この頃は天候が目まぐるしく変わる。特に今年はなんだかひどく変化する。
二月の初め、それまで数日降り続いた雨が止み、久しぶりの快晴になった。
いったん晴れると、太陽の陽射しはかなり強い。
嬉しくなってビーチに行ってみた。
なにしろ家に閉じこもっていたので、砂浜を歩いて少しでも運動不足を解消しよう、ついでに太陽を浴びながら冷たいビールを楽しもう…という魂胆があった。
驚いたことにビーチはかなりの人出だった。
愚図ついた天気が続いたあとの久しぶりの晴れ間、思うことは皆同じですね。
このビーチは町からクルマで15分ほどの距離だし、カフェレストランも一軒あり、冬の間でも営業している。
人々は砂浜に寝そべったり、上半身裸になって持参したイスに腰掛けて本や雑誌を読んだり、思い思いに冬の太陽を楽しんでいる。
私たちも砂浜に座り、上着を脱いだ。でもセーターを脱ぐほどの暑さではない。しかも夕方。
ところが、ちょっと離れたところにいた十代の女の子二人は、水着になり、キャーキャー言いながら恐る恐ると海の中に入っていった。
ポルトガルの海水は夏でも冷たい。10分も浸かっていたら身体が冷える。
まして今は冬。それなのに彼女たちはいつまでも海の中ではしゃいでいた。
こんな光景を見て、いつも思うのだが、ポルトガル人は老いも若きもこぞって海に出かける。
若いスマートな人も、中年や老年の、まるで小錦みたいにでっぷり太った人々も砂浜に寝そべっている。
日本人は四方を海に囲まれた島国に暮らしているのに、ポルトガル人ほどは海に行かないような気がする。
海に行くのは若者や、小さい子供のいる家族が多い。
自分のことを考えてみても、大人になってから海に泳ぎに行った記憶がない。
でもポルトガルに住んで、私たちも毎夏、少なくとも数回は海に泳ぎに行っている。
そこでは若者や家族連れがもちろん多いが、老人たちも夫婦連れや、一人で来ている人もけっこういる。
日本のビーチでは老人だけの姿はほとんど見かけない。
太陽を浴びて、冬になっても風邪を引かないようにきたえるのが目的だろうか…とも思うが、それは日本人の考え方であって、ポルトガル人にとっては少し違う、なにか宗教上の意味があるのかもしれない。
カソリックのことは全然知識がないが、海で洗礼をする儀式を見たことがある。
老若男女みんなこぞって海に出かけるのは、それと関係があるのかもしれない。
好んでビーチに出かけるわりに、ポルトガル人は太陽の陽射しをものすごく嫌う。
バスに乗っていても陽が当り始めるとすぐにサッと窓のカーテンを閉めてしまう。
ひどい時は、後の席の人が前の席に座っている私の窓までカーテンを引っ張ることもあった。
前からの陽差しが自分に当るから…という理由で。
太陽を浴びていい気分で窓からの景色を楽しんでいた私は、窓をカーテンで閉ざされてむかーっ。
ポルトガルに来た当事、不動産屋に案内されて部屋探しをしたことがある。
それまで借りていた家が百年以上も前に建てられたもので、ある日突然、風呂場や台所の天井が次々に崩れ落ちてきた。
歴史的な古い家でのレトロな生活を楽しんでいた私たちも、さすがに身の危険を感じて、どこかに引っ越そうと思ったのだ。
ところが貸し部屋として見せてくれるのはことごとく西向きか北向きの部屋ばかり。
「南向きの部屋を見せて欲しいけど…」と言うと、不動産屋の若い女性は「どうしてそんなことを言うの?」と不思議そうな顔で、『まったく変なことを言う客だ!』と言わんばかり。
その後あちこちの家やマンションを観察すると、西向きに建てられたものがとても多いことに気がついた。
どうしてだか解らない! いまだに理解できない。
幸い私たちが今住んでいるのは南向きのマンションである。
といっても居間とキッチンが南向きで、アトリエに使っている部屋と寝室は北向き。
北向きの部屋は夏は温室、冬になるとまるで冷蔵庫のように冷える。
マンションの階段が建物の中央に付いているので、階段を挟んで二家族が各階に住んでいる。
だからどの家にも南向きと北向きの部屋がある。
ある時、我家にポルトガル人のお客さんが来た。
太陽がさんさんと当っている南向きの居間で、彼は不思議そうにこう言った。
「どうしてこんな南向きの家に住んでるの?暑くて堪らないだろうに…」
我家は確かに夏は暑い。マンションの最上階で東の端っこなので、屋根からの熱と東側の壁に溜まった熱とで部屋が暑くなる。
でも暑くて堪らないのは夏の10日間ほどで、それが過ぎると爽やかな風が通る。
クーラーもいらないし、扇風機もあまり使わない。
冬は太陽の陽射しが部屋の奥まで入り、とても暖かい。
やっぱり南向きが最高に暮らしやすいと思うのだが…。
二月も末になった。
全国各地でカーニバルのパレードをやっている。
ブラジルのリオのカーニバルの影響のせいか、ポルトガルでも毎年派手になり、女性の露出度も激しくなっている。
ゴリラのように胸毛の生えたむくつけき男たちも厚化粧で女装して、これも露出度がえげつない。
カーニバルが始まったとたん、あいにく大雨と強風になり、気温もひどく低くなった。
それにも負けず、どこの町でも大騒ぎ。
リオは夏だが、ポルトガルは冬の真っ最中なのに、雨の中、ほとんど裸の格好で踊っている。
同じころ、セラ・デ・エストレーラでは連日大雪が降り、記録的な積雪になり除雪作業に追われている。
車がひどく渋滞して、人々は雪の中で数時間も車の中に閉じ込められたという。
それでも大雪が珍しくて、カ-二バルの連休を利用して、リスボンあたりから大勢の人々が詰め掛けている。
海岸沿いの町では裸のカーニバル、山沿いでは雪合戦!
この寒さと雨が通り過ぎたら、またからりと晴れた初夏のような一日がちょっとの間、来ることだろう。
そうしたらまたビーチに出かけよう。
MUZ
©2004,Mutsuko Takemoto
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(この文は2004年3月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに少しずつ移して行こうと思っています。)