春烙

寒いなあ…

咲かない花 4

2008年05月22日 00時38分26秒 | 外伝小説

 あの日から。
 兄さんは毎日のように、僕を抱いている。

 場所なんて考えていない。
 ただ、僕を抱きたいだけで……

 兄さんに抱かれていると、不思議な気持ちになってしまう。
 嫌なのに、少しずつ、嫌にならない――

 そんな気持ちでいると。
 僕の頭の中は、兄さんのことばかり考えていた。


 学院の大学部には、使用されていない教室がある。
 その日は、兄さんがいつも使っている教室で抱かれた。
「はぁ……はぁ……っ」
 僕は呼吸を整えながら、兄さんの腕の中にいた。
 抱きしめる腕の温もりは、どことなく心地よく感じてしまう。
 でも。今日は、何か違うような気がする。
「……っだ…」
 聞いてはいけないと思う。
 でも、聞いてしまった。

「好きだ」

 それは。
 凍り付いていた心を、溶かしてしまう魔法の言葉―――

 目が覚めたときには、いつの間にか服を着ていた。
 兄さんはいなくなっていて。
 代わりに上着を置いていた……
 僕は、背中にある上着を握りながら、窓の外をのぞいた。
 もうすぐ、夜になる――

 ――会いたい。



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