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「なぜ貧しい国はなくならないのか」(2)

2015年04月19日 | なぜ貧しい国はなくならないのか

2015年4月17日  園田 淳

貧困は減っているか

 

1、貧困者はどの国にどれだけいるのか

※     2010年前後には貧困者の総数は8億7千万に減少、1990年前後に比べて57%       に減少。

※     このトレンドが続いていれば、今年MDGsの目標は達成か?

※     20年間で貧困者は絶対数で見ても比率にしても大幅に減った。(6億5千万人)

※     しかし貧困者がすさまじく減ったのは 中国 5億3千万人 インドネシア5千万人

※     国連が減らしたというより、経済発展によって貧困者が減ったといえる。

※     南アジアの貧困者比率はこの20年間で56%から32%に減っているが、貧困者の数は2割も減っていない。5億人もの貧困者がいて問題が大きく改善したとはいえない。

※     サブサハラに至っては、逆に4割近く増えている。貧困者比率も50%を超えていてこの地域で貧困問題が解決に向かう兆候がないことは、大きな問題です。

※     南アジアの貧困は依然として深刻だし、アフリカでは貧困問題の解決の糸口さえつかめていない。

 

主要な途上国の貧困者数の比較(百万人)

地域・国名

貧困者数

比率

1990年前後

2010年前後

(2)/(1)

(1)

(2)

(%)

東アジア

789.8

 

200.7

 

25.4

インドネシア

100.0

(1990)

43.3

(2010)

43.3

中国

683.2

(1990)

157.1

(2009)

23.0

タイ

6.6

(1990)

0.3

(2010)

4.0

南アジア

591.8

 

507.2

 

85.7

バングラデッシュ

68.5

(1989)

64.3

(2010)

93.9

パキスタン

74.4

(1991)

35.2

(2008)

47.4

インド

448.9

(1988)

400.2

(2010)

89.1

ネパール

データなし

 

7.4

(2010)

 

アフリカ(サブサハラ)

107.6

 

149.1

 

138.6

エチオピア

34.5

(1995)

26.0

(2011)

75.2

ナイジェリア

63.4

(1992)

107.7

(2010)

169.8

ケニア

9.4

(1992)

15.4

(2005)

160.5

南アメリカ

29.0

 

13.7

 

47.1

ペルー

3.0

(1994)

1.4

(2010)

47.1

ブラジル

25.8

(1990)

11.9

(2009)

46.0

アルゼンチン

0.2

(1991)

0.4

(2010)

204.3

合計

1518.1

 

870.6

 

57.3

総人口

2847.0

(1990)

3754.1

(2010)

131.9

貧困線は1日1,25ドル。カッコ内はデータの取れた年を示す。地域の合計値はサンプル国の数値の合計。合計はサンプル国の数値の合計

(出所)世界銀行WorldDevelopmento Indicators

 

2、貧困の構造を考えよう

※     貧困は家計の労働者比率が低いか、労働報酬が低いか、資産所得が少ないために発生する。

労働者比率:

家庭の中でお金を稼げる人が多いと高くなる。働けない老人や子どもが多いと低くなる。途上国では子どもが多いため、低くなる傾向がある。

 40年前の数字と比較すると

高所得国64→66% 東アジア56→72% 南アジア55→64% 

サブサハラ53→54% 南アメリカ56→67%

東アジアより高所得国が低いのは、急速な高齢化が原因。

東アジアと南アメリカは急上昇している。南アジアでも同じ傾向。

これらの地域では一人当たりの所得も高くなってきている。

サブサハラでは依然として子どもの出生率が高く、低いままでここでも深刻な

状況がうかがえる。

 

労働報酬: 

それぞれのタイプの労働の需要と供給で決まる。労働報酬を決める重要な要因

a)労働者の質 (人的資本)

b)労働者が補完的に使用する設備、機械、土地などの量と質

c)技術の水準

d)それぞれのタイプの労働者の希少性                   

 

人的資本の量は、知的能力と健康状態によって決まる

生まれつき頭が良くて丈夫であれば人的資本の量は多い。しかしながら教育

や職場での訓練で獲得した能力のほうが大きいし、健康は運動や栄養摂取に

大きく左右される。

人的資本の豊かな労働者には一般に高い労働報酬が支払われる。

例えば、医者、弁護士、著名なデザイナー、特殊な技術を持った熟練工など

しかしこれらの人々もコンピューターのような補完設備、あるいは医学や科

学の進歩がなければ高い能力を発揮できないかもしれない。

またいくら能力が高くても、補完的な設備が整っていても、同じような能力

の人が沢山いると、労働報酬はさほど高くはならない。

 

資産所得: 

貧困者の場合には資産の所有は少ない。

農村で貧困なのはちっぽけな農地しか所有していない零細農や、土地なし農業

労働者。「農地改革」をして、大地主から土地を取り上げ、持たない人々に土地

を与えれば、貧困削減に直結すると考える人は多いが、政治力のある大地主か

ら土地を取り上げるのは容易なことではない。アジアで実施された過去の「農

地改革」は、貧困を解消するどころか、深刻化させてしまっている。

都市の貧困者も資産はほとんどなく、スラムに住んでいるようなケースが多い。

裕福な階層に厳しい所得税をかけ、貧困な階層に所得を移転することが望ましい政策であると思われがちだが、役所に登録されてもいない場所で働く人々が

多い途上国では、所得税はなかなか徴収できない。それに、だれが貧困者であるかを見極めることも容易ではない。日本ですら、自営業者や農家の所得を把

握できておらず、所得税の適正な徴収ができないでいる。貧困者が多く、裕福な層が少ない途上国では、資産を再分配する政策は現実的ではない。

 

 

3、人口の年齢構成と貧困

 

※     若年人口が多いために、途上国において労働者比率が低い傾向があるが、それが先進国と途上国間の巨大な所得格差を説明するものではない。

※     しかしながら、子どもの数が多くて一人当たりの所得、つまり両親の稼ぎが少なければ、子どもの栄養や教育など人的資本への投資が少なくなる可能性が高くなる。生産年齢人口比率が低いことは、子どもの人的投資へのマイナスの影響を通じて長期的に所得の上昇を阻み、貧困からの脱出を難しくしていると考えられる。

 

4、就業構造と貧困

 

国名

一人当たりGDP

上段1990下段2010

貧困者比率

(%)

産業者別就業者比率(下段は一人当たりGDP)

農林水産業

工業

サービス産業

 

イギリス

23,348ドル

データなし

1.2

19.1%

78.9

32,814

データなし

33,047ドル

62,111ドル

54,001ドル

 

ブラジル

7,175

17.2

17.0

22.2

60.9

10,093

6.1

5,078

20,578

17,805

 

インドネシア

2,008

54.3

37.1

18.7

44.1

3,885

18.1

1,807

11,001

3,744

 

バングラ

747

66.7

39.0

21.0

40.0

1,488

43.3

502

1,427

1,394

 

ネパール

712

データなし

76.3

10.5

13.2

1,083

24.8

429

1,334

3,248

 

エチオピア

              545            

60.5

82.8

6.0

11.1

932

30.7

178

683

1,149

データ特記になきは、ほとんどが2010年「なぜ貧しい国はなくならないのか」より園田作成

 

※ 経済の発展と共に、農林水産業のGDPシェアは下がり、それに代わって工業のシェアは高まる。さらに経済が発展すると、次にはサービス産業のシェアが高まる。

※     労働者1人あたりの所得はどの国をみても、農林水産業の所得が最も低い。

※     GDPが高い国ほど農林水産業の就業者が少なく、サービス産業の就業者が多い。

所得の増加と共に電化製品など工業製品への需要が増え、それを生産する製造業が発展する。さらに豊かになってくると、より快適な家に住みたい、子どもにより良い教育を受けさせたい、より良い医療サービスを受けたい、旅行に行きたいなど、サービスへの需要が高まる。

それと同時に農業に従事するのに高い教育はそれほど重要ではないが、製造業では教育の重要性が高まり、

コンピューターを駆使するようなサービス産業では、教育が決定的に重要な要素となることも、産業構造と一人当たり所得が関係している理由である。

それでは農業→サービス業という近道はできないのか?最近のインドやフィリピンの経済発展をみていると、それも可能ではないかと思えてくるが、それによって貧困削減が実現するのかどうか、まだまだこれからの課題である。

※     就業構造が、農業から工業、さらにそこからサービス業へと比重を移していくにつれて、貧困者比率は低下する。就業構造の変化と共に労働報酬が高まることが、その大きな理由である。

したがって、貧困削減のためには産業構造の変化と、それにともなう就業構造の変化が重要。

 

5、どういう人々が貧困か

2010年における農村と都市の貧困者比率(%)の比較

国名

農村

都市

バングラデッシュ

35.2

21.3

インド

33.8

20.9

タイ

23.1

9.0

インドネシア

16.6

9.9

ナイジェリア

69.0

51.2

ペルー

61.0

20.0

世界銀行 World Development Indicators

 

※     貧困は農村でより深刻であるが、その原因は、貧困者が土地をあまり所有していないこと、彼らの教育水準が低いこと、そして彼らにとっての非農業での就業機会が乏しいことにある。

※     しかも、都市の貧困者と農村の貧困者は同じ階層に属している人が多いと見られる。農村で貧困であったために、都市に来たがやはり貧困のままである人、さらには都市に来てみたが、やがて農村に戻った貧困な人々も多い。このように考えると、貧困削減のためには農村を豊かにすること、そして農村の労働者のために都市でより所得の高い雇用機会を創出することが必要である。

 

6、貧困と所得分配

 

※     一人当たりの平均所得を高めても、一握りの富裕層が所得の大半を受け取っていて、そのために貧困な人が多いのであれば、一人当たりの所得を高めること自体に意味がなくなる。

※     所得比率というデータがある。その国の上位10%の富裕層の所得が、下位10%の貧困層の所得の何倍あるのかを表した比率で、大きいほど同じ国の中の格差が大きいということになる。

 

国名

所得比率

(倍)

貧困者比率

(%)

ブラジル

55.8

6.1

ペルー

26.0

4.9

アルゼンチン

22.1

0.9

ナイジェリア

21.8

68.0

ケニア

19.4

43.4

中国

17.7

11.8

タイ

11.1

0.4

エチオピア

8.6

30.7

インドネシア

8.4

18.1

インド

7.8

32.7

ネパール

7.3

24.8

バングラデッシュ

6.8

43.3

パキスタン

6.0

21.0

もし、所得分配の不平等が貧困の大きな要因があるとすれば、所得比率と貧困者比率の間に正の相関関係があるはず、つまり所得比率が高い国は貧困者が多くなるという関係にならなければいけないが、突出して高いブラジルの貧困者比率が高いわけでもないそのほかの国にも相関関係は見られない。

所得分配が平等化すれば、貧困者が減るという関係が見られないのは、所得分配以外の様々な要因が貧困者比率に影響しているからだといえる。

もちろん、同じ国内での格差は改善していかなければならないが、一人当たりのGDPと貧困者比率との相関関係は明らかで、貧困者を減らすためには、所得比率を改善するよりも一人当たりのGDPを高めていくほうが、有効な策だといえる。

      

※     貧困削減のためには、貧困者の雇用機会と労働報酬を高めるような経済開発を実現し、所得の向上と貧困の削減の両者を同時に実現することを目指すべきである。


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