ろくろ首、の類に含まれる妖怪は各地にさまざま残っており、
首そのものがヘビのように伸びるという系統と、
頭が胴体と離れて飛び回るような系統と、
大雑把に二種類があるように考えられる。
「首そのものが伸びる」系統は、ヘビのように執念深いという感情的な暗喩が含まれ
男性よりも、圧倒的に女性のほうが多いという特徴がある。
「頭が胴体と離れている」系統は、罪人が妖怪化したものが多く、
女性もいるにはいるが、男性が多いように思われる。
さて「頭と胴体が離れている」系統の妖怪を
ときとして「首なし」と呼ぶことが多く、
マンガ「ぬらりひょんの孫」にも相当な人気のキャラであるので、
今回はこれを考えてみようというわけである。
「くびなしおばけの怪」という伝承があったように思う。
江戸の妖怪話であったと記憶するのだが、はたしてどうだったか。
とりあえず、私が知る話は以下のようなものである。
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とある盗賊、たっぷりと金を盗み、
満足して、酒処でよくよく酔った。
店から出ると人にぶつかったが、
酔って気が大きくなっていた。
罵詈、怒鳴りつけると、
あろうことか盗賊改方のお役人、
盗賊は、相手がすらりと刀を抜いたところを見たような気がしたが、
一瞬のあとには、こともなげに通り過ぎていってしまった。
「なんでい、虚仮おどしか」
と、内心ひやひやしながらも、
次は夜の町へと繰り出そうかと意気揚々と歩き出した。
そこへ「火事だ」と叫び声があって、
人々が押し合いへし合い、あっちへこっちへ走り出す。
後ろから突き飛ばされて、
盗賊は地面にころげて、
悪態ついて起き上がろうとすると、
どうもおかしい。
身体は起き上がったはずなのに、
鼻が地面にこすりつけられたままだ。
とっくに首は、切り落とされていたのである。
「こりゃ、たいへんだ」
と、あわてて自分の頭をひろって
首に戻そうとするが、そんなことでくっつけば医者はいらない。
「医者にいかなきゃ」と思うのだが、
火事騒ぎで人がごった返す往来、
人の波にのまれて首がぐらぐらする。
どっちが火事か。
男はスッと自分の頭を首から持ち上げて
人の群れの上から火事の方角をみた。
仰天したのは周りにいた人々、
「くびなしのおばけ!」
と叫んで、もんどりうって
その場の人垣が割れて道ができた。
「こりゃあ、いい」
と、男は自分の首から頭を離して小脇に抱えたまま、
医者に向かって走り出したのだそうな。
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「ハリー・ポッター」シリーズの「ほとんど首無しニック」の絶命日パーティーにでてくる
「スッパリ首無しポドモア卿」あたりを彷彿とさせる。
あるいは、後藤寿庵先生のある方面の作品などを連想しかける。
「ぬら孫」の「首無し」は、この江戸怪話が元になっているのではないか、という気がする。
さて、彼の持ち物は黒縄。
縄を黒くするのは盗賊か忍者、あと、SMの舞台用に使用することもある。
女性の髪の毛を混ぜて縄をなうのは、雨乞い、治水などの意味もあるのであるが、
なんといっても、ヘビの象徴性がでてくる。
執着心、執念、である。
山田風太郎「甲賀忍法帖」(マンガでは「バジリスク」)にも、
「夜叉丸」というキャラクターが黒縄を使う。
これも、女の髪(むしろ陰毛ではないかと思われる部分もあり)で作られた縄で
妙に硬く、しめつける忍術のタネである。
夜叉丸、
たぶん名前に「丸」がついているから元服前だろうと考えられるが、
ショタっ子なのに「女の情動を使いこなしている」と見ると、
妙に萌えが入る気がするのは私だけだろうか。
なんとなく、ツンデレ性質が感じられるのは私だけだろうか。
ともかく、
「首無し」も、ある種の女性的な執拗さ、残虐さを秘めていることが
首を伸ばすいわゆる「ろくろ首」と同じ妖怪と見ることができるわけで、
女郎通いの伊達男、女心を知るイイ男、という雰囲気がある。
「首無し」をマンガ化するとなれば、
釣り目が似合うというのは確かだろうと思うのだ。