ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

022. ポルトガルの田舎料理

2018-11-08 | エッセイ

 旅していると、お昼時の食事をどうしようかと迷ってしまう。
 どこのレストランでもわりと似たり寄ったりのメニューしかなく、少し飽きてしまった。
 たとえばペイシェ・グリリャード(焼き魚)、フランゴ・アサード(グリルチキンあるいは炭火焼)、豚か牛肉のステーキ、バカリャウ(干しダラ)料理、アロ-ス・デ・マリスコス(魚介類のリゾット)などなど。
 それはそれで美味しいのだが…。
 どこかに、目新しい料理はないかな~。

 このごろ立て続けに南のアルガルベに行く用事があった。
 その行き帰りは幹線をさけて、できるだけ小さな田舎道を通ることにした。
 田舎道といっても平坦な直線道路が多いので、ゆっくりのんびり走ろうと思っていても70~80キロはいつのまにか出ている。
 それに後続車が急に現われてピュ-ンと追い越して行く。
 たぶん100キロ以上は軽く出しているのだろう。

 道路脇に時々レストランを見かける。
 ここは良さそうか、どうかと品定めをする暇もなく、ピュ~ンと通り過ぎてしまう。
 そんなことを何回か繰り返しているうちに、もう1時近くになってしまった。
 T字型の交差点にぶつかった時に、正面に一軒の店があり、駐車場には車がいっぱい停まっているのが目に付いた。
 交差点を右折したところにももう一軒あった。立派な構えの清潔そうなレストランだ。
 最初の店はどちらかというと、食堂風。
 でも停まっている車の数は圧倒的に多い。
 クルマをUターンしてその店に引き返した。

 木蔭のテーブルには村のじいさんたちがたむろして、大声で世間話をしている。
 セルベージャ(ビール)やアグアッペ(二番絞りのワイン)を飲みながら、のんびりとくつろいでいる。
 彼らの前を通って、店の中に入るとカフェになっていて、その横の部屋が食事をするサラ(食堂)だ。
 テーブル席はすでに満席で、外のテラスの席もどこもふさがっている。
 長いテーブルに男が一人だけ座っていた。
 合い席しても良いかと尋ねると、「ここは6人で予約してるからだめだよ」と断られた。
 その時、運良く奥の席が空いた。
 周りのお客たちはトラック野郎か、この近くで工事をしている労働者風、このあたりを回っている納品業者風の人たちばかり。
 駐車場に停まっている車もトラックや商用車がほとんどだった。

 「う~ん、これは期待できるぞ~」
 メニューを見ると、「プラト・ド・ディア」(今日の献立)と、手書きの紙が挟んである。
 これ、これ!
 今まで食べたことの無い料理の名前がそこにあった。
 何々?
 「Feijoada de Buzios」
 「Jardineira」
 何だかよく分らないけど、この両方を注文した。
 さあ、どんな料理が出て来るか楽しみ!

 次は飲物の注文。
 ビトシは車の運転があるから「セルベージャ・シン・アルコール」(ノンアルコールビア)。
 私は運転免許証はいつも持ってるけれど、運転は恐ろしくてできないので、どうどうと、ビーニョ・ダ・カーザ・ブランコ(その店の白ワイン)。
 でも遠慮して、一番小さいバッソ(片手付き壺)入りを頼んだ。
 それでも、グラスに二杯分はある。





 やがてパンとオリーヴの実の塩漬けと飲物が運ばれてきた。
 よく冷えたビーニョがカラカラに乾いた喉に染み渡る。
 どっしりとした田舎風のパンも味がある。
 パンもオリーヴもビーニョの味もその地方、その店によって違うので、それも楽しみのひとつ。
 日本のレストランのように、注文した後、料理を「まだかな、まだかな」と待つことはなく、パンやオリーヴを食べながらゆっくりと待てる。
 でもあんまり食べ過ぎると、メインの料理が入らなくなるから気をつけよう。

 しばらくして料理が次々と運ばれてきた。
 まず、フェジョアーダ・デ・ブッジオ(Feijoada de Buzios)
 うずら豆と巻貝の身の煮込み。
 大きな巻貝の身を小さく切ってある。豆と貝の取り合わせも、日本では見たことがない。豆も貝もとても柔らかく、ふっくらとしている。味はこってりなのに、薄味でとても複雑。真ん中にご飯も添えてある。

 赤いテントの下で写真を撮ったので、料理の色が赤っぽくなってしまった。


Feijoada de Buzios

 次に出てきたのが、ジャルディネイラ(Jardineira)という名前の一皿。
 青い鞘インゲンと豚肉とチョリソ(サラミソーセージ)などの煮込み。これも柔らかくこってり、チョリソの燻製の味がしみている。

 


Jardineira

 どちらもたっぷりの量だったが、二人でどんどん食べて、あらかたなくなった。
 もう客からの注文が途絶えたのか、台所から出てきたおばさんが私たちに「美味しいかね?」と声をかけてきた。
 「もちろん、デリシオーソ(美味しい)!」
 こんな店には東洋人は珍しいらしく、私たちの口に合うかどうか心配だった様子だ。

 我家でもたまに豆の煮込み料理に挑戦するのだが、どうもうまくいかない。
 豆がふっくらとできなくて、べったりと潰れてしまって美味しくない。簡単なようで、難しいものだ。

 田舎の食堂にはポルトガルの家庭料理がひそんでいる。
 そうした店の台所ではそこの主婦か、または近所のおばさん達が料理を作っている。


 今回はポルトガルのお袋の味をたっぷりと楽しめた旅だった。

MUZ

©2004,Mutsuko Takemoto
本ホームページ内に掲載の記事・画像・アニメ・イラスト・写真などは全てオリジナル作品です。一切の無断転載はご遠慮下さい。

 

(この文は2004年7月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに少しずつ移して行こうと思っています。)

 

ポルトガルのえんとつ MUZの部屋 エッセイの本棚へ

 

 


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« K.036. 17世紀模様丸型蓋物 ... | トップ | 023. 青い家 »
最新の画像もっと見る

エッセイ」カテゴリの最新記事