春烙

寒いなあ…

何でも屋、誕生!

2008年08月16日 00時47分34秒 | 外伝小説

 俺がまだ大学生でいた頃――

「幽霊が出た?」
 それは、俺が学院から帰って、居間で弟妹たちと話をしていた時のこと。
「そうなんですよ、兄さん」
「オレのダチ、見たんだとよ」
「ていうか。あそこって幽霊が出ても、おかしくないと思うんだけど」
 妹の翼乃が言うとおり。俺達が通っている逝和学院は、何が出てもおかしくはない……というより。
 俺達の一族は、幽霊とかが見えたり、話せたり、触れたりもできるのだ。俺達はおかしくはないな。
「十分におかしいと思うんだけど。泳地兄さん」
「頼む。心を読むな」
 翼乃は『心読み』という力を持っている。その名のとおり、心を読める能力だ。
「けどよ。兄貴、翼乃。今まで学院で幽霊見たってのは、初めてだぜ」
「言っておくが、壱鬼……学院でも見るぞ」
「まじ!?」
「壱鬼兄さんが見ていないだけだよ」
 翼乃の言うとおりだろうよ。
「とにかくですね。一般人が幽霊を見たんですよ」
 なんか妙に、水奈が張り切って言っている。しかも一般人って。
「一般人が見たって事は、幽霊が見れたってことだろ?」
 壱鬼までも、『一般人』と言った。
「調べる必要がありますね」
「そうだよな」
 この二人、やる気満々だ。
「てか。なぜこんな話をしているんだ」
「それは……もうすぐ分かるから」
 翼乃が言うと、ドドドドオッという音が廊下から響き、その音を立てて居間に入ってきた男は大声で。
「でたああぁあ――っ!!」
 と言った。

「……なあ、翼乃」
「なに、泳地兄さん」
「なんで……俺達は学院にいるんだ」
 その日の夜。
 俺達は爺に言われて、学院に出てくる幽霊を退治しろっと言われて、我が校の塀の前へと来ていた。
「お祖父ちゃんに言われたから」
「そうだな」
 あまつさえ、小学生である翼乃までも、夜に起きている。
「さっさとやって、帰るぞ」
 俺が言うと、翼乃だけがすぐに答え、水奈と壱鬼は少しして答えた。この二人、帰る気がないなっ。
 それはさて置き。
 俺と壱鬼はフェンスを飛び越えて学院内へと侵入した。
「このフェンスってさ。10mはあるよな」
「知らん」
 もしあるとしたら、すご過ぎるなっと思うぞ。
「にいさ~ん」
 とフェンスの上を見ると、水奈がちょうど境界線に当たる所にいた。
 何してるんだ、あいつは。
「受け止めてくださーいっ」
「えっ……え!?」
 俺が驚いているうちに、水奈はフェンスから飛び降りた。慌てて俺は、落ちる位置を確かめながら水奈を受け止めることに成功した。
「たくっ。何を考えているんだ」
「何も考えていませんよ、兄さん♪」
 笑って言うと、俺の頬にキスしてきた。
「おいっ」
「お礼ですよ、お礼」
「何してるんだよっ」
 と、翼乃が目を細めて言ってきた。そういえばこいつ、いつからそこにいたんだ。
「翼乃。お前どこから入ってきた」
「近くの門からだよ」
「なにっ」
 門からだと?
「あ? 門は閉まっているだろ??」
「鍵を使ったから」
 翼乃は門の鍵を見せて言った。
「どこから手に入れたんだ?」
 翼乃は口には出さず、どこからか出したスケッチブックにこう書いてあった。
「水奈兄さんからもらった」
「「……」」
 俺と壱鬼は妹に鍵を渡した人の方に顔を向けた。
「なんで渡したんだ」
「だって、ほら。翼乃君にできるわけありませんでしょう?」
「できるよ」
 翼乃はライトをつけながら言った(スケッチブックはどこに!?)
「早く行こうよ。どこから行くの?」
「では。高等部へ行きましょう」
「そういや。高等部の方が幽霊出現が多かったっけ?」
「それもありますが。実は僕……教室に忘れ物がありまして」
 アハハハッと水奈は笑っていった。
 犯すぞっ。
「勝手にやれば」
「だから、勝手に読むなっ」

 そんなわけで、俺達は高等部へとやってきた。
「何か出てこなくていいかなー」
 翼乃はライトをあちらこちらへと照らしていた。
「おかしくないか。その言い方は」
「でもさ。泳地兄さんも同じこと思っているだろ?」
 翼乃に言われて、俺は否定することはできなかった。
「あ。この教室だよね、水奈兄さん?」
 プレートを照らして翼乃が聞くと、水奈は頷いた。
「ええ。ここですよ」
 教室に入ると、水奈は翼乃を連れて自分の座席へと向かった。
「なあ、兄貴」
 教室前で、壱鬼が話しかけてきた。
「廊下がさ。なんか生臭くなかったか?」
「ああ」
 教室へ来るまで、廊下には生臭いにおいが漂っていた。
 誰かが何かを引きずって廊下を歩いたのだろう。しかし、誰が何のために?
 と、俺が考えていると。背中から何か視線を感じた俺は、驚いて後ろにライトを照らしたが、そこには誰もいなかった。
「どうしたんだよ?」
「今……誰かいたんだ」
「どうかしましたか」
 水奈と翼乃が俺の行動を見て、戻ってきた。
「兄貴が誰かの視線を感じたんだと」
「ええっ!?」
「あーあ、出ちゃった~」
 壱鬼が言うと、水奈は驚いたが、翼乃は俺が予想していたとおりの反応をしてくれた。
「忘れ物は見つかったのか」
「はい」
 そう言って、水奈はA5サイズのノートを見せた。
「何のノートだよ?」
「フフフッ。秘密ですよ」
 壱鬼が聞くと、水奈は笑っていった。
 あいつに関して、俺ですら分からないことが多い。

 俺達は下に降りて、特別実習室へと来た。
「うわ、くさっ!」
 だんだん、生臭さが悪化していた。
「あれ?」
 と、水奈が何かを見つけた。
「どうした、水奈」
「調理室のとびらが開いているんです」
 水奈が言うと、翼乃が調理室の前へと行き、扉を開いた。
「いつも閉まってるの?」
「ええ。そうですよね、兄さん」
「ああ、そうだ」
 翼乃は「ふーんっ」と言うと調理室へと入り、俺達も後に続いて入っていく。
「ここ、ものすごく臭うよ」
「たしかに……」
「あ?」
 この生臭さは、たしか……
「もしかすると……」
 俺は冷蔵庫の方へと向かい、開けて中を調べた。
「やっぱりな」
「なにが?」
 3人も俺の方へと近づいてきた。
「あれがない」
『アレ???』
「魚だ」
「「は??」
「え、魚ですか?」
「そうだ」
 と言うと、俺は床を照らした。
「なにこれっ。水?」
「引きずった跡があるよな?」
「跡を追うぞ」
 俺達は濡れ跡を追いかけていった。
「この先はたしか、体育館だったな」
「ええ……ひゃ!」
「なっ!?」
 急に水奈が悲鳴を上げて俺にしがみついて来たので、俺まで驚いた。
「なんだよ。女みてえな声を出して」
「いや。それは置いといてさ」
「どうしたんだ」
「い、今。横に誰かが……」
 俺と壱鬼と翼乃は水奈のいる方を見たが、誰もいなかった。
「誰もいないよ」
「俺と同じだな」
「なんか、運命的って感じですね」
「「ないないっ」」
 水奈が言うと、俺と翼乃は同時に突っ込みを入れた。
「大体さ。この場合で行くと、次は俺か」
「ギャアァ――!!」
「壱鬼兄さんか……てあれ?」
 今度は壱鬼が驚いた。
「いいい、今! 前に何かが……!!」
「前に?」
 そう言って、翼乃は壱鬼のほうを振り向いて見渡した。
「いないじゃん」
「走ってたんだぞ!」
「見間違えでは」
「兄貴も見たんだろうが!!」
「み、見間違えたんですよ」
 声が震えているぞ。
「とにかく。体育館に行くぞ」

 体育館に着き中に入ると、引きずった跡が残っていた。
「中まであるな」
「そうだね」
 翼乃が先に進み、俺達は後ろを歩いた。
「……なあ」
 翼乃が急に立ち止まると、俺達の方を振り向いた。
「なんで兄さん達、俺の後ろにいるの」
「あれだろ……?」
「そうですよ…」
「お前だけ見てないのは、おかしいだろ」
「……」
 翼乃は遠くを見るような目つきをして俺達を見ると、振り戻った。が。
『!!?』
 翼乃が前を向いたと同時に俺達の前に何かが通っていった!
「どうしたの?」
 俺達の異変に気づいた翼乃が振り返った。
「また、出た!」
「どこ、どこ?」
 翼乃はライトを持ちながら、あたりを見渡した。
「いないじゃんか」
「てか。お前、何も感じなかったのか」
「いや。瘴気を引っ込めているから、何も感じないんだ」
 翼乃はニッと笑って言った。瘴気を引っ込めているって!?
「……そこ!」
 突然翼乃が声をあげて、どこからか出した鞭(むち)で何かを捕まえた。
「よし!」
「よし!……じゃない!!」
 壱鬼が突っ込みを入れた。
「どこから出したんだよ、その鞭!? てかお前、さっき何も感じないじゃなかったのか!!?」
「まあ。それは置いといて」
 そう言って、翼乃は鞭を戻していた。
「あっ……魚だ」
 翼乃の鞭で捕まえたのは、調理室でなくなったと思われる魚だった。
「取れたてだよ~」
「アホッ」
「そこに魚があるとすれば……」
「持ってきた奴もいるってことか」
「それって……あれか」
 翼乃が俺達の後ろの方を指して言うと、振り向くとそこには――!!
『出たアアァア――っ!!!』
「出たのはいいけどさ……あれって、ぬいぐるみか?」
 翼乃は驚かず、冷静に『それ』に近づいていった。
「お、おい。翼乃!?」
「……悪かったな」
 翼乃はしゃがみこんで、『それ』に魚を見せて謝っていた。
「魚を取ってしまって。誰かに食べさせたかったんだろ?」
(コクリッ)
 翼乃の質問に答えるかのように、『それ』は頷いた。
「そうか。これは返す」
 翼乃が『それ』に魚を渡すと、『それ』は手をハタハタとさせていた。
「なんだ?」
 『それ』は魚を持つと、倉庫裏へと歩いていく。
「あそこって、外に出る所ある?」
「いや。手前に非常口があるが」
「非常口か……」
 翼乃は考えながら『それ』の跡をついて行った。
 俺達も二人(?)の跡を追いかけていくと、『それ』は倉庫裏手前の非常口の方へと出て行った。
「何か、聞こえない?」
 非常口から外に出ると、弱々しい泣き声が聞こえてきた。
「あっ。あれ」
 『それ』の所にダンボールがあり、その中から泣き声が聞こえていた。
「猫ですね。しかも子猫」
「一体どこから出てきたんだ」
「考えられるのは……誰かが連れてきたか、そこのフェンスの空いている所から入ってきたか」
 と、翼乃は穴のできたフェンスを指して解説をしていた。
「まっ。幽霊の正体は、この子達って事だね」
「そうですね」
「なあ。この猫どうするんだ?」
 壱鬼がダンボールの中にいる子猫を一匹腕に抱いて聞いてきた。
「こいつだけじゃ、大変だぞ」
「そうだな。明日、というより今日くらいでも、誰か飼ってくれるか聞いてみるか」
「それがいいよ」
 翼乃はめん棒で魚を叩きながら言った(どこからめん棒を!!?)
「これくらいでいいだろう。ほら、食べろ」
 めん棒で粉々にした魚を(どんな技で!?)、翼乃は子猫に食べさせていた。
「そんなに粉々にできましたっけ、そのめん棒は?」
「使い方だよ?」
 なぜ、半疑問形で言うんだ。
「帰ろうか。分かったことだし」
「そうだな」
 そして俺達は家に帰り、ゆっくり安眠の地へと向かった。
 これでやっと終わった。

 …
 ……
 ………のだが!
「何しやがるんだ、このエセじじいぃ――っっ!!!」
 バカ学院長の命令だとかで、俺たち兄妹は副職業として『何でも屋』をやるはめになった。
「国民の不安を取り除くためじゃ」
 どこの国民だ!!

 こうして。国民の不安を取り除くため(?)、『何でも屋』が誕生したのだ。
「って。『それ』の名前出てないし」←by.翼乃


 過去編で、神兄妹の副業『何でも屋』の誕生の秘密でした!
 『それ』の正体は明(みん)さんで、『何でも屋』ができたきっかけでもあるのです。
翼乃「あ。ダンボールにいた子猫たちは、飼い主の所で暮らしているんで」



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