俺は怖かった。
欲望に染まる自分自身を……
扉の向こうには、あいつがいる。
また壊してしまうかもしれない……
それでも。
俺はもう、あいつを離さない。
欲望に染まってでも。
もう、二度と――
扉を開けると、そこは不思議な光景へとなっていた。
月の光に照らされた弟は、まるで、女神の方だった――
水奈が振り向いて、俺を見ていた。
俺は近づいて、女神を抱きしめる。
身体が、冷たい。
ずっと待っていたんだな、お前は。
温かい……
とても、温かい――
兄さんの身体が、こんなにも温かいなんて……
待っていてよかった。
この場所から離れなくてよかった――
「にい、さん……」
僕はそっと、兄さんの頬に手をそえてみた。
すると、兄さんの手が僕の手に重なってきた。
「兄さん――」
僕はゆっくりと、顔を近づける。
伝えないと。
僕の気持ちを、伝えないと。
「…好きです……」
兄さんは何も言わずに、唇を重ねた。
俺は、どんなことでもいいから手に入れたかった。
酷いことをしてでもいいから、手に入れたかった。
俺には、こういう事ぐらいしか考えられていなかった。
そのせいで、俺はあいつを壊そうとしてしまった。
俺は破壊することも、守ることもできる。
だが。何を破壊して、何を守ればいいんだ?
俺は一体、誰のためにすればいいんだ?
時々、そんな疑問に思うことがある。
その時に、水奈の事を浮かべていた。
あいつの笑顔を見ていると、疑問がなくなっていた。
あいつが他の奴に笑いを見せると、疑問に思ってしまう。
俺はあいつの笑顔を見ていると、癒されるような感じになる。
その癒しを誰にも渡したくない、という独占欲が生まれた。
だから俺は、あいつを自分のものにしようとしたんだ。
心も、自分のものだと思わせたかった。
俺は隣で眠っている弟の顔を見ていた。
その顔は、すこし笑みを浮かばせている。
俺の隣だから、笑っているのか。
信用しているから、笑っているのか。
好きだから、笑っているのか――
そんなことは、もういい。
俺は頬にキスを落とすと、水奈を抱き締めた。
白い肌の温もりを感じながら、俺は眠りにつくことにした。
やっと通じ合えたんだ。
やることはたくさんあるんだからな。
とりあえずは。
こいつの隣からは、離れないようにしておこう。
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