障がいのある子どもと大人の支援 ~分かり合えると問題解決の道が見えてくる~

このブログは、障害児・者の心を大切にした対人援助技術「心のケア」を学び実践しているメンバーが集まり投稿しています。

大好きを伝えるのって、難しいよね

2022-06-12 22:41:00 | 成人の障害者支援

Yさんは知的障害を持つ青年。

スラっと細身で背が高く、足も長いので、イライラしたことがあると足が出て、ごみ箱や机を蹴飛ばしたり、コップやいすを投げ飛ばしてします。

言葉は話せないのですが、「あ~」という発声はできます。

背が高いのですが、飛ぶようににぴょんぴょん動き、足が長いこともあって、とても素早く行動します。

 

Yさんは、他の利用者さんが騒ぎ出すと、とても気持ちが落ち着かなくなり問題行動を起こしてしまいます。

 

ある日、2階の作業室で活動中、女性利用者のRちゃんが大きな声を出していた後、Yさんはイライラしている様子で、机をけり破損してしまいました。

その場は治まったのですが、午後の活動(ねじ作業)中1階に下りてきて、1階のマジックをばらばらにし、シールをはがすなど気持ちの切り替えが難しそうだったために、3階の廊下に誘導し、心のケアのお話が始まりました。

 

心のケアのお話の時間は、Yさんに横になってもらい、Yさんが気になりそうなこと、心が落ち着かなくなる原因と思う話を語りかけて行きます。その話の中で、Yさんの心を動かした言葉や話の時、体に緊張が走ったり、手や足を動かせしたり、声を出したりというようにして、体を使って、気持ちの動きを表現されます。

 

「いらいらしていたね、何か困ったことあった? 最近本当に頑張ってくれているね。お母さん、お父さん、Rちゃんがなおさないのを注意した」などの語りかけには、表情がよく、特に体の緊張は見られませんでした。

「止められた、だめ」

「机が壊れた」

「こんなことしたいんじゃないんだ」

「本当はもっとお兄さんになりたいんだ」

などの語りかけには、表情は笑っていたり、「あ~あ~」などの声が出ているが、体の緊張がみられ、反応を示したので、反応をしたところでしばらく体を使ったお話を進めていきました。辛い気持ちを慰め、楽しそうな表情の時は一緒に喜ぶなど、気持ちの交流を進めて行きます。

 

すると、力が抜けてきて、とても柔らかい表情になっているので筆談援助をしてみました。

筆談援助というのは、座って一緒に鉛筆をもつYさんの手を握って、Yさんに寄り添いながら2人で一緒に紙に文字を書くことで、自己表現を支援する方法です。

その中で、

「Sさん(職員)が大好き、Sさんを困らせている人がいたら、助けてあげたい」

という内容の話を書いてくれました。

 

どうもYさんは、Sさん(職員)が困っている時に助けてあげたいと望んでいたのに、その結果机を蹴ってしまったり、物を投げたりしてしまっていたようです。

本当は「助けたい」と思っている。

ですが実際は思ったように体が動かず、思いと違う行動をとってしまう…

それはさぞ困るだろうな、と感じました。

そこで、

「体が勝手に動いてしまうときは、しっかり止めていくね」と約束してお話を終わりました。

お話を終わった後のYさんは、満面の笑みを浮かべて、「あ~」っと嬉しそうな声を出していました。


Ⅾさんのピンクの傘1

2022-05-23 18:11:21 | 成人の障害者支援

以前、成人の障害者施設(生活介護施設)で働いていたはぐはぐです。

今回はその施設での心のケアの実践をご紹介します。

 

Ⅾさんは、32歳の重度知的障害を持つ女性。

自宅でご家族と生活していますが、日中は生活介護施設に通ってこられています。

Ⅾさんは、嫌なことがあると、手に届く範囲のものを投げ、机をひっくり返し、ロッカーを蹴り倒し、止めに入った職員の髪を引っ張り、かみつく行動が見られ、そうなったらとりあえずほかの利用者さんを違う部屋に避難させて、Ⅾさんの嵐が去るまで誰もケガが無いように、よけるしか方法はありませんでした。

職員もどう対応していいかわからず、ほとほと困っていました。

ある日、Ⅾさんの大切なピンクの傘がなくなりました。自宅を探しても、施設を探しても、どこにも見当たりません。Ⅾさんは爆発寸前で、すごい形相で物を投げ「傘~!」と叫んでいます。

そこで、対人援助技術「心のケア」を学びだしたところの私と、いつもⅮさんのお世話をしている支援者のSさんが、Ⅾさんの肩を両側で支え、しっかりと保持しながらお話が始まりました。

 

最初は、かなりの錯乱状態で、抑え込まれるような形になった私たちに対して、噛もうとしたり、腕を振りほどこうとしたりの行動を繰り返してました。そこで、「カサがなくなったんだね。それは悲しいね」という言葉を、やや大げさに繰り返すと、「え!?」という表情で少し力が緩みますが、まだしばらくは逃げよう、噛もうとする動作が続きました。

「カサがなくなってとても悲しい」「大好きな傘がなかったらとっても困る」「心配」「不安」などの言葉をつづけるうちに、本人の口からも「どこに行ったの~ピンクのカサ~」という叫び声が出るようになり、その頃より、噛もうとする動作はなくなってきました。

「返せ~、どこ~」などの言葉に対して、悲しみ、苦しみそれと今までたくさん我慢してきたこと、スタッフはそんなけなげで頑張っているⅮさんが大好きだよと、話を進めていくと体の力がどんどん抜けていきました。

そこで、ピンクの傘をどうするか話し合っていきました。

支援者S「カサはもうないよ」

Ⅾさん「返せ~ピンクのカサ~」

支援者S「新しいのかってもらおうよ」

Ⅾさん「いや~ピンクの傘、絵、絵」

支援者S「絵を描くの?」

Ⅾさん「絵・絵」

支援者S「自分で絵を描いて傘を作るの」

Ⅾさん「はい」

支援者S「どんなカサにしよう?」などの会話を進めていきました。

途中、感情が高ぶってそうな部分に、私が部分的に介入して気持ちの発散を手伝っていきました。

 

しばらくすると、傘の話をしてもⅮさんの力が抜けて、なんだかもう大丈夫と感じたので、「もしかして噛まれるかも…」と感じながら手を放しました。

ですが、Ⅾさんは、とてもすっきりした顔で、支援者Sさんとともに、ワープロに座り(Ⅾさんはワープロで文字を打つのが好きです)、

「かえせ、かさ」

と打って、2人で仲良く「かえせ~かさ~」と、にこにこしながら叫んでいました。

とても暖かい空気に包まれた二人を見て、私も、ほかのみんなも、ほっと胸をなぜおろしました。