障がいのある子どもと大人の支援 ~分かり合えると問題解決の道が見えてくる~

このブログは、障害児・者の心を大切にした対人援助技術「心のケア」を学び実践しているメンバーが集まり投稿しています。

ただ共にいたら、子どもが自分でクリア

2022-05-26 13:38:56 | 発達が気になる子ども


         

保育所で所長をしている仲間の体験。読んでくださる方に伝わりやすいように、少し書き加えて紹介します。

 
4歳児A君。生まれた直後から、養父母に育てられているが、もともと発達が気になる子で情緒不安定。いつも、自分の想いとは真逆な言動をして、周囲を困らせている。                                                        ※ 自分の想いと真逆な言動をする、というのは、たとえば本当は何か言い分があるのに、それが巧く言えず相手に通じていない状態が続くと、「どうせ解ってくれないんだ、もういいー」とやけくそになってしまうので、本当にしたいこととは裏腹な言動をしてしまう、ことを指しています。簡単にいうと拗ねてしまった状態、そういうことって、私たちにも一つや二つ思い当たりますよね。

 

 その日はジャガイモの種植えの日。担任と他児は既にテラスに出ていたが、A君は手足をバタバタさせながら、わけのわからないことを大声で叫び、大暴れ。A君を抱き寄せると、身をそらせながら、「道路に飛び出して、あっちに行っちゃって・・」と叫んでいた。この言葉に、思い当たるような出来事はない。いつも本意とは違うことを言ってしまい、そのたびに大好きなお母さんを困らせてしまっているA君は辛いだろうなぁ、「本当は大好きって言いたいだろうに」と私は思いながらも、研修で学んだことを思い出し、A君の言動をそのまま受け止めてみようと思いついた。
 A君が「道路に飛び出して、あっちに行っちゃって・・」と怒鳴ると、私も同じように「道路に飛び出して、あっちに行っちゃって・・」と怒鳴る。それを何度か繰り返して行くと、今度はA君が「〇〇がいつも意地悪するから、叩くからいやなんだよ」と言いはじめた。私も「〇〇がいつも意地悪するから、叩くからいやなんだよ」と同じように言った。怒鳴っているというより、訴えるような言い方に変わってきた。

私は慰めようとか、何とか落ち着かせようとか考えることなく、ただ、A君に寄り添うように繰り返しているだけだったので、A君にちょっと近づけたような気持ちになった。何度か繰り返していると、いつものA君なら、「真似するな」と怒りそうなのに、どんどん体が緩んでいく。  ※ 実際は抱っこして体が触れているので、こうした体の変化が伝わり、たとえ言葉で表現しなくても、それだけ気持ちも和んでいることが解ります。

 そして、最後にA君は「お父さんとお母さんが、いなくて寂しいんだよ」。とても、小さい声でかわいらしく。同じように「お父さんとお母さんが、いなくて寂しいんだよ」とつぶやくと、A君は思わず、「うんうん」と甘えるようにうなずいた。私は涙が出そうになった。そして、「お父さんとお母さんが大好きだもんね」というと、A君は深くうなずき、安堵の表情で「みんなと、じゃがいも植えてくる」と笑顔で走っていった。

                                                                                                                                                                                                   (文責:ハンガウト)

 

 


情報共有の大切さ

2022-05-26 00:03:03 | 日記

まきこっこといいます。

成人の知的障碍者施設のデイサービスで勤務しております。

心のケアで学んだことを日々の支援に活かしながら、奮闘していることを日記でつづらせてもらいたいと思っています。

 

私の職場は、心のケアを研修で学んでいるのは私だけです。職員の皆さん、利用者さんたちが楽しく活動できるように大変熱心にお仕事されるのですが、考え方や方針がそれぞれ違うこともあり、うまくいくことも、いかないこともあります。

今日、感じたこと。

それは情報共有の大切さでした。

 

Rさんは20歳の女の子で、言葉はなく、突然泣き出したり、暴れたり、大声で叫んだり、他害をすることがあります。

それが突然やってくるので、職員は一生懸命、そうならないように支援方法や環境を検討し、話し合って試してみて。

結果、いろんな職員さんと関われるようにはなってきたのですが、突然の泣き出しや他害は以前に比べて減ってはきているものの、一日に一度以上は起こります。

個別に職員が配置されているのですが、その職員がほかの職員と話すことをきっかけに泣き出すことが多いようにみんな感じていて、だから極力、職員同士での会話を控えるような対応をしていました。

でも、それだと空気がピリピリしていやだなあ、と私は常々思っていました。

そして今日の午後、一緒にドライブをしていて、私がRさんの隣に座っていたのですが、外の景色について話しかけると笑顔を見せ、運転していた職員と会話しても一緒になって笑い、楽しい時間を過ごしました。ところが運転していた職員が「あれ?この公園の駐車場ってこっちでよかったんだっけ?」と私に聞いた瞬間に、彼女は大声で泣き始め、窓を叩いたり、座ったまま大きくジャンプしたり、靴を投げようとし始めました。あふれた気持ちを察して「大丈夫だよ。危ないことはやめよう」と声をかけながら、行動を止める形で体で付き合いましたので、10分ほどで収まり、引き続きドライブをしました。私は、そういえば今日は一度も泣いていないから、発散したいタイミングだったんだな、と思っていましたので、何ともありませんでしたが、運転していた職員さんは、とても動揺してどうしていいかわからない様子でした。

 

帰り際、その職員さんが「さっきはすみませんでした。私が話しかけたから、担当の職員を取られたと思ったんでしょうね」と話しかけてきたので「違うと思いますよ。今日はあの時間まで泣かずに頑張っていたから、気持ちを出したいタイミングだっただけですよ。実際、前半は何ともなく会話していたでしょう?さっき何となく感じたんですが、道間違えた!とか、あれはどうなったんですか?とか、なんでそこにいるの?とか。職員が切羽詰まった困った感じの会話をすると泣き出すきっかけになるような気がします。多分、そういう会話のあと、辛い思いをした経験がたくさんあって、条件反射で体が反応しちゃうんじゃないかな。」と話すと、「そういえば、私も話しかけちゃいけないけど、どうしても確認しないといけないことがある時、話しかけて泣かれちゃっていた気がします。」と思い当たる節があるような話をしてくれました。そして「全然関係ない話なのに、自分のせいでっ思っちゃうのかな」とうれしいことを言ってくれたので「そうそう!だから私たちは、あなたが悪いのではないよ、と伝えることとと、そのせいで気持ちがあふれて暴れちゃっても、困らないよ、大丈夫だよっていう気持ちで接して安心させてあげることが必要なんだと思う」という話をしました。

そして「すごく納得しました。そのことは、職員みんなに話すべきですよ!」と言われ、ありがたいなあと思いました。

私がおや?もしかしたらそうかな?と思ったことは、出し惜しみせず、情報共有していくべきなんだな、と再確認した出来事でした。

 

 

 

 


Ⅾさんのピンクの傘1

2022-05-23 18:11:21 | 成人の障害者支援

以前、成人の障害者施設(生活介護施設)で働いていたはぐはぐです。

今回はその施設での心のケアの実践をご紹介します。

 

Ⅾさんは、32歳の重度知的障害を持つ女性。

自宅でご家族と生活していますが、日中は生活介護施設に通ってこられています。

Ⅾさんは、嫌なことがあると、手に届く範囲のものを投げ、机をひっくり返し、ロッカーを蹴り倒し、止めに入った職員の髪を引っ張り、かみつく行動が見られ、そうなったらとりあえずほかの利用者さんを違う部屋に避難させて、Ⅾさんの嵐が去るまで誰もケガが無いように、よけるしか方法はありませんでした。

職員もどう対応していいかわからず、ほとほと困っていました。

ある日、Ⅾさんの大切なピンクの傘がなくなりました。自宅を探しても、施設を探しても、どこにも見当たりません。Ⅾさんは爆発寸前で、すごい形相で物を投げ「傘~!」と叫んでいます。

そこで、対人援助技術「心のケア」を学びだしたところの私と、いつもⅮさんのお世話をしている支援者のSさんが、Ⅾさんの肩を両側で支え、しっかりと保持しながらお話が始まりました。

 

最初は、かなりの錯乱状態で、抑え込まれるような形になった私たちに対して、噛もうとしたり、腕を振りほどこうとしたりの行動を繰り返してました。そこで、「カサがなくなったんだね。それは悲しいね」という言葉を、やや大げさに繰り返すと、「え!?」という表情で少し力が緩みますが、まだしばらくは逃げよう、噛もうとする動作が続きました。

「カサがなくなってとても悲しい」「大好きな傘がなかったらとっても困る」「心配」「不安」などの言葉をつづけるうちに、本人の口からも「どこに行ったの~ピンクのカサ~」という叫び声が出るようになり、その頃より、噛もうとする動作はなくなってきました。

「返せ~、どこ~」などの言葉に対して、悲しみ、苦しみそれと今までたくさん我慢してきたこと、スタッフはそんなけなげで頑張っているⅮさんが大好きだよと、話を進めていくと体の力がどんどん抜けていきました。

そこで、ピンクの傘をどうするか話し合っていきました。

支援者S「カサはもうないよ」

Ⅾさん「返せ~ピンクのカサ~」

支援者S「新しいのかってもらおうよ」

Ⅾさん「いや~ピンクの傘、絵、絵」

支援者S「絵を描くの?」

Ⅾさん「絵・絵」

支援者S「自分で絵を描いて傘を作るの」

Ⅾさん「はい」

支援者S「どんなカサにしよう?」などの会話を進めていきました。

途中、感情が高ぶってそうな部分に、私が部分的に介入して気持ちの発散を手伝っていきました。

 

しばらくすると、傘の話をしてもⅮさんの力が抜けて、なんだかもう大丈夫と感じたので、「もしかして噛まれるかも…」と感じながら手を放しました。

ですが、Ⅾさんは、とてもすっきりした顔で、支援者Sさんとともに、ワープロに座り(Ⅾさんはワープロで文字を打つのが好きです)、

「かえせ、かさ」

と打って、2人で仲良く「かえせ~かさ~」と、にこにこしながら叫んでいました。

とても暖かい空気に包まれた二人を見て、私も、ほかのみんなも、ほっと胸をなぜおろしました。