ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

047. フォンテーヌブローの朝市

2018-12-03 | エッセイ

 

 パリ近郊、フォンテーヌブローのホテルには結局3泊することにした。
インターネットで部屋の写真と値段を見て予約をしたのだが、ホテルにたどり着いて外から見たら、窓枠のペンキが剥げかけて、いかにも古そうなので思わず腰が引けた。
でもポルトガルから一泊の予約を入れてあるから、逃げるわけにいかない。
 ホテルは家族経営で、どこかしらポルトガル人的な感じが親しみが持てる。
3階の部屋に上がるラセン階段はなんとなく傾いでいてちょっとふら~となるが、レトロな感じだ。
部屋は広く、天井も高いし、掃除も行き届いているし、熱いお湯の出る大きなバスタブでゆっくり温まれる。
なにしろポルトガルに比べてパリ周辺の気温は10度以上も低いので、外を歩くと身体の芯からキーンと冷えるから、風呂が付いているのが最低条件。
予定ではレンタカーを借りて周りの町や村を訪ね、良さそうなホテルがあったらそこで泊るつもりで、二軒のレンタカー屋を訪ねたが、どちらも翌日は車の空きがないという。
仕方がないので明後日の車の予約をし、ホテルに帰って延泊を予約した。

 翌日は予定がくるったので電車で、シスレーが長年住んで描いた町、モレ・シュル・ロワンに行くことになった。
しかしバス停で駅行きのバスを待ってもなかなか来ないので、歩くことにした。
昨日バスに乗った感じでは、歩いてもそんなにかからないだろう、と出発したのだが…。
バス停から2分も歩かないうちに朝市を発見して、寄り道をすることになった。

 

買物客で賑うフォンテーヌブローの朝市

 

朝市の小間物屋


昨日車がいっぱい停まっていた広場が、今朝は一変して、大規模な朝市が出ている。

フランスの朝市を見て歩くのは大好きだ。
何処の町でも、どの店でも飾りつけが凝っている。
どうしてこんなにセンスが良いのかと、いつも不思議に思う。
売っている人たちの顔を見ると、ほんとに普通のおじさんやおばさん達なのに、商品の並べ方はデザイン的でしかもどこかに遊び心を感じる。
長い年月、代々受け継がれた伝統的美のセンスというものだろうか。

 



積み重ねられたバラの花束、20本入り10ユーロ

 フォンテーヌブローの朝市を歩いて、花屋の店先では目を見張った。
きれいな花を並べてあるのだから美しいのは当たり前なのだが、陳列の仕方が当たり前じゃない!
たとえばバラの花は台の上に寝かせて上から上から乗せて山積みにしてある。
花の色が少しづつ違うので、全体になるとなんとも言えない豪華なハーモニー。
こんなに積み重ねたら、いちばん下になっている花は重みで駄目になりそう!と心配になる。
でもそこはプロだから、無雑作に見えてもちゃんと計算した積み方をしてあるのだろう。

 

チューリップの花束

 

生け花用の唐がらし


小さなチューリップの花束もみごとに山積み、観賞用の唐辛子の束もなにげなく置いたという感じで飾ってある。
そして日本でもお正月の生け花に使う葉牡丹、それを改良したミニチュア葉牡丹を目にした時は驚いた。
あのたくましい葉牡丹からすっかり変身して、10センチほどの可愛らしい花になっている。

 

ホワイトピンクと赤紫のまるでバラの花のようなミニ葉ボタン

 

数種類並んだキノコ、手前がセップ

 

八百屋の店先には数種類のキノコが並んでいる。
その中心は高級茸セップ。
でもこの朝市のセップは虫食いの穴があったり、なんとなくぶよっとしていたりで、
いかにも地取れ…という感じ。
フォンテーヌブローは深い森の中にある。
このセップは今朝、町外れの森にちょっと入って取ってきたのではないだろうか…と思ってしまった。
私も森に入ってキノコ取りをしてみたい!
この町には「貸し自転車屋」があるそうだから、自転車を借りて森の中に入り、キノコを探すのもいいな~。
でも見知らぬ冬の森に入るのは道に迷う危険性がある。
それに考えてみると自転車を借りたとしても、はたして私の足はぺダルに届くのだろうか?
やっぱりキノコは朝市で姿を拝見するだけにしよう!

ユニークすぎるカボチャたち

 

 

真ん中の籠に入っているのは珍しい形や色のミニカボチャ


魚売場はわりと地味な感じだ。
魚の鮮度は良さそうだが、種類が少ないので全体に活気がない。
それでも魚屋は遊びセンスを多いに発揮して、氷を敷きつめた台の上を海に見立てて、
魚を立てたり、くねらしたり、青い海の色を表現するために青いビニール袋を魚にからめたりと、すごい努力をしている。
でもなにしろ魚の数が少ないので、鮭の燻製とか、なんだか日本の薩摩揚げに良く似た物が入った木箱も並んでいた。

 

真ん中が小さなアンコウ、左奥に薩摩揚げ風の箱入り


市場の奥には肉売場やチーズやソーセージなどの店が並んでいる。
その一角にシュウシュウと温かい湯気の立っている場所がある。
「シュクルート」の出来立てを売っているのだ。
キャベツが大量に取れた時に塩漬けにしておいて、醗酵したキャベツの漬物と数種類のソーセージやベーコンとを一緒に煮込んだ料理で、材料はすべて保存食であり、長い冬を乗り切る食べ物としてはもってこいだ。
もともとドイツ料理らしいが、ドイツと国境を接するフランスのアルザスロレーヌ地方の名物料理でもある。

先日、日本のニュースで、大根と白菜が豊作で値段が安くなりすぎる…という理由で、
みごとに育った畑の大根をトラクターで踏み潰す場面が写った。
私は思わず目を疑った。
生産者の顔は一応残念そうだが、悲壮感も怒りもない!
どうしてなのだろう?
たぶん何かの補助金が出るのかもしれない。
作物が出来すぎたら、余ったものを加工して保存食を作るという知恵が日本にもあったはずなのに、
暴力的に叩き潰して捨ててしまうことが、今は当たり前のようになっている。
そこからは何の工夫も知恵も生まれず、新しい文化も開かれないだろう。
こんなことをしている日本は大丈夫だろうか…。

物を大切にしている証拠をフォンテーヌブローの朝市で見た。
朝市の一角で椅子の張替え修理をやっている。
ふつう修理屋というと、やせた老人がうつむいてこつこつと手を動かしている様子を思い浮かべるだろうが、
ぜ~んぜん違った!
すらっと背の高い、しかも若くてハンサムな青年が、なんと椅子の修理をしている。
座る部分が編み込みの椅子で、古くなった網ヒモを取って、新しいヒモを椅子の穴に通しながら編んでいく。
我が家のロッキングチェアーも編み紐が擦り切れたので、ヒモを買って自分たちで編んだことがあるが、とても面倒な作業だった。
それと同じような修理をやっているのだが、紺のオーバーコートの衿を立ててすっくと立ち、台に乗せた椅子の穴にシュッとすばやく通していく動きはかっこいい!
椅子の修理屋にはとても見えない。
おもわず写真を取ってもいいかと声をかけてしまった。

 



編み込み椅子の修理屋さん

フォンテーヌブローの朝市を楽しんだ後、いよいよ駅を目ざして歩き始めた。
駅は隣の町アヴォンにしかない。
昨日バスの窓から見たアヴォンの郵便局がなかなか見えない。
歩いても歩いても駅は遠く、途中でバスが二台も追い越して行った。
20分以上歩いてやっと駅に着いたら、すぐに電車が来た。
電車に乗って10分、モレ・シュル・ロアンの駅は見過ごしてしまいそうなひなびた駅。
駅から町まではバスも何もなく、歩くしかない。
しかたなくとことこと歩き始めた。
やはり田舎の小さな町や村を訪ねるには車が必要だ!
MUZ
2006/11/29


©2006,Mutsuko Takemoto
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(この文は2006年8月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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