北部で去年の12月半ばごろから降り始めた雪は1月26日だというのにまだ降っている。
ドウロ川からシャーベスへ行く山中の高速道路やヴィゼウあたりでも雪が降り積もり、道路が凍結してノロノロ運転。
スペインやフランスなどを行き来する長距離トラックも4時間余り渋滞の中で立ち往生だという。
雪は横殴りの激しい風を伴ない、TVのリポーターも毛糸の帽子を目深に被り、首にはマフラーをぐるぐる巻き、分厚いロングコートで完全防寒。
リポーター達に比べて気の毒なのは、山中で交通整理や警備にあたっている警察官。
彼らは決められた制服だけなので、とても寒そうだ。
しかもじっと立ったままなので、足元から凍えてしまうのではないかと、TVの画面を見ていて心配になる。
通行しているクルマも雪道を走ることなど考えもしなかっただろうから、チェーンをはめているのは見かけない。
だから重大事故も多発している。
大西洋に面した町やリスボンやセトゥーバルは雪は降らなかったが、その代りずっと雨が降り続き、しかも凍えるような低温。
この数日は強風と大雨でまるで日本の台風のようだった。
バターリャでは竜巻が起り、かなりの家の屋根に穴があくという被害が出た。
こういう悪天候はずっと続くわけではなく、一週間のうち1日は太陽が顔を出し、そうなると「それっ」とばかりにご近所中がいっせいに洗濯して、どの家の窓もカラフルな洗濯物がひらひら。
このぶんでは翌日も良い天気だろうか…とかすかに期待を持つと、必ず裏切られた。
こんなに長く続く悪天候…というと、ポルトガルに住みつく前、リュックを担いで一ヶ月間、南から北へと旅した時のことを思い出す。
たしか1988年だったと思うが、1月2日から2月2日までだった。
まずリスボンに2泊した後、汽車でエヴォラに向った。
その当時の汽車は座席が木製で、それだけでも私たちには珍しかったが、その木製のベンチに座っていたのは、毛皮のえりと肩掛けの付いた長いマントを羽織ったおじさんだった。
そのマントは、私が子供のころ、明治生まれの祖父が愛用していたものとほとんど同じなので、驚いたし、なんだか懐かしかった。
その後ポルトガルに住み始めて、それはアレンテージョ地方の伝統的なマントだと知った。
その汽車は途中で「ドーン」とすごい衝撃を受けて、急停車。
マントのおじさんを先頭に男たちが「それ~」とばかりに線路に降りて、それから30分ほどがやがや騒いでいた。
事故の原因は、子牛が汽車にぶつかってきてはねられたことだった。
そんなハプニングが起きたあと、汽車は無事にエヴォラに到着したのだが、ペンションに入った後、どしゃぶり、雷、稲妻、寒さとともに、震え上がった。
南に下ったら暖かいだろうということで、エヴォラからローカルバスに乗ってアルガルベ地方のファーロに行くことにした。
ところが途中のベージャあたりから雨が激しく降り始め、バスの窓の隙間から雨水が座席に吹き込んできたのにはびっくり。
あわてて窓のカーテンでふさぎ、それでも濡れそうなので他の座席に移動しなければならなかった。
ファーロに着いても雨はますます降った。
町を歩いていて、突然まるで滝の様に大量で大粒の雨が降り出し、何回も雨宿り。
南に行くほどスコールに出会った。
リスボンに戻って泊ったペンションで、私はとうとう風邪を引いてしまった。
そしてオビドスの民宿で熱が出て、地元のお医者さんに診てもらったら、一週間ほど安静にしたほうが良いということで、想定外のオビドス滞在となった。
私と同じように雨降りに逢ったというのに風邪も引かず元気なビトシは、毎日出かけてオビドスの風景を油絵に描いた。
雨が降る回数はかなり減り、私の風邪も少しは回復したが、完全ではない。
オビドスは城壁に囲まれた村なので、日当たりも悪く、部屋は底冷えがするのが原因かもしれない。
大西洋に面したナザレに移動した。
海辺にある宿はからりとして気持ち良く、安くて美味しいシーフードを毎日食べて、数日滞在するうちに、あれだけしつこかった咳や熱もどこかへ吹っ飛んでしまったようだ。
体力も回復して、それから北部の町を旅して回った。
ポルトやブラガンサなどでもかなり降られたが、だんだん雨の回数が少なくなり、1月の最後には晴れ間が続くようになった。
帰国の日まで後3日というころに、毎日晴天になり、帰国当日は真っ青な空に後ろ髪を引かれながら飛行機に乗り込んだ…。
2009年は元旦から嵐。
そして一ヶ月以上も続いた悪天候。
でも足元で春はどんどん進んでいる。
低温の中でも、いつのまにかアーモンド林はうっすらと色づき、日増しに濃いピンクに変化している。
寒さにちじこまっていた鉢植えのラヴェンダーも知らないうちに蕾が出て、ぐんぐん大きくなっている。
昨日は晴れたり曇ったり、時々ザーッと雨が降った。
今日は曇りだが、太陽が顔を出し、気温もかなり上がっている。
1988年と同じように、もうすぐ青空が戻ってくるだろう。
MUZ
2009/01/27
©2009,Mutsuko Takemoto
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(この文は2009年2月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)