ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

065. パリの朝市

2018-12-19 | エッセイ

 今年のフランス行きは日曜の朝にリスボンを出発して土曜の夕方にパリを離れる旅程だった。
おかげで金曜日と土曜日にパリのそれぞれ違う場所で朝市に出会った。

 ランスからパリに戻った翌日、金曜日はメトロに乗ってベルヴィル地区に出かけた。
そこは昔から低所得者の多い下町だったそうだ。
画家のルオーとシャンソン歌手のエディット・ピアフが生まれ育った所で、
ルオーの名前が付けられた道とエディット・ピアフの記念館がある。

 メトロの階段を登って地上に出て驚いた。
周りは中華の店が立ち並び、歩いている人々は圧倒的に中国人とアラブ人。
ほこりとゴミと騒音、そして得体のしれない熱気が渦巻いている。
それに拍車をかけるように、ベルヴィル大通りには朝市が立っていた。

 


ベルヴィルの朝市

通りの両側は車が走っているが、真ん中はテントで覆われて長いトンネルのようになっていて、
人びとがそこに吸い込まれるように入っていく。
最初は服や雑貨の店が並んでいたが、すぐに野菜や果物の店になった。
それも見るからにパリンパリンの新鮮なものを並べている。
両脇に店が並んでいるので、右を向いたり左を見たり、忙しい。
しかも通路は買い物客でごった返している。
前を歩いている人について行くと、急に立ち止まるのでぶつかってしまったり、
引っ張っているコロコロつきの買い物籠につまずいたり。
押すな押すなの賑わいである。

 


人の流れに乗って歩くのも大変

なにしろ品数が多いのと新鮮さに驚く。
白大根やすすをまぶしたような薄黒い大根、そして赤大根や黄色っぽいのもある。

 


後ろの棚にいろいろな大根が並んでいる

 


赤や黄色や真っ黒いジャガイモ

 

それに鮮やかな紫色のカリフラワー。
これにはびっくり!
まるで紫色の染料を吸わせて染めたようだ。これは茹でても紫色だろうか?
カリフラワーはこれ以外にも変った物がある。
お釈迦様の頭のように、くるくると巻き毛のように尖ったのが集まっている緑色のカリフラワー。
これはいったいどんな味だろうか?

 


白と紫の中に緑色のカリフラワーもひとつある

去年パリに来たのは11月初めだったので、キノコの王様セップは市場では見かけなかったが、
今年はそれよりも2週間も早いせいか、朝市であちこちに並んでいる。
きれいな状態のものが多いが、それでも半分に割って見せている店もある。
セップは虫食いが多いので、わざわざそうして「虫食いじゃないよ~」と証明しているのだ。

 


真ん中の白いのが半分に切ったセップ

魚屋の出店も品数が豊富。
マグロの赤身も新鮮なのがどっさり並んでいて、値段がポルトガルの市場よりずっと安い。

 


マグロの赤身が1キロ12ユーロ、セトゥーバルでは1キロ20ユーロもする

びっちりとオレンジ色の中身が詰った生ウニも出ている。
ウニといえば、去年セトゥーバルのスーパーに生ウニが並んでいた。
それまでメルカドでも見たことがなかったので、珍しくて買ってしまった。
ところが家に帰って、期待度100%で開けると、何ということ。
すべて中身は空っぽ。がっくりしたのを思い出す。
ところがパリの朝市にはこんな立派なのがある~。

 


みごとな紫ウニ

驚いたり感心しながらベルヴィル通りの朝市を最後まで歩いた。
朝市の途中にメトロの駅がもうひとつあり、終りがベルヴィル駅。
夢中になっているうちにふた駅も歩いたらしい。
そこの周りは中華レストランだらけ。
そのうちの一軒のショーウィンドーに北京ダックがずらりとぶら下げてあるのが、外から見えた。
次々とお客が入っていくので、私たちもお昼はこの店にした。
北京ダックのどっさり入ったラーメンは、旅の後半の疲れた身体の隅々まで染み渡り、
美味だった。

その後、メトロでエッフェル塔の対岸にある市立近代美術館に行こうとした。
サンラザール駅で別の線に乗り換えるはずが、地下道をどこをどう行っても見つからない。
以前もたしかサンラザールでぐるぐると歩かされたことがある。
大規模な工事中で、案内板がいいかげんになっているに違いない。
私たちも道に迷っていたが、その私たちに道をたずねてきた人がいた。
知ってる人だけ解って、なんにも知らない観光客はあっちうろうろ。
もうメトロには乗らない!
バスで行こう。

地図を見て、ビトシがかなり離れた場所にあるバス停を探し当てた。
バスを待っている人たちが数人いたが、34番のバスはなかなか来なかった。
15分ほども待ってようやく来たバスに乗って市立近代美術館へ到着。
入り口には「デュフィー展」のポスター。
今日が初日。
さっそく入館したが、世界中から作品を集めた大展覧会で、じっくりと鑑賞。
デュフィーの世界に浸っている最中に、突然係員が声をかけてきた。
「間もなく閉館です」
まだ6時なのに閉館!
しかもまだ観ていない作品がかなりあるし、だいいち常設展はぜんぜん観ていない。
しかたなく外に出た。
翌日はポルトガルに帰る日。
でも飛行機は夕方だから、明日の午前中にまた来ることにした。
帰りは美術館のすぐ前から82番のバスでホテルのあるリュクサンブールまでダイレクトで帰った。

翌日、また82番のバスに乗り、市立近代美術館へ。
驚いたことに、美術館前に大規模な朝市が立っている。
美術館で常設展と再びデュフィー展を堪能した後、朝市を見て歩いた。
この朝市は正式名は「イエナ・プレシダン・ウィルソン市場」というそうだ。

 


イエナの朝市

このあたりは美術館がいくつもある閑静な場所で、
生活に必要な物を売っていそうな店など見当たらない。
生活の匂いが感じられない所なのに、こうして大規模な朝市が立ち、
買い物客で賑わっている。
住民はわざわざ遠くに買出しに行かなくても、朝市の商人達が毎週やってきて店を出してくれる。
商人たちの顔ぶれはほとんどアラブ系のように見える。
下町のベルヴィル地区の朝市もアラブ系商人だった。
買い物客もスカーフを被ったイスラム系の女性たちが多かった。
でもこのイエナの市場は商人はアラブ系だが、買い物客はフランス人のようだ。
野菜や果物、魚などはベルヴィル市場に負けず劣らず新鮮そのもの。

 

 



  
それに色とりどりの香辛料や、様々な味付けをしたオリーヴの実。
そして大鍋でぐつぐつと音を立てるパエリア。これはもう売り切れ寸前。
プロヴァンスのアルルの朝市で超大鍋で煮込んだパエリアを買ったのを思い出した。
フォークもなにもないので、どうやって食べたらいいのかとたずねると、
「パエリアに入っているムール貝の殻をスプーン代わりに使ったらいい」
と店のおかみさんが教えてくれた。
それを特急列車に持ち込んで食べた時の美味しさが忘れられない。
今回はもう大鍋に少ししか残っていないので、残念!

 


小型のセップを並べた棚

 

3種類のキノコの箱

 

イエナの朝市で初めて見た出店。
アラブ風のパンというかクレープ風のものをくるくると丸めて食べている。
でも売っている人も周りで食べている人たちも真剣な顔つきなので、
「私もそれ頂戴~」と声をかける雰囲気ではなかったな~。
それにバスに乗ってホテルに帰り、それから空港に行くので時間がない。
でも今から考えると惜しいことをした!
空港に向う電車の中でこれを食べたらさぞ美味しかったことだろう。

 






MUZ 2008/10/28

 

©2008,Mutsuko Takemoto
本ホームページ内に掲載の記事・画像・アニメ・イラスト・写真などは全てオリジナル作品です。一切の無断転載はご遠慮下さい
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(この文は2008年11月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

 

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