障がいのある子どもと大人の支援 ~分かり合えると問題解決の道が見えてくる~

このブログは、障害児・者の心を大切にした対人援助技術「心のケア」を学び実践しているメンバーが集まり投稿しています。

泣けなくても、パニック軽減

2022-06-16 16:47:50 | 自閉症児の子育て

 ハンガウトです。『泣ければらくちん』で、幼い子どもなら、泣いて気持ちがラクになりパニックも起こさなくなるけれど、年長になると泣けないと書きました。じゃあ、年長になったらどうするのよ、ということになりますね。そこで、少々長くなりますが、パニックへの対応について、おつき合いください。

 

 大丈夫、パニックを起こす構造は同じ、本人なりに様々な思いが伝わらずガマンを重ねた結果、どうしようもなく爆発するので、そのとき体で表現している気持ちを受け止めれば、たとえ泣けなくても、自分の感情表出をコントロールできるようになります。これまでおつき合いのあった親子が、どんな工夫をしてきたのか、いくつかご紹介しますね。

                

                    どうすればいいの?


〇 Bくん、特別支援学校高等部の1年生。
 体格がよいので、攻撃するつもりはなくても、パニックのときたまたまぶつかっただけで、おばあちゃんは吹っ飛んでしまいます。何につけても「自分はダメなヤツ」ということをつきつけられ、パニックが頻発しているのだと解ったお母さんが、考え出したのは布団むし。
 タオルケットで試したけれど、1回でビリビリに。そこで、もめん綿の布団にして、くるんだ上から抱きとめるのだとか。おそらく現実には、抱くというより、馬乗り状態でしょうが…。
 最初は、既に暴れている大柄な子をくるむこと自体で悪戦苦闘、でも2回目からは自分で布団を出してきて、お母さんがくるむまでの間、手加減して暴れてくれていたそうです。このように手加減してくれることって、意外に多いんですよ。私も何度も経験しましたが、本人がそれだけ、行動統制できているってことかな。パニックは2,3ヶ月で無くなりましたが、布団は3枚廃棄処分、だそうです。


〇 Cちゃん、支援学級小学5年生の女子。
 少しだけ単語で会話可能な、ふだんは指示に従いやすい子なのですが、パニックになると、誰かれ構わず噛みつきます。お母さんだけでなく、学校の先生や友だちも被害甚大。そのときの気持ちまではいちいち解りませんが、噛みつく度に「また、やっちゃった」と自己否定感を募らせていることだけは、お母さんも納得。そこで何とか行動統制させようと、家では、厚手のタオルを常にお母さんが持ち歩き、本人が噛みつこうとしたときに、素早くそのタオルを口にあてがう、という方策で乗り切りました。そのうち、本人にタオルを持たせるようにして、噛みつきたくなったらタオルを噛むことを憶えてもらいました。徐々に、パニックは起こさなくなりました。


〇 Dくん、支援学級中学2年生。                 
 お母さんが「パニックになるくらい、気持ちを出してくれれば…」と言うほど、まったく意思表示せず何もかも受け身の自閉症。質問すれば一応ボソリと応えますが、本音なのかは怪しい、自分から何かを要求することはありません。中学生になってようやく、自分の思いと違うときに、お母さんに向かって唸るようになりました。あるとき、たまたま学校の脇を通りがかったおばあちゃんが見かけた光景。
 授業中なのに急に校庭に飛び出してきたDくんが、1本の大きな桜の木に向かって、大声で「わぁーっ!」と叫んでいたそうです。何度か叫び声をあげると、迎えに来た先生と一緒におとなしく教室に戻って行ったとのこと。「ウチの子が、ちゃんと感情表現したなんて、しかも誰にも迷惑かけずに…」と、お母さんは大喜び。
 パニックではありませんが、年齢に相応しい感情表出の仕方を身につけるのは、表現が乏しい子にも共通して大事ですね。

 ついでに余談、若い頃にアイディア商品の店でみつけた、ストレス解消グッズ。ひとつは<叫びの壺>とかいう名称で、壺の口に向かってモヤモヤを吐き出す、もう一つはシリコンでできたグッズで、ムギュウっとひねり潰すと、いくらでも変形するという代物。私たちおとなにも、必要ってこと。

 

〇 Eくん、特別支援学校の小学部4年生。
 単語を言うこともありますが、会話は成立しません。パニックになると、転げ回って壁やドアを蹴りまくります。そこで考えた方策が、ダンボール蹴り。家ではいつもダンボールをたくさん用意しておき、パニックになったら即座にダンンボールを周りに置いて、上半身だけ抱きとめます。なので、足は自由に蹴ることができます。くり返すうちに、Bくんの布団むし同様、本人がこうすればよいと解ったので、ダンボールが置かれるまで待つ、やがては爆発する前に自分でダンボールを蹴りに行く、という行動ができるようになりました。
 ちなみに、ふだんからサンドバッグのような物が使えるなら、体で気持ちをぶつけるようにするのも、多くの子ども(成人でも)に有効です。

 


〇 Fくん、特別支援学校の小学2年生。
 話し言葉はありません。まだ体格は小さいはずなのですが、暴れ方がすさまじくて、大人1人では抱きかかえられません。そこで思いついたのが、和装用に帯の下につけるベルト。マジックテープによる脱着式なので、幅広ですが素早くつけられます。それを子どもの大腿部に巻くと、膝から下は自由にもがけますが、両脚を開くことができないので、お母さん1人でもなんとか暴れる我が子を抱きかかえられます。物や道具を使うと、なんだか虐待するみたいで、あまり声を大に言えないのですが、きっとFくん自身もそのおかげで思い切り気持ちを出せるのでしょう、自分でそのベルトを持ってきて、スタンバイするようになりました。

 


 いかがでしょうか? 自閉症は、なかなか行動修正が難しいと思われていますが、本人が納得すれば、練習を重ねて、新しい行動を身につけられます。ところが多くの場合、おとなは、納得させようと理屈で言いきかせます。けれど正当な理屈をいくら並べられても、感情はそれが許せないということ、私たちにだってあるでしょ!? 理屈ではなく、気持ちの納得が必要なのです。行動だけをとりあげて、ひたすら練習させても、気持ちが納得していなければ、なかなか行動は変わりません。
 身近な人が、「そんなにイヤなことがあったんだね」と認めてやると、まず本人の感情が納得します。そして、これまで本人が意識していなかったことでも、「ああ、そういうことだったんだ」と頭の整理もできます。そうすると、自分なりに気持ちの折り合いがつけられ、「じゃあ、別のやり方でもいいか」と、練習する気になるのだ思います。要するに、いかに「練習してみよう」という気になってもらうか、です。

 どの例を見ても、それぞれの家庭によって工夫されているのが解ります。お母さんが、我が子の気持ちを受け止めて、それだけ真剣に工夫してくれているのですから、その期待に応えたくなるのは、子どもとして当然。だって、そもそも両方が相手を大事にしたいと思っている者同士、お互い大好きな親子なのですから。


大好きを伝えるのって、難しいよね

2022-06-12 22:41:00 | 成人の障害者支援

Yさんは知的障害を持つ青年。

スラっと細身で背が高く、足も長いので、イライラしたことがあると足が出て、ごみ箱や机を蹴飛ばしたり、コップやいすを投げ飛ばしてします。

言葉は話せないのですが、「あ~」という発声はできます。

背が高いのですが、飛ぶようににぴょんぴょん動き、足が長いこともあって、とても素早く行動します。

 

Yさんは、他の利用者さんが騒ぎ出すと、とても気持ちが落ち着かなくなり問題行動を起こしてしまいます。

 

ある日、2階の作業室で活動中、女性利用者のRちゃんが大きな声を出していた後、Yさんはイライラしている様子で、机をけり破損してしまいました。

その場は治まったのですが、午後の活動(ねじ作業)中1階に下りてきて、1階のマジックをばらばらにし、シールをはがすなど気持ちの切り替えが難しそうだったために、3階の廊下に誘導し、心のケアのお話が始まりました。

 

心のケアのお話の時間は、Yさんに横になってもらい、Yさんが気になりそうなこと、心が落ち着かなくなる原因と思う話を語りかけて行きます。その話の中で、Yさんの心を動かした言葉や話の時、体に緊張が走ったり、手や足を動かせしたり、声を出したりというようにして、体を使って、気持ちの動きを表現されます。

 

「いらいらしていたね、何か困ったことあった? 最近本当に頑張ってくれているね。お母さん、お父さん、Rちゃんがなおさないのを注意した」などの語りかけには、表情がよく、特に体の緊張は見られませんでした。

「止められた、だめ」

「机が壊れた」

「こんなことしたいんじゃないんだ」

「本当はもっとお兄さんになりたいんだ」

などの語りかけには、表情は笑っていたり、「あ~あ~」などの声が出ているが、体の緊張がみられ、反応を示したので、反応をしたところでしばらく体を使ったお話を進めていきました。辛い気持ちを慰め、楽しそうな表情の時は一緒に喜ぶなど、気持ちの交流を進めて行きます。

 

すると、力が抜けてきて、とても柔らかい表情になっているので筆談援助をしてみました。

筆談援助というのは、座って一緒に鉛筆をもつYさんの手を握って、Yさんに寄り添いながら2人で一緒に紙に文字を書くことで、自己表現を支援する方法です。

その中で、

「Sさん(職員)が大好き、Sさんを困らせている人がいたら、助けてあげたい」

という内容の話を書いてくれました。

 

どうもYさんは、Sさん(職員)が困っている時に助けてあげたいと望んでいたのに、その結果机を蹴ってしまったり、物を投げたりしてしまっていたようです。

本当は「助けたい」と思っている。

ですが実際は思ったように体が動かず、思いと違う行動をとってしまう…

それはさぞ困るだろうな、と感じました。

そこで、

「体が勝手に動いてしまうときは、しっかり止めていくね」と約束してお話を終わりました。

お話を終わった後のYさんは、満面の笑みを浮かべて、「あ~」っと嬉しそうな声を出していました。


一呼吸おいてみる

2022-06-10 08:44:53 | 日記

こんにちは

まきこっこです。

 

前置きすると長くなっちゃうので、できるだけ簡潔にいこうと思います。

若い女性の利用者さんで、彼女は好きな職員といることを好みます。これまでの人生、うまくいかないことだらけで、相当気持ちがやさぐれており、「どうせ私は何をやっても悪い子なのよ!」と言わんばかりに、気持ちがあふれると、他害したり、物を投げたり壊したり。建物が揺れるかと思うほどの大声で叫んだり。なにせ周りに与える影響が大きいので常に個別対応の職員がついており、それでも好きな職員を探して施設内を歩き回り、見つけると執着して大きな行動に出ることが多いので、職員交代しつつ、複数の職員で見守りつつ、の支援を行ってきました。

 

私は、というと、彼女のまあまあ好きな職員に位置しているようです。放課後等デイサービスの頃一緒に過ごしたこともあり、気を許せる相手ではあるけれど、大好きな職員に会いたい気持ちのが大きいという感じでしょうか。

彼女は午前中に好きな職員を執拗に探して回ることが多く、好きな職員となら自室で過ごすことができますが、他の職員だとそうはいきません。午後は比較的落ち着き、どの職員とも穏やかに過ごせる時間も増えてきています。私は午後の対応は問題なくできますが、午前中となると、自室で落ち着いてもらうことができす、施設内を他利用者や職員を緊張させながら、一緒について歩き回り、好きな職員に遭遇してしまうと、短い時間一緒にいてもらうか、交代するか、その都度彼女の反応を見ながら決めて対応する感じです。もちろん、彼女が歩き回ってる間、彼女の意図を組み、気持ちを察しながら声をかけ、周りの人にも理解してもらえるように努力はしていますが、私の中に「自室で落ち着いて過ごさせてあげられない。私ではだめなんだ」という劣等感ともいえる気持ちが存在していました。

ああ~やっぱり前置き長くなってしまいますね(ノД`)・゜・。

 

その、彼女の午前中の対応に入った時のことです。

案の定、すぐホールへ出て歩き回り、好きな職員に遭遇して、その職員さんに誘導してもらって自室に戻りました。その職員としばし一緒に過ごした後、その職員さんは「他のお仕事があるから、行ってくるね。終わったら来るからここで待っていてね」と言って去っていきました。いつも納得して手を放すことができても、三分ともたずに再び探しに自室を出て行ってしまいます。その日も課題を勧めるとほんの少しやり、その後タブレットの鑑賞を始めましたが、すぐに立ち上がり、好きな職員を探しにホールへ出ました。再び好きな職員さんに誘導され自室へ戻りタブレット鑑賞をはじめ、同じように説得され、その職員さんは持ち場へ戻っていかれました。

私は横に座りながら「どうせすぐ行ってしまうんだろうな」と思いながら、ふと、自分が苦手意識を持って接していることに気が付きました。午前中は私には対応できない、そう自分で決めてかかっているのだな、と。もしかしたら、自分とでも落ち着いて課題をしてくれることもあるかも知れない。そう思い直して一呼吸置き、課題のシール張りを手に取り、彼女が好きそうなシールを選んでは箱に入れる、という選別作業を始めました。その間彼女は振り向きもせずタブレットを見ていました。5分ほどたったころ、彼女がふいに私が持っているシールを手に取り眺めると台紙に貼りました。私は嬉しくなりましたが、特に声掛けはせず、次のシールを手に取ると、それも持っていき台紙に貼りました。その後、箱に入っているシールを順番に台紙に貼っていき、そのまま作業終了時間まで続けることができました。

約束通り、好きな職員さんが作業終了後に現れても、飛びつくこともなく穏やかに迎え入れ、彼女の横のポジションを交代すると、笑顔で私に手を振り、頭を突き出してきました。頭をなでて褒めて欲しい時の彼女のサインです。「作業ちゃんとできて偉かったね。私もうれしかったよ。」と伝えその場を去りました。

 

午前中の対応に入る時、いつも私はうまくいかないことばかり予想して、そわそわしていたのかも知れません。彼女が落ち着いていられそうかどうか、感じることもせず、自分も自分が落ち着いてないことに気が付きもせず。

一呼吸おいて、焦らずにいこうと思ったことで、彼女との間にゆったりした時間が流れているのを感じられました。本当に幸せな気持ちになりました。

今後も結果ばかりを追い求めず、一緒にいる時間を大切にしようと思いました。


繰り返しも好きだけど、いつも同じではないってこと

2022-06-06 09:01:33 | 日記

こんにちは。まきこっこです。

 

先日、自閉傾向の強い、若い女性で、体も大きく、数々の伝説を残されている方の朝の受け入れ担当になったときのことです。

 

彼女とは「いい時にいい関係」をモットーに、穏やかな時に、あえて一緒に時間を過ごし関係を作ってきました。

あえて、というのは、常に個別担当をつける必要のある方ですが、一人で穏やかにしている時には特に刺激せず、距離を取って見守る、というのがうちの施設では何となく受け継がれているからです。穏やかな彼女の近くにいると、他の職員さんから、何度も「今の時間は離れて他の仕事しても大丈夫よ。」と言われるわけですが、みんなでこうしましょう、と決まっているわけではないので、「仲良くなりたいので一緒にいます。」と宣言して、一緒に歌ったり体を揺らしたり、小さなやり取りを重ねて関係作りをしてきました。

その成果もあって、彼女のこだわりが分かってきました。例えば、赴任当初、彼女は目を合わせると目を狙って突いてくるから合わせちゃダメよ、と言われたのですが、実は職員の目やにや、目の付近のできものを気にして触ってくるのだということ。手を伸ばしてきても、目やにが取れるとそれで落ち着くし、取れないものだとわかるとそれ以上は触ってきません。それがわかってから視線をあわせて微笑み合うということができるようになりました。また、職員の腕まくりが気になり、遠くに歩いている職員でもそれが視界に入ると突然猛ダッシュでそちらに向かいそれを直せと腕をつかむということ。それも、彼女の視線を向けた先に腕まくりをしている職員がいたら、「○○さーん。腕まくり直してー」と声をかけ、直してもらうと立ち上がることはありません。最近では腕まくりをしている職員を見つけると、私の腕を取り、「教えてやって」と言わんばかりにそちらを差し示すようになりました。もちろん失敗もあって、彼女の動作を真似していた時、距離が近すぎたのか、それをしてほしくなかったのか、手を振り払う際にひっかかれたこともありますが。

とにかく、他にもいろいろと彼女のこだわりが分かってくると、突然の動き出しが不穏によるものではないことがわかり、不必要に警戒することがなくなっていきました。

 

ああ、前置きが長くなりました。

そして先日私が気が付いたことです。

 

朝の受け入れ後、最近はタブレットで音楽を聴くのが定番なのですが、タブレットの操作は職員任せです。

最近は特にドラえもんのテーマソングメドレーがお気に入りだと聞いていたので、それの画面を出しそれを渡すと、嬉しそうに聞いていました。2曲目が終わり3曲目に入ると、私の手を取り最初からにするよう要求してきました。最初からにして聞き始めると、やはり3曲目が始まると同じ要求がありました。「3曲目が好きではないのかな。それとも今日はこの2曲を聴きたいのかな」そう思って応じていると、それは何度も繰り返されたので確信となり、3曲目に入ると私の腕を取る、というやり取りが5回以上あったと思います。彼女の横に座りながら他の職員と打ち合わせの会話をしている最中、2曲目が終わったので、私は自然とタブレットに手をやり初めに戻そうとしたのですが、「おや?」と思いました。その手に彼女の手が触れてこないのです。最初に戻さず様子を見ていると、始まった3曲目に聞き入っています。「おや。続きを聴く気になったの?」と聞くと笑顔でこちらに振り向き、機嫌のいい声を出しました。4曲目に入っても私の手を取ることはなく、「すごいねえ。次も聞いちゃうんだ」というと、満面の笑顔で振り向き(どや顔に見えました)さらに機嫌のいい声を出しました。

 

ほんの小さなことですが。

自閉傾向の強い方は、同じことを繰り返されることが多いですよね。そうすると、それが好きなんだから当たり前のようにそれしか要求しないものだと思い込んでしまいがちです。

 

思い込んで最初の2曲ばかり繰り返していたら、この笑顔は見ることができなかったな、とか。

私が気が付かなければ、次の曲を聴いてみようかな、と思っても要求せずにいたんだろうな、とか。

もしかしたら、私と他の職員と会話を聴いていて、その場を離れてもいいように気を使ってくれたのかな、とか。

 

ほんの小さなことですが。

大事なことに気が付けたように感じました。

 


あふれる気持ち

2022-06-05 16:49:57 | 日記

こんばんは

まきこっこです。

 

今日は50代の女性のとのことを書きたいと思います。

彼女は統合失調症と言われていて、厳しい由緒正しいお家で厳しく育てられ、なんでもできる方です。

ただ、日ごろから「正しい」と思われてる方へ、自分をもっていかなくてはいけないという健気な信念から、本当の自分の気持ちをまっすぐ表現できないでいるところがあります。自分の中に男の子と女の子がいて、我慢できなくなって暴れたり暴言を吐いたり他害したりするときは、男の子がやれっていうんだといいます。

そんな彼女は、某男性アイドルがとても好きで、その写真をときめいて眺めている時が一番幸せなようです。彼女の担当支援員が、彼女が日ごろ頑張る支えになれば、と、週末に好きな男性アイドルの写真をラミネート加工して渡していました。彼女もそれを楽しみに一週間頑張ることができ、とてもうまくいっていたのですが、いつからその写真を自分で選ぶようになってきて、そうすると、自分のイメージする写真に出会えないことで不穏になることが度々出始めました。他の支援員からも、その話題を多く話しかけられることが煩わしく感じる時もあるようですし、自分だけ特別扱いされているようだということにも罪悪感というか劣等感というか、そういうものも感じていたようにも感じました。

そんな不穏状態が長く続いた先週末、通院の折に担当医師から、毎週の写真をやめた方がいいという強めの提案を受けました。担当支援員も、彼女の支援を男性アイドルに頼りすぎていたと感じ、今週末の写真の提供をやめてみることにしました。その話を聴いた彼女は、医師からも、親からも、うちの施設のナースからも、そして担当支援員からも説得を受け、その時は納得して応じたようです。

今週、いつもならタブレットで写真を選ぶ時間も、他の作業や活動に切り替え、時々は「やっぱり○○(男性アイドルの写真)に会いたい」と言って泣くこともありましたが、大きく不穏になることなく週末まで過ごしました。

そして最後の日、送迎の前。いつもなら写真を受け取る時間になると、写真がもらえないことに大声で泣きだし、暴れ始めました。職員がかわるがわる制止しながらなだめ、何とか送迎の車に乗車しました。

私はその車の添乗員で、後部座席に彼女ともう一人の男性。真ん中の座席には私を挟んで両側に強度行動障害の車内で暴れる危険性のあ方々が乗車していました。

出発ししばらくすると、彼女は泣き始め「やっぱり会いたい。みんなどうかしてる。わかってない」というと、シートベルトを外し立ち上がり、前の座席に座っていた女性の髪をつかんで引っ張りました。顔には笑みが浮かんでおり、どうやら男の子が出現したようです。その手を放すようにすると、今度は私の髪を両手でつかみました。つかまれたまま、座席を乗り越えて後部座席へ移動し、髪から手を外し、彼女の両手を保持しました。「そうだよね。こんなに大好きなのに、簡単に諦められないよね」「いつも頑張っていっぱいがまんしているのにね。頭ではわかっても、気持ちがついていかないことってあるよ。ちくしょーって怒ってもいいんだよ」私の手を振り払い、隣の男性に手を出そうとしたりする彼女に体で付き合い、そんなことを必死で語りかけました。

「大事な気持ちだから、いっぱい言っていいんだよ。でも、他の人を傷つけてはいけないし、私も痛いのは嫌なの。私のお腹ならいくら押しても大丈夫だから、こうやってちくしょーって、遠慮なく押して。」そう言いながら彼女の正面に立ち、両手を握ったまま、私のお腹に両手を押し付けました。彼女はわかったと言わんばかりに「えいっ、えいっ」と数回押し、その後すぐ力が弱まり、しくしくと泣き始めました。私は横に座り背中に手をあてて、しばらく無言で彼女の気持ちに寄り添いました。彼女がポツリと「頭の中の男の子がやっちゃえって言ったんです。」と言ったので、「そうなんだね。あなたの気持ちを応援しに出てきてくれたんだね。怒るのも大切なことだものね。あなたの中の女の子はいつも、そんなことはダメっていって我慢するんでしょ。本当は怒ったっていいんだよ。ただ、他の人に痛い思いをさせてしまうのはよくないからね。」と、そんなことは百も承知だろうと思いながら話しました。「次は誰も痛い思いをしないような怒り方を一緒に考えましょうね。」そういうと彼女は黙ってうなずきました。

いつもは真ん中の席に座っている女性に髪を掴まれることが多いので、「今日はあなたが痛い思いをさせちゃったね。いつもされてばっかりだから、今日はこれでおあいこかな。」そういうと、彼女も笑い、前の席の女性も笑いました。

真ん中の席の、いつも不穏になると周りの人に手を出す女性も、職員の隙をみてシートベルトを外し、車内の物を外へ投げようとする彼も、私がその場を離れても、彼女の気持ちが収まるまでおとなしく静かにしていて、事の成り行きを見守ってくれるかのようでした。こういう時、本当にみなさんすごいなあと思わずにはいられません。

 

お家に着くと、いつもと変わらない表情ですんなり降りていかれ、お家の方が「園の方からお電話いただいて、話はうかがっています。本当に申し訳ありませんでした。車内は大丈夫でしたか?」と心配そうに尋ねられたので、「車内でも少し泣いて、落ち着かない様子も見られました。でも、ご本人が本当に葛藤して頑張っていらっしゃるので、気持ちが前を向くまで見守って応援してあげて下さい。」と伝えました。

 

どうなっていくのかな。職員間では他の支援も継続しつつ写真を再開した方がいいのではという意見も出されてきています。どっちにしろ、彼女の気持ちを大切に、関わっていくきっかけになりそうです。