かまどの進歩
第一章の「肉食と火の革命(2)」でお話ししたように、火を利用することによって食べ物の消化・吸収が良くなるとともに風味も増す。この火の利用の進歩も文明都市社会を作る上で必須の要件だった。
人類が火で加熱調理を始めた頃は、たき火などの直火が使われた。ところが、この方法では熱が周りに逃げたり、風が強いと火が揺らいだりするため効率が悪い。また、火力の調節も難しかった。
これらの問題を解決するために土や石などで作られた「かまど」が発明された。上部に穴があいた円筒状のかまどは鍋などをのせると熱を閉じ込めることができ、下部にあいた口から空気を送り込むことで火力の調節も簡単だった。また、調理者は火の放射熱にさらされなくなったため、より高温で調理することができるようになり、調理時間の短縮にもつながった。この結果、大量の調理が可能になり、多くの人々の食事をまかなうことができるようになった。これは、文明都市が成立する上でもきわめて重要な要因だったと考えられる。
かまどの中には、石窯と呼ばれる余熱を利用するものも作られた。石窯は石やレンガ、粘土などで作られたドーム状の形をしたものだ。この中にいったん薪などの燃料をくべて全体を加熱し、灰を取り出した後に食材を入れて余熱で調理する。石窯はしばらくの間一定の温度に保たれることから再加熱の手間が必要なく、大量調理に適している。特にパンやパイを焼くのに最適だ。
古代文明ではかまどの発達により、調理を専門とする者、すなわち料理人が生まれた。また、パン焼専用の石窯も古代メソポタミアで発明され、パン職人が誕生した。料理人だけでなく、様々な仕事を専門とする者が生まれたのが古代文明の特徴なのだ。