ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

067. 唄う七面鳥

2018-12-25 | エッセイ

 七面鳥のことを英語では「ターキー」、ポルトガル語では「ペルー」と呼ぶ。
スーパーの肉売り場ではいつでもペルーのモモ肉や胸肉などを部分売りしている。
それがクリスマス前になると、ペルーは一羽まるごとで棚に並ぶ。
小さめのでも6キロほどもあるから大変な量だ。
クリスマス休暇には出稼ぎ先から息子や娘たちが孫を引き連れて親元に帰省するから、ふつうの鶏では小さすぎて間に合わないのだろう。

ポルトガルのクリスマスのご馳走といったら、なぜかノルウェー産のバカリャウ(塩漬けの鱈)とポルトガルキャベツの煮込みが代表的な料理だが、ペルーの丸焼きもその次ぐらいに好まれている。
どちらも一度に大量に料理できて、しかも簡単にできる。

田舎のほうでは庭先に植えてあるポルトガルキャベツを引っこ抜いて、おおまかにぶつ切りしたのを大鍋に入れ、その上に塩抜きした分厚いバカリャウの切り身をドサっと入れて、上から蓋をしてしばらくぐつぐつと煮て、出来上がり。
それを皿に取って、上からニンニク炒めのオリーヴ油と酢をかけて食べる。

ペルーの料理もとても簡単。
前日にペルー丸ごと一羽、全体に塩コショウ、ニンニクの擦りおろしたもの、
ハーヴ類を満遍なく擦り付けて、一晩冷蔵庫に入れておく。
翌日、食べる4時間ほど前に、ペルーを丸ごとオーヴンに入れて、
ときどきひっくり返しながら3時間余り焼くと、出来上がり。
こんがりキツネ色に焼きあがったパリパリの皮とふっくらジューシーな肉、
そしてお腹に詰めたサフランライスもペルーの旨みが浸みて美味。

 



こんがり焼けた七面鳥

クリスマスの前には店の棚にずらりと並んでいた丸ごと一羽のペルーは26日にはもう姿を消していた。
ほんのちょっとの間しか売っていないのだ。

大きなキンタ(大農場)を経営しているポルトガル人の知人がいる。
そこでは黒豚や羊、そしてペルーを飼育している。
広い土地にペルーを数百羽も放し飼いにしているのを、見に行ったことがあるが、春にペルーのヒナを仕入れて育て、クリスマス前にフランス向けに出荷するという話だった。
フランスではペルーの丸焼きがクリスマスのメイン料理なのだろう。

彼はまだ若いが、大学で有機農業の講師もしていて、自分のキンタでも実践しているという。
彼のおだやかな性格がキンタ全体に広がっているような雰囲気。
羊たちはのんびりと草を食み、黒豚の子供たちはのびのびと走り回り、
羽目をはずして遠くに行こうとすると、番犬に怒られてすごすごと引き返す。
その様子がなんとも可愛らしい。

ペルーたちも面白い特技を持っている。
彼がペルーの群れに近づき、とつぜん「オーリャ!」(こっち見ろ)と叫ぶと、それまでかってな方向を向いていたペルー軍団はいっせいに彼に振り向き、「ぴょろろ~、ぴょろろ~」と大合唱。
私たちはペルーの軍団を見たのも初めてだが、ペルーの歌声を聞いたのもそれが初めて。
そのうえ、彼が大真面目で「オーリャ」と叫ぶのと、それに応えるペルーの「ぴょろろ~」のなんとも絶妙なタイミングに、みんなで腹を抱えて笑い転げた。

国道から彼のキンタへと行く小道は、「ルア・デ・パライソ」という名前。
「楽園へ続く道」という意味だ。

MUZ
2008/12/28

©2008,Mutsuko Takemoto
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(この文は2008年12月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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