ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

062. ポルトガルの野草探検

2018-12-17 | エッセイ

 このごろ野草にますますのめり込んでいる。
今までも旅のついでに野の花や道端の草などを撮りためてきた。
春は3月から6月まで、いろんな種類の野の花が咲いて、どこに行ってもまるでお花畑。
私たちはその時期の3ヶ月近くを日本で過すので、残念なことにポルトガルの野の花を充分には満喫できない。
そのかわり毎年、帰国前とポルトガルに戻ってきてから、つまり、野の花のシーズンの始まりと終わりごろを野草ウォッチングに跳び回っている。

 ポルトガルで野草に興味を持ったのは道端で咲いている紫の花を見かけたことからだ。
 それはラヴェンダー。
ラヴェンダーは園芸種だとばかり思っていたので、ポルトガルに野生のラヴェンダーがある!というのは驚きだった。
海岸線に近い砂地の丘にびっしりと生え、内陸の丘の斜面にも紫色の群落を作り、明るい林の中にも、あちこちに花を咲かせている。
でも香りは弱い。
低地に咲くラヴェンダーからは香水はできないそうだ。
そのかわり美味しい蜂蜜が取れる。

 春の野の花は極彩色だ。
一歩、郊外に出ると、黄色、赤、紫、白など色とりどりの花が目に飛び込んでくる。
田舎道を走ると、一面紫色に染まった牧場が突然現れ、その縁には真っ赤なヒナゲシや名前も知らない白い花が入り混じる。
 森を走ると、赤と黄色と紫の縞々に塗り分けられた低い丘に出くわして、おもわず歓声をあげてしまう。
まるで手の込んだペルシャ絨毯を広げたようで、その複雑な彩りに目を奪われる。
さっそくデジカメ片手に夢中でシャッターを押す。

 デジカメは素晴らしい。
パソコンに入れた写真には被写体の花の周りに見たこともない花がくっきりと写っていたりする。
現場で写真を撮るときは、目的の被写体をどう切り取るかということだけで精一杯。
その周りの地味な花、小さな花、後ろに隠れるような花などは、その時は意識に入っていない。
ところがデジカメはなんでもかんでもばっちりと写している。
一年ほど経って改めてその写真を見ると、「あっ、こんなところにこの花も一緒に咲いていたんだ~」と驚く。
一年前よりも野草の知識が増えているから、以前は気にも留めなかった花が判るようになってきたのだ。
目には見えなかったごくごく小さな虫が花にもぐりこんで蜜を吸っている姿も、パソコンの画面で発見する。

 今年は6月初めにポルトガルに戻ってきたが、車検などで時間を取られて、やっと野の花探検旅行に出かけたときは花のシーズンがすっかり終わりかけていた。
 もう牧場の花畑はとっくに終わり、ラヴェンダーもからからになっている。
それでもどうにかいろんな種類の残り花を写せたのは、今年がわりと涼しいせいだ。
近所の人の話では、5月まで雨が多かったらしい。
7月になって日差しは強くなったが、日陰に入るとひんやりしすぎるほど。

 でもさすがに空き地の草はすっかり枯れてきた。
そこを丹念に見ていくと、あるある!
地味~な植物が地面を這うように生きている。
しかも目に見えるか見えないくらいの花や実をつけているらしい。
さっそくこちらも地面に這いつくばって接写で撮影。
これはVITの役割。
私はこのごろ視力が落ちてきたので、とても無理なのだ。

 さっそくパソコンの画面で見ると、肉眼で見えなかった細部がくっきりと現れた。

 たとえば、刈り取られた短い芝生に埋もれるように生きている奇妙な植物。
肉眼では5ミリほどのふわふわとした玉しか見えなかったが、それがはじけて針のさきほどの小さな花が咲いているのが判った。

 別な場所では石畳の間のわずかな隙間に根を下ろし、あたり一面に勢力を伸ばそうとしているコケ?
その姿はまるで宇宙から来た生物としか思えない。
しかしコケだとばかり思っていたのが、そうではなかった。
ロウのような、パラフィンのような透明なガクに包まれて花と実がある!
これはいったい何なのだ!
 デジカメで撮ってパソコン画面で見れば、それはけっしてエイリアンではなく、ちゃんと花も実もあるまともな植物なのだ…と納得。

 野の花のシーズンが過ぎたカラカラの空き地や野原にも、ひっそりと地味に生きている奇妙な野草が無数にある。
野草探検は花のシーズンだけではないというのを実感。

 今までなんとなく撮りためた野草は名前をほとんど知らない。
町には小さな本屋が数軒あるが、植物図鑑などは置いていない。
名前を知りたいな~とずっと思っていたが、このごろWeb上でとても有益な日本のサイトを発見した。
そこに花の写真を送って相談すると、専門家の方々が応えてくださる。
おかげで私の野の花のページも名前が判明して、かなり充実してきたと思う。

MUZ
2008/07/28

 

©2008,Mutsuko Takemoto
本ホームページ内に掲載の記事・画像・アニメ・イラスト・写真などは全てオリジナル作品です。一切の無断転載はご遠慮下さい
Copyright Editions Ilyfunet,All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.

 

(この文は2008年8月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

ポルトガルのえんとつ MUZの部屋 エッセイの本棚 へ


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« K.075. 彩色水甕 | トップ | 063. エスピシェル岬にすっ... »
最新の画像もっと見る

エッセイ」カテゴリの最新記事