ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

046. 月下美人レシピ

2018-12-02 | エッセイ


 我が家のベランダは南側と北側にひとつずつある。
 日当りの良い南側のベランダは椅子を出してコーヒーを飲んだりするので、他の物は何も置かないようにしている。
 椅子をふたつと小さなテーブルを並べるともう余裕がなくなる。
 そんな狭いベランダでも以前はゼラニュームのプランターを手すりに飾ったり、小ネギや青紫蘇を育てていたが、虫がついたりして、いつの間にかやめてしまった。

 そんな中で今までずっと生き残ってきたのが、ニラと「月下美人」。
 「月下美人」はたしか9年ほど前、わずか20センチほどの挿し木苗をもらったもの。
 それからほそぼそ、ホソボソと北向きのベランダでけなげに生きている。
 私たちが日本に帰国している間は水もないので、二ヶ月後に帰宅した時はカラカラに干からびて、気の毒なほど傷んでいる。
 でもさすがはサボテン、回復力はすごい!
 水やりを始めてしばらくすると、葉っぱがしゃんとして、いつの間にか新芽が付いている。
 あちこちから軟らかい新葉がぐんぐん伸びてくるので、あんまり大きく伸びないように、ところどころ摘み取ってしまう。
 すると古い葉っぱにプチッと針の先ほどの小さな花芽が付く。
 葉っぱの芽は平たいが、花芽は立体的なのですぐにわかる。

 過酷な環境で必死に耐えて、”やっと水が飲めた、元気をだして葉っぱを伸ばそう~”と葉芽を出したとたんに摘み取られた月下美人は、危機を感じて、「子孫を残さなくちゃ~」と思って花芽を付けるのだろうか!

 今年もポルトガルに帰ってきてしばらく経って、花が2個咲いた。
 そして9月の末に今度は6個の花芽がついた。
 一年に二度も咲くのはめずらしい。
 「月下美人」はすごい危機感を持ったのだろうか。
 でも今から気温が低くなるからたぶん蕾は育たないだろうな~。

 ところが蕾はぐんぐん大きくなってきたので、慌てて南側のベランダに移動した。
 なにしろ北側は下からの強風が吹き上げてくるし、日当りが良くない。
 ところが南側に移動したとたんに天気が崩れて、毎日の様に強風と大雨、そして雷まで鳴り出した。
 「月下美人」は手すりにヒモでくくりつけてあるので、鉢が倒れることはないが、蕾がぐらぐらと風に揺さぶられている。
 雨の止み間に鉢を抱えて部屋の中に入れたのだが、風に吹かれるよりももっと激しく揺らしてしまった。
 でも蕾は全部無事で、数日かけてふくふくとゆっくり膨らんでほのかに色づいてきた。
 6個の蕾は少し大きさが違うので、2日ぐらいに分かれて咲くのだろう、その方が少しでも長く花を楽しめるのでいいな~と思っていたのだが、だんだん同じような大きさになってきて、全部がいっぺんに開く感じになってきた。

 蕾のついた軸がぐーんと持ち上がっている。
 いよいよ咲くか!今夜か?
 8時過ぎ、蕾の先がぽわっと割れて、わずかずつ開き始めた。
 そして10時過ぎ、全部の蕾がいっせいに満開になり、部屋中に甘い香りが漂っている。
 薄いホワイトピンクの豪華な花が咲きほこる様子はなんともいえない!
 でもわずか数時間で萎んでしまう~。
 それが「月下美人」と名付けられた由縁なのだろう。

 




 でも目で楽しんだ後は、舌で楽しもう!
 次の日は萎んだ花を料理します。

 花を細く裂いて甘酢で和えれば、とろとろとねばりのあるサクサクの酢の物が出来上がり。
 または、花ごと衣を付けて天ぷらにしても美味。
 匂いもくせもいっさいなく、美味しい逸品が出来上がり。
 このところ毎年、花を楽しんだ後は、料理をして、丸ごと楽しんでいます。
MUZ

 

月下美人の料理レシピ
 どれも素材を生かした、和えるだけといった簡単料理で、レシピと言うほどのものではありませんが、花が終った後をそのままにしておくと樹勢にも悪影響します。
 切り取ったら捨てないで食べることをお勧めする逸品です。
 花が大きいので僅か1輪でも充分2人前はあります。

 

 

 花が咲いた翌朝、すっかり萎んでいる。花の付け根の葉を左手で持ち、右手で花茎を軽くねじると簡単にはずれる。ハサミなどは使わない方が「月下美人」に対してやさしい。

 

  流水で軽く洗ってほこりを落す。

 

 花茎と花びらを切り分ける。雄しべも雌しべもすべて使う。

 

月下美人「花びらの酢の物」
 花びらと花ガクとを縦に裂き、雄しべ雌しべも一緒に三杯酢で和える。まるでオクラのようにねばねばになる。器 サン・ペドロ窯の絵小皿

 

月下美人「花びらのマヨネーズ和え」
 花びらと花ガクを縦に裂き、雄しべ雌しべも一緒にマヨネーズで和える。できたら自家製のマヨネーズを使うと最高!

 

月下美人「花びらの天ぷら」
 水気を拭き取り、花を真ん中から手で裂き四等分して、それぞれに衣を付けて広げるようにして揚げる。器 サン・ペドロ窯の中絵皿

 

 

月下美人「花茎の胡麻醤油和え」(左)
 花茎を小口切りにして、醤油をたらして納豆を混ぜるようにかき回すと、まるで納豆そっくりのねばねばになる。小皿に盛り付けて胡麻をふる。酒のつまみにも良し、あったかご飯にかけても美味しい。
月下美人「花茎のマスタード和え」(右)
 花茎を3センチほどの長さに切り分け、縦に千切りにし、マスタードで和える。これもねばねばとサクサク感が楽しめる。器 カルダス・ダ・ライーニャ ボルタロ工房

MUZ

©2006,Mutsuko Takemoto

本ホームページ内に掲載の記事・画像・アニメ・イラスト・写真などは全てオリジナル作品です。一切の無断転載はご遠慮下さい
Copyright Editions Ilyfunet,All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.

 

(この文は2006年8月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

ポルトガルのえんとつ MUZの部屋 エッセイの本棚へ

 

 

 


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« K.060. アズレージョ工房の... | トップ | 047. フォンテーヌブローの朝市 »
最新の画像もっと見る

エッセイ」カテゴリの最新記事