ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

066. 水道タンクにソーラーパネル

2018-12-25 | エッセイ

我が家は部屋の向きによって寒暖の差がすごい。
北向きの部屋は冬はまるで冷蔵庫、南向きの居間は一日中ぽかぽかと日が当って気持ちが良い。
南向きのベランダに5リッター入りのペットボトルを並べておくと、太陽の熱でかなりのお湯になる。
夏の間はそれを15本ほどお風呂に入れると、ちょっとの追い炊きですんだ。
寒くなった今は、キッチンの窓辺に一本だけ置いて、お茶用や煮炊きに利用している。
我が家の密かなエコシステムだ。

南向きの窓のすぐ下には、水道局の丸く巨大なタンクがある。
住み始めたころはゴーゴーとひっきりなしに騒音が鳴り響き、かなりうるさかったのだが、そのうち耳が慣れたせいか、機械の性能が良くなったのか、このごろはほとんど気にならない。
以前は24時間、係員が交代で常駐していたのが、いつのまにかいなくなり、今は巨大な水道タンクと無人の事務所があるだけ。

ある日、タンクのあたりから、めずらしく人の声が聞こえてきた。
フェンスの鍵を開け、クルマが2台入ってきて、数人でなにかコンクリート製の細長い土台のようなものをいくつも降ろして、すぐに帰ってしまった。
いったい何が始まるのだろう。

数日経って、ショベルカーがやってきて、コンクリートの土台をひとつずつ水道タンクの平らな屋根に移動し、4人がかりでそれを同じ間隔で平行に並べ、それだけで帰ってしまった。

翌日は段ボール箱をいくつも運び込んでいる。
いったい何だろう?
2人で持ち上げているが、そんなに重たくはなさそう。
箱から出てきたのは小型のパネル。
それをコンクリートの土台に一枚ずつ取り付けた。
取り付けが終わって完成したのはソーラーパネル20枚をつないだ発電装置。
南向きにずらりと並んだ。

ずいぶん簡単にできるものだ…と思っていたら、数日後にショベルカーがまたやって来て今度はタンクの外に深さ1メーターほどの溝を掘り、ソーラーパネルから出ている細いコードをその中に埋めてしまった。
コードの先端は金網のフェンスの所に出たままなので、まだ工事は終わっていないようだ。
でもいったいどこで何のために使うソーラー発電なのか、さっぱり分らない。
水道タンクの設備に使うためなら、わざわざ溝を掘って埋めなくても、そのまますぐに繋げるだろうに…。






水道タンクの前には立派な建物が出来ている。
数年もかけてやっと出来上がったけど、まだ時々工事人が出入りしているところをみると、内装が完成していないようだ。
水道タンクのソーラー発電装置から延びているコードの先は、道路を挟んだ向かいの建物に向っているような感じだが、どうも分らない。

先日マルバオンという村に「栗と新酒の祭り」を見に行った時のこと。
あいにく村中のホテルは満室で、そこから10キロほど離れたカストロ・デ・ヴィデに泊った。
10数年前に泊ったことがあるが、そのころに比べて町はずいぶん変化している。
EUに加盟してからポルトガルは経済の流れが良くなり、どこの町も目をみはるほどぐんぐん変っている。
カストロ・デ・ヴィデにも大きなホテルが2軒も建っていて、その上、町のはずれに立派な屋内プールが出来ていた。
プールの隣の敷地にはかなり大掛かりなソーラー発電設備があり、プールの水を沸かすために稼動中だった。
まだ朝の10時だというのに、温水プールで一人でゆうゆうと泳いでいる姿が窓から見えた。

高速道路にもソーラー設備を見かける。
とても小さなパネルだが、ひとつの道路標識の照明のために電気を発電しているのだ。
さすが太陽の国だ!と感心する。

ポルトガルは各地に風力発電の巨大風車が立ち並び、太陽に向って方向を変える巨大ソーラーシステムや、中型、小型ソーラーシステムが普及し始めている。

ところで日本はどうなっているのだろう?
日本では個人住宅の屋根にソーラーパネルがあるが、それほど普及はしていない。
巨大風車はこのごろぼちぼち設置されているらしいが、まだ身近に見たことがない。

私たちがポルトガルで巨大風車群を初めて目にしたのは、南のアルガルヴェ地方で、数十基も並んでいた。
その風車は日本の三菱製で、設置したのも日本のトーメンという話だった。
10数年も前のことだ。
いまではポルトガル中に設置されているが、残念なことに日本製ではない。

MUZ
2008/11/27

追記
この文章を書いた翌日(11月28日)
大阪ポルトガル協会からポルトガル投資・貿易振興庁(AICEP)のニュースを添付したメールを送って頂いた。
その記事は偶然にも、ポルトガルのエコ政策の内容だったので、あまりにタイムリーで驚いたのだが、それによると、ポルトガルは2020年までに国内使用電力の60%を、風力、太陽光、波力などのクリーンエネルギーで生産する計画だという。

 

©2008,Mutsuko Takemoto
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(この文は2008年12月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

 

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