時のつれづれ(北多摩の爺さん)

下り坂を歩き始めたら
上り坂では見えなかったものが見えてきた。
焦らず、慌てず、少し我儘に人生は後半戦が面白い。

ぬる湯のたしなみ 湯本温泉

2022年06月09日 | 旅のつれづれ

多摩爺の「旅のつれづれ(その14)」
ぬる湯のたしなみ 湯本温泉(山口県長門市)

山口県の名湯と云えば・・・ 数々あるが、
旅館やホテルの数からみて、湯田(山口市)と湯本(長門市)が横綱ランクだろう。

ここのお湯に浸かったかどうかは・・・ 分らないが、
いまや、世界から戦争犯罪者の誹りを受けてしまったロシアのトップが、
なん年か前に、地元出身の元総理が招待し、湯本温泉の高級ホテルに宿泊したこともあった。

いまとなっては・・・ とんでもない奴を接待したもんだと、腹立たしくもあるが、
当時は北方領土の返還が絡んだ駆け引きがあったんだから、
まぁ、仕方がないというか、つべこべ言ってもどうにもならない。

そんな山口県の名湯・湯本温泉に「恩湯(おんとう)」という大衆浴場(共同浴場かも?)がある。
いつできたのか・・・ つい最近まで、その存在を知らなかったのだが、
「おいおい、これが大衆浴場かよ。」と思うぐらいの、立派すぎる大衆浴場だった。

義父母の法事(一回忌)が無事に終わり、長門市に滞在する最後の夜、
皆(女房の妹弟とその配偶者)で、温泉に行こうってことになり、
湯本温泉の大衆浴場「恩湯(おんとう)」やって来た。

市営の駐車場に車を止めて「恩湯(おんとう)」へと向かう道は、
温泉街に流れる音信川(おとづれがわ)に向かって、竹林の中を弾むよう下る幅広の階段と、
足下を照らす、行燈風の灯りが・・・ 優しく迎えてくれた。

「ちょっと、川風に吹かれてみようかな?」なんて、つい思ってしまうような、
なんともいえない、和の風情(おもてなし)が素晴らしい。

そんな趣とはちょっと違って、近代的で頑丈な鉄筋コンクリート作りの恩湯は、
建物の真ん中辺りから、3段ほどの低い階段を上がり、
若干長めの、オシャレな白い暖簾の先に・・・ 入り口があった。

見落としてはいけないのは、入り口横には本日の「泉温」、「pH」、「加温」と表記された、
立て看板が、さりげなく置いてあったことだが、
驚いたのは・・・ 39.5℃と表記された泉温である。

熱風呂が好みの私にとっては、ちょっと気になるお湯加減かもなんて、
一瞬だけ頭を片隅を不安が過ったものの・・・ 深く考えることなく暖簾をくぐることにした。

入り口を入ると、ちょっと狭い玄関があって、自販機で入浴料(800円)のチケットを買って、
靴を脱いで靴専用のロッカーに靴を入れ、鍵をかけて受付の人に鍵を渡すと、
コロナ対策の連絡先(電話番号と郵便番号)が求められ、
記入して受付の方に渡したら、今度は・・・ ロッカーの鍵が手渡される。

なんとも、まどろっこしいシステムだが、
それもこれも、コロナ対策だと思えば・・・ 致し方ないことだと思ったものの、
もっと考えて欲しいコロナ対策が別にあるんだから、なんのこっちゃである。

その別にあるコロナ対策は、受付の対面の浴室入り口を入ると直ぐに分る。
ロッカーが置いてある更衣室(脱衣室)が・・・ あまりにも狭いのだ。
人が多くなると、すれ違うのに難儀するぐらい狭いのだ。

ちょっとイラつきながらも・・・ 素っ裸になって、入浴しようと浴槽(お風呂)に向かうと、
真っ直ぐな通路が見えるが、浴槽が目の前にないのに驚く。

湯気が立つ浴室に入ると、目の前にあったのは、
通路向かって直角に設えられた、10名程度が身体を洗うことができる洗い場があり、
その先に、かけ湯があって、かけ湯の先を左に曲がると、
無用に広い空間の先に・・・ やっと、浴槽が見えてくる。

浴槽は民家のお風呂の4~5倍はあるが、思ったより小さく、想定外に深かい。
そして、肝心のお湯は、入り口に表記された泉温どおりで・・・ やっぱりぬるい。

いろいろなことを考えて、知恵を絞られたんだと思うものの、
あくまでも、個人的な感想で大変申し訳ないが、
設えも、お湯も、それに見合う料金も・・・ けっして、満足できるものではなかった。

一番の不満は、ロッカーが置かれた脱衣場の設えが、あまりにも窮屈すぎて、
申し訳ないが、これじゃ他人との距離が保てず、
コロナ対策の基本でもある三密回避を・・・ どうやっても確保出来ない。
たまたま、親族だけだったら良かったものの、見た瞬間は「ドキッ!」としてしまった。

さらに・・・ 浴室には長い通路と広いスペースがあるのに、浴槽が小さく、お湯もぬるすぎる。
入浴後の休憩スペースを大きく取るぐらいなら、
脱衣スペースを・・・ もっと、ゆったり作って欲しかったし、
浴槽を二つに分けて、39.5℃のぬるめのお湯と、43℃ぐらいの熱めのお湯が欲しかった。

真冬だったら・・・ 少しは加温するのだろうが、
6月とはいえ、夜に39.5℃じゃ・・・ 体の芯から暖まった感が得られない。
お湯に関する体感は、ひとそれぞれだと思うものの・・・ ちょっと工夫があっても良いと思う。

とはいえ・・・ そんな不満と疑問は、
受付時にいただいた、小さなしおり(恩湯のたしなみ)に、総て説明が記されていて、
尚且つ、入浴前に看板に掲示されていたのだから、入浴後に文句を言っても仕方がないのだが、
癒やしの名湯が、逆にストレスになったのは・・・ 正直なところ、残念と言わざる得ない。

「恩湯(おんとう)」の周辺に立ち並ぶ、ホテルや旅館と比較して、
設えから入浴のシステムまで、知恵を絞って考え抜き、差別化を図ったのだろうが、
これじゃ、私たちのような一見さんならまだしも、リピーターを確保するのは厳しいだろう。

翌日、帰郷する前に、ご近所に挨拶に伺い、昨夜のことを話したら、
「そうなのよ。評判が良くなくて、地元の人はあまり行かないのよ。」と言われ、
それで「市長さんが落選しちゃったのかも・・・ 」と続けられた。

お湯加減や、設備の設えが・・・ 選挙に直結したとは思わないが、
ここのお湯は、人が少ない町にとっては、
市の外から多くの人々を呼び込み、元気を生み出し、活気に繋げることができる、
とっても貴重な財産なので、早急になにか考えてほしいと願ってやまない。

旅人が癒やしを求めて地方に向かうのは、
ひょっとしたら・・・ そこでの新しいな出会いではなく、
昔ながらの、なにも変わらないものとの再会を求めているのかもしれない。
故郷を後にして、ハンドルを握りながら・・・ ふと、そんなことを思っていた。

追伸
故郷の名湯なのに、なんか悪いことばかり書いちゃって、大変申し訳ないと思うので、
誤解がないように記しておくが・・・ 「ぬるめのお湯」が、ダメだと言ってるのではない。

温泉の好みなんて・・・ 人それぞれであって、
泉質を除けば「ぬるい、熱い、どちらでも良い。」の三択しかないのだから、
いくらここでは「ぬるめ」が売りであったとしても、
それしか選択肢がなかったら・・・ 入湯者の半数程度から、満足を得られることはない。

よって、くどくて申し訳ないが「ぬるめ、熱め」の双方があれば、
ストレスにはならないので・・・ もう少し知恵を絞るべきだったのではなかろうか?

また、脱衣所の狭さと、無駄に広い浴室内のスペースは、
コロナ禍じゃなかったら・・・ たいして気にならないことだったかもしれない。

とはいえ、コロナ禍において、三密の回避が求められる現状を敏感に捉えると、
コロナ禍そのものが貰い事故であり、想定外のこととはいえ、
結果的に、多くの人々が利用する名湯の脱衣場としては・・・ 適切ではないだろう。

そこに住む方々が、大胆な知恵を絞ったものに、県外に住む者がとやかく言うことではないが、
故郷が誇る名湯であって、財産だと思うからこそ、
なんとか対策を練って、工夫を凝らして、良いものに変え、
多くの人々が、満足するものであって欲しいと・・・ 願ってやまない。

なお、受付時にもらった小さなしおり「恩湯のたしなみ」には、
次のような章立てで、詳しく説明されているので、ホームページを参考にしていただきたい。

その一 ぬる湯のすすめ
その二 めで楽しみ、耳で楽しむ
その三 本物の温泉にいい香りあり
その四 小さな湯坪が原点
その五 深い浴槽のひみつ
その六 「神聖な入浴体験」をお楽しみあれ
その七 「大寧寺抱え」の恩湯は「神授の湯」

湯本温泉街のど真ん中に、とても大衆浴場には見えない設えの近代的な建物があり、
写真の左サイドは、入湯者専用の広すぎる休憩場で、浴場は右サイドの板塀の裏にある。

駐車場から大衆浴場「恩湯(おんとう)」へ向かう階段の両サイドは竹林となっていて、
なんとも言えない風情と安堵感が漂う。

暗くて見えづらいが、音信川(おとづれがわ)の両サイドには遊歩道があり、
かつて野際陽子さんや、森口瑤子さんが出られた「温泉女将シリーズ」の撮影現場でもある。

コメント (4)    この記事についてブログを書く
« 女房たちの笑える自慢話 | トップ | フルーツ冷やし雪見ぜんざい »

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (1948219suisen)
2022-06-09 05:08:07
温泉大好きですから、大変参考になりました。
返信する
Unknown (多摩爺)
2022-06-09 08:03:53
泉温や泉質は昔から変わらないのに、
建物とシステムに工夫を凝らして、
新しい価値と楽しみの温泉を生み出そうとしてるんですから、大変な企画をしたんだと思います。
そこんとこは理解してますが、温泉への思いは人それぞれですから、昔ながらというか、普通が一番なのかもしれませんね。
返信する
くちこもね・・・ (くちかずこ)
2022-06-09 22:14:37
恩湯、建設当時から注目していましたが、
これは、ダメだなと思っていましたよ。
潰れるかなあとも思って、眺めてきました。
でも、隣にあるレストランは利用しましたよ。
二年前かな?
https://blog.goo.ne.jp/kazukomtng/e/397b50de645a36ef75bbff2d5718745d

ただ、全体的に、いずれ寂れる予感がしました。
ただ、界があるから、星のリゾートの・・・
そこが支えになるかも?

角島、あれこれ参考になりました。
あのレストランも行ってみたいけれど・・・
経営、大丈夫かなあ???

北浦街道、くちサメは定休日でしたよ。
返信する
Unknown (多摩爺)
2022-06-10 06:36:20
ゴールデンウィークや、秋の紅葉の季節には盛況のようです。
入り口やロッカーを見る限り、もともとそんなにたくさんの人を呼び込みたいとも思ってないようなきもします。
音信川沿いの遊歩道も風情がありますので、寂れることはないと思いますが、経営的にはどうなんでしょうか?
角島も同様ですね。
観光客には来てもらいたいけど、たくさん来てもらっても・・・ ? かもしれません。
双方ともに自分たちのペースが確立されていて、商売に欲がないのかどうか分りませんが、ガツガツしていません。
返信する

コメントを投稿

旅のつれづれ」カテゴリの最新記事