春烙

寒いなあ…

咲かない花 6

2008年06月02日 00時58分30秒 | 外伝小説

 俺は怖かった。
 欲望に染まる自分自身を……

 扉の向こうには、あいつがいる。
 また壊してしまうかもしれない……
 それでも。
 俺はもう、あいつを離さない。
 欲望に染まってでも。
 もう、二度と――

 扉を開けると、そこは不思議な光景へとなっていた。
 月の光に照らされた弟は、まるで、女神の方だった――
 水奈が振り向いて、俺を見ていた。
 俺は近づいて、女神を抱きしめる。
 身体が、冷たい。

 ずっと待っていたんだな、お前は。


 温かい……
 とても、温かい――

 兄さんの身体が、こんなにも温かいなんて……
 待っていてよかった。
 この場所から離れなくてよかった――

「にい、さん……」
 僕はそっと、兄さんの頬に手をそえてみた。
 すると、兄さんの手が僕の手に重なってきた。
「兄さん――」
 僕はゆっくりと、顔を近づける。
 伝えないと。
 僕の気持ちを、伝えないと。

「…好きです……」
 兄さんは何も言わずに、唇を重ねた。


 俺は、どんなことでもいいから手に入れたかった。
 酷いことをしてでもいいから、手に入れたかった。
 俺には、こういう事ぐらいしか考えられていなかった。

 そのせいで、俺はあいつを壊そうとしてしまった。
 俺は破壊することも、守ることもできる。
 だが。何を破壊して、何を守ればいいんだ?
 俺は一体、誰のためにすればいいんだ?
 時々、そんな疑問に思うことがある。

 その時に、水奈の事を浮かべていた。
 あいつの笑顔を見ていると、疑問がなくなっていた。
 あいつが他の奴に笑いを見せると、疑問に思ってしまう。

 俺はあいつの笑顔を見ていると、癒されるような感じになる。
 その癒しを誰にも渡したくない、という独占欲が生まれた。
 だから俺は、あいつを自分のものにしようとしたんだ。
 心も、自分のものだと思わせたかった。

 俺は隣で眠っている弟の顔を見ていた。
 その顔は、すこし笑みを浮かばせている。
 俺の隣だから、笑っているのか。
 信用しているから、笑っているのか。
 好きだから、笑っているのか――

 そんなことは、もういい。
 俺は頬にキスを落とすと、水奈を抱き締めた。
 白い肌の温もりを感じながら、俺は眠りにつくことにした。
 やっと通じ合えたんだ。
 やることはたくさんあるんだからな。

 とりあえずは。
 こいつの隣からは、離れないようにしておこう。


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