マグロが減った、減ったとこのごろよく耳にするが…本当だろうか?
というのも、最近セトゥーバルのメルカドではマグロの姿を時々見かけるようになったから…。
それも尾頭付きのドーンと太いまるまるいっぴき!
それまではマグロがど~んといっても、カジキマグロ。
セトゥーバルのメルカドにはマグロ専門店が一軒あるのだが、時々2メートルほどのカジキマグロが入荷する。
初めて目にした時は感動したものだ。
なにしろ日本ではパック詰めの短冊姿のカジキマグロしか目にしたことがなかったのだから。
カジキマグロは鼻の先に1メートルほどの長い鋭い角をつけている。
魚屋は胴体と頭を切り離し、角の付いた頭を台の上に立てて飾る。
壮観な眺めだ。
ところが先日はすごい光景だった。
カジキマグロの角がそびえている横にマグロがど~んと横になっている。
背びれに黄色い色のはいった、丸々と肥えたマグロ。
カジキマグロとマグロがいっしょに並んでいるのは初めてだ。
魚屋はものすごく切れそうな幅広の包丁を手に持って、スパスパーと二枚におろしてしまった。
あんまり手早くて、あっけにとられる。
台のまわりはかなりの人だかり。
骨の付いていない方をさらに縦に割ったあと、いよいよ販売開始!
「さて誰が最初だい?」と言わんばかりに、魚屋は周りのお客を見回す。
ポルトガル人も日本人と似て、マグロが大好きなようだ。
ただし食べ方はまったく違う。
日本人はマグロといったら、刺身か握り寿司しかない。
ところがポルトガル人はマグロをステーキで食べる。
または「カタプラーナ」というポルトガル独特の鍋で、トマトとニンニクで味付けして軽く蒸し煮にする。
南のアルガルヴェ地方の名物料理になっていて、なかなか美味しい。
でもマグロはポルトガルでも高級魚で、キロあたり20ユーロもする。
それでも先を争うように買っている。
幅2センチほどにスライスしたのを数枚注文する。
まるでステーキ肉の買い方だ。
私たちは腹身のトロの部分があったときだけ買う.
トロも中トロも赤みも同じ値段。
でもトロも赤みもいっしょにスライスするので、トロの部分だけ買えるチャンスはめったにない。
魚屋はこちらが口を出す前にさっさとステーキ用にスライスしようとするので、いつも大慌てで「止めてくれ~」とわめくことになる。
魚屋はぎょっと固まってしまう。
「そうそう塊りがいいのよ」と私は優しく言いながら、両手で塊りの大きさを示す。
それでようやく魚屋は理解して、なんにもしないで秤に乗せる。
しかし「何でだ~」と不可解な表情がありあり!
まさか私たちがそのまま生で食べるとは想像もできないだろう。
このごろ日本食の「すし」が話題になっているので、「生で食べる」というのが少しは理解されてきたようだが…。
大西洋に浮かぶ火山島、マデイラはポルトガルの国土だが、地図を見るとモロッコに近い。
いちばん大きな町はフンシャルで、ヨーロッパ各地から観光客が押し寄せるリゾート地だ。
ここのメルカドの地下は魚売り場で、いろいろな珍しい種類の魚が売っているだろうと期待して降りていった。
ところが魚の種類も数も少なくてがっかりしたのだが、同時に仰天した。
あちこちの台の上には大きなマグロがど~んと置いてある!
魚屋は幅広の刀のような包丁とハンマーでまるごと輪切りにしている!
マグロを輪切りですよ!
観光客らしいドイツ人が骨と皮を取り除いた大きな塊りを買っていた。
キッチン付きのホテルに滞在しているのだろう。
私たちも、ワサビと醤油を持ってくればよかった~と後悔したのを思いだす。
セトゥーバルのメルカドではその後もカジキマグロだけだった。
マデイラにあれだけあったマグロはどこに行ったのだろう…。
たまに目にするのはちょっとした塊りだけで、しかもどす黒いので、買う気がしなかった。
ところがこのごろは、マグロがど~んと姿を現わすようになった。
その時は、財布をはたいてマグロの握り寿司ができる。嬉しいことだ!
MUZ 2007/10/30
©2007,Mutsuko Takemoto
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(この文は2007年11月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)