春烙

寒いなあ…

大地の序曲 3話

2013年11月17日 15時06分09秒 | 新なる神


 春休みが明け、新学期を迎えようとしていた。
 共和学院中等科に通うことになった天風恵は、職員室で自分と同じ転入してきたであろう少女と出会った。

「貴方も転入生なの?」

 金髪をツインテールにまとめ、キラキラとした真っ赤な目をする少女に恵はうん! と元気に頷いた。

「私もだよ! 私は火宮くよん、貴方は?」
「天風恵、二年生でーす!」
「私も二年だよ!」

 ニコッと笑うくよんに、綺麗だなあと恵は思うと同時に、心のどこかで嬉しさが溢れてくる。

 約束を覚えてくれてありがとうございます。

「転入生同士、よろしくね!」
「うん、仲良くなろうね」
「そうだね」

 差し伸べられた手に、恵は笑いながら握りしめた。

 


「すみません。西洋史の講堂はどこになるか知っていますか?」

 共和学院大学科に所属している竜堂続は、自分より背の高い青年に声をかけられていた。
 邪魔くさそうに長い黒髪を一つにまとめ、紫水晶のような瞳をしていた。

「高岑こうきっていいます。今日から2学年に編入する事になったのですが、どこで行われるのか分からなくて……」
「僕は竜堂続といいます。もしよろしければご一緒しませんか、僕も2年でこれから行くところでしたので」
「それは助かります」

 お礼を言うと、こうきは続の隣に並び歩きだした。

「もしかして竜堂さんって、ご兄弟とかいますか?」
「ええ、おりますが」
「名前が珍しいので、もしかするとっと思って」
「兄と弟の、4人兄弟ですよ」
「そうなんですか。俺は姉が一人いるくらいで」
「お姉さんがいるのですか、高岑さんは」
「あっ。俺の事はこうきでいいですよ」

 あまり名字には慣れていないのでっと、こうきは苦笑いを浮かべて告げていた。
 名字に慣れていないということは、周りからは名前で呼ばれているのだろうと思った。

「では、こうき君とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「はい、構いませんよ。竜堂さん」
「でしたら、僕のことも名前で呼んでくれませんか?」
「あ、いや……。俺、こう見えて竜堂さんより年下だからさあ」

 頭をかきながら口に出すこうきに、続はつい瞬きをしてしまう。

「こうき君は今、おいくつで?」
「18です、姉貴は竜堂さんと同い年だと思いますね」
「僕は19歳ですけどね」
「姉貴と同じです、やっぱり」

 顔を引きつけて話す青年を眺めながら、思わず笑みをこぼした。

「別に名前で呼んでも構いませんよ?」
「えーと」
「不公平ですから」
「……じゃあ、続君でいい?」

 ついでに口調も崩したいと申し出たので、優雅な微笑みを浮かべて頷く。

「ありがとう。なんかごめんね、続君」
「いえ。年下の友達が出来るなんて、滅多にありませんから」
「ん~、ちょっと傷つくなあ」

 講堂に着くと、二人は席について会話を弾ませていた。

「続君はなんで西洋史を選んだの?」
「兄が東洋史を学んでまして、逆を学ぼうと思ったんですよ」
「へえ、お兄さんの力になりたいからなんだね。俺は少し前まで外国に行ってて、西洋のことをもう一度学ぼうかと思ったんだよ」
「外国に行っていたのですか?」
「うん。家族と一緒だったり、姉貴とか親戚だったり、一人でいたときもあったなあ。本を読んで休みたいなあって、何度も思ったよ」

 こうきはため息ながら告げると、「本が好きなのですか?」とかえってくる。

「父さんが普段本を読んでて、その影響でね。家にもすこし置いてあるんだけど、何度も読み返したし」
「そうなのですか。うちには飽きないほどの蔵書がありますよ」
「蔵書あるんだ!?」
「ええ、興味ありますか?」
「あるある!」

 宝石のようにキラキラと瞳を輝かせる青年に、子供みたいですねと笑ってしまう。

「今度、続君の家に行ってもいい?」
「いつでも構いませんよ」
「やったー、ありがとう!」

 嬉しそうに笑顔を見せるこうきに、続はどこか落ち着いて心が柔らかくなりそうな感じがした。

 


「へぇー、火宮さんって一つ上なんだね」
「うん。あ、くよんでいいよ」

 大掃除に参加しているくよんと恵はバケツの水替えのため、同じクラスの竜堂余に案内されながら話をしていた。

「じゃあ、くよんちゃんって呼ぶね!」
「僕もそう呼ぼうかなあ」
「いいよ~。だったら、二人のことは恵ちゃんと余君って呼ぶね」
「うん! 私、兄弟がいるからそれでいいよ」
「天風さん、兄弟がいるんだね。僕と同じだね」
「私はお兄ちゃんがいるよ、一日違いだけど」

 水道にたどり着き、くよんはバケツに水を入れながら余と恵に言っていた。

「私もお兄ちゃんいるよ。それにお姉ちゃんが二人!」
「僕は兄さんが3人だよ」
「余君と恵ちゃんは4人兄弟なんだね。私はお兄ちゃんだけだけど、従兄弟とか親戚とかたくさんいるから」
「いいなあ~。くよんちゃんのお兄さんってどんな人?」
「お母さんが男に見えるなら、お兄ちゃんは女だってお父さんが言ったことがあるよ。ほんと、大人の女性に見えるんだから嫉妬しちゃう~」
「美人さんなんだね!」

 そうだよ~と笑いあうくよんと恵を見つめながら、どんな人だろうと余は考えていた。

 


 



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