ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

054. 北の町のガストロノミア 旅の途中、北の町でガストロノミアに出会った!

2018-12-10 | エッセイ

 ポルトガルの夏は全国各地で様々な祭りが催される。

私たちもどこかの祭りのニュースを耳にすると、「それー」とばかりに家を飛び出す。
 今年も8月17日から始まるヴィアナ・ド・カステロの「ロマリア祭り」に出かけることにした。
ヴィアナ・ド・カステロまでは350キロもあり、高速道路を飛ばしても5時間以上もかかる。
しかもホテルを予約しようとしても、祭りの間4日間はどこも満室とのこと。
ホテルがないとどうしようもないので、行くのをやめようかと思ったが、どこか途中の町で一泊することにして、出かけた。

 途中で一泊する候補地は「ヴィラ・ド・コンデ」直訳すると、「伯爵の村」どんなところだろうか…
ヴィアナ・ド・カステロまで約40キロ手前にある、海に面した町。
地図には海水浴場のマークがたくさん記されているから、たぶんビーチ沿いにホテルが何軒もあるだろう…と期待した。

 




 高速道路を降りて、町の入り口でいきなり目に飛び込んできたのは、石造りの巨大な水道橋!
遠目には完全な形に見えるけれど、近寄ると石はかなり風化していて、いつの時代の建造物か判らない。
地図を見ても見所のマークも何もついていない町なのに、こんな遺跡があるのだ~。

 道路標識に従って走るとプライア(ビーチ)に出た。
プライア沿いの遊歩道はたくさんの人々が散歩したり、ジョギングをしている。
これだけ人が多いのに、プライア沿いにはホテルの一軒も見当たらないのは不思議。
当然数件の宿があるだろうと思っていたのが、みごとに外れた。
しかたなく次はセントロ(町の中心)らしき所を走ったが、そこもホテルの看板はひとつも目につかない。
大きな公園には人がいっぱい。クルマもいっぱい。
 やっと駐車スペースを見つけ、クルマから降りて宿を探すことにした。
観光案内所も見当たらないので、ちょうど入り口が開いていた不動産屋に飛び込んで近くにホテルがあるかどうか尋ねた。
ちょっと行ったところにホテルが一軒あるというので、そこに行くとやっと一部屋空いていた。
これで一安心!

 部屋のベランダから町の家並みが見え、その間に大聖堂の尖塔がそびえている。
ホテルのフロントで町の地図をもらい、見所をたずねると、ホテルの周り一体が旧市街だという。
このホテル自体もそうとう由緒のある屋敷だったようで、バーとして使われている広いサロンには古い肖像画やアンティクの品が飾ってある。

 旧市街を歩き回っていると、河口に出た。
そこには昔の木造船が一艘、再現されて水に浮かんでいた。
昔はこれと同じ木造帆船でインドまで航海したそうだ。
すぐそばの博物館には、この帆船を作る工程が詳しく展示してあって興味深かった。

 





 旧市街を歩き回ったあと、夕食は海岸通りあたりで…とプライア(ビーチ)に向かって歩いていった。
さきほどクルマを停めた公園のところに、登り旗がゆれている。
さっきは木の陰に隠れて見えなかったが、特設のゲートが作られ、テント張りの仮設レストランも数軒ある。
開店準備も終わり、お客の来るのを待っている様子。

この近辺の町や村の特産品販売と郷土料理を食べさせる祭り「ガストロミア」が開かれているのだ。
「ガストロノミア」とは「うまい物市」とでも訳せばよいかもしれない。

 こんなチャンスはめったにない!
TVのニュースでは「~で昨日ガストロミア祭りが開催されまして~」と時々やっているが、ほとんど「昨日ありました~」とか「今日ありました~」というニュースだから、それを見てから出かけても後の祭り。
だからなかなか地方のガストロノミア祭りは体験できなかった。
今夜は絶好の機会である。

 ゲートをくぐると、両側に出店がずらりとある。
地元の様々なお菓子、お菓子、どれも甘そう!
隣はもっと甘い蜂蜜屋。
チョリッソやプレスント(生ハム)、地元のどっしり田舎パンや菓子パンを売る店。
試食できるように小さく切ったものを小皿に入れて出している所もある。
私たちも試食のプレスントを一切れ頂いた。
塩加減もほどよく、まったりとした味。

 ビーニョ(ワイン)の仮設スタンドには一風変った服装をした人々が集まっている。
長いマントを羽織り、幅広つばさや背高帽子を深々と被って、胸にはメダルを下げている。
去年パルメラのヴィンディマシュ(ぶどう祭り)に行った時、葡萄の糖度を審査する人々が着ていた服装と同じだ。
大きなワイングラスを片手に持って、盛んに利き酒をしている。
もう今年のビーニョができたのだろうか…。

 




 出店はずーっと奥までびっしりと並び、突き当りの広場には生ビールやビーニョを売る店、簡単なつまみの一品料理もある。
目の前でフライにしたり、炒めたり、なかなか美味しそう。
でも人だかりが多くて、注文するのが大変。
わりとすいている店に行くと、たった今できあがった煮込み料理を店先にだしているところだ。
熱々の湯気がしゅうしゅうと立ち込めて、美味そう!
料理は2種類あり、ひとつは豚肉の煮込みで、もうひとつはジャヴァリの煮込み。
ジャヴァリ!
イノシシだ!
こんなところでジャヴァリ料理に出会うなんて~。
今年の干支はイノシシだから、これも何かのめぐり合わせ。
セトゥーバルのレストランでジャヴァリ料理なんて見たことがない!
これはぜひ食べなくては~。

 

ジャヴァリ(いのしし)の煮込み

 

ポルコ(豚肉)と血入りソーセージの煮込み

 ジャヴァリの煮込みと豚の煮込みを注文した。
目の前に出された料理を見て、後ろに並んだポルトガル人がその皿を指差して、「ケ、イスト?」(これは何)と不思議そうにビトシに聞く。
「ジャヴァリ~」
ポルトガル人にも珍しい料理らしい。

 飲み物は他の店から買ってくる。
ソッパ専門の店で、ソッパ・デ・アボボーラ(かぼちゃのスープ)とソッパ・デ・ぺドラ(石のスープ)も買って、広場の真ん中にあるテーブル席に運ぶ。
すべてセルフサービス。

 

ソッパ・デ・ペードラ


ソッパ・デ・ぺドラは数種類のくず肉と豆や野菜がたっぷり入ってヴォリューム満点。
ジャヴァリ料理はたぶん赤ワインでじっくり煮込んであるのだろう。
臭みもまったくなく、ほろりと柔らか…美味。

生ビールも良く冷えて旨い。
地元のお客が私たちに「そのビールはどこの出店で売ってるの?」と尋ねてきた。
彼女もジャヴァリの一皿を手に持っていた。

旅の途中、北の町で「ガストロミア」とジャヴァリ料理に出会った~一日でした。

MUZ
(2007/08/29)


©2007,Mutsuko Takemoto
本ホームページ内に掲載の記事・画像・アニメ・イラスト・写真などは全てオリジナル作品です。一切の無断転載はご遠慮下さい
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(この文は2007年8月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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