分に向いているうちは瞬は兄を、兄として慕っていられた。例え、この命を奪われたとしても、だ。
だが、兄は自分だけでなく異母兄弟の命を狙い、氷河には強引な関係を強いている。
そして、その関係をこの樹海に囲まれた学園でも継続させようとしている。
「とにかくキサマッ、見たままを説明しろ」
このままでは埒が明かない。
強引に鎖を引き千切ることはできる。だが音と質感で、周りの生徒も鎖は本物であることは承知している。その鎖を引き千切ればその身に宿す聖闘士としての力を、周囲に知らしめることになる。
「あ、あの…」
今にも襲い掛からんばかりの形相で睨みつけられ、朝倉が口を開いた。
いきなり鎖が飛び出した時には驚いたが、今では男の躯の自由を奪う鎖に感謝していた。
「その人が腕立て伏せをしていたら、この方が背中に乗って…」
腕立て伏せを強いたのだとの説明に、瞬は目を見張り、次いで鎖を解いた。
そんなものは、聖闘士にとっては訓練にもならない。
「さぁ、それでは他になにかありますか」
瞬は話題を切り替えた。
阿部たちは憮然とした面持ちで椅子にかけた一輝と、何事もなかったように生徒たちを見回す瞬を見比べた。
阿部たちは華奢な弟を兄が庇っているのだと思っていた。
兄の目の届かぬところで大口を叩いた弟をシメてやろうとさえ思っていた。
だが、世の中には自分たちでは測ることのできない強さを秘めた者たちは確かにいた。
瞬は以前、素手で鉄筋の体育館を破壊し、雑木林を薙ぎ倒した一輝を鎖で絡め取り、その片割れと、自分たちを軽くいなした星矢を一睨みで黙らせる能力を有していた。
この分では他にも人間離れした力を宿す生徒がうようよしているかもしれない。
問題を起こして退学になるのは構わぬが、怪我をして学園を出るようなことにはなりたくない。
卒業までの年月をここで大人しく送るしかないのかと、阿部は心中嘆いていた。
END
なんて、聖闘士たちに学園生活をさせてみたいなーみたいなお話になってしまいました。
あぁ、一輝・氷河じゃあないじゃんッ!
次は一輝・氷河いってみます。
で、それはいつだ?