ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

063. エスピシェル岬にすっくと立って…

2018-12-17 | エッセイ

 ポルトガルで大西洋の落日を見られる観光地として有名なのは、ロカ岬とサグレス岬だが、セトゥーバル半島にも雄大な景色を眺められる岬がある。
カーボ・エスピシェルという。
平らな台地がスパンと切り取られ、大西洋に向って垂直にそそり立つ、最果ての場所。

 そこには教会がひとつあるだけで、一軒の民家もない。
17世紀末に建立された
「ノッサ・セニョーラ・デ・カーボ・エスピシェル」(エスピシェル岬の我らが聖母様)
という名前の教会。
 教会の両脇には二階建ての小部屋が並んでいる。
今は窓や入り口が塞がれて廃墟同然になっているが、昔は巡礼者が訪れて、ここに寝泊りして修行に励んでいた場所だ。
夏は強い日差しにさらされ、冬の海からは強風が吹きあげる環境での修行は厳しいものだと想像できる。


エスピシェル教会正面

 教会は今も使われているが、訪れた観光客が出入りしているだけ。
でも毎年9月には近くの町、セジンブラの漁師たちが行列を組んで、このエスピシェル教会にお参りにやってくる。
 私たちも随分前にこの祭りを見たことがあるが、いつもはひっそりとした教会が人びとでびっしりと埋まっていた。
 漁師たちがそれぞれ真っ赤な上着をはおり、聖母像を担いでぞろりぞろりと行進して、教会の中に入り儀式を行う。
詳しくは解らないが、マリア様に豊漁を願う祭りなのだと思う。

 先日久しぶりにカーボ・エスピシェルに出かけた。
以前に「漁師の祭り」を見て以来である。

 教会の前の空き地には観光客のクルマが数十台駐車している。
さすがに観光バスは一台も見当たらないが、フランスやドイツナンバーのクルマが目立つ。
セジンブラあたりのホテルやリゾートマンションに滞在している人びとだろう。

 


崖っぷちギリギリに咲く花

教会の横を突き抜けると、広大な台地が広がっている。
その先は断崖絶壁。
絶壁までの間には、注意をうながす「危険」と書いた看板が数箇所に立っているだけで、
進入禁止の柵などはいっさいない。
先端のあちこちで土のえぐれた箇所があるので、雨が降ったらかなりもろそうだ。恐ろしい!
崖っぷちにはきれいな花を咲かせた野草がいろいろとあるので、ふらふらと近づいたら危ない。
いったいどうしてあんな条件の悪い場所で植物は生きていけるのだろうか?
種が落ちた所で必死で命をつないでいくしかないのだろうけど。

 


断崖の上に建つエスピシェル教会

土の層の下は固い岩盤なので、地盤はしっかりしている。
表面に現れた崖の岩肌には恐竜の歩いた足あとが残っているそうだ。
それはどこだろうかと、カメラの望遠レンズをいっぱいにしてあちこち探したけれど、はっきりとは解らなかった。
ひょっとしてこれかな?と思える所を撮ったが、たんなる岩のへこみかもしれない。

 断崖のはるか下には荒波が白いしぶきをあげて打ち寄せている。
そこには奇怪な形の岩場があって、まるで恐竜が3頭、背骨を見せて並んだ姿で、大西洋の荒波に立ち向かっているように見えた。

MUZ
2008/08/28

 

©2008,Mutsuko Takemoto
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(この文は2008年9月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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