青蘭女子大学では、少し遅れてだが講義をスタートしようとしていた。
天風真希はたまたま隣の席になった鳥羽茉理と話をしていると、ボサボサしたオレンジ髪に緑色の瞳をした女性が近づいてきた。
「なあ、隣空いてるか?」
「ええ、どうぞ」
サンキューと座りながら、女性は二人に顔を向けて話しだす。
「あたいは高岑れいなっていうんだ」
「私は天風真希です」
「私は鳥羽茉理よ、よろしくね」
「よろしくな」
男声に近いアルトボイスを奏でる高岑れいなに、まるで女子校に男がいるような錯覚を二人は覚えてしまう。
「こう見えて19なんだけどよ、呼び捨てで構わないからな?」
「そう? 年上なのね、れいなは」
「ああ。二人のことは名前で呼んでもいいか?」
「うん、いいよ」
「ありがとな。大学とか初めて来るから、どうなるかって心配でさ」
「あら、そうなの?」
教科書とノートを取り出すれいなに、珍しいわねと茉理は訪ねた。真希も不思議そうに首を傾げて見つめていた。
「いろんな国を転々としていったからな。学校とかそんなに通ってないしよ」
「れいなさんって、外国で暮らしていたの?」
「れいなでいいからな、真希。たまーに日本には戻るけど、ほとんど海外だな」
「そうなの。じゃあ、いろんな言語も得意なのね」
「まあ、そうなるな。でもまぁ、真希と茉理っていう可愛い友達が見つけられたからよしとしますか」
にやっと笑いながら告げるれいなに、真希はかっこよく見える彼女に照れてしまい苦笑いを浮かべていた。
「れいなって、カッコいいわね」
「まっ、あたいは親父に似てるからな」
「父親似なのね。兄弟とかいるの?」
「お袋そっくりな性格を持った弟が一人。あとは従兄弟とか親戚とかがいっぱいいる」
「私も従兄弟がいるわよ、男四人兄弟なの」
「私も四人兄妹よ、兄さんと妹二人だけどね」
「妹がいるだけでもいいじゃん」
あたいの弟可愛くないからなーと頬を膨らませるれいなに、思わずクスッと笑ってしまう。
「私、れいながお姉さんだったらいいかも」
「そうね。かっこいい姉なんてそんなにいないしね」
「あたいも二人が妹だったらいいなあと思うぜ」
講堂に教授が入ってくるのが見えたので、3人は話をやめて授業に集中することにした。
楽しい大学生活が送れそうだ、と真希はそっと微笑みを浮かべていた。
今日はロールキャベツでも作ろうと、天風薫は献立を考えながら買い出しへと来ていた。
野菜コーナーでキャベツを見つけて取ろうとした時、自分と同じものに手を伸ばすのが見えて不意に隣を向いた。
「……」
「……」
「……」
「……あんたも、キャベツ取る?」
「……ええ」
双眼で白銀の髪をした少女に、薫は驚いて一瞬言葉が出なかった。あんたもっと言っていたので、彼女もキャベツを使う料理を作るのだろうと思った。
「あー……あんたがとっていいよ。あたしは別の取るから」
「いえ、貴方が取っていいですよ」
「いやいや、年上の人に譲るのがルールだし」
礼儀がいいですねと言い、薫は受け取ることにした。少女は別のキャベツを取りカゴの中へと入れる。
「あんたもキャベツ取ったってことは、キャベツを使うわけ?」
「ロールキャベツを作ろうかと思いまして」
「あたしと同じだ。今日はロールキャベツにしようと思ったんだよ」
「そうなのですか」
「うん。あ、あたしは神いちっていうんだけど、あんた名前は?」
「天風薫といいます」
料理が同じものというわけで一緒に選ぶことになり、二人は隣に並んで食材を探すことになった。
「薫さんって何歳?」
「高校一年です」
「あたしより二つ上なんだ~。あたしは中2」
「おや、妹と同い年なんですね」
「妹いるんだ?」
「ええ、兄と姉の四人兄妹です」
他愛のない話をしながら、いちと薫は材料を選びカゴに入れていく。
「従兄弟と同じなんだ、男二人と女二人だけど」
「いちさんは兄妹はいるのですか」
「双子の弟がいるけど」
「双子がいるのですね、珍しいです」
そうかなと、いちは首を傾げる。
「弟っていっても、妹って感じだし。二卵生っていうより一卵生双子だな。変装させたら気付かれないし」
「そうですか」
「うん、そう」
買いたいものを買い、お店を出ていきながらも二人は話を続けていた。
と、いちは自分の買い物袋に手を入れて、メロンパンを取って半分に分けて薫に差し出した。
「半分あげるわ」
「いいのですか?」
「ああ。それともメロンパン駄目だったか?」
「いえ、好きですよ」
メロンパンを受け取ると、そっかといちはもう半分を口に入れていた。
初めてであった人、しかも妹と同世代の少女に温かく感じて、薫は不思議に思った。
「メロンパン好きなら、今度作るよ」
「いいのですか?」
「うん。家で普段作ってるの、あたしと父ちゃんだし。薫さんとはまた会えそうな気がするんだあ」
「楽しみにしてますね」
「おう、楽しみに待って下さい」
ニッと笑う少女に、薫はつられるように微笑みを浮かべた。
「よっと」
「何してんの、姉貴」
「予定書いてる」
カレンダーにペンを入れているれいなに、こうきは珍しそうな目で訪ねていた。
「大学の友達とショッピングに行くことになったからな、忘れないうちに」
「青蘭の?」
「ああ、お前と同い年のな」
お前より可愛いけどなと告げると、こうきは顔を引きつかせて笑っていた。
「ごめんねー、可愛げがなくてっ」
「まったくだな」
「じゃあ、姉貴が出かけるなら、俺も同じ日に友達のところに出かけようかなあ」
「あたいと同い年のか?」
入れ立てコーヒーを渡しながら、「そっ」とれいなに言った。
「蔵書見に行く約束したからさ、いつでもいいって言ってくれたし」
「蔵書とかじゅのの家くらいしか知らねえし、いいんじゃねえの」
「うん。あっ、どうせだから一緒に連れていこうかな」
「誰を?」
「じゅの君といちちゃんと凍華ちゃんを。弟がいるって言ってたから、いいかなあと思って」
「ふーん」
夕食はそこですませるという言葉を耳に流しながら、れいなはコーヒーを口に入れていた。
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