ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

057. 晩秋のリヨンへ…

2018-12-12 | エッセイ

 毎年、10月末か11月初めごろビトシの展覧会出品のためにパリに行く。
そのときについでに地方を旅することにしている。

 この時期のフランスは紅葉が素晴らしい。
ポルトガルの中部に住んでいると、秋になっても初冬になってもたいして気温が下がらないので、木の葉は薄い黄色からすぐに茶色になって落葉してしまう。

 ところが飛行機でパリの上空にさしかかり、ぐんぐんと降下を始めると、目の前に色とりどりに紅葉した町の風景が迫ってくる。
今回は運よく窓側の席に座ったので、パリの紅葉を上空から満喫できた。
例年だと、たいていどんよりと曇って下界の様子もはっきりしないのだが、今年はすっきりと青空が広がり、紅葉もくっきりしている。

 ドゴール空港からリヨンまでフランスの新幹線TGVに乗ったが、車窓の景色から目が放せない。
牧草の緑と遠くに見える木々の紅葉。
黄色の中に時々燃え上がるような真っ赤な色。
この時期の電車の旅も良いものだ。
 でも私たちの座席は進行方向と逆向きなので、窓の風景を見ていると首が痛くなる。
TGVは車両の真ん中が向き合った4人掛けで、そこから両方向に2人掛けの座席が並んでいる。
ということは、車両の半分は進行方向向き、別の半分は進行方向とは逆に向いている。
座席は固定されているので、逆方向の座席に指定されたらどうも落ち着かない。
そういえば韓国でフランスのTGVを導入したところ、逆方向の座席に座った乗客の多くが気分が悪くなったという。
フランス人は不便を感じないのだろうか?といつも思う。

 



リヨンの古代ローマ劇場跡


 リヨンは大きな町。
河をはさんで小高い丘があり、両方に見所が広がっている。
高い所に行くにはケーブルカーがある。
リスボン市内にも3箇所にケーブルカーがあるのだが、最近乗ったことがない。
リヨンでは2箇所に乗った。
太いワイヤーをウィンウィンと巻き上げながら車両を引っ張るのを見ていると面白い。
でもプラットホームも坂道と同じように傾斜しているから、注意しないといけないと気が付いた。
というのは、後からホームにやって来たベビーカーを押した親子連れ。
ベビーカーの子供を母親が抱き上げたとたんに、ころころとベビーカーは動き出し、危うくホームに落ちるところだった。
ケーブルカーに乗ってもとうぜん車体も斜め。
乗客はほとんど全員足を踏ん張って上を向いている。

 上に着くと朝市が出ていた。
冷たい霧の流れる朝市を歩くと、どっしりと焼きあがった田舎のパンが山盛りに積み上げられて、美味しそう。
それに、八百屋には黒い大根の隣に黒くて細いものが並んでいる。
なんとゴボウだ!
ポルトガルでは見たことがない。
買いたいな~と思ったが、まだ旅は始まったばかりなのです。くっ~。
ところで、キノコの姿がない、セップがない!
いつもこの時期、フランスの朝市にはキノコ類が並んでいるのだが、どうしたのだろう。

 

煤大根と短いゴボウ

 せっかく朝市にばったり出会ったのに、ゆっくり見て回る時間がない。
というのは観光案内所で勧められてシティカード2日間有効というのを買ったのだ。
2日間バスやメトロ乗り放題、美術館なども見放題、そして町の観光ガイドツアーが二回もついている。

 その日は午前と午後と別々のツアーに参加して、町中を歩き回った。
「リヨンはイタリア人の町です。後からフランス人が入ってきて住みついたのです」
ツアーガイドは胸を張って言う。
「イタリア人」と言う意味は、絹織物産業を持ち込んで町を繁栄させたイタリア人なのか、
それともローマ帝国だったころのローマ人を指しているのか、とにかくもともとのリヨン人はフランス人ではないと言う。
リヨンは、パリについでフランスを代表する町だと思っていた私には、以外だった。
 旧市街にはたくさんの「トラブール」という通り抜けがある。
路地から建物の扉を開けると狭い通路があり、真ん中の小さな中庭を通って通路を歩くと裏側の路地に通り抜けできる。
まるでモロッコやアルジェリアのメディナやカスバを思わせる。
リヨンは多様な人種と文化が幾層にも重なった異質な町だ。

 



トラブールから中庭へ

 リヨンの名物料理「クネル」と「サラダリヨネーズ」(リヨン風サラダ)というのがある。
ホテルの近所のレストランでちょうど定食メニューに載っている。夕食はこれに決定。
常連風のじいさんたちがたむろしている大衆的な店だが、ちらりと見えたシェフの姿からセンスを感じたのだ。
7時からレストランが開く。それまで待って出かけた。

「リヨン風サラダ」はしゃきしゃきのサラダ菜の上に細かく刻んで炒めたベーコンを乗せ、
真ん中に半熟卵が乗っている。
この半熟卵が只者ではない。温泉卵風。
まず卵を崩して全体にかき混ぜながら食べる。
とろりとした卵とカリカリのベーコンとパリパリサラダ菜がミックスして、風変わりなサラダ。

 



サラダリヨネーズ

メイン料理の「クネル」
カワカマスをすり身にしてスフレ状に焼いた料理だという。
リヨンの町はソーヌ川とローヌ川のふたつの川に囲まれている。
どちらも川幅が広く、たっぷりとした水量で、かなり深そうだ。
この川で取れるカワカマスだろうか。
出てきた「クネル」は美しかった。
ふわっとした白いものが周りをソースに囲まれて、お皿の真ん中に納まっている。
ソースをからめて食べるとふわふわと広がった。
なんだか日本料理にありそうな、デリケートな料理。
「ミシェランの星付きレストラン」がたくさんある食通の街リヨン。
「名物にうまい物なし」とよく言われるが、こんな大衆レストランでもリヨンの名物料理は満足な味だった。

 



クネル(リヨン名物川カマスのねりもの)

 次の日はあちこちの美術館を訪ねた。
丘の上には古代ローマの劇場跡があり、周りの木々が赤や黄色に紅葉してはっと目が覚めるよう。
隣接する博物館では、静かだった館内で突然騒ぎが起きてびっくりしたのだが、20人ほどのアクターがローマ時代の祭りを演じるパフォーマンスだった。

muz
2007/11/30

©2007,Mutsuko Takemoto
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一切の無断転載はご遠慮下さい
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(この文は2007年12月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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