障がいのある子どもと大人の支援 ~分かり合えると問題解決の道が見えてくる~

このブログは、障害児・者の心を大切にした対人援助技術「心のケア」を学び実践しているメンバーが集まり投稿しています。

あふれる気持ち

2022-06-05 16:49:57 | 日記

こんばんは

まきこっこです。

 

今日は50代の女性のとのことを書きたいと思います。

彼女は統合失調症と言われていて、厳しい由緒正しいお家で厳しく育てられ、なんでもできる方です。

ただ、日ごろから「正しい」と思われてる方へ、自分をもっていかなくてはいけないという健気な信念から、本当の自分の気持ちをまっすぐ表現できないでいるところがあります。自分の中に男の子と女の子がいて、我慢できなくなって暴れたり暴言を吐いたり他害したりするときは、男の子がやれっていうんだといいます。

そんな彼女は、某男性アイドルがとても好きで、その写真をときめいて眺めている時が一番幸せなようです。彼女の担当支援員が、彼女が日ごろ頑張る支えになれば、と、週末に好きな男性アイドルの写真をラミネート加工して渡していました。彼女もそれを楽しみに一週間頑張ることができ、とてもうまくいっていたのですが、いつからその写真を自分で選ぶようになってきて、そうすると、自分のイメージする写真に出会えないことで不穏になることが度々出始めました。他の支援員からも、その話題を多く話しかけられることが煩わしく感じる時もあるようですし、自分だけ特別扱いされているようだということにも罪悪感というか劣等感というか、そういうものも感じていたようにも感じました。

そんな不穏状態が長く続いた先週末、通院の折に担当医師から、毎週の写真をやめた方がいいという強めの提案を受けました。担当支援員も、彼女の支援を男性アイドルに頼りすぎていたと感じ、今週末の写真の提供をやめてみることにしました。その話を聴いた彼女は、医師からも、親からも、うちの施設のナースからも、そして担当支援員からも説得を受け、その時は納得して応じたようです。

今週、いつもならタブレットで写真を選ぶ時間も、他の作業や活動に切り替え、時々は「やっぱり○○(男性アイドルの写真)に会いたい」と言って泣くこともありましたが、大きく不穏になることなく週末まで過ごしました。

そして最後の日、送迎の前。いつもなら写真を受け取る時間になると、写真がもらえないことに大声で泣きだし、暴れ始めました。職員がかわるがわる制止しながらなだめ、何とか送迎の車に乗車しました。

私はその車の添乗員で、後部座席に彼女ともう一人の男性。真ん中の座席には私を挟んで両側に強度行動障害の車内で暴れる危険性のあ方々が乗車していました。

出発ししばらくすると、彼女は泣き始め「やっぱり会いたい。みんなどうかしてる。わかってない」というと、シートベルトを外し立ち上がり、前の座席に座っていた女性の髪をつかんで引っ張りました。顔には笑みが浮かんでおり、どうやら男の子が出現したようです。その手を放すようにすると、今度は私の髪を両手でつかみました。つかまれたまま、座席を乗り越えて後部座席へ移動し、髪から手を外し、彼女の両手を保持しました。「そうだよね。こんなに大好きなのに、簡単に諦められないよね」「いつも頑張っていっぱいがまんしているのにね。頭ではわかっても、気持ちがついていかないことってあるよ。ちくしょーって怒ってもいいんだよ」私の手を振り払い、隣の男性に手を出そうとしたりする彼女に体で付き合い、そんなことを必死で語りかけました。

「大事な気持ちだから、いっぱい言っていいんだよ。でも、他の人を傷つけてはいけないし、私も痛いのは嫌なの。私のお腹ならいくら押しても大丈夫だから、こうやってちくしょーって、遠慮なく押して。」そう言いながら彼女の正面に立ち、両手を握ったまま、私のお腹に両手を押し付けました。彼女はわかったと言わんばかりに「えいっ、えいっ」と数回押し、その後すぐ力が弱まり、しくしくと泣き始めました。私は横に座り背中に手をあてて、しばらく無言で彼女の気持ちに寄り添いました。彼女がポツリと「頭の中の男の子がやっちゃえって言ったんです。」と言ったので、「そうなんだね。あなたの気持ちを応援しに出てきてくれたんだね。怒るのも大切なことだものね。あなたの中の女の子はいつも、そんなことはダメっていって我慢するんでしょ。本当は怒ったっていいんだよ。ただ、他の人に痛い思いをさせてしまうのはよくないからね。」と、そんなことは百も承知だろうと思いながら話しました。「次は誰も痛い思いをしないような怒り方を一緒に考えましょうね。」そういうと彼女は黙ってうなずきました。

いつもは真ん中の席に座っている女性に髪を掴まれることが多いので、「今日はあなたが痛い思いをさせちゃったね。いつもされてばっかりだから、今日はこれでおあいこかな。」そういうと、彼女も笑い、前の席の女性も笑いました。

真ん中の席の、いつも不穏になると周りの人に手を出す女性も、職員の隙をみてシートベルトを外し、車内の物を外へ投げようとする彼も、私がその場を離れても、彼女の気持ちが収まるまでおとなしく静かにしていて、事の成り行きを見守ってくれるかのようでした。こういう時、本当にみなさんすごいなあと思わずにはいられません。

 

お家に着くと、いつもと変わらない表情ですんなり降りていかれ、お家の方が「園の方からお電話いただいて、話はうかがっています。本当に申し訳ありませんでした。車内は大丈夫でしたか?」と心配そうに尋ねられたので、「車内でも少し泣いて、落ち着かない様子も見られました。でも、ご本人が本当に葛藤して頑張っていらっしゃるので、気持ちが前を向くまで見守って応援してあげて下さい。」と伝えました。

 

どうなっていくのかな。職員間では他の支援も継続しつつ写真を再開した方がいいのではという意見も出されてきています。どっちにしろ、彼女の気持ちを大切に、関わっていくきっかけになりそうです。