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富野由悠季の世界展

2019-12-04 17:17:05 | アート・文化

もう夏の終わりのことになるが、福岡市美術館へ展覧会を観に行った。

ガンダムの原作者で知られる、アニメ監督、富野由悠季(よしゆき)氏の作品・資料展、

“富野由悠季の世界展 ―ガンダム、イデオン、そして今―”だ。

ガンダム好きとしては、もう開催されるずっと前からチェックしていた展覧会ではあったが、

開催時期が夏休みと被ってしまって、人ごみを嫌って会期中頃に行くのを避け、

8月の終わり、いよいよ閉会が迫ってからようやっと行くことに。

平日だったのでそこまで混雑しておらず、ストレスなく鑑賞することができた。

 

チケットには各作品の悪役?の面々が。

クワトロは悪役じゃないか。

ダイターン3の執事のおっちゃんも違うな。

 

富野由悠季―。

ガンダム好きを公言する者は絶対に知っているであろうお方。

今年、40周年を迎えたアニメ、機動戦士ガンダムの生みの親。

以来、派生作品は数多く、今なお新作が作られる日本を代表するロボットアニメ。

その長年愛され続ける作品の魅力は、実は人間ドラマにあり、

いちファンとして、それをロボットアニメというジャンルで、

他に有名な、マジンガーZやマクロス,エヴァンゲリオンなどと一緒にはしがたい。

 

富野氏は自身の代表作である、ガンダム以前からアニメ業界に深く携わっている。

あの手塚治虫氏の元で、日本最初のアニメーション、鉄腕アトムにも携わり、

宮崎駿氏や高畑勲氏の元で、未来少年コナンや世界名作劇場にも携わっている。

富野氏がそれら経験を踏んで、今に至るまでの軌跡をたどった展覧会。

宇宙にあこがれていた少年が映画監督を目指し、成り行きでアニメ業界に入ってしまい、

“ガンダム”という、世界的なアニメーションの生みの親となり、そして現在に至るまでの活動。

 

福岡市美術館。

最後にここへ来たのは、ゴジラ展 ―大怪獣、創造の軌跡(あしあと)を観たとき。

ちょうどそのゴジラ展を最後に、福岡市美術館はリニューアル工事のため長期休館になった。

そしてリニューアルされて最初に来たのが、ガンダム・・いや富野由悠季展。

ゴジラで終わりガンダムから再開とは、自分でも趣味を徹底しているなあと思う。

ただ・・・外観からは、どこがリニューアルされたのかよく判らない。

 

福岡市美術館

 

二階の展示室前。

チケット売場で当日券を購入し、いよいよ展示室へ―。

入口前に等身大よりやや小さめのロボットが展示されていた。

無敵鋼人ダイターン3の主役メカ、ダイターン3だ。

全高120mなので、このサイズでも1/80スケールくらいか。

ガンダムと比較すると巨大だ・・・。

これのみ撮影可だった。

 

ダイターン3のアニメ自体は観ていないが、

バンプレストのシミュレーションゲーム、スーパーロボット大戦で知っている。

主人公の名前が波嵐万丈で、その声優がブライトさんと同じだったのも知っている。

 

入ってすぐの展示室。

だが、展示物は何もない。

まっさらな部屋。

オリジナルなのか、何かのアニメの主題歌だったのか?

女性ボーカルの曲が流れていて、四方の壁と天井に数々の作品の名シーンが照らし出されていた。

知っている作品では、ガンダムのシーンがたくさん流れる。

知らない作品であっても見入ってしまう。

数分経って曲がループしても、映像はループしない。

壁と天井、それぞれ全てが異なるアニメの異なるシーンが絶え間なく投影される。

ただただ立って そのまま曲を聴きながら映像に見入って、この空間にずっと居られるような気がした。

 

 

映像と音楽の部屋を抜けると、ようやく展示ブースが現れる。

まず目に入るのはアナクロニズムなデザインの宇宙服。

いや、宇宙服ではなく、与圧服となっていた。

旧日本軍の軍需工業で開発部に所属していたという、富野氏の父。

高高度を飛行するパイロットのために開発していたのが、この与厚服だという。

さながら宇宙服のようであり、これを見た富野少年は宇宙に憧れを抱いたようだ。

 

 

同じブースに富野氏が子どもの頃に描いたイラストが多数展示されていた。

航空機やロケット、潜水艦に宇宙船など、少年時代からそれらに造詣があり、

もうこの頃から、ガンダムに至る才能が開花し、力強く育っている様がうかがえる。

この宇宙船のイラストの注釈文には、“フォン・ブラウン博士”の名前が記載されており、

ガンダム好きならば、月面都市、フォン=ブラウン市が頭に浮かぶ。

富野氏の空想のなかには、既にこの頃には月面都市が形成されていたのかもしれない。

 

当初は映画監督を志していた富野氏が、

学生時代に自主制作したショートムービーや、フォトコラージュなども展示されていた。

だが、大学を卒業して就職した先は、アニメ制作会社。

映画制作会社に求人がなく、富野氏は不本意で就職したのだという。

それがあの手塚治虫の、虫プロダクションだった。

そこで富野氏は手塚治虫から一目置かれ、

入社わずかな期間で鉄腕アトムの演出を任されることになる。

 

その処女作となった鉄腕アトム第96話の絵コンテも展示されていた。

「未来予見」「敵の寝返りと共闘」などのストーリーの展開や、

無数のビームをかいくぐりながらの戦闘シーンの描写がそれまでのものとは一線を画し、

ニュータイプの存在やビームの飛び交う宇宙空間での戦闘など、

のちにガンダムなどのロボットアニメで多数描かれることになる特徴が、

この時点で既に誕生していたのが判る。

 

展示されていた、富野氏直筆の機動戦士ガンダムの企画書。

当初タイトルが“ガンボーイ”だったが、企画段階で“ガンダム”に改められた。

ファンの間では割と有名なエピソード。

 

富野氏は映画制作の夢が捨てきれず、虫プロダクションを退社してしまう。

CM制作などに携わりはしたが、その制作現場が肌に合わず、

また多数のアニメスタジオからのラブコールもあり、けっきょくアニメ制作に戻ってしまう。

そこでフリーのコンテマンとして活躍する富野氏。

誰よりもコンテを切るのが早くその質も高かったため、あちこちから声がかかり、

多忙を極め、本人の結婚式当日でさえも絵コンテを描いていたというエピソードも。

 

  

フリー時代に出会ったのが、宮崎駿,高畑勲といった、スタジオジブリの二大巨匠だった。

世界名作劇場で、高畑氏のもとで制作に携わった。

また手塚治虫原作の海のトリトンで、初監督を務める。

キャラクター設定のみ原作を生かし、富野氏オリジナルのストーリーで展開した。

結果、かわいらしいキャラクターとは裏腹に、

子どもには着いて行けないシリアスな内容になり、視聴率低迷のため打ち切りが決定。

善悪の相対が入れ換わるという、最終回のどんでん返しに視聴者たちは打ちのめされたが、

放送終了後にファンたちが続編を熱望し、のちに劇場版の制作が決定したという。

ガンダムファンはどこかで聞いたことのあるエピソードが、監督処女作でも起きていたのだった。

 

 

 

富野氏の怒涛のテレビアニメ作品が続く。

勇者ライディーン。

バンプレストのシミュレーションゲーム、スーパーロボット大戦で知っている。

ガンダムに登場する、シャアの原型ともいえる、仮面を付けた美形の敵役が登場している。

当時のアニメ好きのティーンエイジャー以上の女性、今で言うところの“腐女子”から大人気だったそう。

キャラクターデザイナーはもちろん、安彦良和氏。

当初オカルト要素を含んだシリアスなストーリーだったが、

テレビ局側から修正要請があり、富野氏は途中で降板させられることに。

その後、マジンガーZのような一話完結の明朗な勧善懲悪モノになり、

ちびっこにもウケ、合体変形するおもちゃが売れに売れたという。

スポンサーやテレビ局の意向を素直に作品に受け容れない、

ロボットアニメのパターン破りをやろうとしていた、富野氏のスタンスがこの辺りから既にうかがえる。

 

 

無敵超人ザンボット3。

スーパーロボット大戦でも登場していた気がするがよくは覚えていない。

タイトルだけは知っている作品。

主要キャラに、ガンダムに登場する、カイ・シデンや、キッカ・キタモト似のキャラクターが居るのが判る。

キャラクターデザイナーはもちろん、安彦良和氏。

この時点で、富野氏とのタッグはバッチリだったようだ。

むしろガンダムでそのタッグにほつれが生じたか?

 

この作品でも勧善懲悪が崩れ、最終回でどんでん返しが待っていた。

敵側も絶対悪ではない、戦うには意味があり、視点を変えれば主人公サイドが悪に見える。

ガンダムにおける、地球連邦軍やジオン軍,エゥーゴ,ティターンズ,クロスボーン・バンガード軍など、

各勢力の主張やそれに属して戦うキャラクター達の心情など、視点を変えればいかようにもなる。

ロボットアニメでありながらも、キャラクターのストーリーに重点を置いたシナリオは、

このようにガンダム以前から作られていたのだと判る。

 

 

機動戦士ガンダム

君は生きのびることができるか?

 

そして満を持して登場するのが、機動戦士ガンダム。

ガンダムおたくとして、これまで各所で散々語ってきたので、あらためて語る必要はないだろう。

それまでのロボットアニメから一線を画した内容となった、記念すべき作品。

富野氏の名前を世に轟かせのもこの作品といっていいだろう。

メカニックデザイナーとして、大河原邦男氏もここで登場する。

 

主人公アムロ・レイは、それまでお決まりだった明朗な熱血漢の少年ではなく、

内気でメカいじりが好きな平凡な少年。

ときに戦闘を拒否して脱走するし、同僚や上官と激しく対立する。

そんな主人公の成長を描いた青春群像劇でもある。

 

「シャアとララァは前の晩に一緒に寝ている、それを踏まえてセリフを言って欲しい。」

ララァ・スンの声優に、そう注文したという富野氏。

結果、ガンダムの戦いぶりを放映するテレビ中継を見ながら、

甘えた口調でシャアに応える、劇中でも印象的なララァのセリフができあがった。

 

そして完全な悪として描かれることの多かったロボットアニメにおいて、

主人公と対立する敵側にも複雑なドラマがあるということ。

ジオン公国軍の仮面を付けた美形のエースパイロット、シャア・アズナブルは、

父を暗殺したザビ家に復讐するため、偽名でジオン軍に潜入していたり、

そのザビ家内においても父子・兄弟間に確執があったり、

アムロの仲間でありながら、シャアと実の兄妹であるセイラ・マス。

シャアと恋仲でありながら、アムロとも解り合い、戦場で散ってしまうララァ・スン。

ブライト・ノアとミライ・ヤシマ、それに絡んで来る、

スレッガー・ロウやカムラン・ブルームなど、子どもには到底 理解しがたい複雑な大人の恋愛関係。

一人ひとりのキャラクターに実に魅力的なドラマを持たせてあった。

 

以前 行った大河原邦男展でも観た原画も多数展示されていた。

 

当然子どもにウケが悪く、視聴率が低迷して途中で打ち切りが決定。

当初52話だったストーリーを圧縮し、43話で終了してしまう。

だが、放送終了後にガンダムのプラモデル、通称“ガンプラ”が模型専門誌で人気を博し、

空前のガンプラブームが到来すると、ファンからガンダムの作品自体の続編や再放送の希望が殺到する。

そうなると当然、テレビ局やスポンサーから、ガンダムの続編の依頼が来る。

こうして、機動戦士ガンダム劇場版が作られ、その人気は不動のものとなり、

続編として、機動戦士Zガンダム,機動戦士ガンダムZZが誕生する。

 

 

伝説巨神イデオン。

機動戦士ガンダム放映終了直後に制作がスタートし、

ガンダム劇場版と並行して制作されたという作品。

“巨神”とあるように、100m超の巨大なロボット“イデオン”が登場する。

スーパーロボット大戦に登場するメカの中でも最大スケールではなかったろうか。

 

旧文明人の残した巨大兵器と謎の無限エネルギー“イデ”。

それを巡る人類とバック・フランふたつの種族の星間戦争。

まるで映画のような壮大なドラマで、やはりちびっこ達は置いてけぼりになってしまい、

打ち切りが決定してしまうが、これもまたファンのエールによって劇場版が作られ、

劇場版によって本当の最終回が描かれた作品。

だが、アニメ版の最終回後の延長のストーリーが描かれたことにより、

主要キャラクターが死に絶えるという壮絶なラストを迎え、

富野氏は“皆殺しの富野”の異名をとることに。

ちなみに音楽を担当したのは、ドラゴンクエストで有名なすぎやまこういち氏。

意外な繋がりがあるもんだ。

 

機動戦士Zガンダム

君は刻の涙を見る。

 

 

機動戦士ガンダムZZ

アニメじゃない!

 

伝説巨神イデオンまでは、ほぼ年代順に資料が展示されていたが、

ここから先はガンダムの展示品を含め、テーマ別の展示に移る。

ここから一気に機動戦士Zガンダムから、機動戦士Vガンダムまでが並ぶ。

自分にとってはジャストな展示ブースとなったのがここ。

どの作品の資料を見てもじわりと込み上げてくるものがある。

それぞれのアニメの名シーンが小さなモニターで流されている。

それをずっと観ながら進んでいくと、とてつもない時間がかかってしまった。

 

機動戦士ガンダム逆襲のシャア

人が人に罰を与えるなどと!

 

機動戦士ガンダム逆襲のシャアの絵コンテ。

富野氏の力の入れようが判る。

 

機動戦士ガンダムF91

少しずつでも世界をさっぱりさせんとな・・・。

 

機動戦士ガンダムF91のイメージボード。

のちにクロスボーン・バンガードが接収することになる、フロンティアⅣ。

迎賓館はじめレトロな構造の街並みなど、富野氏の詳細な設定も書き込みがされてある。

 

 

機動戦士Vガンダム

おかしいですよカテジナさんっ!

 

機動戦士Vガンダムのイメージボード。

バイク型戦艦やアインラッド、カイラスギリーのビッグキャノン、

エンジェル・ハイロゥなどの富野氏本人による登場兵器のデザイン案が描かれている。

 

展示室の締めくくりは、富野氏の最新作、Gのレコンギスタ。

機動戦士Vガンダムでうつ状態になった富野氏。

長期療養を余儀なくされ、アニメ制作からしばし離れることになる。

ブレンパワードからアニメ復帰する富野氏。

その後、∀(ターンエー)ガンダムやキングゲイナー,リーンの翼など、

観てはいないが、知っている作品をいくつか手掛け、Gのレコンギスタへと到達する。

どれも興味がなかったものだが、この展覧会で観てみようと思った。

 

 

 

ガンダムは宇宙世紀モノ以外には興味がなかったのだが、

Gのレコンギスタには興味を惹かれた。

だが、それを観るにあたり、ガンダム好きのドラクエフレンドから、

時系列でその前篇ともなる∀ガンダムをまず観るようにと薦められた。

∀ガンダムにも興味を惹かれたし、この際両方とも観ようではないか。

 

∀ガンダムが初出と言われている、富野氏の造語、“黒歴史”。

当初ネットスラングでしかなかったこの言葉が、今じゃ新聞にも使われ、辞書にも掲載されている。

 

イデオンやダンバイン、エルガイムなんかにも興味を惹かれた。

どれもいつか視聴したい。

だが、時間がないなあ・・・。

お腹いっぱいになった富野由悠季展。

駐車場に入庫した時間から駐車場出庫の時間、4時間近く経っていて驚く。

どうりで足腰が痛くなっていたわけだ・・・。

絵コンテ,セル画,ポスター原画に、企画書や設定資料集などの膨大な数の展示品。

時間を忘れ、展示物に夢中に見入っていた。

 

 

ブレンパワードはスーパーロボット大戦で少しだけ知っている。

“オルファン”とか“オーガニック”とか専門用語が飛び交い、

原作を観てなきゃまるで意味が解らない、凄くトミノチックだった印象。

キングゲイナーはコミカルなOPだけはずっと前に動画で見た覚えが。

 

最後に物販売場でグッズを購入。

展示目録代わりの書籍と、ポストカードを数枚。

Tシャツも売られていたが、富野氏が毛筆で書いたセリフのデザインだった。

「僕がいちばん上手くガンダムを扱えるんだ!」

「その日、イデが発動した。」

こんなん恥ずかしくて、さすがの自分も着れないや・・・とTシャツは諦めた。

 

 

 

 

その他の富野氏の主だった作品。

どれもアニメ自体は観ていないものの、スーパーロボット大戦で知っている。

キャラクターも魅力的なので、どれもいつかは観てみたい。

 

あとはこの展覧会限定カラーリングのガンダムのプラモデルも売られていた。

しかし、自分はオリジナルカラーがいいのでそれは要らない。

そして、びっくりしたグッズが、富野氏のアクリルスタンド。

にこやかに笑う富野氏、脇に直筆メッセージが描かれた逸品。

誰がこんなん買うんだよ!

それを手に取り、笑いながら心のなかで思わず突っ込んだ。

 

購入したポストカード。

宇宙世紀のガンダムモノだけを。

絵コンテ風のフレームが付けられている辺り、芸が細かい。

Z,ZZ,Vでは、カミーユ,ジュドー,ウッソら主人公を差し置いて、

ハマーン様やプル、カテジナさんが選ばれている辺り、なんだか笑える。

 

ポストカード売場では、到底アニメなんか観そうにない、

きれいでオシャレな若いおねえさんが颯爽と現れ、

何の迷いもなくシーブックのポストカードを手に取り、

確認できなかったが、そのほか数枚を手に取り、そのまま会計へと進まれた。

うわぁ!

あんな若くてきれいなおねいさんに、F91好きなひとが居るなんて!

おっさんはちょっと感激して美術館を後にした。

 

そういや福岡市美術館、リニューアルされて初めて来たけれど、

外観ではまったく判らなかったし、中もどこがどう変わったのか判らなかった。

 

富野氏、御歳78歳!

まだまだ頑張ってもらいたい。

個人的にZZの新訳を切望しているんですが・・・。

新訳Zのラストがああだったので、無理なのかなあ。

 



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