俺がまだ大学生でいた頃――
「幽霊が出た?」
それは、俺が学院から帰って、居間で弟妹たちと話をしていた時のこと。
「そうなんですよ、兄さん」
「オレのダチ、見たんだとよ」
「ていうか。あそこって幽霊が出ても、おかしくないと思うんだけど」
妹の翼乃が言うとおり。俺達が通っている逝和学院は、何が出てもおかしくはない……というより。
俺達の一族は、幽霊とかが見えたり、話せたり、触れたりもできるのだ。俺達はおかしくはないな。
「十分におかしいと思うんだけど。泳地兄さん」
「頼む。心を読むな」
翼乃は『心読み』という力を持っている。その名のとおり、心を読める能力だ。
「けどよ。兄貴、翼乃。今まで学院で幽霊見たってのは、初めてだぜ」
「言っておくが、壱鬼……学院でも見るぞ」
「まじ!?」
「壱鬼兄さんが見ていないだけだよ」
翼乃の言うとおりだろうよ。
「とにかくですね。一般人が幽霊を見たんですよ」
なんか妙に、水奈が張り切って言っている。しかも一般人って。
「一般人が見たって事は、幽霊が見れたってことだろ?」
壱鬼までも、『一般人』と言った。
「調べる必要がありますね」
「そうだよな」
この二人、やる気満々だ。
「てか。なぜこんな話をしているんだ」
「それは……もうすぐ分かるから」
翼乃が言うと、ドドドドオッという音が廊下から響き、その音を立てて居間に入ってきた男は大声で。
「でたああぁあ――っ!!」
と言った。
「……なあ、翼乃」
「なに、泳地兄さん」
「なんで……俺達は学院にいるんだ」
その日の夜。
俺達は爺に言われて、学院に出てくる幽霊を退治しろっと言われて、我が校の塀の前へと来ていた。
「お祖父ちゃんに言われたから」
「そうだな」
あまつさえ、小学生である翼乃までも、夜に起きている。
「さっさとやって、帰るぞ」
俺が言うと、翼乃だけがすぐに答え、水奈と壱鬼は少しして答えた。この二人、帰る気がないなっ。
それはさて置き。
俺と壱鬼はフェンスを飛び越えて学院内へと侵入した。
「このフェンスってさ。10mはあるよな」
「知らん」
もしあるとしたら、すご過ぎるなっと思うぞ。
「にいさ~ん」
とフェンスの上を見ると、水奈がちょうど境界線に当たる所にいた。
何してるんだ、あいつは。
「受け止めてくださーいっ」
「えっ……え!?」
俺が驚いているうちに、水奈はフェンスから飛び降りた。慌てて俺は、落ちる位置を確かめながら水奈を受け止めることに成功した。
「たくっ。何を考えているんだ」
「何も考えていませんよ、兄さん♪」
笑って言うと、俺の頬にキスしてきた。
「おいっ」
「お礼ですよ、お礼」
「何してるんだよっ」
と、翼乃が目を細めて言ってきた。そういえばこいつ、いつからそこにいたんだ。
「翼乃。お前どこから入ってきた」
「近くの門からだよ」
「なにっ」
門からだと?
「あ? 門は閉まっているだろ??」
「鍵を使ったから」
翼乃は門の鍵を見せて言った。
「どこから手に入れたんだ?」
翼乃は口には出さず、どこからか出したスケッチブックにこう書いてあった。
「水奈兄さんからもらった」
「「……」」
俺と壱鬼は妹に鍵を渡した人の方に顔を向けた。
「なんで渡したんだ」
「だって、ほら。翼乃君にできるわけありませんでしょう?」
「できるよ」
翼乃はライトをつけながら言った(スケッチブックはどこに!?)
「早く行こうよ。どこから行くの?」
「では。高等部へ行きましょう」
「そういや。高等部の方が幽霊出現が多かったっけ?」
「それもありますが。実は僕……教室に忘れ物がありまして」
アハハハッと水奈は笑っていった。
犯すぞっ。
「勝手にやれば」
「だから、勝手に読むなっ」
そんなわけで、俺達は高等部へとやってきた。
「何か出てこなくていいかなー」
翼乃はライトをあちらこちらへと照らしていた。
「おかしくないか。その言い方は」
「でもさ。泳地兄さんも同じこと思っているだろ?」
翼乃に言われて、俺は否定することはできなかった。
「あ。この教室だよね、水奈兄さん?」
プレートを照らして翼乃が聞くと、水奈は頷いた。
「ええ。ここですよ」
教室に入ると、水奈は翼乃を連れて自分の座席へと向かった。
「なあ、兄貴」
教室前で、壱鬼が話しかけてきた。
「廊下がさ。なんか生臭くなかったか?」
「ああ」
教室へ来るまで、廊下には生臭いにおいが漂っていた。
誰かが何かを引きずって廊下を歩いたのだろう。しかし、誰が何のために?
と、俺が考えていると。背中から何か視線を感じた俺は、驚いて後ろにライトを照らしたが、そこには誰もいなかった。
「どうしたんだよ?」
「今……誰かいたんだ」
「どうかしましたか」
水奈と翼乃が俺の行動を見て、戻ってきた。
「兄貴が誰かの視線を感じたんだと」
「ええっ!?」
「あーあ、出ちゃった~」
壱鬼が言うと、水奈は驚いたが、翼乃は俺が予想していたとおりの反応をしてくれた。
「忘れ物は見つかったのか」
「はい」
そう言って、水奈はA5サイズのノートを見せた。
「何のノートだよ?」
「フフフッ。秘密ですよ」
壱鬼が聞くと、水奈は笑っていった。
あいつに関して、俺ですら分からないことが多い。
俺達は下に降りて、特別実習室へと来た。
「うわ、くさっ!」
だんだん、生臭さが悪化していた。
「あれ?」
と、水奈が何かを見つけた。
「どうした、水奈」
「調理室のとびらが開いているんです」
水奈が言うと、翼乃が調理室の前へと行き、扉を開いた。
「いつも閉まってるの?」
「ええ。そうですよね、兄さん」
「ああ、そうだ」
翼乃は「ふーんっ」と言うと調理室へと入り、俺達も後に続いて入っていく。
「ここ、ものすごく臭うよ」
「たしかに……」
「あ?」
この生臭さは、たしか……
「もしかすると……」
俺は冷蔵庫の方へと向かい、開けて中を調べた。
「やっぱりな」
「なにが?」
3人も俺の方へと近づいてきた。
「あれがない」
『アレ???』
「魚だ」
「「は??」
「え、魚ですか?」
「そうだ」
と言うと、俺は床を照らした。
「なにこれっ。水?」
「引きずった跡があるよな?」
「跡を追うぞ」
俺達は濡れ跡を追いかけていった。
「この先はたしか、体育館だったな」
「ええ……ひゃ!」
「なっ!?」
急に水奈が悲鳴を上げて俺にしがみついて来たので、俺まで驚いた。
「なんだよ。女みてえな声を出して」
「いや。それは置いといてさ」
「どうしたんだ」
「い、今。横に誰かが……」
俺と壱鬼と翼乃は水奈のいる方を見たが、誰もいなかった。
「誰もいないよ」
「俺と同じだな」
「なんか、運命的って感じですね」
「「ないないっ」」
水奈が言うと、俺と翼乃は同時に突っ込みを入れた。
「大体さ。この場合で行くと、次は俺か」
「ギャアァ――!!」
「壱鬼兄さんか……てあれ?」
今度は壱鬼が驚いた。
「いいい、今! 前に何かが……!!」
「前に?」
そう言って、翼乃は壱鬼のほうを振り向いて見渡した。
「いないじゃん」
「走ってたんだぞ!」
「見間違えでは」
「兄貴も見たんだろうが!!」
「み、見間違えたんですよ」
声が震えているぞ。
「とにかく。体育館に行くぞ」
体育館に着き中に入ると、引きずった跡が残っていた。
「中まであるな」
「そうだね」
翼乃が先に進み、俺達は後ろを歩いた。
「……なあ」
翼乃が急に立ち止まると、俺達の方を振り向いた。
「なんで兄さん達、俺の後ろにいるの」
「あれだろ……?」
「そうですよ…」
「お前だけ見てないのは、おかしいだろ」
「……」
翼乃は遠くを見るような目つきをして俺達を見ると、振り戻った。が。
『!!?』
翼乃が前を向いたと同時に俺達の前に何かが通っていった!
「どうしたの?」
俺達の異変に気づいた翼乃が振り返った。
「また、出た!」
「どこ、どこ?」
翼乃はライトを持ちながら、あたりを見渡した。
「いないじゃんか」
「てか。お前、何も感じなかったのか」
「いや。瘴気を引っ込めているから、何も感じないんだ」
翼乃はニッと笑って言った。瘴気を引っ込めているって!?
「……そこ!」
突然翼乃が声をあげて、どこからか出した鞭(むち)で何かを捕まえた。
「よし!」
「よし!……じゃない!!」
壱鬼が突っ込みを入れた。
「どこから出したんだよ、その鞭!? てかお前、さっき何も感じないじゃなかったのか!!?」
「まあ。それは置いといて」
そう言って、翼乃は鞭を戻していた。
「あっ……魚だ」
翼乃の鞭で捕まえたのは、調理室でなくなったと思われる魚だった。
「取れたてだよ~」
「アホッ」
「そこに魚があるとすれば……」
「持ってきた奴もいるってことか」
「それって……あれか」
翼乃が俺達の後ろの方を指して言うと、振り向くとそこには――!!
『出たアアァア――っ!!!』
「出たのはいいけどさ……あれって、ぬいぐるみか?」
翼乃は驚かず、冷静に『それ』に近づいていった。
「お、おい。翼乃!?」
「……悪かったな」
翼乃はしゃがみこんで、『それ』に魚を見せて謝っていた。
「魚を取ってしまって。誰かに食べさせたかったんだろ?」
(コクリッ)
翼乃の質問に答えるかのように、『それ』は頷いた。
「そうか。これは返す」
翼乃が『それ』に魚を渡すと、『それ』は手をハタハタとさせていた。
「なんだ?」
『それ』は魚を持つと、倉庫裏へと歩いていく。
「あそこって、外に出る所ある?」
「いや。手前に非常口があるが」
「非常口か……」
翼乃は考えながら『それ』の跡をついて行った。
俺達も二人(?)の跡を追いかけていくと、『それ』は倉庫裏手前の非常口の方へと出て行った。
「何か、聞こえない?」
非常口から外に出ると、弱々しい泣き声が聞こえてきた。
「あっ。あれ」
『それ』の所にダンボールがあり、その中から泣き声が聞こえていた。
「猫ですね。しかも子猫」
「一体どこから出てきたんだ」
「考えられるのは……誰かが連れてきたか、そこのフェンスの空いている所から入ってきたか」
と、翼乃は穴のできたフェンスを指して解説をしていた。
「まっ。幽霊の正体は、この子達って事だね」
「そうですね」
「なあ。この猫どうするんだ?」
壱鬼がダンボールの中にいる子猫を一匹腕に抱いて聞いてきた。
「こいつだけじゃ、大変だぞ」
「そうだな。明日、というより今日くらいでも、誰か飼ってくれるか聞いてみるか」
「それがいいよ」
翼乃はめん棒で魚を叩きながら言った(どこからめん棒を!!?)
「これくらいでいいだろう。ほら、食べろ」
めん棒で粉々にした魚を(どんな技で!?)、翼乃は子猫に食べさせていた。
「そんなに粉々にできましたっけ、そのめん棒は?」
「使い方だよ?」
なぜ、半疑問形で言うんだ。
「帰ろうか。分かったことだし」
「そうだな」
そして俺達は家に帰り、ゆっくり安眠の地へと向かった。
これでやっと終わった。
…
……
………のだが!
「何しやがるんだ、このエセじじいぃ――っっ!!!」
バカ学院長の命令だとかで、俺たち兄妹は副職業として『何でも屋』をやるはめになった。
「国民の不安を取り除くためじゃ」
どこの国民だ!!
こうして。国民の不安を取り除くため(?)、『何でも屋』が誕生したのだ。
「って。『それ』の名前出てないし」←by.翼乃
過去編で、神兄妹の副業『何でも屋』の誕生の秘密でした!
『それ』の正体は明(みん)さんで、『何でも屋』ができたきっかけでもあるのです。
翼乃「あ。ダンボールにいた子猫たちは、飼い主の所で暮らしているんで」
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