旅していると、お昼時の食事をどうしようかと迷ってしまう。
どこのレストランでもわりと似たり寄ったりのメニューしかなく、少し飽きてしまった。
たとえばペイシェ・グリリャード(焼き魚)、フランゴ・アサード(グリルチキンあるいは炭火焼)、豚か牛肉のステーキ、バカリャウ(干しダラ)料理、アロ-ス・デ・マリスコス(魚介類のリゾット)などなど。
それはそれで美味しいのだが…。
どこかに、目新しい料理はないかな~。
このごろ立て続けに南のアルガルベに行く用事があった。
その行き帰りは幹線をさけて、できるだけ小さな田舎道を通ることにした。
田舎道といっても平坦な直線道路が多いので、ゆっくりのんびり走ろうと思っていても70~80キロはいつのまにか出ている。
それに後続車が急に現われてピュ-ンと追い越して行く。
たぶん100キロ以上は軽く出しているのだろう。
道路脇に時々レストランを見かける。
ここは良さそうか、どうかと品定めをする暇もなく、ピュ~ンと通り過ぎてしまう。
そんなことを何回か繰り返しているうちに、もう1時近くになってしまった。
T字型の交差点にぶつかった時に、正面に一軒の店があり、駐車場には車がいっぱい停まっているのが目に付いた。
交差点を右折したところにももう一軒あった。立派な構えの清潔そうなレストランだ。
最初の店はどちらかというと、食堂風。
でも停まっている車の数は圧倒的に多い。
クルマをUターンしてその店に引き返した。
木蔭のテーブルには村のじいさんたちがたむろして、大声で世間話をしている。
セルベージャ(ビール)やアグアッペ(二番絞りのワイン)を飲みながら、のんびりとくつろいでいる。
彼らの前を通って、店の中に入るとカフェになっていて、その横の部屋が食事をするサラ(食堂)だ。
テーブル席はすでに満席で、外のテラスの席もどこもふさがっている。
長いテーブルに男が一人だけ座っていた。
合い席しても良いかと尋ねると、「ここは6人で予約してるからだめだよ」と断られた。
その時、運良く奥の席が空いた。
周りのお客たちはトラック野郎か、この近くで工事をしている労働者風、このあたりを回っている納品業者風の人たちばかり。
駐車場に停まっている車もトラックや商用車がほとんどだった。
「う~ん、これは期待できるぞ~」
メニューを見ると、「プラト・ド・ディア」(今日の献立)と、手書きの紙が挟んである。
これ、これ!
今まで食べたことの無い料理の名前がそこにあった。
何々?
「Feijoada de Buzios」
「Jardineira」
何だかよく分らないけど、この両方を注文した。
さあ、どんな料理が出て来るか楽しみ!
次は飲物の注文。
ビトシは車の運転があるから「セルベージャ・シン・アルコール」(ノンアルコールビア)。
私は運転免許証はいつも持ってるけれど、運転は恐ろしくてできないので、どうどうと、ビーニョ・ダ・カーザ・ブランコ(その店の白ワイン)。
でも遠慮して、一番小さいバッソ(片手付き壺)入りを頼んだ。
それでも、グラスに二杯分はある。
やがてパンとオリーヴの実の塩漬けと飲物が運ばれてきた。
よく冷えたビーニョがカラカラに乾いた喉に染み渡る。
どっしりとした田舎風のパンも味がある。
パンもオリーヴもビーニョの味もその地方、その店によって違うので、それも楽しみのひとつ。
日本のレストランのように、注文した後、料理を「まだかな、まだかな」と待つことはなく、パンやオリーヴを食べながらゆっくりと待てる。
でもあんまり食べ過ぎると、メインの料理が入らなくなるから気をつけよう。
しばらくして料理が次々と運ばれてきた。
まず、フェジョアーダ・デ・ブッジオ(Feijoada de Buzios)
うずら豆と巻貝の身の煮込み。
大きな巻貝の身を小さく切ってある。豆と貝の取り合わせも、日本では見たことがない。豆も貝もとても柔らかく、ふっくらとしている。味はこってりなのに、薄味でとても複雑。真ん中にご飯も添えてある。
赤いテントの下で写真を撮ったので、料理の色が赤っぽくなってしまった。
Feijoada de Buzios
次に出てきたのが、ジャルディネイラ(Jardineira)という名前の一皿。
青い鞘インゲンと豚肉とチョリソ(サラミソーセージ)などの煮込み。これも柔らかくこってり、チョリソの燻製の味がしみている。
Jardineira
どちらもたっぷりの量だったが、二人でどんどん食べて、あらかたなくなった。
もう客からの注文が途絶えたのか、台所から出てきたおばさんが私たちに「美味しいかね?」と声をかけてきた。
「もちろん、デリシオーソ(美味しい)!」
こんな店には東洋人は珍しいらしく、私たちの口に合うかどうか心配だった様子だ。
我家でもたまに豆の煮込み料理に挑戦するのだが、どうもうまくいかない。
豆がふっくらとできなくて、べったりと潰れてしまって美味しくない。簡単なようで、難しいものだ。
田舎の食堂にはポルトガルの家庭料理がひそんでいる。
そうした店の台所ではそこの主婦か、または近所のおばさん達が料理を作っている。
今回はポルトガルのお袋の味をたっぷりと楽しめた旅だった。
MUZ
©2004,Mutsuko Takemoto
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(この文は2004年7月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに少しずつ移して行こうと思っています。)