ポルトガルでは6月、7月、8月と雨がほとんど降ることがない。
道ばたや空地、牧場などは乾燥と高温であたり一面、薄茶色の枯れ野原になってしまう。
しかし8月の末になると、ある日突然ゴロゴロと雷が鳴り出し、雨がザーッと降り始める。
乾期が終わりを告げ、雨期が始まったのである。
するとそれまでカラカラだった石畳の目地の砂に小さな緑が芽生え、それから一雨ごとに枯れ草の中から青い草が息を吹き返す。
なんだか日本の春先のようにぐんぐんと育っていく。
このごろようやく「そんなものかな…」と納得できるようになったが、初めはかなり戸惑った。
まるで日本と反対なのだ。
日本だと夏の間、旺盛に繁っていた草むらが秋になるとだんだん枯れ果てて、黄色い枯れ野原になってしまう。
ところがポルトガルでは反対に、それまで枯れ野原だったところがどんどんと緑豊かな草原になっていく。
ポルトガルの秋は春と共にやって来るようだ。
8月末から9月の初め、葡萄の収穫とワインの仕込みが終り、最初の一雨がくると、農家はいっせいにブルドーザーで畑を耕し始める。
カチカチだった畑の土は深く掘り起こされて、種蒔きの準備で忙しそう。
気候も目まぐるしく変る。
晴れた日だと真夏に逆戻りで、半そでに短パン姿でちょうどいい。
その気になるとビーチに寝そべって日光浴までできてしまう。
ところがいったん曇ると、急に肌寒くなり、雨の日などは家の中は底冷えがして、あわててヒーターなどを納戸から引っ張り出してくることになる。
家の中と外ではずいぶん温度差がある。だからこの季節の外出は服装にいつも失敗してしまう。
ちょっと肌寒いかな…と思って上着を着て出ると、外は案外暖かくて汗だくになったり。
他の人を見ると、しっかり上着を着ている人もいるし、まるで真夏のようにタンクトップ姿の人もいて、さすがにこれにはびっくりする。
人さまざまなのだ。
それでもやはり、秋の気配はしだいに色の濃さを増していく。
街路樹の葉はいつのまにか黄色くなり、葡萄畑も少し赤く紅葉する。
その下には緑の草が勢いよく成長している。そんなところに秋と春が同居しているのを感じる。
秋の気配は町角からもやって来る。
10月になるとどこからともなく煙が漂ってくる。
煙につられて角を曲ると、そこに煙の正体を発見する。
夏の間アイスキャンデーを売っていたのが、秋の声を聞き分けて焼き栗屋に変身したのだ。
パチパチと炭火のはぜる音、つやつやと光る栗の実。
焼き栗屋のセニョールが栗の実をひとつずつ手にとり、小刀で切り目をいれる。
それを粗塩といっしょに素焼きの釜に投げ込んで、下から炭火で焼く。
まるで日本の焼き芋屋の屋台みたいだ。
焼きあがった栗は一人前12個。
それを電話帳を破ってくるりと筒状にした紙の中に入れてくれる。
公園のベンチに座って焼き栗の皮をむくと、中から黄色い粒がほっこりと顔を出す。
時には虫食いだったりして、そんな時はがっかりしてしまう。
メルカドやスーパーの店先にも生の栗が並びだす。
これは一キロが300円ほど。二人で食べて一週間はある。
家庭ではどうやって栗を焼くのかというと、焼き栗専用の素焼きのポットがある。
底が平らでポチポチといくつも小さい穴が開けてある。
その中に栗を入れてコンロの上に置き、時々ポットをゆさぶると中の栗がこんがりと焼ける。
でも我家にはそのポットが無い。
安いものだからすぐ買えばいいようなものだが、ポットを買うのにブレーキがかかっている。
というのも、専用のポットを買えばますます栗をたくさん食べてしまう。
すると体重が増えることになる。それがこわい。
しかし困ったことに専用ポットがなくてもシャッパスという便利なものがあったのである。
ぶ厚い波状の鉄板に取っ手が付いていて、それをガスコンロの上に置いてなんでも焼ける。
我家では朝のトーストをそれで焼く。
そのシャッパスに切り目を入れた栗を並べる。
そして、素焼きのどんぶりを栗の上にかぶせる。こうすると栗全体にまんべんなく熱が行き渡る。
そして4分、栗を裏返してまた4分焼くと、こんがりとした焼き栗が出来上がる。
でも一回に食べる栗は一人8個と決めている。せめてもの肥満防止策である。
今年はもう「カクィ」が姿を現した。それも立派な姿の甘柿である。
秋は美味しいものがめじろ押し。
日本では「天高く、馬肥ゆる秋」
ポルトガルではどんよりと雲垂れ込めて「天高くないけれど、馬肥ゆる秋」…あ~ぁ。 (MUZ)
©2002,Mutsuko Takemoto
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(この文は2002年11月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに少しずつ移して行こうと思っています。)